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■カミーユ・ルブラン
■アランの昼 続編
ウーティス寮シェフは、圧力鍋に蓋をした。
「よし。これで明日の仕込みもおしまいだ」
掛け時計を見上げる。
「そろそろ時間だな。着替えなければ」
ピカピカに磨かれた調理場から離れ、真っ白なコック帽を取った。
その夜は、シェフ三人で旧市街に行き、中華料理屋で夕食をとった。
一番年少のドニが、三人の中で一番喋る。
「朝は毎日ヴィッフェ式だから、メニュー考えるの大変ですよねー」
三人揃うと、いつの間にか料理の話になっていることが多かった。
ドニは喋りながら、デザートの胡麻団子を食べている。
アランは既に食事を終えており、ビールを飲みながら、
時々、ピスタチオの殻を割って、ナッツを口に入れる作業を繰り返していた。
「あれ?」とドニが声を上げた。
「今、お店出て行くの、ソクーロフ先生とアイヴィーさんじゃないですか?」
カミーユには、彼等の後ろ姿だけが見えた。
長い髪を一つに結わえた人物が、
長い金髪を下ろした人物を連れて、店を出て行くところ。
ドアが閉まり、二人の姿は見えなくなった。
確かに、今の髪型と背格好は、保健室の先生とタクシードライバーのようにも見えるが、
一瞬の後ろ姿だけだったので確定はできない。
もしかしたら、髪の長い女性だったかもしれない。
「同じお店に居たんですねー。もっと早く気が付けば良かったなー」
ソクーロフ博士達に話しかけたかったのか、ドニは残念がっていた。
シュヌーシア寮の生徒は、何かと保健室にお世話になることが多いせいか、
シュヌーシア寮シェフも、何かと保健室の先生と話す機会があるらしい。
ドニはソクーロフ博士のことを「優しくて生徒想いの先生」だと慕っている。
「そう言えば、ソクーロフ先生とアイヴィーさんって、
よく一緒にお食事されてますよね。
アイヴィーさんは、先生の保健室によくお昼寝に来ているみたいですし」
仲が良いんだなー、と言ってドニはニコニコしている。
アランは相変わらず淡々とピスタチオの殻を割っていた。
「あ、そうだ。今度、三人で釣りに行きませんか?」
「釣り?」
「はい。今夜、アランさんは一人で夜釣りに行くご予定だったんですって、ホントは。
でも、僕達がお誘いしたから、今日はこちらに来てくれたんです」
「釣りか。新鮮な魚が手に入れば、メニューがひとつ増えるなあ」
「ですよね! じゃあ、今度行きましょうよ、三人で。いつ行きましょうか」
「天気の良い日が良いだろうなあ」
カミーユが腕を組む。アランはぼそりと言った。
「行くなら、二週間後の日曜日」
「二週間後? やけに遠いなあ」
「どうしてなんですか、アランさん」
「新月だから」
「新月、ですか?」
「魚は、満月と新月の日に釣れる」
「えっ。そうなんですか?」
「ああ、そう言えば、そうらしいな。
満月と新月の日は、潮の満ち引きが大きいから、
魚がよく釣れると聞いたことがある」
カミーユの話にアランはこくりと頷いた。
「じゃあ、釣り、行きましょうよ! 二週間後の日曜日、新月の日に」
「ああ、そうだな。行ってみるか」
アランも頷いていた。
ドニは、楽しみだなー、と言ってまたニコニコ笑っていた。
結局、その夜も、ドニはテーブルで伏して眠ってしまうまで飲んでいた。
酔うとすぐ眠くなってしまう体質なのだ。
それを知っていながら、
ドニを止めない自分達にも十分責任はある、とカミーユは感じていた。
「さて。そろそろ帰るか」
いつものように、ドニをアランの背中に乗せ、
カミーユが会計をし、店のドアを開ける。
カミーユは自分がドニを背負うと言ったことはなかった。
外に出ると、少し涼しかった。
タクシー乗り場まで歩いていく。
ふと見上げると、天には月が浮かんでいた。
夜空に、ぽっかりと浮かんだ、まあるい月。
今夜は美しい満月だった。
「これは見事な満月だなあ」
カミーユは思わず見惚れる。
すると、アランがぽつりと言った。
「だから、釣りに行こうとした」
「では、なんで行かなかったんだ?」
「新月でも、釣れる」
アランはドニを背負い直し、歩いていく。
カミーユはその少し後ろを歩いていった。
月を見るようなフリをして、カミーユはちらりと眺める。
飲んだあと、これを見るのが少し楽しみなのかもしれない。
あの月のように、まあるい顔。
ドニの寝顔は、自分で背負っていては見られない。
→
■アランの昼 続編
ウーティス寮シェフは、圧力鍋に蓋をした。
「よし。これで明日の仕込みもおしまいだ」
掛け時計を見上げる。
「そろそろ時間だな。着替えなければ」
ピカピカに磨かれた調理場から離れ、真っ白なコック帽を取った。
その夜は、シェフ三人で旧市街に行き、中華料理屋で夕食をとった。
一番年少のドニが、三人の中で一番喋る。
「朝は毎日ヴィッフェ式だから、メニュー考えるの大変ですよねー」
三人揃うと、いつの間にか料理の話になっていることが多かった。
ドニは喋りながら、デザートの胡麻団子を食べている。
アランは既に食事を終えており、ビールを飲みながら、
時々、ピスタチオの殻を割って、ナッツを口に入れる作業を繰り返していた。
「あれ?」とドニが声を上げた。
「今、お店出て行くの、ソクーロフ先生とアイヴィーさんじゃないですか?」
カミーユには、彼等の後ろ姿だけが見えた。
長い髪を一つに結わえた人物が、
長い金髪を下ろした人物を連れて、店を出て行くところ。
ドアが閉まり、二人の姿は見えなくなった。
確かに、今の髪型と背格好は、保健室の先生とタクシードライバーのようにも見えるが、
一瞬の後ろ姿だけだったので確定はできない。
もしかしたら、髪の長い女性だったかもしれない。
「同じお店に居たんですねー。もっと早く気が付けば良かったなー」
ソクーロフ博士達に話しかけたかったのか、ドニは残念がっていた。
シュヌーシア寮の生徒は、何かと保健室にお世話になることが多いせいか、
シュヌーシア寮シェフも、何かと保健室の先生と話す機会があるらしい。
ドニはソクーロフ博士のことを「優しくて生徒想いの先生」だと慕っている。
「そう言えば、ソクーロフ先生とアイヴィーさんって、
よく一緒にお食事されてますよね。
アイヴィーさんは、先生の保健室によくお昼寝に来ているみたいですし」
仲が良いんだなー、と言ってドニはニコニコしている。
アランは相変わらず淡々とピスタチオの殻を割っていた。
「あ、そうだ。今度、三人で釣りに行きませんか?」
「釣り?」
「はい。今夜、アランさんは一人で夜釣りに行くご予定だったんですって、ホントは。
でも、僕達がお誘いしたから、今日はこちらに来てくれたんです」
「釣りか。新鮮な魚が手に入れば、メニューがひとつ増えるなあ」
「ですよね! じゃあ、今度行きましょうよ、三人で。いつ行きましょうか」
「天気の良い日が良いだろうなあ」
カミーユが腕を組む。アランはぼそりと言った。
「行くなら、二週間後の日曜日」
「二週間後? やけに遠いなあ」
「どうしてなんですか、アランさん」
「新月だから」
「新月、ですか?」
「魚は、満月と新月の日に釣れる」
「えっ。そうなんですか?」
「ああ、そう言えば、そうらしいな。
満月と新月の日は、潮の満ち引きが大きいから、
魚がよく釣れると聞いたことがある」
カミーユの話にアランはこくりと頷いた。
「じゃあ、釣り、行きましょうよ! 二週間後の日曜日、新月の日に」
「ああ、そうだな。行ってみるか」
アランも頷いていた。
ドニは、楽しみだなー、と言ってまたニコニコ笑っていた。
結局、その夜も、ドニはテーブルで伏して眠ってしまうまで飲んでいた。
酔うとすぐ眠くなってしまう体質なのだ。
それを知っていながら、
ドニを止めない自分達にも十分責任はある、とカミーユは感じていた。
「さて。そろそろ帰るか」
いつものように、ドニをアランの背中に乗せ、
カミーユが会計をし、店のドアを開ける。
カミーユは自分がドニを背負うと言ったことはなかった。
外に出ると、少し涼しかった。
タクシー乗り場まで歩いていく。
ふと見上げると、天には月が浮かんでいた。
夜空に、ぽっかりと浮かんだ、まあるい月。
今夜は美しい満月だった。
「これは見事な満月だなあ」
カミーユは思わず見惚れる。
すると、アランがぽつりと言った。
「だから、釣りに行こうとした」
「では、なんで行かなかったんだ?」
「新月でも、釣れる」
アランはドニを背負い直し、歩いていく。
カミーユはその少し後ろを歩いていった。
月を見るようなフリをして、カミーユはちらりと眺める。
飲んだあと、これを見るのが少し楽しみなのかもしれない。
あの月のように、まあるい顔。
ドニの寝顔は、自分で背負っていては見られない。
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