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Marginal Prince Short Story
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■テオ×ウーティス寮
■原案:シハル姉さん&呉羽
■シハル姉さん、リクエストありがとうございました!
放課後のウーティス寮サロン。今日、最初にサロンへ戻って来たのは、
動物行動学が早く終わったジョシュアだった。

「寒い」

季節に悪態を吐きながら、サロンに入ってきたのは、
ジョシュアにとって最も付き合いの長い友人だった。
一年を通して温暖な気候を持つ聖アルフォンソ島だが、
今日は昨日と比べ急に気温が低くなった。
サロンの暖かさが有り難い。もう明日から12月だ。

「お帰り、アンリ。今日は風が冷たかったね」

「本当」

彼の専用席と化している隅のソファに座りながら、

「なんで僕達が校舎まで行かなくちゃいけないの?
教授のほうが寮まで来れば良いのに」

ジョシュアは苦笑した。自己中心的な意見だが、
この学院で生徒の意見が通らないことは、ほぼ無いに等しい。
ここ聖アルフォンソ学院は、これまでの長い歴史の中で、
「それは無理だろう」と思われる意見でも、
それが本当に生徒の願いなら、どんな無理難題にも応えてきた学校だ。

その証拠として、今も学院の敷地内には、かつての生徒達の希望、
『二十面のテニスコート』や『映画撮影用スタジオ』が残っている。
だから、アンリが「冬季は、教授が生徒の部屋に来て授業すべき」だとか、
「寮から校舎まで、全天候型の地下通路を作るべき」だと、
学院へ正式に申請すれば、その願いはほぼ確実に叶えられてしまうだろう。

正式な申請などしなくても、アンリが教授にそう頼むだけで、
すぐさまアンリの部屋が教室になってしまいそうだ。
特にアンリの為に開講した神秘学などは次回からでも。

「アンリ様、温かいお飲み物をご用意致しましょう」

寮専属のバトラーが傍に来て、優しく声を掛けていた。

「何かご希望はございますか?」

「任せる」

「畏まりました。ジョシュア様はいかがなさいますか?」

「じゃあ、俺もアンリと同じ物を」

「恐れ入ります。それではすぐにご用意致します。少々お待ち下さいませ」

バトラーが退室していく。アンリは古びた文庫本のページを捲り始めた。
ジョシュアはソファに座ったまま、窓の向こうを見上げる。
外はまだ冷たい風が吹き付けているのだろう。
月桂樹も身を震わせるかのように、ざわざわと風に吹かれていた。

「ジングルベール、ジングルベール!」

廊下から、陽気な歌声が近付いてくる。
寒さを吹き飛ばす程、元気いっぱいのクリスマスソングだ。

「やあ! ウーティスの花達、今日も美しく咲き誇っているかな?」

サロンに遊びに来たのは、太陽のような笑顔を持つ、今年度の生徒代表だった。

「こんにちは、テオ」

いち早く先輩に挨拶したのはジョシュアだった。

「テオは今日も元気みたいですね」

「もちろん! 私は元気だけが取り柄だからね!
美しいウーティスの花達を目にすれば、更に元気になるというものだよ?」

「花が咲いてるのは貴方の頭の中だけでしょ?」

アンリが冷たく言い放つ。すぐに「アンリ」とジョシュアがたしなめた。
だが、毒づかれた本人は楽しそうに笑っていた。

「あははっ。確かに。私の頭の中には、
年中、花が咲き乱れているのかもしれないねえ」

そう言って、テオは自分で笑っていた。
ジョシュアはほっとした。テオが心の広い人で本当に良かった、と。
心の広い生徒代表は尚も語り続ける。

「けれどね、アンリ? 私の頭の中にある花園も、
君の美しさの前では霞んでしまうのだよ。
いやはや。君の美しさは、日に日に輝きを増しているから。
ここに入ったばかりの可憐さも愛らしかったけれどね」

既にアンリはテオを無視し始めていた。
もうテオの相手をするのに疲れたのだろう。
美しく、不機嫌な顔には「早くシュヌーシア寮に帰れば良いのに」
と書かれているように見えて、ジョシュアは落ち着かない気持ちになる。
この二人のやり取りを見ていると、いつもハラハラしてしまう。

「でさ! なんかメジャーなクリスマスソングを縦ノリにアレンジしてー」

またサロンのドアが開いた。
アルフレッドを先頭に、シルヴァン、ハルヤが一緒に入ってきた。
テオは片手を挙げながら、持ち前の良く通る声で、

「おやおや。デッドプリンスのみんな、お揃いで!」

「よお、テオ。来てたのか!」

アルフレッドは「イェーイ」と言いながら、
テオが挙げていた右手に謎のハイタッチをする。

「いらっしゃい、テオ」

アルフレッドとシルヴァンがテオを挟むように両隣に座った。
ハルヤは自分の気配を消すかのようにそっとシルヴァンの隣に座る。

「東洋の黒い真珠! 今日も美しいね!」

「ど、ども」

シルヴァンの背に隠れるようにして座った。アルフレッドは指を鳴らしながら、

「あっ、そういや、この前のライブ、サンキュな、テオ!」

「そうそう! テオがくれたお花、とっても綺麗でした!
あのお花、三人で分けて、今は僕達の部屋に飾ってあるんですよー」

「おや。そうなのかい? ありがとう。君達の部屋にまで飾ってくれて」

「何言ってんだよ、テオ! 礼を言ってんのはこっちだろ?」

「素晴らしいライブを聞かせてくれたのは君達、デッドプリンスじゃないか。
あの日は特に、二曲目が良かったなあ」

うんうん、とテオは自分の意見に頷く。

「あ、マジで!? アレは俺も自信あったんだよー!
ヘヘッ。相変わらずイイ耳してんなー、テオは!」

アルフレッドとテオは、本日二度目のハイタッチをしていた。

「ねえ、テオ。僕達、今度はクリスマスライブをやろうか、
って話してたとこなんですよ。テオもまた来て下さいね!」

「なんと! 次はクリスマスライブなのだね。必ず伺うよ!
もしや、そのライブはサンタクロースの衣装でステージに立つのかい?」

「それイイかもな! 『今日は俺がサンタクロース』ってヤツ?」

「じゃあ、イメージ的に、レッドはノースリーブのパンクなサンタで、
僕は和風アレンジのサンタで、ハルヤは当然、ミニスカサンタですよね!」

「素晴らしいアイディアだね、シルヴァン!」

「おしっ! じゃあそれで決まりなっ!」

「な、なんで決まったの!? 俺、そ、そんなのヤダよ」

「んじゃー、衣装係やりたい人ー!」

「ハイッ! ハイハイハイー!」

「じゃあシルヴァン、お前を衣装係に任命する!」

「ははっ。有り難き幸せですー!」

みんなの会話を聞きながら、ジョシュアはまた落ち着かない気持ちになる。
レッド達に押されているハルヤのことを心配しているのだ。
ハルヤは今年入ったばかりだし、人に言われたことを断るのが苦手なタイプなのだ。
自分が何か言ったほうが良いだろうかと考えていると、

「ジョシュア様、お待たせ致しました」

バトラーがジョシュアの前にティーカップを置いた。
カップとソーサーには、赤いポインセチアと緑の葉が描かれている。

「ジンジャーミルクティーでございます」

「ありがとう、バトラー」

隅の席を見ると、アンリもカップに口付けていた。

「あっ、バトラー、俺にもソレくれよ!」

「僕も欲しいですー」

「私も頂いて良いかな? 東洋の黒い真珠、君は?」

「俺はグリーンティで良いよ」

「じゃあ、やっぱり僕もグリーンティにしまーす!」

「では私もグリーンティに変えて構わないかなあ」

「お前ら何なんだよ……」

「フフフッ。そう言えば、学院でもクリスマスっぽいことしなきゃですね。
クリスマスパーティとか、派手にやりたいですー」

「男だらけのクリスマスパーティで盛り上がるのか?」

「盛り上がりますよー。キレイどころなら、ウーティスには二人も居ますし」

「まー、確かに居るっちゃ居るかー。真珠と毒舌が」

アルフレッドは隅の席をチラリと見た。ジョシュアもそちらを見てみたが、
読書中で聞こえてないのか、毒舌さえ返ってこなかった。

「全く羨ましいよ、ウーティスは美女揃いで。
今年は特に華やかだろうね。ウーティスのクリスマスパーティは。
だが、我がシュヌーシアも、可愛さでは負けないよ!」

「てゆーかさ、ここのクリスマスパーティって、寮ごとにやるモンなの?」

「去年は寮ごとだったねえ。まあ、アルファルドが、
パーティを行ったかどうかは謎だけれど」

「なら、今年は三寮合同でやるってのは?
それならテオも俺達と一緒に盛り上がれるじゃん?」

「おお! 君は天才かい、アルフレッド!」

「当たり前だぜ!」

「じゃあ、合同クリスマスパーティで何やりますー?」

「一発芸大会とかどうよ!」

「僕はコスプレ大会が良いと」

「なーし!」

「東洋の黒い真珠は、何か良いアイディアがあるかい?
ジャパンでは、クリスマスパーティでどんなことをするんだろう?」

「え? うーん。そうだなあ。例えば、プレゼント交換、とか?」

「おおっ!」

「それって、どんなふうにプレゼントを交換するんですか?」

「えっと。みんなが一人ひとつプレゼントを用意してきて、
みんなで輪になって座ってて、クリスマスソングとか歌うんだ。
歌に合わせて、プレゼントを隣に回して」

「歌が止まった時に持ってたプレゼントが貰えるってヤツか!?」

「面白そうですー! やりたいですー!」

「やってみようぜ!」

「では早速プレゼントを考えなくては!」

ジョシュアは唖然とみんなを見つめていた。
既に合同クリスマスパーティの開催が決まったらしい。

「俺のプレゼントは何にするかなー。
やっぱ、俺様が出てる映画のDVDに直筆サインでも付けてやるとか」

「な、なんとプレミアムな!」

「それなら僕は、僕オススメのサムライムービーと、
ジャパニメーションのDVDをセットで、
更に僕のキスマークも付けちゃいますー! ブチュッと!」

「誰が欲しいんだよ、そんなモン!」

「東洋の黒い真珠は何を用意してくれるんだい?」

「お、思い付かないよ。俺はあげられる物とかオススメとかないし……」

「ハルヤは、その眼鏡とかでイイんじゃね?」

「眼鏡は、俺が困るよ……」

「テオはクリスマスプレゼントに何をくれるんですか?」

「あ、解ったー。海運王だけに『ヨットをひとつプレゼント』
とか言うんじゃねえのー? ヘヘヘッ」

皆がテオに注目する。テオは少し考えたあと、こう答えた。

「私がプレゼントするなら、日記帳、かな」

「なんだ、そりゃ!?」

「学院での日々を卒業まで綴っていけば、
それは何物にも代え難い宝物になる。必ず、ね。
実は、私の父上にそう言われてね。私も日記を綴っているんだ。
だから、私から贈るなら、日記帳かな」

「成程。テオらしいプレゼントですね」

「じゃあー、アンリ。てめーはー?」

「何それ。強制参加なの?」

すぐに返答があったことにジョシュアは少し驚いた。
ずっと黙っていたアンリもみんなの話をちゃんと聞いていたらしい。

「アンリからのプレゼントはブロマイドが良いな! プリンセス姿の!」

勇気ある発案者はテオだった。

「もちろんプロの撮影スタッフを用意させて頂くよ!」

吐息と共に、隅の席から返事があった。

「却下」


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