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■古傷3 続編
その夜、保健室の先生は、追憶の塔の中に居た。
「侵入者を捕らえたので自白を頼みたい」と警備組織からいつもの要請だ。
「ドクター」
侵入者とのお喋りを終えたあと、ドライな声に呼ばれた。
ダークスーツをピシリと身に付けたドイツ人。
気を許していない眼差しが、清々しいまでに隠されず向けられる。
警備組織の有能な副司令官だ。
「何だい、クロイツ」
「お疲れのところ恐縮ですが、もうひと仕事、頼めますか?
先程の戦闘にて、一人、負傷しましたので」
「おや。そうだったのかい? 怪我人が居るなら、
先に言ってくれて良かったのだが。かすり傷程度なのかな?」
「ええ。歩けていますし、切っ先がかすった程度だとは思いますが。
司令が右の腹部を刃物で刺されました」
「ほう。司令官が、右の腹部を」
「まだドクターに申告していないようなので、ご面倒でしょうが、診て頂けますか」
「今日はもう、司令官は不要かい?」
「ええ。このままお引き取り頂いて構いません」
「では保健室へ引き取るよ。――ところでクロイツは」
「はい?」
「司令官の裸体を見たことはあるのかな? 上半身の」
副司令官の眉間に皺が寄る。
「質問の意図が、解りかねますが」
「少し説明不足だったかな。私は健診の際などに目にしたのだが、
君は、司令官の身体に深い古傷があるのを知っているのかなと思ってね」
「司令の左胸にある傷ですか」
「そう。君も見たことがあるんだね。
その傷が付いた原因について聞いたことは?」
「いえ。ドクターは知っているのですか?」
「いいや。私も知らないよ。だから、君に聞いたんだ」
「ドクター。我々のような身体に傷があるのは当然のこと。
中には、それについて触れられたくない者も居るでしょう。
只の興味本位で詮索するのは」
「只の興味本位などではないよ。話したがっているんだ。
あの男は、いつか、全てを打ち明けたいと願っている」
「断定的な言い方をされていますが、司令がそう言ったのですか?」
「いいや。言っていないよ」
副司令官は短く息を吐く。
「ドクター。憶測でそのような言い方は」
「けれど、私には“聞こえる”んだ」
気味の悪いものを睨むような眼差しを受けながら、カウンセラーは独り言のように呟いた。
「ずっと聞こえている。出会った時からずっと――」
→
その夜、保健室の先生は、追憶の塔の中に居た。
「侵入者を捕らえたので自白を頼みたい」と警備組織からいつもの要請だ。
「ドクター」
侵入者とのお喋りを終えたあと、ドライな声に呼ばれた。
ダークスーツをピシリと身に付けたドイツ人。
気を許していない眼差しが、清々しいまでに隠されず向けられる。
警備組織の有能な副司令官だ。
「何だい、クロイツ」
「お疲れのところ恐縮ですが、もうひと仕事、頼めますか?
先程の戦闘にて、一人、負傷しましたので」
「おや。そうだったのかい? 怪我人が居るなら、
先に言ってくれて良かったのだが。かすり傷程度なのかな?」
「ええ。歩けていますし、切っ先がかすった程度だとは思いますが。
司令が右の腹部を刃物で刺されました」
「ほう。司令官が、右の腹部を」
「まだドクターに申告していないようなので、ご面倒でしょうが、診て頂けますか」
「今日はもう、司令官は不要かい?」
「ええ。このままお引き取り頂いて構いません」
「では保健室へ引き取るよ。――ところでクロイツは」
「はい?」
「司令官の裸体を見たことはあるのかな? 上半身の」
副司令官の眉間に皺が寄る。
「質問の意図が、解りかねますが」
「少し説明不足だったかな。私は健診の際などに目にしたのだが、
君は、司令官の身体に深い古傷があるのを知っているのかなと思ってね」
「司令の左胸にある傷ですか」
「そう。君も見たことがあるんだね。
その傷が付いた原因について聞いたことは?」
「いえ。ドクターは知っているのですか?」
「いいや。私も知らないよ。だから、君に聞いたんだ」
「ドクター。我々のような身体に傷があるのは当然のこと。
中には、それについて触れられたくない者も居るでしょう。
只の興味本位で詮索するのは」
「只の興味本位などではないよ。話したがっているんだ。
あの男は、いつか、全てを打ち明けたいと願っている」
「断定的な言い方をされていますが、司令がそう言ったのですか?」
「いいや。言っていないよ」
副司令官は短く息を吐く。
「ドクター。憶測でそのような言い方は」
「けれど、私には“聞こえる”んだ」
気味の悪いものを睨むような眼差しを受けながら、カウンセラーは独り言のように呟いた。
「ずっと聞こえている。出会った時からずっと――」
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