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Marginal Prince Short Story
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悪魔の神秘04 続編
翌日、別件の商談を済ませたあと、僕達はカイム邸のホームパーティに向かった。
今日の連れは秘書役のフィオラノのみ。ディーノの姿はない。
『昼間はパパにおつかいを頼まれてる』だとか。どうでもいいけど。

フィオラノの話では、今日は他にマンゾーニ・ファミリーの舎弟が、
数人近くに控えているらしい。今のところ、彼等の姿は僕の目に映っていないけれど。

オーギュストはホテルに置いてきた。
彼には「私も第二秘書役で行きたいな」などと言われそうだったから、
そう言われる前に「君は連れて行かないから、今日はローマ観光でもしてて」
と僕のほうから言っておいたのだ。

意外にあっさりと教師は「解ったよ」と言った。随分聞き分けが良いと思ったら、
「これをポケットに入れて行きなさい」と小さな十字架を渡された。
十字架は悪魔が嫌いな物のひとつ、らしいけれど。
まあ、青くて綺麗だったから、スーツの内ポケットに入れてあげた。

フィオラノが運転する車で、ローマの中心地を抜けていく。
昨日の商談で渡された招待状。それにはカイム邸の場所はローマ郊外だと記されていた。
僕は後部座席の窓から街並みを眺める。日は暮れ始め、街全体が夕焼け色に染まっていく。
古代ローマ帝国の都だからだろうか。古い建築物から、栄華と衰退の美しさを感じるのは。

「アンリさん、そろそろ起きて下さい。もうすぐ着きやすよ」

フィオラノの声で目が覚めた。少し眠っていたらしい。
外はもう暗くなっている。車窓から見える景色は、殆ど草原になっていた。
偶に家がぽつぽつと点在しているような田舎の景色だ。

「ほら、向こうに見える、あの白くて大きいお邸、あれがカイム社長のご自宅みたいです」

今、僕達が居る草原の先に、徐々に木が増え、森のようになっている場所があった。
その森の中に、ぽつん佇むと白い家が見えた。

「あれ? アンリさん、起きてます?」

返事しないでいたら、また声をかけられた。

「……起きてる」

眠い。起きたばかりで頭がぼうっとする。
誰かの話が長くて、昨夜の授業が長引いたせいだ。

木々の中を車で走っていくと、直に今夜の目的地に到着した。
僕は秘書役のフィオラノを伴って、カイム邸の前に立つ。
高さは三階くらいか。社長の邸ならこんなものだろう。
鳥達が邸の広い屋根に群れて留まっていた。

「おっきなうちだなあ。ああ。なんだか緊張しやすねえ」

邸を見上げながら偽秘書のフィオラノがぼそりと零していた。

「平気だよ、君は。その妙な話し方だけ気を付けてくれれば」

「へい……あ、じゃなくて、はい、社長」

人選を誤っただろうか。
邸の中に入ると、使用人に案内され、パーティ会場となるホールに来た。
なかなか広い。天井には、天使の飾りが付いたシャンデリアがあった。
今日のフィオラノは落ち着いた色のスーツを着用している。
シルバーの眼鏡も知的に見える。伊達だそうだけれど。
見た目は十分、本物の秘書のようだ。

「違和感ないね、秘書として」

「そうですか? ありがとうございます」

彼はこういうフォーマルで大人しい服装も着こなせる。
誰が彼をマフィアだと思うだろう。マンゾーニ・ファミリーの中では貴重な存在だ。

「おお、サン・ジェルマンさん、ようこそいらっしゃいました」

シャンパングラスを片手に、カイム氏がやってきた。
白に近いクリーム色をしたタキシード姿。

「お忙しい中、突然のお誘いにお付き合い下さり、
ありがとうございます、サン・ジェルマンさん」

「こちらこそ。お招きありがとうございます」

「そちらがサン・ジェルマンさんの秘書さんですかな?」

「ええ」

昨日の帰り際、秘書一人を連れて行っても良いかと聞いたところ、
もちろん構わないと言われた。一日秘書のフィオラノが頭を下げる。

「わたくしは、秘書のフェネクスと申します」

フェネクス? 覚え難い偽名だな。

「本日は私まで出席をお許し頂き、ありがとうございます」

「いえいえ。今日はいつもお世話になっている方々を招いての、
小さなパーティーですから、秘書さんもどうぞお寛ぎになって下さい」

「他のお客様もビジネスでお付き合いのある方々なのですか?」

フィオラノは自然に他の来客について尋ねた。

「ええ。他に私の友人、知人も居ますよ」

「そのようなパーティーに、新参者の我が社もお招き頂き、光栄です」

「こちらこそ。サン・ジェルマンさんは将来有望ですからな。
これから長いお付き合いができますよう願っておりますよ」

「ありがとうございます。ご期待を裏切らぬよう、精進して参ります」

秘書役の配役に間違いはなかったようだ。
ディーノを据えていたら、今頃、会場を追い出されていたかもしれない。

「パパ!」

タキシードを着た少年がこちらに来た。小学校高学年か中学生くらいに見える。
パパと呼んでいたから、カイム氏の子供のようだ。
ということは、この子が悪魔に憑かれている息子か。
とてもそんなふうには見えない。元気そうな少年だ。

「ねえ、パパ、その人がアンリ君?」

「そうだよ」

「うわ。すごい。近くで見ると本当に女の人みたい」

なんなの、この子供。

「こら、アミィ。失礼だよ。すみません、サン・ジェルマンさん。
アミィ、初めて会う人にはまずご挨拶しなさいと言っているだろう?」

「ああ、そうだった」

子供は姿勢を正した。

「初めまして。アミィ・カイムです。
ねえ! アンリ君はまだ高校生なのに投資会社の社長なんだよね?」

馴れ馴れしい子供だな。

「そうだけれど?」

「僕、ファンなんです! 握手して下さい!」

「こらこら、アミィ。サン・ジェルマンさんが困っているだろう」

「カイム社長のご子息がファンとは光栄なことですね。
喜んで握手させて頂きますよ。ね、社長?」

フィオラノにそう言われて、僕は手を出さざるを得なくなった。
仕方ない。これもビジネスの一環だ。

「初めまして。アンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマンです」

「初めまして! 会えて嬉しいです!」

嬉しそうに握り返してくる少年の手は、ひんやりと冷たかった。


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