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■悪魔の神秘09 続編
神父は少年をホールの隅に連れて行った。
近くのテーブルから取ってきた白い椅子に少年を座らせる。
少年の父親を傍に呼び、少年が暴れたら身体を抑えるように頼んでいた。
僕達も「カイムさん一人の力で足りない時は皆さんも手伝って下さい」と言われた。
僕とフィオラノを含め数人のギャラリーは、
少し離れたところから、少年を囲むようにして見守ることとなった。
神父は悪魔祓いの準備をしているようだった。
黒い革鞄の中から取り出した物を、テーブルの上へ置いていく。
どれも、真っ白なレースが敷かれたパーティテーブルには不釣り合いな品々だ。
赤い本、青い小瓶、銀の缶、紫のストール。あれらがおそらく、悪魔祓いに必要な、
経典、聖水、聖油、ストラ、なのだろう。昨夜の“悪魔学講座”で学んだ通りなら。
神父は紫のストールを自分の首にかけ、左右の肩から前に下ろす。
最後に鞄から取り出したのは、金色で少し大きめの十字架だった。
金の十字架を額に当てながら祈りの言葉を唱えているようだった。
その間、僕は少年に視線を移した。
先程より明らかに顔色が悪くなっていた。少年は酷く落ち着かない様子で、
爪を噛んだり、無意識なのか、しきりに右足を揺らしていた。
「皆さん」
神父が呼びかける。
「儀式の前に、皆さんに祝福を与えます。悪魔に飲み込まれないように」
テーブルに置いていた、銀色の平たくて円い缶を持つ。
「これは聖油です。悪魔は聖なるものを嫌がります。
魔除けの為、聖油で皆さんの額に十字を切らせて頂けますか」
まばらに、はい、と言う声は聞こえたが、嫌だと言う声は聞こえなかった。
神父は先ず自分の人差し指を聖油で清め、自分の額から十字に聖油を塗った。
そして、祝福の言葉を唱えながら、一人一人の額に聖油で小さな十字を描いていく。
祝福を与えられた者は「ありがとうございます、神父様」などと礼を言っていたが、
僕には、何がありがたいのか解らなかった。あれを僕も受けなければいけないのか。
他人に触れられるのは好きではないのに。しかも、今日会ったばかりの、エクソシストに。
「ありがとうございます」
隣のフィオラノが終わった。僕の番が来た。
神父はまず僕にも祈りを捧げた。
ぼそぼそと何かの呪文のようなのに。これが祝福なのだろうか。
神父の指が、僕の額に近付いていく。香油で濡れた指が。
ヌルリ、と額をなぞられる。生温い。冷たいほうがまだましだった。
「主よ、この者に祝福を」
やっと終わった。神父は次の人へ向かう。やはり僕は礼が言えなかった。
神父が目の前から去った後、息を吐いた時に気が付いた。
祝福を受ける間、僕は息を止めていたのだと。
なぞられた部分が少し蒸発している。気持ちが悪い。
神父は淡々と祝福を与え、少年の父親まで終えた。
この中で、まだ祝福を受けていないのは、
一人だけ椅子に座らされている少年だけになった。
彼の元へ神父が歩いていく。皆の視線が少年と神父に集中する。
神父は、人差し指に聖油を塗り直し、少年の額にも十字を切ろうとした。
神父の指が少年の額に触れた瞬間。
「うわああああ!」
叫びと共に少年はのけぞった。
「熱い! 熱いよ!」
皆の額に塗った物と同じ筈なのに。
まるで炎を突き付けられたかのような反応だ。
「止めて、神父様、止めて!」
神父はその反応を予想していたのか、驚きは見せなかった。
金の十字架を胸に、厳かに祈りを捧げた。
「天にまします我らの父よ、聖なる我らの母マリアよ、我らの為に祈りたまえ」
悪魔祓いの儀式が始まった。
→
神父は少年をホールの隅に連れて行った。
近くのテーブルから取ってきた白い椅子に少年を座らせる。
少年の父親を傍に呼び、少年が暴れたら身体を抑えるように頼んでいた。
僕達も「カイムさん一人の力で足りない時は皆さんも手伝って下さい」と言われた。
僕とフィオラノを含め数人のギャラリーは、
少し離れたところから、少年を囲むようにして見守ることとなった。
神父は悪魔祓いの準備をしているようだった。
黒い革鞄の中から取り出した物を、テーブルの上へ置いていく。
どれも、真っ白なレースが敷かれたパーティテーブルには不釣り合いな品々だ。
赤い本、青い小瓶、銀の缶、紫のストール。あれらがおそらく、悪魔祓いに必要な、
経典、聖水、聖油、ストラ、なのだろう。昨夜の“悪魔学講座”で学んだ通りなら。
神父は紫のストールを自分の首にかけ、左右の肩から前に下ろす。
最後に鞄から取り出したのは、金色で少し大きめの十字架だった。
金の十字架を額に当てながら祈りの言葉を唱えているようだった。
その間、僕は少年に視線を移した。
先程より明らかに顔色が悪くなっていた。少年は酷く落ち着かない様子で、
爪を噛んだり、無意識なのか、しきりに右足を揺らしていた。
「皆さん」
神父が呼びかける。
「儀式の前に、皆さんに祝福を与えます。悪魔に飲み込まれないように」
テーブルに置いていた、銀色の平たくて円い缶を持つ。
「これは聖油です。悪魔は聖なるものを嫌がります。
魔除けの為、聖油で皆さんの額に十字を切らせて頂けますか」
まばらに、はい、と言う声は聞こえたが、嫌だと言う声は聞こえなかった。
神父は先ず自分の人差し指を聖油で清め、自分の額から十字に聖油を塗った。
そして、祝福の言葉を唱えながら、一人一人の額に聖油で小さな十字を描いていく。
祝福を与えられた者は「ありがとうございます、神父様」などと礼を言っていたが、
僕には、何がありがたいのか解らなかった。あれを僕も受けなければいけないのか。
他人に触れられるのは好きではないのに。しかも、今日会ったばかりの、エクソシストに。
「ありがとうございます」
隣のフィオラノが終わった。僕の番が来た。
神父はまず僕にも祈りを捧げた。
ぼそぼそと何かの呪文のようなのに。これが祝福なのだろうか。
神父の指が、僕の額に近付いていく。香油で濡れた指が。
ヌルリ、と額をなぞられる。生温い。冷たいほうがまだましだった。
「主よ、この者に祝福を」
やっと終わった。神父は次の人へ向かう。やはり僕は礼が言えなかった。
神父が目の前から去った後、息を吐いた時に気が付いた。
祝福を受ける間、僕は息を止めていたのだと。
なぞられた部分が少し蒸発している。気持ちが悪い。
神父は淡々と祝福を与え、少年の父親まで終えた。
この中で、まだ祝福を受けていないのは、
一人だけ椅子に座らされている少年だけになった。
彼の元へ神父が歩いていく。皆の視線が少年と神父に集中する。
神父は、人差し指に聖油を塗り直し、少年の額にも十字を切ろうとした。
神父の指が少年の額に触れた瞬間。
「うわああああ!」
叫びと共に少年はのけぞった。
「熱い! 熱いよ!」
皆の額に塗った物と同じ筈なのに。
まるで炎を突き付けられたかのような反応だ。
「止めて、神父様、止めて!」
神父はその反応を予想していたのか、驚きは見せなかった。
金の十字架を胸に、厳かに祈りを捧げた。
「天にまします我らの父よ、聖なる我らの母マリアよ、我らの為に祈りたまえ」
悪魔祓いの儀式が始まった。
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