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■悪魔の神秘02 続編
悪魔が棲む国で、悪魔学のプライベートレッスン。
ホテルの部屋を教室に、神秘学担当教師と二人きりでこんなことしているなんて。
明日に備えて、必要な知識を得る為とは言え、僕も大概どうかしている。
「先ず、いつも言っていることだが、悪魔に於いても、
宗教や論者によって、多種多様な見解があり、これから私が話すことは、
その一部でしかないことを最初に伝えておくよ?」
それをボージェ教授は毎回のように言う。生徒は既に聞き飽きている台詞だ。
「また、悪魔と一口に言っても、その数、種類は膨大だ。
神や天使と同じように、それぞれ名前が付いている悪魔もたくさん居るからね」
ベッドを椅子代わりにしている生徒の前を、
教室を歩きまわるクセのある教師がゆっくりと通り過ぎて行く。
「英語ひとつとっても、悪魔を表す言葉は、
複数存在している。さて。アンリは幾つ言えるかな?」
一つ目は簡単だ。さっきから話に出ている。
「デビル」
「うん。それから?」
「デーモン」
「あとひとつ」
「……サタン?」
「正解。では、それぞれの違いは解るかな?」
全て『悪魔』ではないのか。僕が首を横に振ると、教師が解説した。
「サタンが魔王、デーモンが配下の悪魔なんだ。デビルは二種類に分かれる。
単数形のザ・デビルが魔王、複数形のデビルズが配下の悪魔なんだ。
つまり、悪魔の階級によって、言い方が変わってくるんだね」
「階級があるのは天使と似ているね」
「そうだね。サタンには、元天使という意味もあるんだよ?」
「堕天使ということ?」
「うん。神に反逆し、地に堕とされた天使達の集合体がサタン、
魔王になったという説もあるね。それぞれの語源も一緒に学んでおこうか。
デビルはギリシャ語の『中傷する者』から来た言葉だ。
デーモンもギリシャ語で、『人間の魂』、『悪霊』という意味を持つ。
サタンはヘブライ語の『妨害者』に由来している」
面白い。悪魔の語源に『人間の魂』が含まれているなんて。
「また、数字で言えば、666が悪魔の数字だと言われているね。
新約聖書、ヨハネの黙示録に『獣の数字』として記されているのが666なんだ。
この獣は神と敵対する者だと考えられていることから、
666という数字自体も不吉とされ、『悪魔の数字』とも呼ばれるようになったとか。
ちなみに、カバラの数秘術、ゲマトリアを用いれば、
666は、キリスト教徒を迫害した皇帝ネロを表している、という説もあるけれどね。
何故そう言えるのか、とゲマトリアの解説を始めると長くなるから今日は省こうか」
是非そうして貰いたい。
「さて。悪魔を表す単語や数字についてはこのくらいにして、
次は悪魔の姿について考えていこう。
悪魔、と言われた時、どんな姿をイメージするかな?」
教師はそこで少し間を置いた。この教師は授業中もよくそうする。
間を置いたあとで教師は続けた。
「例えば、頭に二本の角があったり、耳が尖っているイメージはないかい?
13世紀頃、絵に描かれた悪魔はそのような姿をしていてね。
ギリシア神話に登場する、森の神と特徴が似ているんだ。
ピンと尖った山羊の耳を持つ、半神半獣の姿をしていて、
ギリシャの神の中では、唯一死んだ神とも言われているよ」
唯一死んだ神が悪魔のモデルか。
「悪魔の背中に黒い翼が加わったのは14世紀頃かな。それから、悪魔の手に、
先が割れた槍のような物が握られるようになったのも同じ頃だったと思うよ」
デビルフォークのことか。ハロウィンで悪魔の仮装をした生徒などは、
確かにそれを持っていたし、背中に翼も付けていた。教師は独り言のように話を続ける。
「21世紀になった今も、そのイメージは受け継がれているようだね。
けれど、本来の悪魔は、神や天使と同じく霊的なもので、
通常、姿は見えないと言われている。
つまり、人の目で見ることはできない存在だということだね」
都合の良い話だ。目に見えない存在なら、存在の証明は難しい。
存在の証明ができないなら、存在しないという証明もまた難しくなる。
「また、悪魔はどんな姿にも化けられるそうだよ。好んで化けるのは動物。
サソリ、山羊、馬など、大きさも問わず、何にでも化けられる」
僕の頭に一匹の生き物が浮かぶ。
それは錬金術の象徴であり、サン・ジェルマン家の紋章でもある。
「蛇にも?」
「もちろん。イブを誘惑した悪魔も、蛇に化けていたのだからね。
では、悪魔の好みについても学んでいこうか。悪魔にも、好きな物、嫌いな物があるんだ」
まあ、あっても可笑しくはない。
「最初は優しいところからいこうか。悪魔が好きな色。何色か解るかい?」
色か。一般的に悪魔のイメージカラーはあの色だろう。
「黒?」
「正解。他に赤や緑も好きらしいね。では好きな方角は?」
悪魔が好きな方角なんてあるのか。
でもなんとなく、トランプでスペードが意味する方角と同じなのではと思った。
まあ、悪魔が南を好むとも思えないし。
「……北?」
「よく解ったね。さすがアンリ。右と左では、どちらが好きだと思うかな?」
これは直感ですぐに解った。
「左」
「凄いね。全問正解だ」
「別に嬉しくないけれど」
「最後の問題は、どうして左だと思ったのかね?」
「なんとなく。通常、タロットで悪魔が剣を持っているのは左手だし、
どこかの国では、右手が清浄で、左手が不浄という考え方もあるんじゃなかった?」
「インドでの考え方だね。食事は右手で、という習慣がある国だから。
他にも悪魔が好きな物を幾つか紹介しよう。先ずは場所。
これは廃墟、洞窟、森、泉、ストーンサークルなどが好きだと言われているね。
それから、悪魔が好きな時刻は、真夜中や夕暮れ。
好きな行為は、悪事全般、だね。人間を誘惑して犯罪を行わせたり、
病にしたり、天災を引き起こしたり。とにかく、人間を不幸にすることが大好きなんだ。
他には、賭け事などのカード遊びも趣味らしいね」
「悪魔らしい趣味だね」
「もちろん、今挙げたのは一般的な例だよ? 中には違う趣味の悪魔も居る。
粗野で乱暴な悪魔ばかりではなく、非常に知的で冷静な悪魔も居るようだから」
悪魔にも個性があるらしい。
「では次に、悪魔の現在地について学んでみよう」
「現在地って」
「文字通り、悪魔は現在どこに居るのか、ということだよ?
では、問題です。悪魔は、今、どこに居るでしょう?」
→
悪魔が棲む国で、悪魔学のプライベートレッスン。
ホテルの部屋を教室に、神秘学担当教師と二人きりでこんなことしているなんて。
明日に備えて、必要な知識を得る為とは言え、僕も大概どうかしている。
「先ず、いつも言っていることだが、悪魔に於いても、
宗教や論者によって、多種多様な見解があり、これから私が話すことは、
その一部でしかないことを最初に伝えておくよ?」
それをボージェ教授は毎回のように言う。生徒は既に聞き飽きている台詞だ。
「また、悪魔と一口に言っても、その数、種類は膨大だ。
神や天使と同じように、それぞれ名前が付いている悪魔もたくさん居るからね」
ベッドを椅子代わりにしている生徒の前を、
教室を歩きまわるクセのある教師がゆっくりと通り過ぎて行く。
「英語ひとつとっても、悪魔を表す言葉は、
複数存在している。さて。アンリは幾つ言えるかな?」
一つ目は簡単だ。さっきから話に出ている。
「デビル」
「うん。それから?」
「デーモン」
「あとひとつ」
「……サタン?」
「正解。では、それぞれの違いは解るかな?」
全て『悪魔』ではないのか。僕が首を横に振ると、教師が解説した。
「サタンが魔王、デーモンが配下の悪魔なんだ。デビルは二種類に分かれる。
単数形のザ・デビルが魔王、複数形のデビルズが配下の悪魔なんだ。
つまり、悪魔の階級によって、言い方が変わってくるんだね」
「階級があるのは天使と似ているね」
「そうだね。サタンには、元天使という意味もあるんだよ?」
「堕天使ということ?」
「うん。神に反逆し、地に堕とされた天使達の集合体がサタン、
魔王になったという説もあるね。それぞれの語源も一緒に学んでおこうか。
デビルはギリシャ語の『中傷する者』から来た言葉だ。
デーモンもギリシャ語で、『人間の魂』、『悪霊』という意味を持つ。
サタンはヘブライ語の『妨害者』に由来している」
面白い。悪魔の語源に『人間の魂』が含まれているなんて。
「また、数字で言えば、666が悪魔の数字だと言われているね。
新約聖書、ヨハネの黙示録に『獣の数字』として記されているのが666なんだ。
この獣は神と敵対する者だと考えられていることから、
666という数字自体も不吉とされ、『悪魔の数字』とも呼ばれるようになったとか。
ちなみに、カバラの数秘術、ゲマトリアを用いれば、
666は、キリスト教徒を迫害した皇帝ネロを表している、という説もあるけれどね。
何故そう言えるのか、とゲマトリアの解説を始めると長くなるから今日は省こうか」
是非そうして貰いたい。
「さて。悪魔を表す単語や数字についてはこのくらいにして、
次は悪魔の姿について考えていこう。
悪魔、と言われた時、どんな姿をイメージするかな?」
教師はそこで少し間を置いた。この教師は授業中もよくそうする。
間を置いたあとで教師は続けた。
「例えば、頭に二本の角があったり、耳が尖っているイメージはないかい?
13世紀頃、絵に描かれた悪魔はそのような姿をしていてね。
ギリシア神話に登場する、森の神と特徴が似ているんだ。
ピンと尖った山羊の耳を持つ、半神半獣の姿をしていて、
ギリシャの神の中では、唯一死んだ神とも言われているよ」
唯一死んだ神が悪魔のモデルか。
「悪魔の背中に黒い翼が加わったのは14世紀頃かな。それから、悪魔の手に、
先が割れた槍のような物が握られるようになったのも同じ頃だったと思うよ」
デビルフォークのことか。ハロウィンで悪魔の仮装をした生徒などは、
確かにそれを持っていたし、背中に翼も付けていた。教師は独り言のように話を続ける。
「21世紀になった今も、そのイメージは受け継がれているようだね。
けれど、本来の悪魔は、神や天使と同じく霊的なもので、
通常、姿は見えないと言われている。
つまり、人の目で見ることはできない存在だということだね」
都合の良い話だ。目に見えない存在なら、存在の証明は難しい。
存在の証明ができないなら、存在しないという証明もまた難しくなる。
「また、悪魔はどんな姿にも化けられるそうだよ。好んで化けるのは動物。
サソリ、山羊、馬など、大きさも問わず、何にでも化けられる」
僕の頭に一匹の生き物が浮かぶ。
それは錬金術の象徴であり、サン・ジェルマン家の紋章でもある。
「蛇にも?」
「もちろん。イブを誘惑した悪魔も、蛇に化けていたのだからね。
では、悪魔の好みについても学んでいこうか。悪魔にも、好きな物、嫌いな物があるんだ」
まあ、あっても可笑しくはない。
「最初は優しいところからいこうか。悪魔が好きな色。何色か解るかい?」
色か。一般的に悪魔のイメージカラーはあの色だろう。
「黒?」
「正解。他に赤や緑も好きらしいね。では好きな方角は?」
悪魔が好きな方角なんてあるのか。
でもなんとなく、トランプでスペードが意味する方角と同じなのではと思った。
まあ、悪魔が南を好むとも思えないし。
「……北?」
「よく解ったね。さすがアンリ。右と左では、どちらが好きだと思うかな?」
これは直感ですぐに解った。
「左」
「凄いね。全問正解だ」
「別に嬉しくないけれど」
「最後の問題は、どうして左だと思ったのかね?」
「なんとなく。通常、タロットで悪魔が剣を持っているのは左手だし、
どこかの国では、右手が清浄で、左手が不浄という考え方もあるんじゃなかった?」
「インドでの考え方だね。食事は右手で、という習慣がある国だから。
他にも悪魔が好きな物を幾つか紹介しよう。先ずは場所。
これは廃墟、洞窟、森、泉、ストーンサークルなどが好きだと言われているね。
それから、悪魔が好きな時刻は、真夜中や夕暮れ。
好きな行為は、悪事全般、だね。人間を誘惑して犯罪を行わせたり、
病にしたり、天災を引き起こしたり。とにかく、人間を不幸にすることが大好きなんだ。
他には、賭け事などのカード遊びも趣味らしいね」
「悪魔らしい趣味だね」
「もちろん、今挙げたのは一般的な例だよ? 中には違う趣味の悪魔も居る。
粗野で乱暴な悪魔ばかりではなく、非常に知的で冷静な悪魔も居るようだから」
悪魔にも個性があるらしい。
「では次に、悪魔の現在地について学んでみよう」
「現在地って」
「文字通り、悪魔は現在どこに居るのか、ということだよ?
では、問題です。悪魔は、今、どこに居るでしょう?」
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