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Marginal Prince Short Story
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夏はデンジャラスに水着に白衣3 続編
「道標にメス落とすって、どんなヘンゼルとグレーテルだよ。ホラー過ぎんだろ」

アイヴィーは回収してきたメスを眺めている。

「でも、ソクーロフがメス落とすってことは故意だろうから、
やっぱ誘拐、だよな。そんで、俺に場所を教えようとしたんだ」

メスが大量に落ちていた付近には、
今は使われていない、お誂え向きの倉庫があった。

「この中にソクーロフが……まだ生きててくれよっ」

バンと扉を開ける。

「ソクーロフ! 助けにっ」

倉庫の中で見た光景に、アイヴィーは息を呑んだ。
鉄骨に腰掛けているソクーロフの足に、知らない男が、頬を擦り寄せていた。
アイヴィーは思わず扉を閉めた。

「ちょ、今の何!? イマのナニ!?」

あまりの出来事に心臓がバクバクいっている。

「いや、きっと見間違いだ。そうに決まってる。
誘拐されてる筈の人が、下僕ごっこしてるわけないもん、しかも王様役で。
よ、よしっ。勇気を振り絞って、もっかい確認だっ!」

もう一度、バンと扉を開けた。

「ああ、スタニスラフ様……」

見知らぬ男は、恍惚とした表情で、ソクーロフの名を呼んでいた。
王に仕える下僕でも今時ここまでしないだろう。

「ソクーロフ! 何してんの!? てか、ホントにナニしてんの!?」

ソクーロフは面倒だなと言わんばかりの顔で、

「島民が急患だと呼ばれていったら、この男に誘拐された。
その後、色々話を聞いていたら、彼は私の洗脳技術に興味があるのだと解ってな。
拘束を解いて貰う為、策を講じていたら、こうなった」

誘拐犯はまだソクーロフの足に寄り添っていた。
アイヴィーは力が抜けて、笑ってしまった。

「誘拐犯を骨抜きにしちゃうなんて。俺、助けに来る必要なかったね」

「必要さ」

「えっ?」

「ここから学院まで歩いて帰るのは難儀だからな」

「必要なのは車だけかよ」

ソクーロフは吐息を漏らすように笑った。

「スタニスラフ様……」

今や、しもべと化した誘拐犯が、主人の名前を呼んでいる。
ソクーロフは優しい微笑みを返す。しもべの肩に手を置き、彼の耳元で何かを囁いた。
すると、しもべは糸が切れた操り人形のように力を失い、ソクーロフの腕の中に倒れた。
その身体を支えながら、ゆっくりとコンクリートの上に横たえた。
それを見守っていたアイヴィーは頬を掻いていた。

「ありゃりゃあ。赤ちゃんみたいな寝顔しちゃって」

「そうだな」

「てかさ、ソクちゃん、その顔……ほっぺも唇も切れてんじゃん。眼鏡もないし」

「眼鏡ならそこだ。顔を蹴られた時に割れた」

「顔っ!? 勇気あんなあ……じゃなくて、ごめん、遅くなって」

「私を気にするより、お前にはすることがあるだろう?
早く警備に連絡して、キリルと、その仲間を捕らえるんだな」

「キリル? あれ。どっかで聞いた名前だな……てか、仲間?」

「キリル!」

倉庫に、四角い顔をした大柄の男が入ってきた。
大柄の男は、倒れていたキリルを抱き起こす。

「キリル、しっかりしろ! おい!」

揺り起こされ、ゆっくりと目を開ける。

「スタニスラフ様……スタニスラフ様……」

目覚めて尚、うわごとのようにソクーロフの名を呼び続けていた。
大柄の男は舌打ちする。

「腑抜けにされやがって。ソクーロフにやられたのか。
だから、俺は反対だったんだ。心を操る男を仲間に入れるなんて」

大柄の男はキリルをそっと寝かせたあと、顔を上げた。

「ソクーロフ。よくもやってくれたな。借りは返すぜ」

男が胸元から何か取り出したのをアイヴィーの目が捉える。
鞘から覗いたのは銀色のナイフだった。

「危ない!」

それは一瞬の出来事だった。
ソクーロフの目には、金色の長い髪だけが映っていて、
次の瞬間にはバタリと大柄の男が倒れた。

「ああ、やっと思い出したよ」

アイヴィーの声は僅かに笑っていた。

「キリルってのは、イヴァニコフ・ファミリーのキリルかあ。
ロシアンマフィアにはナイフ遣いが多いもんね。こちらさんもファミリーの人かな」

ナイフの刃を直に掴んだままの左手からは、赤い滴が伝っている。
それを見て、ソクーロフはアイヴィーの背中で遮断された光景を察する。

ソクーロフに向けられたナイフ。
それをアイヴィーは左手で掴むことで、相手の懐に入り、一撃で倒したのだろう。
ソクーロフは息を吐きながら言った。

「いつまで握っている」

「えっ?」

アイヴィーはまだ刃の部分を握っている。その柄をソクーロフが掴む。

「離せ」

「ああ、うん」

アイヴィーが刃から手を離す。
ソクーロフが持つナイフは、鮮やかな血で濡れていた。

「何故こんな真似を。お前なら他にも対処法はあっただろう」

「いやあ、とっさに、ね。あ、今頃痛くなってきた。イテテテッ」

「馬鹿だな」

「でも、守るのは俺のお仕事だもん。
怪我は、ソクちゃんが治してくれんでしょ?」

ソクーロフは真っ赤な手を見ながら、

「私の手を煩わせるな」

アイヴィーは笑っていた。

「治すのはソクちゃんのお仕事なんだから、ちゃんとしてよ」

医師は怪我人を見つめたあと、白衣を脱ぎだした。怪我人は慌てる。

「ちょ!? な、なんで今脱ぐの!?」

医師は言葉でなく、行動で答えを示した。
脱いだ白衣を両手に持ち、勢い良く引き裂いた。
幾度かそれを繰り返すことで、細長い白い布ができた。
アイヴィーは、目をぱちくりしている。

「……白衣を、包帯に?」

「外側は一部汚れているが、内側は支障ない。
これで止血する。そこに座って、手を出せ」

「う、うん」

怪我人が鉄骨に座る。その正面に医師が膝を落とす。
医師を見下ろす姿勢になった怪我人は、少しぼうっとしていた。

「おい。早く手を出せ」

「そ、そうだった。ハイ」

怪我人の手に触れた医師の手はあたたかかった。
医師の応急処置は非常に手際が良かった。
まず、ポケットティッシュで血を拭った。サラサラとした感触が少しくすぐったい。
露わになった傷口を見て、医師はひとつ息を漏らしていた。怪我人は不安になる。

「な、なに? ヤバめなの?」

「いや、良く見えん」

「あ、眼鏡がないからねえ……って、ソレちょっと接写過ぎない!?」

「気が散る。少し静かにしていろ」

細胞まで観察するかの如く、目を近付け、
真剣な眼差しで傷の具合を診察していた。
そして、傷口を強く圧迫するようにして、白い布を巻いていった。

「……あの、ごめんね。ソクちゃんの白衣、ダメにしちゃって」

「静かにしていろと言っただろ」

「うん……」

傷口に近い部分から白い布が血に染みていく。医師はぼそりと呟いた。

「お前が申し訳なく思う必要はない」

「でも」

「お前が私に白衣を一着プレゼントしてくれるのならな。私の白衣は高いぞ」

「ハハッ……ホントに高そうだな、ソクちゃんの白衣」


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