忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■シュヌーシア寮 ソクーロフ博士
今日は日曜日。授業はない。朝食の時間が終わり、
シュヌーシア寮には、平日以上にのんびりとした時間が流れていた。

寮のサロンには、中等部二年のシルフェが居た。
紅茶を飲みながらソファで雑誌を読んでいる。
組んだ足に雑誌を乗せ、パラパラとめくっていた。
ドアが開く。入ってきたのは金髪の生徒。高等部一年のテオだ。

「おや。サロンにも居ない。どこに行ったのだろう」

天然のパーマがかかった金色の頭を右に傾ける。

「朝食の時に今日の予定を聞いておけば良かったなあ。
あとはライブラリか、もしかしたら、もう外に」

テオが探している相手を、なんとなく予想できたシルフェは、テオの名を呼んだ。

「テーオ」

「ん? ああ、なんだい、シルフェ」

「探してんのは、クラウス?」

「ああ、うん。そうなのだよ」

やっぱりな、とシルフェは心の中で呟く。

「今日のアクティヴィティ、良かったらご一緒したいなあと思ってねえ。
昨日のうちに誘おうと思っていたのだけど、昨夜はいつの間にか眠ってしまって」

授業のない日曜日、聖アルフォンソ学院の生徒は、
『アクティヴィティ』という名の自由活動を行う。
その活動内容は、生徒の自主性に完全に任せられており、
いつ、誰と一緒に、何をやっても良いことになっている。
余程の迷惑行為でない限りは、どんな活動でもOKだ。

「クラウスなら、ジムのプールに行ったよ。
今日のアクティヴィティは水泳だって」

シルフェがそう言うと、テオは大きな声で、

「おお! そうなのかい!」

「ああ。さっき会ったから」


先程、シルフェが寮の廊下を歩いていた時、
階段から降りてきたクラウスと出くわしたのだ。
クラウスはトレーニングウェア姿で、
ワークアウト用のバッグを右肩に背負っていた。
これはクラウスが学院のジムに行く時の格好だとシルフェは知っていた。

「クラウスってば、日曜の朝からジム?」

「ああ。今日は時間があるから、久し振りにジムで泳ごうと思ってな。
今日のアクティヴィティは水泳にしたんだ」

そう話すクラウスは嬉しそうで、清々しい表情をしていた。
ドイツ軍人の家系に生まれ、立派な体躯を持つクラウスは、
スポーツ全般を得意としているが、「トライアスロンが趣味」と言うだけあり、
スポーツの中でもランニング、スイミング、サイクリングは特に好んでいるようだった。
保健室の常連が多いシュヌーシア寮生の中で、
早朝ランニングを日課にしている生徒は、クラウス唯一人だった。

「アンタもスキだよねー、身体イジメんの」

シルフェがからかうと、クラウスの眉間に皺が寄った。

「お前には言われたくないぞ、シルフェ」

実はシルフェも身体を鍛えている生徒の一人。
ジムでクラウスと顔を合わせることも度々あった。

「アンタ程じゃないよ、オレは」

とシルフェはクラウスに言ってやった。
シルフェはクラウスと違い、日曜の朝から、早朝ランニングにスイミング、
などというハードなメニューを組んだりはしない。

ちなみに、本日、シルフェのアクティヴィティは午後から。
活動内容は『新市街の探検』である。ある人を誘って、新市街へ遊びに行くのだ。


「ジムのプールとは思い付かなかった! クラウスは本当にスポーツマンだねえ!」

テオは目を輝かせていた。

「クラウスの行き先を教えてくれてありがとう、シルフェ! 助かったよ!
では、私もちょっと行ってこようかなっ!」

「テオも泳ぐの?」

「いやいや。私は泳がないよ」


聖アルフォンソ学院には、馬用のプールもあるが、ここは人間用。
ジムに併設された屋内プールである。
25m×10コース、50m×10コースのプールが縦に並んでいる。
日曜の午前中から遊泳中の生徒・教職員は、まばらだった。

プールの第10コース目側は全面ガラス窓になっており、
朝の光が水の中に差し込み、プールはキラキラと輝いていた。

第1コース側の上にはガラス越しに見学席がある。
二階のロビーから、プール全体が見学できるようになっているのだ。
このプールで水泳大会などが行われる際にはズラリとギャラリーが並ぶ場所だ。

50mプールの第1コース目に、クロールで泳ぎ続けている生徒が居た。
あれがシュヌーシア寮のクラウス。学年は高等部二年。
水を掻く手に、疲れや乱れは見えない。
その綺麗なフォームは、一目で上級者だと解るものだった。

端まで泳ぎきり、クラウスは水面から顔を上げた。
ふと見上げると、二階のロビーからこちらを見下ろしている生徒と目が合った。
クラウスは黒いゴーグルを外して、目を凝らす。

「あれは……」

「テオのようだね?」

背後から声がして、クラウスが振り返る。
真っ白な胸板が目に付く。黒いゴーグルをかけた、大人の男性がそこに居た。
生徒ではないので、教職員の誰かだろう。
一瞬、クラウスはこの大人が誰なのか解らなかった。

「私だよ、クラウス」

大人の男性はゴーグルを外しながら、

「白衣を着ていないと解り難いかな?」

その低い声と「白衣」という言葉でピンときた。
保健室に居る時の姿とは、印象が全然違うので解らなかった。

「ソクーロフ博士でしたか。すみません」

博士とは、このプールでも何度か会ったことがあるのに、
すぐに解らなくて、クラウスは申し訳なく思った。

「謝る程のことではないよ。眼鏡をかけていないだけでも、
誰だか解らないと言われるくらいだからね」

博士が二階の見学席を見上げると、テオはニコニコしながら、
こちらに向かって右手を振った。ところが、博士は手を振り返さず、
テオを見ていただけだったので、クラウスは不思議に思った。

「博士? 手を振られていますよ?」

「フフッ。対象は私ではないと思うがね」

そう言いながらも、博士は「やあ」と言うように、テオに向かって右手を軽く挙げた。
すると、テオは嬉しそうに笑って、より元気に手を振り返してきた。
その時、クラウスには、テオの唇が「博士ー!」と動いたように見えた。
博士はゆっくりと手を下ろし、クラウスに視線を移す。

「テオに見られていると思うと、泳ぎに集中できないかい?」

「いえ。ただ、疑問なんです。そこに居るぐらいなら、泳げば良いでしょう?
あいつは、あんなところで、一体、何をしているんだか」

すると、博士は微笑していた。

「疑問に思うのなら、本人にそう聞いてみるといい」

「そう、ですね。後で聞いておきます」

「さて。私はサウナで少し休憩してこようかな。失礼」

「あ、はい。お疲れ様でした、博士」

ソクーロフ博士はクラウスの前を通り、ザバアッとプールから上がった。

クラウスはゴーグルを付け、息を吸い込む。
水面に入り、プールサイドを勢い良く蹴った。


「お疲れ様、クラウス!」

クラウスがプールから上がり、ロビーに来ると、笑顔のテオに出迎えられた。

「スポーツドリンク、飲むだろう? はいっ!」

「え? ああ、ありがとう」

「やはりクラウスはスイミングが上手だね!
まるでシャチのようだったよ! いやー、本当に美しかった!
改めて惚れ惚れしてしまったよ!」

「お前は、ずっとここに居たのか?」

「うん! クラウス、ソクーロフ博士と何かお話ししていたね?
クラウスの隣に居たの、ソクーロフ博士だろう?」

「ああ。そう言えば、お前、あの位置からよく博士だと解ったな?」

「解るとも。私はクラウスが学院に来る前から、
博士の水着姿を、よく拝見していたからね。
博士はシュヌーシア寮が海に行く時など、よく一緒に来て下さったから」

「そうか」

「ところで先程は、博士と水の中で、インテリジェンスなお話をしていたのかい?」

「いや。お前の話をしていたんだ」

「えっ! 私のっ!?」

「お前は見学席で何をしているんだ、って話をな。何してたんだ?」

「私? 私はクラウスを見ていただけだよ?」

「……何?」

「貴方こそ何言っているんだい、クラウス。私はずっと貴方を見ていたじゃないか」

「………俺を見て、どうするんだ?」

「見るだけだよ? クラウスの美しく逞しいスイミングを拝見して、
『ああ。やはり素晴らしい』と愛でていたんだ。
あらゆるスポーツ観戦だってそうだろう?
クラウスだって、ワールドカップの試合を見るの、好きじゃないか?」

「それは、そうだが」

「さてさて。時間はまだ少し早いけれど、
クラウスはランチにするかい? 私もご一緒して良いかなあ?」

「ああ。それは構わんが……」

「カフェにでも行こうか? クラウス、何食べたい?
クラウスはたくさん泳いだから、たくさん食べなくてはね!
あ、それから、クラウス。午後の予定は?」

「午後の前半は、ライブラリで帝王学のレポートを書こうと思っていたが」

「再来週が提出日の、あのレポートのことかい?
あははっ。さすがクラウス、仕事が早いねえ。
帝王学のレポートなら、私もまだ手を付けていないから、
隣で私も書いて良いかなあ? もちろん邪魔はしないから!」

「それなら、別に構わないが」

「やったあ! 今日は素敵な日曜日になるよ! ありがとう、クラウス!
さあっ、それでは早速、ランチに行こう!」

クラウスはよく解らないままだったが、
テオがとても楽しそうだったので、腕を引かれるまま、
まずは腹ごしらえに向かうことにした。


fin
PR
≪ 乗馬   *HOME*   実戦訓練3 ≫
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]