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■シルヴァン×ジョシュア(ジョシュアン前提)
レッド×ユウタ ハルヤ→シルヴァン
■アンリの七面楚歌のシルヴァンside.
---------------------------
暖かな月桂樹の森で目覚めたシルヴァンが、腕時計を見る。
もうすぐランチの時間だ。
喉も渇いている。『竜の涙』が飲みたくなって来た。
カフェにでも行こうかと腰を上げた。
その途中、タンポポのような笑顔に遭遇した。
「あー! シルヴァーン!」
ユウタが大きく手を振っている。
彼の両脇には、レッドとハルヤが居た。
三人とも、お決まりの探検隊スタイルだ。
「こんにちは。レッド探検隊の皆さん。今日の宝物は何ですか?」
「今日はねー、お米なんだ!」
「…お米、ですか?」
彼等が探検隊と称して、学院内を自由に遊び回る姿は何度か見掛けていた。
今日はまた風変わりな物を、と思いながらもシルヴァンは口に出さない。
果たして、お米は学院内で見付かるものなのだろうか。
隊長のレッドが、ヒマワリのような笑顔で、人差し指を立てる。
「今日のお宝は、一味違うんだぜ? 探検の後、おかゆを作るんだ!」
「なっ! おかゆですって!? あ、あの、田舎町の娘さんが、
病気のお父さんに食べさせるアレですか!?」
「はあ?」
「梅干しが乗っているのが一般的ですが、その家の状況によっては梅干しすらない、
…というところにワビサビがある食べ物ですよね!」
「ワサビ? こいつ何言ってんだ? ハルヤ、こいつの通訳」
「え? やだよ、めんどくさい。てゆうか聞いてよ、シルヴァン」
ハルヤが疲れた様子で、シルヴァンの腕に縋り付く。
「あ。お米は、やっぱり見付かりませんか?」
「そうなんだよ。一応、学院内の売店は全部見てきたんだけど。
全然無くって…まあ、当たり前だよね。生米なんて。
それでもさ、この人達なんでこんなに元気なわけ? 俺、もう疲れたよ…」
「…お疲れ様です、ハルヤ」
シルヴァンは心から同情し、ハルヤの手に自分の手を重ねる。
途端にハルヤは、びくりと肩を跳ねさせて、
「あ、うん…」と手を自分の方へ戻した。
「レッド隊長? 隊員も疲れているようですし、
これからランチの時間してはいかがでしょう?
僕、丁度これからカフェに行くところだったんです」
「そーだな。オレも腹減ったし。良いか、ユウタ?」
「うん。隊長に付いてくー」
「よーし。付いて来ーい!」
先頭を進むレッドにユウタが駆け寄る。
その後ろにシルヴァンが続く。
ハルヤは隣で囁く。
「…ありがと、シルヴァン。助かったよ」
「いえいえ。カフェに行く所だったのは本当ですし。
僕も賑やかなランチになって嬉しいですよ?」
「俺も…」
「え?」
「…あ、ううん。何でもない」
ハルヤは駆け出してユウタの後ろに行った。
カフェに着くと、それぞれが好きな物を注文した。
レッドはツナサンドを美味しそうに、ほうばっている。
ユウタも同じものを手に持っている。
「あー。たいちょ、口にマヨネーズ付いてるよ?」
「マジで? どこ?」
「ココんとこっ」
ハルヤはアボカドマグロ丼を2つトレーに乗せてテーブルに着く。
「ハルヤ。今日は2つで良いんですか?」
「うん。なんか疲れて食欲ないんだ」
「2つで食欲ないって何だよ!? また生魚食ってやがるし」
「良いよ、レッドは食べなくて」
「食べないよー」
「まあまあ、二人とも。ところで、どうしておかゆを作ろうとしているのです?
時代劇ごっこの一環ですか?」
「お前じゃねーんだよ。俺達は、アンリが風邪だって言うから」
「えっ、アンリが?」
「うん。それでね、風邪にはおかゆが良いかなーって思って。
アンリは、天使の顎が食べたいって言ってたんだけど」
「あの、風邪のこと、ジョシュアは知ってるんですか?」
「知ってるよ。今、アンリの部屋で看病してるし」
「…そうですか」
少し曇った表情。
それに気付いたハルヤが、箸を止める。
「シルヴァン?」
「…ああ、いえ。アンリは皆さんに、愛されているんだなあと思っただけです。
探検隊の皆さんにはおかゆを作ろうと、こうしてお米を探していますし。
傍には、看病してくれる人が付いていて…」
「何言ってんのー。シルヴァンが風邪引いた時もおかゆ作ってあげるよ!」
ユウタのまっしろな笑顔に、シルヴァンは救われる。
「ありがとうございます、ユウタ」
ツナサンドを食べ終わったレッドは、アイスコーヒーを飲んでいた。
ストローから口を離す。
「さて。これからどーすっかなー。
学院内で見付からないんじゃ、外に行くしかないっか!」
「…マジで?」
「わーい! 外に探検するの初めてだねっ!」
隊員がそれぞれに反応する。
シルヴァンはシルバーの携帯を取り出した。
「それでしたら、車を用意しましょうか?
アイヴィーを呼びますので、街までの足に使って下さい。
その方がおかゆの完成も早くなりますし。ね。良い提案でしょう、レッド隊長?」
「おっ! そりゃイイな! 頼むよ、シルヴァン」
「はい。では、今、電話しますね」
シルヴァンは席を立って、少し離れた所で電話を掛ける。
「よっしゃ! 完成まで近くなったな。腹ごしらえもしたし!
そろそろ探検再開だぜ、野郎ども! 準備は良いか、帆を揚げろー!」
「うわー! イーグルアイ・ジェイミーだー!!」
盛り上がりっぱなしの二人に苦笑しながら、
ハルヤはテーブルの上に、両手で頬杖を突く。
自分の目の前には、空っぽになった丼が2つ。
「そう言えば、アンリ、まだ何も食べてないのかな…?」
騒いでいた二人が急に静まる。
「あ、そっか。俺達が、おかゆ作ってやるから待ってろ、って言ったんだもんな」
「でも、まだお米も手に入ってないし、作るのもその後だし…」
シルヴァンは電話を終えて、戻ってくる。
「捕まりましたよ。学院内に居ました、あの人」
「え? 運転手さん、何処に居たの?」とユウタが首を傾げる。
「あ、ええっと…そこまでは。あの、正門前で待ち合わせ、
ということにしてきましたから。皆さんも向かって下さい?」
「なあ、シルヴァン。ちょっと頼みたいことあんだけど」
「何です?」
「お前は、天使の顎を買って来て欲しい」
「天使の顎、ですか?」
「アンリ、まだ何も食ってねえかもしれないんだ。
けど、俺達、おかゆ出来るんのいつになるかまだ解んねえから。
先に天使の顎食べて待ってろって伝えてくんねーかな?」
「解りました。お伝えします」
「サンキュ、お前はコレ使ってくれ」
バイクのキーを投げてよこす。
「レッドも、アンリに優しいんですね?」
「からかうなよ。んじゃ頼むぜ。よーし行くぞ、野郎ども!」
「はーい」
「はいはい」
隊員達が席を立つ。
ハルヤは別れ際、シルヴァンのに言い残す。
「アイヴィー呼んでくれて、ありがとね。じゃ、また後で」
「はい。いってらっしゃい、ハルヤ」
「うん」
探検隊が正門へ向かう。
ハルヤの背を見ていて「あれ?」とシルヴァンは思う。
振り返って、カフェのメニュー表を見る。
赤と緑で彩られた、ハルヤの好きな食べ物。
「これ…お米、ですよね?」
カフェのスタッフに頼めば、
おかゆに使うくらいのお米は分けて貰えるのではないだろうか?
この情報を探検隊に伝えることのリスクとリターンを、
シルヴァンがフルスピードで計算する。
試しに、スタッフに尋ねてみた。
スタッフは、申し訳無さそうに言った。
「すみません。さっき、アボカドマグロ丼を2つ注文されたお客様が居て、
今日の分はもう品切れなんですよ。お米は明日にならないと届きませんし」
「そうですか! それは丁度良かったです」
「え?」
「ああ、いえ。すみません、こっちの話です。失礼致しました」
シルヴァンの頭の中で計算が終了する。
探検隊への情報提供はハイリスク、ノーリターンだ。
ハルヤがレッドに責められるだけで、何の利益にもならない。
「黙って、おいた方が良いですね。では、僕は僕の任務へ向かいますか」
ケーキ屋に着く。
天使の顎は、宝石のように並んでいた。
アンリの好きなケーキ。
このケーキを買って、彼に届ける。
それが僕の任務。
天使の顎を、と注文しようとして、何故か一度躊躇した。
急に口が動かなくなった自分に戸惑う。
店員に「お決まりですか?」と聞かれ、
やっと僕の口はケーキの名を告げた。
アンリの部屋の前。
無事に此処まで辿り着いた。
ノックをして、ドアを開ける。
ジョシュアは、眠っているアンリの髪を梳いていた。
見惚れるくらい美しい光景だったのに、
ケーキの箱を落としてしまいそうなくらい、
胸が締め付けられて。
「あっ…」と言ったきり、僕の口はまた動かなくなった。
ジョシュアは少しだけ照れたように微笑む。
「やあ。シルヴァン。それはケーキ?
もしかして、アンリのお見舞いに来てくれたのかい?」
「あ、ええ…」
「どうぞ、入って?」
「はい、お邪魔します」
言いながら、本当に邪魔だったかもしれないと自嘲する。
「シルヴァン、アンリが風邪だって、誰かに聞いたのかい?」
「ええ。先程、レッド探検隊にお会いして。
レッドからアンリに伝言を頼まれたんです。
それから、これをアンリに届けるようにと」
「そうか。ありがとう、シルヴァン」
「いえ。あの、ジョシュアは朝からずっと此処に?」
「うん。アンリ、今は眠っているし、傍を離れても良いんだけどね…」
ジョシュアは、ベッドで眠る人を見つめる。
とても穏やかな目をしていた。
「アンリの寝顔なんて、なかなか見れないから、かな。
なんだか…腰を上げる気になれないんだ。アンリが入学した頃、
みんな『天使のようだ』と言っていたけれど、
こうして見ると、本当に、天使が眠っているみたいに見えるよ」
「あの、ジョシュア」
「なんだい?」
「アンリ、入学当時は、どんな子だったんですか?」
「そうだね…今と比べると、大人しかったと思うよ。
あの、今ほどは、ずけずけ言わなかったし。
それに、入学当時は、学院全体が彼に注目していたからね、
アンリも少し緊張していたのではないかな?」
「サン・ジェルマン伯爵家の人間が1世紀振りの入学、ですものね。
アルフォンソ学院の入学の際に保証人を必要としないなんて、
特例が引かれているのは、サン・ジェルマン家だけですし」
「うん。それにアンリは、サン・ジェルマンの血を最も濃く受け継いでいるから、
彼だけに見えるものや、聞こえるものがあって。
以前、ある生徒に意味不明の暴言を吐いたと、アンリの発言が問題になってね、
学院に申し立てがあって、理事会に掛けられそうになったこともあったよ」
「理事会に?」
「うん。だけど結局、アンリに処分が下ることはなかった。
生徒同士のちょっとした揉め事に理事会が動く筈は無いんだけど。
申し立てをした生徒側から見れば、
理事会は、アンリを…いや、サン・ジェルマンの血を擁護した、
とも受け取れる結果だったから、
極一部だけど、アンリのこと奇異の目で見る生徒も居てね。
アンリ本人は気にしてないみたいだったけど、俺の方が見ていられなかったよ」
「…アンリを、守る為だったんですか?」
「え?」
「その為に貴方は、理事会と唯一接触できる、生徒代表になったのですか?」
ジョシュアは言葉を失った。
その顔には、戸惑いと動揺が露顕している。
図星というよりは、今まで考えたこともなかった、といった表情に見えた。
しかし、すぐに否定してこない、ということは、
少なからず心当たりがあるのだろうか。
ジョシュアは、意見をまとめる時間を取ってから、話し始めた。
「アンリの為にと思ったことは無いと思うな。
俺は、生徒代表になるつもりなんて、最初は全くなかったんだ。
ソクーロフ博士のカウンセリングの中で、勧められたのがきっかけで、
その後は生徒も教授も応援してくれて、あっという間に決まってしまったんだよ。
でも、シルヴァンの言うように、何処かでそういう想いがあったのかもしれないね。
アンリのこと心配で、何かできることはないかと思っていたのは事実だから」
彼らしい話し方だとシルヴァンは思った。
控えめながらも自分の考えを述べ、相手の意見も尊重した。
「すみません、可笑しなことを言って。
不快な想いをさせてしまいましたよね」
「ううん。俺の方こそ…誤解を招くような言い方だったから、すまない」
「誤解、ですか?」
「俺、そんなにアンリのこと気に掛けているように見えるのかな?
自分ではそんなつもり無かったんだけど」
では何故、今、貴方はアンリの部屋に居るのですか?
そう尋ねることはできず、他の言葉で繋ぐ。
「大切、なんですね、アンリのこと」
「うん。俺は、アンリのこと、大切な友人だと思ってる。
アンリがどう思ってるかは解らないけれどね」
「アンリは、貴方のこと、誰よりも信用していますよ。
それは、端から見ていても解ります」
「ありがとう。そうだと良いな。
実はさっき、ソクーロフ博士にも似たようなことを言われたんだ。
ジョシュアはアンリの兄のようだね、と」
「兄? それは…」
少し違うのでは、と続く前に口を押さえた。
「シルヴァン、どうかした?」
「いえ…本当に、ジョシュアなら、良いお兄さんになりそうですね」
「そうかな。ありがとう」
「ん…」
アンリが目を覚ました。
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レッド×ユウタ ハルヤ→シルヴァン
■アンリの七面楚歌のシルヴァンside.
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暖かな月桂樹の森で目覚めたシルヴァンが、腕時計を見る。
もうすぐランチの時間だ。
喉も渇いている。『竜の涙』が飲みたくなって来た。
カフェにでも行こうかと腰を上げた。
その途中、タンポポのような笑顔に遭遇した。
「あー! シルヴァーン!」
ユウタが大きく手を振っている。
彼の両脇には、レッドとハルヤが居た。
三人とも、お決まりの探検隊スタイルだ。
「こんにちは。レッド探検隊の皆さん。今日の宝物は何ですか?」
「今日はねー、お米なんだ!」
「…お米、ですか?」
彼等が探検隊と称して、学院内を自由に遊び回る姿は何度か見掛けていた。
今日はまた風変わりな物を、と思いながらもシルヴァンは口に出さない。
果たして、お米は学院内で見付かるものなのだろうか。
隊長のレッドが、ヒマワリのような笑顔で、人差し指を立てる。
「今日のお宝は、一味違うんだぜ? 探検の後、おかゆを作るんだ!」
「なっ! おかゆですって!? あ、あの、田舎町の娘さんが、
病気のお父さんに食べさせるアレですか!?」
「はあ?」
「梅干しが乗っているのが一般的ですが、その家の状況によっては梅干しすらない、
…というところにワビサビがある食べ物ですよね!」
「ワサビ? こいつ何言ってんだ? ハルヤ、こいつの通訳」
「え? やだよ、めんどくさい。てゆうか聞いてよ、シルヴァン」
ハルヤが疲れた様子で、シルヴァンの腕に縋り付く。
「あ。お米は、やっぱり見付かりませんか?」
「そうなんだよ。一応、学院内の売店は全部見てきたんだけど。
全然無くって…まあ、当たり前だよね。生米なんて。
それでもさ、この人達なんでこんなに元気なわけ? 俺、もう疲れたよ…」
「…お疲れ様です、ハルヤ」
シルヴァンは心から同情し、ハルヤの手に自分の手を重ねる。
途端にハルヤは、びくりと肩を跳ねさせて、
「あ、うん…」と手を自分の方へ戻した。
「レッド隊長? 隊員も疲れているようですし、
これからランチの時間してはいかがでしょう?
僕、丁度これからカフェに行くところだったんです」
「そーだな。オレも腹減ったし。良いか、ユウタ?」
「うん。隊長に付いてくー」
「よーし。付いて来ーい!」
先頭を進むレッドにユウタが駆け寄る。
その後ろにシルヴァンが続く。
ハルヤは隣で囁く。
「…ありがと、シルヴァン。助かったよ」
「いえいえ。カフェに行く所だったのは本当ですし。
僕も賑やかなランチになって嬉しいですよ?」
「俺も…」
「え?」
「…あ、ううん。何でもない」
ハルヤは駆け出してユウタの後ろに行った。
カフェに着くと、それぞれが好きな物を注文した。
レッドはツナサンドを美味しそうに、ほうばっている。
ユウタも同じものを手に持っている。
「あー。たいちょ、口にマヨネーズ付いてるよ?」
「マジで? どこ?」
「ココんとこっ」
ハルヤはアボカドマグロ丼を2つトレーに乗せてテーブルに着く。
「ハルヤ。今日は2つで良いんですか?」
「うん。なんか疲れて食欲ないんだ」
「2つで食欲ないって何だよ!? また生魚食ってやがるし」
「良いよ、レッドは食べなくて」
「食べないよー」
「まあまあ、二人とも。ところで、どうしておかゆを作ろうとしているのです?
時代劇ごっこの一環ですか?」
「お前じゃねーんだよ。俺達は、アンリが風邪だって言うから」
「えっ、アンリが?」
「うん。それでね、風邪にはおかゆが良いかなーって思って。
アンリは、天使の顎が食べたいって言ってたんだけど」
「あの、風邪のこと、ジョシュアは知ってるんですか?」
「知ってるよ。今、アンリの部屋で看病してるし」
「…そうですか」
少し曇った表情。
それに気付いたハルヤが、箸を止める。
「シルヴァン?」
「…ああ、いえ。アンリは皆さんに、愛されているんだなあと思っただけです。
探検隊の皆さんにはおかゆを作ろうと、こうしてお米を探していますし。
傍には、看病してくれる人が付いていて…」
「何言ってんのー。シルヴァンが風邪引いた時もおかゆ作ってあげるよ!」
ユウタのまっしろな笑顔に、シルヴァンは救われる。
「ありがとうございます、ユウタ」
ツナサンドを食べ終わったレッドは、アイスコーヒーを飲んでいた。
ストローから口を離す。
「さて。これからどーすっかなー。
学院内で見付からないんじゃ、外に行くしかないっか!」
「…マジで?」
「わーい! 外に探検するの初めてだねっ!」
隊員がそれぞれに反応する。
シルヴァンはシルバーの携帯を取り出した。
「それでしたら、車を用意しましょうか?
アイヴィーを呼びますので、街までの足に使って下さい。
その方がおかゆの完成も早くなりますし。ね。良い提案でしょう、レッド隊長?」
「おっ! そりゃイイな! 頼むよ、シルヴァン」
「はい。では、今、電話しますね」
シルヴァンは席を立って、少し離れた所で電話を掛ける。
「よっしゃ! 完成まで近くなったな。腹ごしらえもしたし!
そろそろ探検再開だぜ、野郎ども! 準備は良いか、帆を揚げろー!」
「うわー! イーグルアイ・ジェイミーだー!!」
盛り上がりっぱなしの二人に苦笑しながら、
ハルヤはテーブルの上に、両手で頬杖を突く。
自分の目の前には、空っぽになった丼が2つ。
「そう言えば、アンリ、まだ何も食べてないのかな…?」
騒いでいた二人が急に静まる。
「あ、そっか。俺達が、おかゆ作ってやるから待ってろ、って言ったんだもんな」
「でも、まだお米も手に入ってないし、作るのもその後だし…」
シルヴァンは電話を終えて、戻ってくる。
「捕まりましたよ。学院内に居ました、あの人」
「え? 運転手さん、何処に居たの?」とユウタが首を傾げる。
「あ、ええっと…そこまでは。あの、正門前で待ち合わせ、
ということにしてきましたから。皆さんも向かって下さい?」
「なあ、シルヴァン。ちょっと頼みたいことあんだけど」
「何です?」
「お前は、天使の顎を買って来て欲しい」
「天使の顎、ですか?」
「アンリ、まだ何も食ってねえかもしれないんだ。
けど、俺達、おかゆ出来るんのいつになるかまだ解んねえから。
先に天使の顎食べて待ってろって伝えてくんねーかな?」
「解りました。お伝えします」
「サンキュ、お前はコレ使ってくれ」
バイクのキーを投げてよこす。
「レッドも、アンリに優しいんですね?」
「からかうなよ。んじゃ頼むぜ。よーし行くぞ、野郎ども!」
「はーい」
「はいはい」
隊員達が席を立つ。
ハルヤは別れ際、シルヴァンのに言い残す。
「アイヴィー呼んでくれて、ありがとね。じゃ、また後で」
「はい。いってらっしゃい、ハルヤ」
「うん」
探検隊が正門へ向かう。
ハルヤの背を見ていて「あれ?」とシルヴァンは思う。
振り返って、カフェのメニュー表を見る。
赤と緑で彩られた、ハルヤの好きな食べ物。
「これ…お米、ですよね?」
カフェのスタッフに頼めば、
おかゆに使うくらいのお米は分けて貰えるのではないだろうか?
この情報を探検隊に伝えることのリスクとリターンを、
シルヴァンがフルスピードで計算する。
試しに、スタッフに尋ねてみた。
スタッフは、申し訳無さそうに言った。
「すみません。さっき、アボカドマグロ丼を2つ注文されたお客様が居て、
今日の分はもう品切れなんですよ。お米は明日にならないと届きませんし」
「そうですか! それは丁度良かったです」
「え?」
「ああ、いえ。すみません、こっちの話です。失礼致しました」
シルヴァンの頭の中で計算が終了する。
探検隊への情報提供はハイリスク、ノーリターンだ。
ハルヤがレッドに責められるだけで、何の利益にもならない。
「黙って、おいた方が良いですね。では、僕は僕の任務へ向かいますか」
ケーキ屋に着く。
天使の顎は、宝石のように並んでいた。
アンリの好きなケーキ。
このケーキを買って、彼に届ける。
それが僕の任務。
天使の顎を、と注文しようとして、何故か一度躊躇した。
急に口が動かなくなった自分に戸惑う。
店員に「お決まりですか?」と聞かれ、
やっと僕の口はケーキの名を告げた。
アンリの部屋の前。
無事に此処まで辿り着いた。
ノックをして、ドアを開ける。
ジョシュアは、眠っているアンリの髪を梳いていた。
見惚れるくらい美しい光景だったのに、
ケーキの箱を落としてしまいそうなくらい、
胸が締め付けられて。
「あっ…」と言ったきり、僕の口はまた動かなくなった。
ジョシュアは少しだけ照れたように微笑む。
「やあ。シルヴァン。それはケーキ?
もしかして、アンリのお見舞いに来てくれたのかい?」
「あ、ええ…」
「どうぞ、入って?」
「はい、お邪魔します」
言いながら、本当に邪魔だったかもしれないと自嘲する。
「シルヴァン、アンリが風邪だって、誰かに聞いたのかい?」
「ええ。先程、レッド探検隊にお会いして。
レッドからアンリに伝言を頼まれたんです。
それから、これをアンリに届けるようにと」
「そうか。ありがとう、シルヴァン」
「いえ。あの、ジョシュアは朝からずっと此処に?」
「うん。アンリ、今は眠っているし、傍を離れても良いんだけどね…」
ジョシュアは、ベッドで眠る人を見つめる。
とても穏やかな目をしていた。
「アンリの寝顔なんて、なかなか見れないから、かな。
なんだか…腰を上げる気になれないんだ。アンリが入学した頃、
みんな『天使のようだ』と言っていたけれど、
こうして見ると、本当に、天使が眠っているみたいに見えるよ」
「あの、ジョシュア」
「なんだい?」
「アンリ、入学当時は、どんな子だったんですか?」
「そうだね…今と比べると、大人しかったと思うよ。
あの、今ほどは、ずけずけ言わなかったし。
それに、入学当時は、学院全体が彼に注目していたからね、
アンリも少し緊張していたのではないかな?」
「サン・ジェルマン伯爵家の人間が1世紀振りの入学、ですものね。
アルフォンソ学院の入学の際に保証人を必要としないなんて、
特例が引かれているのは、サン・ジェルマン家だけですし」
「うん。それにアンリは、サン・ジェルマンの血を最も濃く受け継いでいるから、
彼だけに見えるものや、聞こえるものがあって。
以前、ある生徒に意味不明の暴言を吐いたと、アンリの発言が問題になってね、
学院に申し立てがあって、理事会に掛けられそうになったこともあったよ」
「理事会に?」
「うん。だけど結局、アンリに処分が下ることはなかった。
生徒同士のちょっとした揉め事に理事会が動く筈は無いんだけど。
申し立てをした生徒側から見れば、
理事会は、アンリを…いや、サン・ジェルマンの血を擁護した、
とも受け取れる結果だったから、
極一部だけど、アンリのこと奇異の目で見る生徒も居てね。
アンリ本人は気にしてないみたいだったけど、俺の方が見ていられなかったよ」
「…アンリを、守る為だったんですか?」
「え?」
「その為に貴方は、理事会と唯一接触できる、生徒代表になったのですか?」
ジョシュアは言葉を失った。
その顔には、戸惑いと動揺が露顕している。
図星というよりは、今まで考えたこともなかった、といった表情に見えた。
しかし、すぐに否定してこない、ということは、
少なからず心当たりがあるのだろうか。
ジョシュアは、意見をまとめる時間を取ってから、話し始めた。
「アンリの為にと思ったことは無いと思うな。
俺は、生徒代表になるつもりなんて、最初は全くなかったんだ。
ソクーロフ博士のカウンセリングの中で、勧められたのがきっかけで、
その後は生徒も教授も応援してくれて、あっという間に決まってしまったんだよ。
でも、シルヴァンの言うように、何処かでそういう想いがあったのかもしれないね。
アンリのこと心配で、何かできることはないかと思っていたのは事実だから」
彼らしい話し方だとシルヴァンは思った。
控えめながらも自分の考えを述べ、相手の意見も尊重した。
「すみません、可笑しなことを言って。
不快な想いをさせてしまいましたよね」
「ううん。俺の方こそ…誤解を招くような言い方だったから、すまない」
「誤解、ですか?」
「俺、そんなにアンリのこと気に掛けているように見えるのかな?
自分ではそんなつもり無かったんだけど」
では何故、今、貴方はアンリの部屋に居るのですか?
そう尋ねることはできず、他の言葉で繋ぐ。
「大切、なんですね、アンリのこと」
「うん。俺は、アンリのこと、大切な友人だと思ってる。
アンリがどう思ってるかは解らないけれどね」
「アンリは、貴方のこと、誰よりも信用していますよ。
それは、端から見ていても解ります」
「ありがとう。そうだと良いな。
実はさっき、ソクーロフ博士にも似たようなことを言われたんだ。
ジョシュアはアンリの兄のようだね、と」
「兄? それは…」
少し違うのでは、と続く前に口を押さえた。
「シルヴァン、どうかした?」
「いえ…本当に、ジョシュアなら、良いお兄さんになりそうですね」
「そうかな。ありがとう」
「ん…」
アンリが目を覚ました。
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