忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

悪魔の神秘11 続編
悪魔祓いの儀式が終わったあと、カイム邸のホームパーティは自然とお開きになった。
悪魔祓い前に帰ってしまったゲストも少なくなかったし。
僕もホテルに帰ろうとフィオラノの車に乗ったところで、彼の携帯電話が鳴ったのだ。

それがディーノからの電話で、フィオラノが泣きつくように、
「悪魔憑きが目の前で起こって大変だったんですよー」などと口走ったものだから、
ディーノが食い付いてきて「詳しく聞かせろ。あ? 今だ、今!」
とあまりにも煩いから、また一緒に夕食をとることになってしまったのだ。

しかも、ディーノに呼び出された店には、またオーギュストが居た。
彼もディーノに呼ばれたらしい。
こうして僕は二夜連続で、僕、オーギュスト、ディーノ、フィオラノ、
という意味不明なメンバーでディナーを食べる羽目に陥った。最悪。

まあ、パーティ会場では、悪魔憑き騒ぎで食事どころではなかったし、
まともに口にした物は、子供にご馳走されたティラミス程度だったから、
軽く食事できたのは悪くなかったけれど。

「悪魔かあー」

ディーノは悪魔祓いに――いや、悪魔自体のほうに、
興味があったようで、かなり熱心に話を聞いていた。
肉食動物のように、ガツガツむしゃむしゃ食べながら、ではあったが。

「俺様も悪魔ってヤツを、ナマで見たかったぜー。
やっぱナマがイイよな、何事もよ。ヘヘッ」

ディーノは鶏の手羽先に手を伸ばし、犬歯で引きちぎるようにして食べた。
彼の前にこんもりと積まれているメニューは、
辛そうなソースがかかった『手羽先チキンの悪魔風』だ。
既にディーノの唇や口髭、指までもが、
真っ赤なソースでベタベタになっている。品のない。

「やっぱ、ほれはまが、ひひょやくでいひゃあ、よきゃったああ」

「喋るか食べるかにして。酷いよ、口の周り」

僕が文句を言うと、横からフィオラノが笑顔で紙ナプキンを差し出した。
ディーノがそれを受け取り、口周りを乱雑に拭く。右の口角が拭ききれてない。
それに気付いたフィオラノが、ご丁寧に「兄貴、残ってやすよ」と教えていた。

「なあ! そのガキに憑いてた悪魔は、もうどっか行っちまったのか?」

「一応はね。でも、悪魔が消滅したわけではないそうだよ?
今は、悪魔祓いの儀式によって、一時的に力を失っただけ。
また悪魔に憑かれる可能性もあるとか」

「マジでか! 悪魔は無事なんだな!?」

マフィアには朗報だったらしい。

「クゥー! なかなかイイ根性してんじゃねえか、悪魔のヤツー!」

「……感心するところじゃないと思うけれど」

それまでオーギュストは、僕とディーノの遣り取りを、
微笑ましい、とでも言いたげな顔をして見守っていたが、ここでこう発言した。

「アンリの話を聞いているうちに、ディーノ君は悪魔に仲間意識が芽生えたんじゃないかな」

教師は食後のエスプレッソを片手に、

「悪魔と違って、シチリアンマフィアは一般人には優しいけれど、
同じ悪の道を行く者同士、志はどこか通ずるものがあるのだろうね」

「おっ。センセー、イイコト言うじゃねえかー。
そうだぜ。シチリアの悪魔とは俺様達のことさ」

「……喜ぶところじゃないと思うけれど」

教師はまた微笑ましいと言いたそうな顔をして笑っていた。
ディーノの取り皿には、細い骨だけになった手羽先肉の残骸が積まれている。

「で、結局よう。おめー、商談はどうすることにしたんだ?」

ディーノは手に持った手羽先の細い骨を振りながら、

「その、カイムって社長とは仕事することにしたのか? やっぱ止めてきたのか?」

「せっかくローマまで来て成功させた商談を、わざわざ破棄するわけないでしょう?」

「へえ。流石だなあ。気の弱ぇヤツなら、気味悪がってキャンセルしたかもしれねえぜ?」

「ビジネスはビジネスでしょう? プライベートなんかに興味はないよ」

「今回は、小さなお友達もできやしたからね?」

笑顔でそう言い添えたのはフィオラノだった。

「帰り際、『アンリ君、またうちに遊びに来てくれる?』って、
涙ながらに言われちゃいやしたし」

「ほーう?」

二人のマフィアが僕を見る。

「彼のことは、ビジネスには関係ない」

「てめえにダチができるとはキセキじゃねえか。
こーんなクソガキとダチになってくれるヤツなんざキチョーだぜー? なあ、センセ?」

ディーノがオーギュストに振る。教師は穏やかに笑っていた。

「そうだね。イタリアで新しいお友達ができて良かったね、アンリ」

むかつく。

「あー、食った、食ったー。あ、葉巻がねえ。フィオ、持ってるかー?」

へい、と言ってシガーケースごと渡す。マフィアは葉巻の時間らしい。
僕はおそらく、大人になっても葉巻を吸わないだろう。あの白煙は好きになれない。
マフィアはギロチンカッターで葉巻の先を落とす。
ゴールドのライターで、葉巻の先を炙るようにして火を灯していた。

どうして僕は、こんなに遅くまでマフィアに付き合わなくてはいけないんだろう。
そろそろホテルに帰って眠りたい。
何故僕がこんな目に、と思ったところで、ある疑問を思い出した。

「ん? どうしたんだい、アンリ。思案顔だね?」

「今更だけど、どうして、あの神父は、子供の悪魔憑きごっこなんかに、
付き合っていたのかなと思ってね。
神父が子供の危険な遊びを止めていれば、本物を呼ばずに済んだかもしれないのに」

「ンなことも解らねえのか。やっぱ、おめーはバンビーノだなー」

「ディーノ君。君だって、その答えはそう想像できるというだけだろう?
ご本人に聞いたわけではないのだから。答えは彼以外知り得ないことだよ」

「オーギュストも答えが解るの?」

「想像の域を出ない回答だがね」

「何」

「センセーの口から言い辛ぇなら、俺様が教えてやるよ、バンビーノ。
まあ、言ってみりゃ、俺達のカンケーと同じさ」

「僕達と?」

「おめーは、身の危険を感じるようになったら、俺達マフィアと手を組んだ。だろ?
だが、事情が変わって、身の安全が保障されたら、どうする?」

ニヤリと笑う口内には真っ白な煙が充満している。

「悪魔が憑いてるフリをしたほうが都合が良かったのさ、その神父にとってはな」

口許から葉巻の苦くて甘い香りがする。

「悪魔が憑いてんなら、また会えんだろ?」

マフィアが吹かす白煙は、ゆるゆると昇り、空気中に霧散した。


「ああ、すいやせん。そろそろお休みの時間ですよね、ホテルまでお送りしやす」

フィオラノに言われ、彼の運転でホテルまで戻ることになった。
後部座席には、左から、僕、オーギュスト、ディーノの順で座っていた。

窓からは夜中の景色が見える。繁華街だけがギラついていて、他は暗い。
既に深夜に近い時間で、人通りも少なくなっていた。
ローマの石畳の上を車が走っている。適度な揺れが眠気を誘う。
何度か、夢に落ちそうになっていたのを、オーギュストに見られていたらしい。
フッと笑う吐息が右隣から聞こえた。

「アンリ、私に凭れて眠っても良いんだよ? 部屋までおぶっていってあげるから」

「絶対イヤ」

ベッドに入るまで絶対寝ない。

「オーギュ、そう言えば、今日は何してたの?」

眠気を覚ます為に話し相手にしてやろうと思って、
どうでもいいことを聞いたつもりだったのに、次の返事を聞いたら目が覚めた。

「ん? 私はアンリに昨夜言われた通り、ローマ観光をしていたよ?
バチカンの辺りを――ディーノ君と」

僕は彼をパーティに連れて行きたくはなかったから、
ローマ観光でもしてて、とは言ったけれど、ディーノと一緒に居ろだなんて言ってない。

「最初は私一人で美術館や博物館を見学していたんだ。
大聖堂は混んでいるようだったから外から眺めて、
サン・ピエトロ広場を出たところだったかな。偶然、ディーノ君と会ってね」

偶然? そんな偶然が起こり得る筈がない。

「そのあとは、ディーノ君オススメのバールに、
連れて行って貰ったんだ。良いお店だったよ?」

「だろ? オトナのサシ飲みには打ってつけの店なんだ、アソコは」

「ディーノ」

「言っただろ? 俺はセンセとサシ飲みがしたいって」

電話でローマ行きについて打ち合わせをした時のことを言っているのか。
確かに「センセーとサシで飲みたい」と言っていた、けれど。

「昨日の夜だって、僕が行くまでは二人で会っていたんでしょう。
どうして君達が、二人で何度も会う必要があるの」

「野暮なこと聞きやがる。だから、てめえはガキだってんだよ」

「オーギュスト。何の話をしていたの」

彼はいつもと変わらない優しく微笑を見せる。

「世間話に花を咲かせていただけだよ、ありふれた世間話に」

教師は僕の質問に答えなかった。

「ああ。そういや、アレはどういうイミだったんだろーなー」

ディーノが笑みを浮かべながら言う。

「悪魔がおめえに言ってた、『大嘘吐き野郎の末裔』っての?
アレはどういうイミだったんだか」

つまらないことを聞く。

「どうせ、初代サン・ジェルマン伯爵への愚弄でしょう?
不老不死で時間旅行者、おまけに予言者とまで言われる人なのだから。
当時から散々、詐欺師だ山師だと言われていた伯爵のことを、
改めて『大嘘吐き』と言ってくれたんじゃない?」

「んな本にでも載ってそうなこと、わざわざ言うかよ? 相手は悪魔だぜ?
なあ、センセ。アンタは神秘学の先生なんだろ?
コイツんちの伯爵は、なんかデカイ嘘を吐いたのか?」

僕は教師を見る。教師はいつものように落ち着いた口調で、

「さあ。どうかな」

そこで、ちらりと僕を見る。

「遠いながらも血縁者のアンリの前で言うのは申し訳ないけれど、
彼をペテン師だと論じる文献が多いのは事実だよ、真偽は別としてね」

マフィアの目が教師を愉快そうに見つめる。

「守備範囲だろ? 真実は知らねえのか、神秘学のセンセー?」

神秘学担当教師は微笑むだけだった。


PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]