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Marginal Prince Short Story
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悪魔の神秘12 続編
「――これで、僕がローマで見た悪魔憑きの話は終わり」

僕は机の上に置いた携帯電話に話している。
小さな液晶画面。その向こう側に居る一人の女性に向けて。

「まあ、こんな話、信じられなくて当然だと思うよ。
僕だって白昼夢を見たような気がしているのだから。君の好きに思ってくれればいい」

話が悪魔憑きの儀式に差しかかった時などは、
携帯電話の中に居る女性は怖がっているようだった。
笑った顔も悪くないけれど、そういう顔も嫌いじゃない。

話が進むにつれ、彼女は俯きがちになり、相槌も消えていった。
僕が話したのは、悪魔憑きの話だったというのに。
下らない、馬鹿げてる、などと罵ることは一度もなく。
彼女は僕の話を最後まで真剣に聞いてくれた。

「君も、気を付けてね?」

彼女が顔を上げる。

「女性のほうが多いんだって、悪魔に憑かれるのは。
悪魔が女好きなのか、女性が悪魔好きなのかは解らないけれど」

彼女は考え込むような顔になる。

「君は、奪われないで。君の身体と心は、悪魔なんかに奪われたくない」

「えっ?」

「いや――少し変なこと言ったかな。気にしないで。忘れて」

携帯電話に表示されている時刻が目に入る。
思ったより時間が過ぎていた。彼女の国ではもう深夜だ。

「遅くまで、つまらない話に付き合わせて悪かったね。君はもう眠る時間でしょう?」

彼女は曖昧な返事をする。

「じゃあ、またね。おやすみ」

そう言って僕が電話を切ろうとしたら、その直前で名前を呼ばれた。

「何?」

真面目な顔をして、彼女は言った。

「やっぱり、アンリさんの中に悪魔は居ないと思います」

何を根拠に言っているのだろう。
存在の証明が難しいというのに、不在の証明などできるのだろうか。
僕が「どうして?」と訊ねると、彼女はこう答えた。

「私も嫌です。悪魔なんかにアンリさんを奪われるのは」

真面目な顔をして、面白いことを言う人だ。
だから君との時間は退屈しないのかな。

「――あっ。ど、どうして笑うんですか」

「いや。君にしては、随分、自己中心的な意見だと思ってね」

すると、君は何か言いたげに僕を見ていたが、結局、言葉にはしなかった。

「じゃ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい、アンリさん」

携帯電話から君の姿が消える。
君と話したあとは、いつも不思議な気持ちになる。
嬉しいような、泣きたくなるような気持ち。
その両方を同時にくれるのは君だけだ。

「素敵なお嬢さんだね。良いことを言ってくれる」

突然声がした。振り返ると、ドアに凭れている人物が居た。
ブラウンのスーツを身に付けた神秘学担当教師。

「……オーギュスト」

一体いつからそこに居たのか。神出鬼没にも程がある。
担任のような者だからと言って、生徒の部屋に無断で入って良いわけがない。
しかも、彼女との会話を立ち聞きしていたなんて。
教師は胸の前で両手を軽く挙げる。

「ああ、一応、ノックはしたんだよ?」

「嘘だ。絶対聞こえなかった」

「すまない。でも、静かにしていただろう?
お嬢さんとの時間を邪魔してはいけないと思ったから」

「静かにするんじゃなくて、入って来ないでと言っているの」

ごめんごめん、と謝る割に反省している様子が見えない。

「でもね、アンリ」

教師は落ち着いた口調でこう言った。

「私もそう思うよ。アンリの中に悪魔は居ないと」

何を言うかと思えば。

「父はそう信じて疑わなかったみたいだけれどね?」

僕がそう言うと、教師は少し悲しそうな顔をした。
どうしてこの教師は、そんな顔をするのだろう。
教師はゆっくりとドアへ向かう。最後にぽつりと呟いた。

「Le Diable. 束縛されし者」

パタンとドアが閉まった。


fin
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