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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー
『追憶の塔』と呼ばれる、海沿いにそびえる塔。
ここに聖アルフォンソ島の警備本部がある。
その中の一室に、今日が訓練日の隊員達が集まっていた。

本日のトレーニングメニューは実戦訓練。
隊員達は腕が衰えないよう、日々厳しいトレーニングを積んでいるが、
その中でも、集大成と言えるトレーニングがこの実戦訓練だ。

試合は1対1、素手による肉弾戦で行われる。
銃器や刃物など武器を使用しないこと以外はルール無用。
隊員同士が拳をぶつけ合うことで、士気と力を高め合う。
警備組織が設立された当初から続いている伝統的な訓練だった。

ここ、第1トレーニングルームに集まっている隊員達は、
各自バラバラのトレーニングウェアを身に着けていた。

門番など各所の警備をする際には、決められた制服があるが、
トレーニングウェアについては決まった物がない為、
隊員達は個人で所有しているウェアを自由に着ている。

中には、前職の物と思われるトレーニングウェアを使用している者もおり、
どこの物だと解る企業ロゴや軍の紋章が入っていた。

それを包み隠さず着ているのは、
同志に対する信頼の証か、余程そのウェアに愛着があるのか。
あるいは、単に新調するのが面倒なだけかもしれない。

「それでは最終試合です」

審判を務める隊員が、実戦訓練、最後の組を呼んだ。

「司令、副司令、前へ」

他の隊員達が固唾を呑んで見守る中、呼ばれた二人が前へ出た。
最後の試合は司令官と副司令官の一騎打ち。

審判を挟み、左側に立っている、姿勢の正しい男が、
副司令官のラインハルト・クロイツ。
右側に立っている長い金髪の男が司令官のアイヴィーだ。

クロイツのトレーニングウェアは白地で、
胸部より上に紺色のラインが入っている。
立てた白い襟には、赤い紋章が見えた。

アイヴィーはジムに通う一般人のような格好をしている。
上はどこにでも売っていそうな水色のTシャツ。
下は黒地に金色のラインが縦に二本入ったジャージのズボン。
ズボンの腰の部分には、ごく一般的なスポーツメーカーのロゴがあった。

司令官と副司令官が向き合う中、
壁際で座っている隊員達は小声でこんなことを話していた。

「クロイツ様は、今日もコワイくらい気合い入ってるな」

「ああ。目に闘志がみなぎってる」

「闘志っていうか、殺気じゃないか、ありゃ」

「始まった!」

「今日はどっちが勝つか」

「やっぱ、アイヴィーさんだろ?」

「ほぼ全勝だもんな」

「クロイツ様が勝った時もあるぜ?」

「そりゃ、アイヴィーさんが調子悪かった日だろ?
負けた次の日は、熱出したりとかさ」

「しかし、今日も攻めてるなー、クロイツ様」

試合の前半は、副司令官の一方的な攻撃で進んで行く。
攻撃の手を緩めることなく、次々と拳や蹴りが繰り出される。
その表情は真剣そのもので、全身から闘争心がみなぎっているようだった。

対して司令官は受け身の姿勢だった。
自分からは攻めず、相手の拳や蹴りを避けてばかり。
司令官の飄々とした表情と、すぐに勝負を決めようとしない姿勢は、
訓練に対してあまり真面目でないようにも見えたし、
相手の攻撃が乱れる瞬間を待っているようにも見えた。

「アイヴィーさんは今日も見事に受け流してるなー」

「よく避けられるよ。俺だったらとっくに吹っ飛ばされてる」

隊員達は、尊敬と恐怖の眼差しでトップ2の試合を見ていた。

「あれ見てると、あのお二人が味方で良かったと思うよ」

「ホントホント」

「なんであんな実力者が、こんな小っさい島に居るんだか」

「おっ。アイヴィーさんの蹴りが決まった!」

「足技得意だよなー、足長いし」

「そろそろ決着つきそうだな」

防戦一方だった司令官が、時折、攻撃を入れるようになってきた。
余計な労力は使わず、相手の僅かな隙を突いて仕留めようとするやり方は、
まるで経験値の高い熟練者のように、冷静で無駄のない戦い方だった。
副司令官は食らいつくように応戦していたが、
勝敗は、ある時、突然決まった。

アイヴィーのパンチがクロイツの顔面でピタリと止まっていた。
クロイツは、まばたきせずに上官を見上げ、キツく睨みつけていた。
ふう、と息を吐いて、アイヴィーが拳を下ろす。
それを見て、審判を務めていた隊員が声を上げた。

「そ、そこまで! 司令の勝ちです!」

自然と隊員達から拍手が起こる。二人の健闘を讃える拍手だ。
勝者の司令官は、ぴょこんと軽く頭を下げながら礼を言う。

「ありがとーございましたっ」

その一言で、司令官の息が殆ど乱れていないことが皆に知れる。
隊員達は改めて、司令官の実力の高さを思い知らされる。

普段の司令官は、副司令官に何かと怒られてばかりで、
どちらが上官なのか解らない場面も多々見られるが、
1対1の実戦訓練の時ばかりは、
やはりあの人が司令官なのだ、と隊員達は感じるのだった。

「……ありがとう、ございました」

副司令官は深く頭を下げながら言った。


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