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Marginal Prince Short Story
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■ロレート
あの頃思い描いた未来とは 続編
眩しかった夏の日差しも大分穏やかになり、涼しい秋風が心地好い季節になってきた。
ロレート公国も秋に入り始めていた。
近頃は夜になると、室内に居ても少々肌寒く感じられる程だ。

ここはロレート大公家。当代の大公陛下、カーディス1世が住まう邸だ。
陛下の側近、ラルヴィス・レイナは、陛下の寝室で本日最後の務めをしていた。

「それでは、明日のご予定を申し上げます」

一日の終わりに明日のスケジュールをお伝えする。
これが終われば、陛下はご就寝の時間だ。

「明日は音楽祭です。ご出発は午前9時でございます」

秋の初め、ロレート公国では音楽祭が開かれる。
様々な音楽ジャンルから国内で活躍している演奏者を集め、
ロレートで一番大きいホールで開催される。
何十年と続いている伝統的行事で『音楽祭』の話題を耳にすると、
今年も秋が来たのだなと感じるものだ。

第一回目の主催者は、当時のロレート大公と言われており、
音楽を深く愛していたその大公は、主催者かつ演奏者としても参加していた。
その為、現代もロレート大公家は音楽祭をご鑑賞される。
音楽の才を持つ御方は演奏者としても参加されており、
カーディス1世の兄君、エドワード様もこの音楽祭でピアノを披露されていた。
当代のロレート大公であらせられるカーディス1世も明日の音楽祭はご鑑賞される。
だが、演奏の予定はない。カーディス様はピアノをお弾きになれないからだ。
兄君のエドワード様はご幼少の頃よりピアノを習っておいでだったが、
幼い頃のカーディス様は『王子様らしい物』一切を嫌がり、
ピアノの前に座ろうとさえしなかったそうだ。

「いよいよ明日か、音楽祭は」

音楽祭は陛下にとって、それほど面白い行事ではないと思っていたが。

「仕方ない。今宵は早く寝るとするか」

陛下のお言葉は、どこか嬉しそうに聞こえた。
側近にとっては意外だったが、その時は何も問わなかった。

「ではおやすみなさいませ、陛下」

側近は頭を下げ、王の寝室から辞した。


音楽祭当日は晴天に恵まれた。美しく澄み渡った秋晴れの中、
陛下からの開会のご挨拶により、音楽祭は幕を開けた。
側近も警備の任を務めつつ、陛下のお側で音楽祭を鑑賞していた。
オープニングセレモニーは毎年子ども達が務める。
小さな失敗も含め、懸命な演奏は心が洗われる。
年齢もジャンルも多種多様な音楽が次々に披露されていった。

音楽祭の中盤になり、次のプログラムは『シークレットゲスト』となった。
この音楽祭の演奏者は、原則、国内で活躍する者に限られているが、
シークレットゲストには、毎年、国内外から演奏者が招かれる。
今年のゲストは誰だろうと会場がざわめく。側近も今年は誰なのか知らなかった。

そして、幕が開いたステージの中央には、グランドピアノが置かれていた。
ブラウンのスーツを身に着けたゲストは楽譜も持たず、身ひとつで現れた。
ピアノの前で立ち、客席に向かって深く一礼した。

髪色は黒に近く、肩まである柔らかな髪。
大きな拍手で迎えられ、正面に上げられた顔。

失踪癖がある為に、彼のコンサートがいつ開催されるかは本人にも解らない。
そのせいか『さすらいのピアノマン』『クラシック界の異端児』とも呼ばれている。
だからこそ、『規格外の王』などと称される陛下とは気が合ったのかもしれない。
今年のシークレットゲストとして紹介されたのは、陛下のご学友だった。


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