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■悪魔の神秘08 続編
僕達がパーティ会場に戻った時。
悪魔談義は流石に終わったようで、散り散りに談笑しているみたいだった。
アミィは「僕、パパのとこ行ってくるね!」と言い残し、僕達から離れた。
少年が駆けて行った先には彼の父親が居て、
子供の笑顔を父親も笑顔で受け止めていた。
「社長」
僕の偽秘書に呼ばれた。
「よろしければ、何かお料理でもお持ち致しましょうか?
お腹が空いていないなら、お飲み物でも」
「別に、そこまで構わなくても良いんだよ? 君は執事じゃなくて秘書なんだし」
「あっ、それから、そのお話なんですけど」
「何?」
彼は周りに聞こえないよう声を落とす。
「えっと、『このままずっと秘書にならないか』というお話なんですが」
「ああ、うん。考えてくれた?」
彼は頭を掻きながら、
「すみません。自分に秘書なんてお上品なお役目は務まりやせんから」
「そう? 今日だって充分務まっていると思うけれど。君ならね?」
「いえいえ。無理ですって、ホント。
ご期待に添えず、すみません、社長。いえ……アンリさん」
どうやら、秘書の利用期限は延長できないらしい。
「そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。冗談に決まってるでしょう?」
「え? あ、冗談でしたか。あはは。本気にしちゃいやした」
まあ、断られるのは解っていたことだ。
マフィアが足を洗うことは、そう簡単なことではないだろうし。
それに以前フィオラノから聞いたことがある。
「何故、マフィアなんかやっているのか」と僕が聞いた時、彼は迷いなくこう答えた。
「自分は兄貴に拾って貰ったんです。それだけです」と。
過去、フィオラノとディーノの間に何があったのか、僕は聞いていない。
少しも迷わず、僕よりディーノの側を選ぶなんて。
「君って、変わった趣味してるよね」
フィオラノは少し笑った。
「そんなに拗ねないで下さいよ」
「拗ねてなんかない。君の趣味が変わってるってことを言及してるの」
「ははっ。ホント、アンリさんって――」
彼が何か言いかけた時、どこかから異質な音がした。
和やかなパーティ会場で聞くような音ではなかった。
例えるなら、獣の唸り声のような、暗く重い声。
パーティ会場に居る者の中で、最初に気付いたのは耳の良い数人。
また、聞こえた。
異変が波のように皆に伝わっていき、ざわざわし始めた。
一体どこから聞こえるのか、と皆が辺りを見渡す。
会場内にたった一人、身体を前方へ折り曲げている人物が居た。
右手は左胸を掴み、ぶら下がっているだけの左手は痙攣していた。
苦しんでいるのは、子供だった。
「どうしたんだ、アミィ」
父親が我が子に駆け寄る。
「まさか。あいつなのか。悪魔が来たのか?」
その瞬間、会場の空気は明らかに一変した。
驚き、恐怖、それ以上に親子に向けられた視線は、好奇だった。
偽秘書のフィオラノが僕に耳打ちする。
「悪魔の“ショータイム”が始まったんですかね?」
確かに、悪魔に憑かれる、という演技を、あの少年は今ここで見せてくれるらしい。
この大衆に披露することが、彼にとって何らかの利益があるのだろう。
「でも、今日、ショーを予定していたのなら、さっきそう言えば良かったのに」
「驚かせたかったんですよ、きっと。あとで聞かれますよ? 『アンリ君、驚いた?』って。
でも、ここからじゃ遠くて良く見えませんね。せっかくですから良い席で拝見しましょう。
なかなかお目にかかれないショーなんですから」
腕を引かれて、人の間を擦り抜けていく。連れてこられたのは最前列の端っこだった。
カイム社長は神父に向かって叫んだ。
「神父様、どうか悪魔祓いを!」
皆の視線が神父に集中する。神父はそこに呆然と立ち尽くしていた。
呟きながら、ゆっくりと首を横に振る。
「まさか……」
「どうしたのです、神父様! 早くアミィをお救い下さい!」
「は、はい」
叱咤され、やっと彼は神父として機能した。
ゆっくりと少年に近付きながら、少年に話しかける。
「アミィ君。私の声が聞こえるかね?」
「は、はい、しんぷさま」
「今、君の中で何が起きているんだい?」
寒さで声が上手く出ないかのように、切れ切れと話す。
「のぞみを、かなえてやるって」
「望み?」
決して寒くはない会場で、少年は小刻みに震えていた。
「あくまに、つかれたかったんだろうって、こえ、が」
神父がひとつひとつ確かめていく。
「声が、聞こえるんだね?」
うんうんと必死に頷いた。
「おまえらが、おれをよんだって、いってる」
その目は怯えきっていた。
「こわいよ、しんぷさま。どうしよう」
少年は神父の右腕にしがみつく。
「うそじゃないの。ほんもの、なの。ほんものが、きちゃったの!」
ぽろぽろと涙を零していた。
「たすけて。たすけて、しんぷさま!」
「大丈夫だよ。すぐに祓うからね」
神父は毅然とした態度で皆に呼び掛けた。
「これから悪魔祓いの儀式を行います。危険な目に遭いたくない方は、早く部屋の外へ!」
一瞬の間があった。その後、幾つかの悲鳴と共にたくさんの足音が鳴り響いた。
ホールに残ったのは、カイム社長の他にはたった数人だけだった。フィオラノが僕に囁く。
「社長、あれ、演技だと思いますか?」
「演技なら、今すぐにでも天才子役になれるだろうね」
「じゃあ、彼が言っていたように、本物の悪魔が」
「どうだろうね」
「あの、私達も会場から失礼したほうが」
「見ておきたいな。クライアントのことだから」
僕がそう言うと、フィオラノは諦めたように笑っていた。
「悪魔からもお守りしろ、だなんて聞いてませんよー」
「悪魔からは守らなくていい、とは言ってなかったと思うけれど?」
彼は何か呟いたが、僕には聞き取れなかった。観念したのか、こう言った。
「解りました。自分の傍から離れないで下さいよ」
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僕達がパーティ会場に戻った時。
悪魔談義は流石に終わったようで、散り散りに談笑しているみたいだった。
アミィは「僕、パパのとこ行ってくるね!」と言い残し、僕達から離れた。
少年が駆けて行った先には彼の父親が居て、
子供の笑顔を父親も笑顔で受け止めていた。
「社長」
僕の偽秘書に呼ばれた。
「よろしければ、何かお料理でもお持ち致しましょうか?
お腹が空いていないなら、お飲み物でも」
「別に、そこまで構わなくても良いんだよ? 君は執事じゃなくて秘書なんだし」
「あっ、それから、そのお話なんですけど」
「何?」
彼は周りに聞こえないよう声を落とす。
「えっと、『このままずっと秘書にならないか』というお話なんですが」
「ああ、うん。考えてくれた?」
彼は頭を掻きながら、
「すみません。自分に秘書なんてお上品なお役目は務まりやせんから」
「そう? 今日だって充分務まっていると思うけれど。君ならね?」
「いえいえ。無理ですって、ホント。
ご期待に添えず、すみません、社長。いえ……アンリさん」
どうやら、秘書の利用期限は延長できないらしい。
「そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。冗談に決まってるでしょう?」
「え? あ、冗談でしたか。あはは。本気にしちゃいやした」
まあ、断られるのは解っていたことだ。
マフィアが足を洗うことは、そう簡単なことではないだろうし。
それに以前フィオラノから聞いたことがある。
「何故、マフィアなんかやっているのか」と僕が聞いた時、彼は迷いなくこう答えた。
「自分は兄貴に拾って貰ったんです。それだけです」と。
過去、フィオラノとディーノの間に何があったのか、僕は聞いていない。
少しも迷わず、僕よりディーノの側を選ぶなんて。
「君って、変わった趣味してるよね」
フィオラノは少し笑った。
「そんなに拗ねないで下さいよ」
「拗ねてなんかない。君の趣味が変わってるってことを言及してるの」
「ははっ。ホント、アンリさんって――」
彼が何か言いかけた時、どこかから異質な音がした。
和やかなパーティ会場で聞くような音ではなかった。
例えるなら、獣の唸り声のような、暗く重い声。
パーティ会場に居る者の中で、最初に気付いたのは耳の良い数人。
また、聞こえた。
異変が波のように皆に伝わっていき、ざわざわし始めた。
一体どこから聞こえるのか、と皆が辺りを見渡す。
会場内にたった一人、身体を前方へ折り曲げている人物が居た。
右手は左胸を掴み、ぶら下がっているだけの左手は痙攣していた。
苦しんでいるのは、子供だった。
「どうしたんだ、アミィ」
父親が我が子に駆け寄る。
「まさか。あいつなのか。悪魔が来たのか?」
その瞬間、会場の空気は明らかに一変した。
驚き、恐怖、それ以上に親子に向けられた視線は、好奇だった。
偽秘書のフィオラノが僕に耳打ちする。
「悪魔の“ショータイム”が始まったんですかね?」
確かに、悪魔に憑かれる、という演技を、あの少年は今ここで見せてくれるらしい。
この大衆に披露することが、彼にとって何らかの利益があるのだろう。
「でも、今日、ショーを予定していたのなら、さっきそう言えば良かったのに」
「驚かせたかったんですよ、きっと。あとで聞かれますよ? 『アンリ君、驚いた?』って。
でも、ここからじゃ遠くて良く見えませんね。せっかくですから良い席で拝見しましょう。
なかなかお目にかかれないショーなんですから」
腕を引かれて、人の間を擦り抜けていく。連れてこられたのは最前列の端っこだった。
カイム社長は神父に向かって叫んだ。
「神父様、どうか悪魔祓いを!」
皆の視線が神父に集中する。神父はそこに呆然と立ち尽くしていた。
呟きながら、ゆっくりと首を横に振る。
「まさか……」
「どうしたのです、神父様! 早くアミィをお救い下さい!」
「は、はい」
叱咤され、やっと彼は神父として機能した。
ゆっくりと少年に近付きながら、少年に話しかける。
「アミィ君。私の声が聞こえるかね?」
「は、はい、しんぷさま」
「今、君の中で何が起きているんだい?」
寒さで声が上手く出ないかのように、切れ切れと話す。
「のぞみを、かなえてやるって」
「望み?」
決して寒くはない会場で、少年は小刻みに震えていた。
「あくまに、つかれたかったんだろうって、こえ、が」
神父がひとつひとつ確かめていく。
「声が、聞こえるんだね?」
うんうんと必死に頷いた。
「おまえらが、おれをよんだって、いってる」
その目は怯えきっていた。
「こわいよ、しんぷさま。どうしよう」
少年は神父の右腕にしがみつく。
「うそじゃないの。ほんもの、なの。ほんものが、きちゃったの!」
ぽろぽろと涙を零していた。
「たすけて。たすけて、しんぷさま!」
「大丈夫だよ。すぐに祓うからね」
神父は毅然とした態度で皆に呼び掛けた。
「これから悪魔祓いの儀式を行います。危険な目に遭いたくない方は、早く部屋の外へ!」
一瞬の間があった。その後、幾つかの悲鳴と共にたくさんの足音が鳴り響いた。
ホールに残ったのは、カイム社長の他にはたった数人だけだった。フィオラノが僕に囁く。
「社長、あれ、演技だと思いますか?」
「演技なら、今すぐにでも天才子役になれるだろうね」
「じゃあ、彼が言っていたように、本物の悪魔が」
「どうだろうね」
「あの、私達も会場から失礼したほうが」
「見ておきたいな。クライアントのことだから」
僕がそう言うと、フィオラノは諦めたように笑っていた。
「悪魔からもお守りしろ、だなんて聞いてませんよー」
「悪魔からは守らなくていい、とは言ってなかったと思うけれど?」
彼は何か呟いたが、僕には聞き取れなかった。観念したのか、こう言った。
「解りました。自分の傍から離れないで下さいよ」
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