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Marginal Prince Short Story
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■アルフレッド
ウーティス寮、ダイニングルーム。
日曜日の朝食。今日はアクティヴィティの日だ。
新入生のユウタはアルフレッドに聞いた。

「ねえ、ねえ。レッドは今日のアクティヴィティ、何するの?」

「俺か? 今日はジムでボクシングかな」

「えっ! スゴーイ! レッドってボクシングできるんだー!」

「ボクシングくらい、男なら誰でもやるだろ?」

「や、やらないよー」

「ユウタはボクシングやったことないのか?」

「う、うん……」

「なら、俺が教えてやろっか? 今日!」

「え? ええっ!?」

「よしっ、決まりっ! そうと決まれば早速行こうぜっ! ほら早く!」

「あ、ちょっと、レッドー!」


聖アルフォンソ学院のジムは、とにかくでかい。
最新のマシンが揃ったトレーニングルームから、
ボクシングジム、バスケットコート、プールの他にも、
ヨガのクラスなど、あらゆるフィットネスにも対応している。

アルフレッドはボクシングジムにユウタを連れてきた。
ユウタがここで最初に感じたのは、男臭い汗の匂いだった。
ボクシングジムは広い一室で、奥にリングが二つある。

右側の壁は全面、鏡貼りになっている。
左側の壁では数人の生徒が練習していた。
アルフレッドに気付いた生徒が声をかけてきた。

「よ、レッド。あれ? その子は確か新入りの」

「ああ。こいつ、ユウタ。この前ウーティスに入ったんだ。
んで、ボクシングは今日が初めてなんだってさ」

「へえ? 今日が初めてなんだ?」

「は、はい」

「なら、初めての子にはとびきり優しくしてやれよ? レッド」

「おい。からかうなよ、シルフェ」

「フフッ。あ、リング使うなら、今、空いてるぜ?」

「まだいいや。俺達、鏡の前で練習すっから。その辺貸してくれよ」

「ああ、そっちも空いてるよ。どうぞごゆっくり、お二人さん」

「行くぞ、ユウタ」

「あ、待って、レッドー」


アルフレッドとユウタは壁一面が鏡になっている場所を陣取った。
練習を始める前に、レッド主導でストレッチを行った。

「ウォーミングアップしないとケガすっからな、しっかりやれよ、ユウタ」

「はーい」

レッドは赤いTシャツに黒のトレーニングパンツ、
ユウタは白いTシャツに青のハーフパンツ姿である。
ストレッチが終わると、レッドはユウタの前に立った。

「よーし。ユウタは初めてだから、まずはグローブなしでやるか。
ユウタ、ちょっとジャブ打ってみ? 俺、見ててやるから」

「え? えっと……ジャブって何?」

「ジャブも知らないの? お前はホンットなーんにも知らないんだなー」

「だから、ボクシングなんてやったことないんだってばっ!」

「いいか? ジャブってのは、簡単に言うと、軽いパンチのことさ」

「軽いパンチがジャブ?」

「そ。でー、ユウタ、お前、右利き?」

「え? うん」

「右利きなら、左手で打つのがジャブさ。
利き腕じゃないほうが軽いパンチになるだろ?」

「あ、うん」

「で、実際にやってみると、こんなかんじ」

アルフレッドは左手で、正面に向かって、シュッとパンチを繰り出す。
思わずユウタは、「おおー」っと歓声を上げた。

「こんな初歩のパンチで喜ぶなよ。
と言っても、ジャブは基本中の基本だからな。
色んな使い方ができるし、大事なパンチなんだ。
とりあえずユウタも、俺のマネして打ってみな?」

アルフレッドはユウタの右側に立ち、正面の鏡に向かってジャブを打つ。
ユウタも鏡を見ながら、軽くパンチしてみた。

「こ、こんなかんじかな?」

「あー、ダメ、ダメー」

「え? 何がダメなの?」

「まあー、まだ教えてなかったけど、足が違うのさ。
左でパンチしてんだから、前に出す足は左足だろ?」

「あ、そうなんだ」

「それから、肩に力が入り過ぎ。もっと力抜いて」

「力抜けって言われても……」

「もっとリラックスして、ラクに打ってイイんだよ、ジャブは。
で、手の動きに合わせて、身体も揺らす。こんなふうに。な?」

「うん」

「じゃあ、もう一回やって?」

「こ、こうかな?」

「ああ。さっきよりイイぜ? それを続けて」

「うん」

ユウタは連続でジャブを繰り出していく。
何度も続けるうちに、なんとなく形になってきた。

「よし。大分、良くなってきたぜ、ユウタ。
それじゃあ、次は反対側やってみるか。さっきと逆の足を前に出して?」

「こう?」

「そう。で、今度は右手でパンチ。利き腕のパンチはクロスって言うんだ。
クロスパンチは、さっきのジャブより少し強めでやってみな?」

「うんっ!」


それから三十分程過ぎた頃。
ユウタは大分、息が上がっていた。
繰り出すパンチがヘロヘロパンチになりつつある。
アルフレッドは腰に手を置き、首を捻る。

「どうしたー、ユウタ。もう限界かー?」

「ごめん、レッド……俺、あんまり体力なくて……」

「少し休ませてやんなよ、レッド。初めての子には優しく、って言っただろ?」

「んだよ、シルフェ」

「さっきから見てたけど、もう30分もノンストップで練習してんじゃん?
ビギナーはそろそろ休憩の時間さ。その子は、俺達と違って、
いつもトレーニングしてるわけじゃないんだろ?」

「しょーがねーなー。じゃあ、少し休むか」

「ほんと? 良かったあ……」

ユウタはその場にペタリと座り込んだ。額には汗の粒が見える。

「ユウタ。これやるよ、飲みな?」

シルフェという人が、ペットボトルを差し出した。
中に入っているのは淡いイエローのドリンクのようだ。

「これ、何ですか?」

「色々入ってるスポーツドリンクみたいなモン。疲れが取れるよ?」

「そうなんだ。ありがとう」

「どーいたしまして。なんかキミ、新鮮だね? ここじゃ珍しいタイプだよ」

「え?」

「素直で可愛いね、ってイミ」

「え、あの……」

「おい、シルフェ!」

「ハイ、ハイ。なんだかコワイなあー、今日のレッドは」

「お前がいちいち絡んでくるからだろ?」

「フフッ。じゃー、お邪魔虫は消えるよ」

ヒラヒラと手を振りながら、シルフェが離れて行く。
アルフレッドはボソリと呟いた。

「ったく。なんなんだ、アイツ」

「あ、これ、美味しい」

「おい、ユウタ!」

「え、なに、なに!?」

「お前もさ、次からは、疲れたんなら『疲れた』って、ちゃんと言えよ」

「あ、うん。ごめんね、レッド」

「なっ、謝るのは……」

「レッド?」

「あと10分休んだら、再開するからな!」

「う、うん」


fin
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