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Marginal Prince Short Story
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古傷8 続編
夜、司令官は自宅でシャワーを浴びていた。
ボディシャンプーを洗い流す。首から胸、胸から腹へ。
昨夜、眼鏡のお医者さんが貼ってくれた防水仕様の絆創膏のおかげで、
昨日少し切られた腹も痛くない。足まで泡を洗い流し、シャワーを止めた。

鏡に自分の身体が映っている。
シャワールームから鏡を外そうかと思った時期もあるけど。
結局、鏡はここにある。普段はあまり見ていないけど。
見て面白いモンじゃないし、綺麗なモンでもないから。
けれど、この日は鏡を見たまま、止まってしまった。

左胸にある古い傷。
久し振りに自分の手で触れてみた。昨夜の感触が甦る。
やっぱり、あの時、触られた。
ソクーロフの薬指がここに触れた。
おそらく『偶然ぶつかった』フリをして。

一瞬、すうっ、と撫でられた。
その時。自分でもどうして、そう感じたのかは解らないけど。
まるで「早く治りますように」と言われたような気がして、
息が詰まりそうになった。

ソクーロフが自分の過去に興味を持っているのは、解ってる。
あのヒトのセーカクからして、本当はどんな手段を用いてでも、
根ほり葉ほり聞いて、洗いざらい白状させたい筈だ。
もちろん、この古い傷についても。

あのヒトはそーゆーヒトだし、それを可能にする術も持っている。
だけど、あのヒトは、無理矢理、聞き出そうとしたことは一度もない。
侵入者相手なら、いつだって、そうしてるくせに。

どうして、俺からは無理矢理聞き出そうとしないのか。
予想は付く。もう六年の付き合いだ。
ソクーロフはきっと、俺の口から話し出すのを待ってる。
そうでなければ意味がない、とか何とか考えてる。
だから、無理強いせずに俺を放置している。あのヒトの得意なプレイだ。

今まで何度か、話すチャンスみたいなものを作られたことはあったけど。
それを全て受け流してきたのは自分。
この島に来てから、過去について自ら口を開いたことはなかった。誰にも。

ポタリ、ポタリと髪から雫が落ち続けている。

「いつか、話せる時が来るのかな?」

疑問がシャワールームの中で反響する。
自分の過去について、この傷について。話せる時が来るのか、ソクーロフに。
もし、そんな奇跡が起こるとしたら、それはきっと――
無意識に、口の端には笑みが浮かんでいた。

「俺が死んだ時、かな」


fin
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