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■テオ ウーティス寮
■背景:在る処 -sea-
■天月様、リクエストありがとうございました!
かき氷に、たこ焼き、射的もある。
特設夏祭り会場には日本で見るのと同じ屋台がズラリと並んでいた。
そもそもの始まりは、二週間程前に遡る。
聖アルフォンソ島にも、夏の兆しが見えてきた頃。
放課後のウーティス寮にて、ハルヤとシルヴァンが、
日本の夏祭りについて話していた。
「ニッポンのサマーフェスティバルってどんなかんじですか」
とシルヴァンに聞かれ、ハルヤは昔を思い出しながら、答えていた。
そこに、たまたま生徒代表のテオが遊びに来たのである。
日本文化が大好きというシルヴァンとテオが盛り上がってしまい、
「聖アルフォンソ島でもナツマツリをやろう!」となってしまったのである。
そして今日のお昼休み、突然の校内放送があった。
「今夜、ジャパニーズ式のサマーフェスティバルをやるよ!」
放送室をジャックしたのは、生徒代表のテオだった。
「ジャパンの言葉ではナツマツリと言うそうだよ。
私は以前からオリエンタルの文化に惹かれていてねえ。
今年はジャパンから新入生も来てくれたことだし、
ジャパンの夏を肌で学ぼうと思い、開催することにしたんだ。
既に、各寮にナツマツリグッズをプレゼントしておいたから、
それを身に付けて来てくれると嬉しいな。
というわけで、参加できる皆は、今夜19時に正門前に集合だよ。
今夜は皆で楽しもう。特に東洋の黒い真珠!
君がユカタで来てくれるのを待っているよ!」
名指しのアナウンスを受け、ハルヤに断る気力はなかったし、
まあ行っても良いかなと思う理由もあった。
テオは最上級生。この夏が終わる頃には、ここを卒業している人だから。
「スゴイですー! これがニッポンのナツマツリなんですね!」
海に程近い広場を貸し切った、聖アルフォンソ島特設夏祭り会場は、
日本からお祭りをひとつ持ってきたかのようになっていた。
ハルヤの隣ではシルヴァンが目を輝かせている。
ハルヤ達の前方には、ジョシュアとアンリとレッドが並んで歩いている。
レッドとアンリが何か言い合いをしているようで、
仲裁に入ろうか迷っているジョシュアの横顔がちらりと見えた。
「それにしてもハルヤって、本当にキモノが似合いますねえ」
シルヴァンがハルヤを上から下まで眺める。
「そ、そんなにじっくり見なくても」
「お綺麗です。ヤマトナデシコですよ、ハルヤ」
「もう。それは男に使う言葉じゃないよ」
この夜のハルヤは、テオが用意した衣装を身に付けていた。
わざわざ日本からお取り寄せした浴衣である。
着心地の良い布地に、細やかに縫われた柄。
和服を着慣れているハルヤの目から見ても、この浴衣は決して安物ではなかった。
たった一夜の夏祭りの為だけに、こんな良い物まで用意するなんて、とハルヤは思う。
ほんと、お金持ちのすることって解んない。
「あの、僕も似合ってますか、ユカタ!」
シルヴァンが浴衣の袖を広げてクルリと回ってみせる。
普段は下ろしている長い髪も、今夜はお団子頭にして、赤い玉かんざしでまとめていた。
露わになっている白い首筋や、耳許に少しだけ垂れ下がる横髪は妙に女性的に見えた。
「今日の僕、サムライですか!?」
「いや、シルヴァンのは、サムライっていうか、何て言うか……」
「……僕、サムライじゃないですか?」
「ま、まあ、和服だし、制服姿とかよりはサムライに近い、かな?」
「ですよね! ですよねー! 今日は僕、サムライですよね!」
聖アルフォンソ島に突如現れた日本式のお祭りで、
一番楽しんでるのはシルヴァンかもしれなかった。
「ハルヤ、何か食べましょうよ!」
シルヴァンに腕を組まれる。
「ハルヤのオススメはどれですか? 教えて下さい!」
「オススメ? そうだなあ」
ハルヤは歩きながら、辺りを見渡す。
まだ和歌山で暮らしていた頃、近所の神社で、こういう夏祭りがあったっけ。
夜店が並ぶ光景を見ていたら、ハルヤは自然と昔を思い出した。
母様に浴衣を着せて貰って、兄様に会いに行った。
少し久し振りに会った父様には「なんだか女の子みたいだな」と少し笑われて。
「春也はすぐ迷子になるから」と兄様が手を繋いでくれた。
小さな財布には、母様から貰った五百円玉と、
「これでりんご飴でも食べといで」と、じい様から貰った五百円玉が入ってた。
子供の頃の自分には大金過ぎて、ドキドキするくらいだったのを覚えてる。
夏の夜に浮かぶ夜店の灯り。夏祭りには独特の雰囲気がある。
賑やかなのに、どこか寂しいかんじがするのは、どうしてだろう。
焼きそば、お好み焼きに、わたあめ。その向こうに、赤くて丸い物が見えた。
「最初は、りんご飴が良いかな」
ハルヤがそう呟くと、シルヴァンは首を傾げた。
「リンゴアメ? リンゴアメって何ですか?」
「ああ、ごめん。日本語だったね。えっと、英語にすると、
アップル・キャンディ、になるのかな。アップルを丸ごとキャンディにした物なんだけど」
「わお! それなら、アメリカにもあったと思いますよ!」
「え、そうなの?」
「はい。名前は、キャンディ・アップルだったと思います」
「あ、キャンディが先に来るんだ。
じゃあ、それ舐めながら、他にどんなお店があるか、一周見て回らない?」
「イイですね! そうしましょう! リンゴアメ下さーい!」
既にシルヴァンは駆け出していた。
「あ、ちょっと、待ってよ、シルヴァン」
人の間を擦り抜け、背の高いお団子頭を追いかけた。
「あれ? リンゴアメ売ってるの、ドニじゃないですか?」
「あ、ほんとだ」
赤いハッピを着た売り子は、シュヌーシア寮シェフ、ドニ・ドームだった。
小柄なせいか、サイズが合っていないようで、ハッピのほうが少々大きい。
こちらに気付いた童顔のシェフが、ぴょこんと頭を下げながら、挨拶した。
「シルヴァン様にハルヤ様。いらっしゃいませ!」
「ドニもお店出してたんだ?」
「はい。シェフ達も協力して欲しい、とテオ様に頼まれまして」
「ドニは、リンゴアメ屋さんなんですね」
「はい。キャンディ・アップルが、日本でもお祭りのお菓子だと聞いたので」
「他の国でもそうなの?」
「そうなんです。例えば、イギリスやフランスでは、
ハロウィンとか、秋の収穫祭などで見かけるお菓子ですね」
「へえ。なんか不思議だね。そっちでは、何て名前なのかな?」
「えっと、イギリスでは、『タフィー・アップル』ですね。
フランスでは『愛のリンゴ』という意味で、『ポム・ダムール』と呼ばれています」
「わお! 『愛のリンゴ』だなんてステキですね!」
ハルヤは曖昧な微笑を見せる。
「……なんか、オシャレな名前なんだね、向こうでは」
「あれ? ところで、お値段が書いてないみたいですけど、
『愛のリンゴ』は、おひとつ、おいくらですか?」
「あっ、お代は頂戴してないんです」
「いいの?」
「はい。テオ様が『今夜のお祭りは私が勝手に開いたものだから』と仰って」
「……え。じゃあ、全部テオのおごりってこと?」
「やーん! テオのそういうとこ、大好きですー!」
「キャンディ・アップルは、おひとつずつで良いですか? はい、どうぞ」
割り箸に刺した真っ赤なりんご飴が差し出される。
ハルヤは懐かしいなと思いながら、それを受け取った。
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■背景:在る処 -sea-
■天月様、リクエストありがとうございました!
かき氷に、たこ焼き、射的もある。
特設夏祭り会場には日本で見るのと同じ屋台がズラリと並んでいた。
そもそもの始まりは、二週間程前に遡る。
聖アルフォンソ島にも、夏の兆しが見えてきた頃。
放課後のウーティス寮にて、ハルヤとシルヴァンが、
日本の夏祭りについて話していた。
「ニッポンのサマーフェスティバルってどんなかんじですか」
とシルヴァンに聞かれ、ハルヤは昔を思い出しながら、答えていた。
そこに、たまたま生徒代表のテオが遊びに来たのである。
日本文化が大好きというシルヴァンとテオが盛り上がってしまい、
「聖アルフォンソ島でもナツマツリをやろう!」となってしまったのである。
そして今日のお昼休み、突然の校内放送があった。
「今夜、ジャパニーズ式のサマーフェスティバルをやるよ!」
放送室をジャックしたのは、生徒代表のテオだった。
「ジャパンの言葉ではナツマツリと言うそうだよ。
私は以前からオリエンタルの文化に惹かれていてねえ。
今年はジャパンから新入生も来てくれたことだし、
ジャパンの夏を肌で学ぼうと思い、開催することにしたんだ。
既に、各寮にナツマツリグッズをプレゼントしておいたから、
それを身に付けて来てくれると嬉しいな。
というわけで、参加できる皆は、今夜19時に正門前に集合だよ。
今夜は皆で楽しもう。特に東洋の黒い真珠!
君がユカタで来てくれるのを待っているよ!」
名指しのアナウンスを受け、ハルヤに断る気力はなかったし、
まあ行っても良いかなと思う理由もあった。
テオは最上級生。この夏が終わる頃には、ここを卒業している人だから。
「スゴイですー! これがニッポンのナツマツリなんですね!」
海に程近い広場を貸し切った、聖アルフォンソ島特設夏祭り会場は、
日本からお祭りをひとつ持ってきたかのようになっていた。
ハルヤの隣ではシルヴァンが目を輝かせている。
ハルヤ達の前方には、ジョシュアとアンリとレッドが並んで歩いている。
レッドとアンリが何か言い合いをしているようで、
仲裁に入ろうか迷っているジョシュアの横顔がちらりと見えた。
「それにしてもハルヤって、本当にキモノが似合いますねえ」
シルヴァンがハルヤを上から下まで眺める。
「そ、そんなにじっくり見なくても」
「お綺麗です。ヤマトナデシコですよ、ハルヤ」
「もう。それは男に使う言葉じゃないよ」
この夜のハルヤは、テオが用意した衣装を身に付けていた。
わざわざ日本からお取り寄せした浴衣である。
着心地の良い布地に、細やかに縫われた柄。
和服を着慣れているハルヤの目から見ても、この浴衣は決して安物ではなかった。
たった一夜の夏祭りの為だけに、こんな良い物まで用意するなんて、とハルヤは思う。
ほんと、お金持ちのすることって解んない。
「あの、僕も似合ってますか、ユカタ!」
シルヴァンが浴衣の袖を広げてクルリと回ってみせる。
普段は下ろしている長い髪も、今夜はお団子頭にして、赤い玉かんざしでまとめていた。
露わになっている白い首筋や、耳許に少しだけ垂れ下がる横髪は妙に女性的に見えた。
「今日の僕、サムライですか!?」
「いや、シルヴァンのは、サムライっていうか、何て言うか……」
「……僕、サムライじゃないですか?」
「ま、まあ、和服だし、制服姿とかよりはサムライに近い、かな?」
「ですよね! ですよねー! 今日は僕、サムライですよね!」
聖アルフォンソ島に突如現れた日本式のお祭りで、
一番楽しんでるのはシルヴァンかもしれなかった。
「ハルヤ、何か食べましょうよ!」
シルヴァンに腕を組まれる。
「ハルヤのオススメはどれですか? 教えて下さい!」
「オススメ? そうだなあ」
ハルヤは歩きながら、辺りを見渡す。
まだ和歌山で暮らしていた頃、近所の神社で、こういう夏祭りがあったっけ。
夜店が並ぶ光景を見ていたら、ハルヤは自然と昔を思い出した。
母様に浴衣を着せて貰って、兄様に会いに行った。
少し久し振りに会った父様には「なんだか女の子みたいだな」と少し笑われて。
「春也はすぐ迷子になるから」と兄様が手を繋いでくれた。
小さな財布には、母様から貰った五百円玉と、
「これでりんご飴でも食べといで」と、じい様から貰った五百円玉が入ってた。
子供の頃の自分には大金過ぎて、ドキドキするくらいだったのを覚えてる。
夏の夜に浮かぶ夜店の灯り。夏祭りには独特の雰囲気がある。
賑やかなのに、どこか寂しいかんじがするのは、どうしてだろう。
焼きそば、お好み焼きに、わたあめ。その向こうに、赤くて丸い物が見えた。
「最初は、りんご飴が良いかな」
ハルヤがそう呟くと、シルヴァンは首を傾げた。
「リンゴアメ? リンゴアメって何ですか?」
「ああ、ごめん。日本語だったね。えっと、英語にすると、
アップル・キャンディ、になるのかな。アップルを丸ごとキャンディにした物なんだけど」
「わお! それなら、アメリカにもあったと思いますよ!」
「え、そうなの?」
「はい。名前は、キャンディ・アップルだったと思います」
「あ、キャンディが先に来るんだ。
じゃあ、それ舐めながら、他にどんなお店があるか、一周見て回らない?」
「イイですね! そうしましょう! リンゴアメ下さーい!」
既にシルヴァンは駆け出していた。
「あ、ちょっと、待ってよ、シルヴァン」
人の間を擦り抜け、背の高いお団子頭を追いかけた。
「あれ? リンゴアメ売ってるの、ドニじゃないですか?」
「あ、ほんとだ」
赤いハッピを着た売り子は、シュヌーシア寮シェフ、ドニ・ドームだった。
小柄なせいか、サイズが合っていないようで、ハッピのほうが少々大きい。
こちらに気付いた童顔のシェフが、ぴょこんと頭を下げながら、挨拶した。
「シルヴァン様にハルヤ様。いらっしゃいませ!」
「ドニもお店出してたんだ?」
「はい。シェフ達も協力して欲しい、とテオ様に頼まれまして」
「ドニは、リンゴアメ屋さんなんですね」
「はい。キャンディ・アップルが、日本でもお祭りのお菓子だと聞いたので」
「他の国でもそうなの?」
「そうなんです。例えば、イギリスやフランスでは、
ハロウィンとか、秋の収穫祭などで見かけるお菓子ですね」
「へえ。なんか不思議だね。そっちでは、何て名前なのかな?」
「えっと、イギリスでは、『タフィー・アップル』ですね。
フランスでは『愛のリンゴ』という意味で、『ポム・ダムール』と呼ばれています」
「わお! 『愛のリンゴ』だなんてステキですね!」
ハルヤは曖昧な微笑を見せる。
「……なんか、オシャレな名前なんだね、向こうでは」
「あれ? ところで、お値段が書いてないみたいですけど、
『愛のリンゴ』は、おひとつ、おいくらですか?」
「あっ、お代は頂戴してないんです」
「いいの?」
「はい。テオ様が『今夜のお祭りは私が勝手に開いたものだから』と仰って」
「……え。じゃあ、全部テオのおごりってこと?」
「やーん! テオのそういうとこ、大好きですー!」
「キャンディ・アップルは、おひとつずつで良いですか? はい、どうぞ」
割り箸に刺した真っ赤なりんご飴が差し出される。
ハルヤは懐かしいなと思いながら、それを受け取った。
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