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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン×ジョシュア(ジョシュアン前提)
 レッド×ユウタ ハルヤ→シルヴァン
アンリの七面楚歌のシルヴァンside.
---------------------------
暖かな月桂樹の森で目覚めたシルヴァンが、腕時計を見る。
もうすぐランチの時間だ。
喉も渇いている。『竜の涙』が飲みたくなって来た。
カフェにでも行こうかと腰を上げた。

その途中、タンポポのような笑顔に遭遇した。

「あー! シルヴァーン!」

ユウタが大きく手を振っている。
彼の両脇には、レッドとハルヤが居た。
三人とも、お決まりの探検隊スタイルだ。

「こんにちは。レッド探検隊の皆さん。今日の宝物は何ですか?」

「今日はねー、お米なんだ!」

「…お米、ですか?」

彼等が探検隊と称して、学院内を自由に遊び回る姿は何度か見掛けていた。
今日はまた風変わりな物を、と思いながらもシルヴァンは口に出さない。
果たして、お米は学院内で見付かるものなのだろうか。

隊長のレッドが、ヒマワリのような笑顔で、人差し指を立てる。

「今日のお宝は、一味違うんだぜ? 探検の後、おかゆを作るんだ!」

「なっ! おかゆですって!? あ、あの、田舎町の娘さんが、
病気のお父さんに食べさせるアレですか!?」

「はあ?」

「梅干しが乗っているのが一般的ですが、その家の状況によっては梅干しすらない、
…というところにワビサビがある食べ物ですよね!」

「ワサビ? こいつ何言ってんだ? ハルヤ、こいつの通訳」

「え? やだよ、めんどくさい。てゆうか聞いてよ、シルヴァン」

ハルヤが疲れた様子で、シルヴァンの腕に縋り付く。

「あ。お米は、やっぱり見付かりませんか?」

「そうなんだよ。一応、学院内の売店は全部見てきたんだけど。
全然無くって…まあ、当たり前だよね。生米なんて。
それでもさ、この人達なんでこんなに元気なわけ? 俺、もう疲れたよ…」

「…お疲れ様です、ハルヤ」

シルヴァンは心から同情し、ハルヤの手に自分の手を重ねる。
途端にハルヤは、びくりと肩を跳ねさせて、
「あ、うん…」と手を自分の方へ戻した。

「レッド隊長? 隊員も疲れているようですし、
これからランチの時間してはいかがでしょう?
僕、丁度これからカフェに行くところだったんです」

「そーだな。オレも腹減ったし。良いか、ユウタ?」

「うん。隊長に付いてくー」

「よーし。付いて来ーい!」

先頭を進むレッドにユウタが駆け寄る。
その後ろにシルヴァンが続く。
ハルヤは隣で囁く。

「…ありがと、シルヴァン。助かったよ」

「いえいえ。カフェに行く所だったのは本当ですし。
僕も賑やかなランチになって嬉しいですよ?」

「俺も…」

「え?」

「…あ、ううん。何でもない」

ハルヤは駆け出してユウタの後ろに行った。


カフェに着くと、それぞれが好きな物を注文した。
レッドはツナサンドを美味しそうに、ほうばっている。
ユウタも同じものを手に持っている。

「あー。たいちょ、口にマヨネーズ付いてるよ?」

「マジで? どこ?」

「ココんとこっ」

ハルヤはアボカドマグロ丼を2つトレーに乗せてテーブルに着く。

「ハルヤ。今日は2つで良いんですか?」

「うん。なんか疲れて食欲ないんだ」

「2つで食欲ないって何だよ!? また生魚食ってやがるし」

「良いよ、レッドは食べなくて」

「食べないよー」

「まあまあ、二人とも。ところで、どうしておかゆを作ろうとしているのです?
時代劇ごっこの一環ですか?」

「お前じゃねーんだよ。俺達は、アンリが風邪だって言うから」

「えっ、アンリが?」

「うん。それでね、風邪にはおかゆが良いかなーって思って。
アンリは、天使の顎が食べたいって言ってたんだけど」

「あの、風邪のこと、ジョシュアは知ってるんですか?」

「知ってるよ。今、アンリの部屋で看病してるし」

「…そうですか」

少し曇った表情。
それに気付いたハルヤが、箸を止める。

「シルヴァン?」

「…ああ、いえ。アンリは皆さんに、愛されているんだなあと思っただけです。
探検隊の皆さんにはおかゆを作ろうと、こうしてお米を探していますし。
傍には、看病してくれる人が付いていて…」

「何言ってんのー。シルヴァンが風邪引いた時もおかゆ作ってあげるよ!」

ユウタのまっしろな笑顔に、シルヴァンは救われる。

「ありがとうございます、ユウタ」

ツナサンドを食べ終わったレッドは、アイスコーヒーを飲んでいた。
ストローから口を離す。

「さて。これからどーすっかなー。
学院内で見付からないんじゃ、外に行くしかないっか!」

「…マジで?」

「わーい! 外に探検するの初めてだねっ!」

隊員がそれぞれに反応する。
シルヴァンはシルバーの携帯を取り出した。

「それでしたら、車を用意しましょうか?
アイヴィーを呼びますので、街までの足に使って下さい。
その方がおかゆの完成も早くなりますし。ね。良い提案でしょう、レッド隊長?」

「おっ! そりゃイイな! 頼むよ、シルヴァン」

「はい。では、今、電話しますね」

シルヴァンは席を立って、少し離れた所で電話を掛ける。

「よっしゃ! 完成まで近くなったな。腹ごしらえもしたし!
そろそろ探検再開だぜ、野郎ども! 準備は良いか、帆を揚げろー!」

「うわー! イーグルアイ・ジェイミーだー!!」

盛り上がりっぱなしの二人に苦笑しながら、
ハルヤはテーブルの上に、両手で頬杖を突く。
自分の目の前には、空っぽになった丼が2つ。

「そう言えば、アンリ、まだ何も食べてないのかな…?」

騒いでいた二人が急に静まる。

「あ、そっか。俺達が、おかゆ作ってやるから待ってろ、って言ったんだもんな」

「でも、まだお米も手に入ってないし、作るのもその後だし…」

シルヴァンは電話を終えて、戻ってくる。

「捕まりましたよ。学院内に居ました、あの人」

「え? 運転手さん、何処に居たの?」とユウタが首を傾げる。

「あ、ええっと…そこまでは。あの、正門前で待ち合わせ、
ということにしてきましたから。皆さんも向かって下さい?」

「なあ、シルヴァン。ちょっと頼みたいことあんだけど」

「何です?」

「お前は、天使の顎を買って来て欲しい」

「天使の顎、ですか?」

「アンリ、まだ何も食ってねえかもしれないんだ。
けど、俺達、おかゆ出来るんのいつになるかまだ解んねえから。
先に天使の顎食べて待ってろって伝えてくんねーかな?」

「解りました。お伝えします」

「サンキュ、お前はコレ使ってくれ」

バイクのキーを投げてよこす。

「レッドも、アンリに優しいんですね?」

「からかうなよ。んじゃ頼むぜ。よーし行くぞ、野郎ども!」

「はーい」

「はいはい」

隊員達が席を立つ。
ハルヤは別れ際、シルヴァンのに言い残す。

「アイヴィー呼んでくれて、ありがとね。じゃ、また後で」

「はい。いってらっしゃい、ハルヤ」

「うん」

探検隊が正門へ向かう。
ハルヤの背を見ていて「あれ?」とシルヴァンは思う。
振り返って、カフェのメニュー表を見る。

赤と緑で彩られた、ハルヤの好きな食べ物。

「これ…お米、ですよね?」

カフェのスタッフに頼めば、
おかゆに使うくらいのお米は分けて貰えるのではないだろうか?

この情報を探検隊に伝えることのリスクとリターンを、
シルヴァンがフルスピードで計算する。

試しに、スタッフに尋ねてみた。
スタッフは、申し訳無さそうに言った。

「すみません。さっき、アボカドマグロ丼を2つ注文されたお客様が居て、
今日の分はもう品切れなんですよ。お米は明日にならないと届きませんし」

「そうですか! それは丁度良かったです」

「え?」

「ああ、いえ。すみません、こっちの話です。失礼致しました」

シルヴァンの頭の中で計算が終了する。
探検隊への情報提供はハイリスク、ノーリターンだ。
ハルヤがレッドに責められるだけで、何の利益にもならない。

「黙って、おいた方が良いですね。では、僕は僕の任務へ向かいますか」


ケーキ屋に着く。
天使の顎は、宝石のように並んでいた。

アンリの好きなケーキ。

このケーキを買って、彼に届ける。
それが僕の任務。

天使の顎を、と注文しようとして、何故か一度躊躇した。
急に口が動かなくなった自分に戸惑う。

店員に「お決まりですか?」と聞かれ、
やっと僕の口はケーキの名を告げた。


アンリの部屋の前。
無事に此処まで辿り着いた。
ノックをして、ドアを開ける。

ジョシュアは、眠っているアンリの髪を梳いていた。

見惚れるくらい美しい光景だったのに、
ケーキの箱を落としてしまいそうなくらい、
胸が締め付けられて。

「あっ…」と言ったきり、僕の口はまた動かなくなった。

ジョシュアは少しだけ照れたように微笑む。

「やあ。シルヴァン。それはケーキ?
もしかして、アンリのお見舞いに来てくれたのかい?」

「あ、ええ…」

「どうぞ、入って?」

「はい、お邪魔します」

言いながら、本当に邪魔だったかもしれないと自嘲する。

「シルヴァン、アンリが風邪だって、誰かに聞いたのかい?」

「ええ。先程、レッド探検隊にお会いして。
レッドからアンリに伝言を頼まれたんです。
それから、これをアンリに届けるようにと」

「そうか。ありがとう、シルヴァン」

「いえ。あの、ジョシュアは朝からずっと此処に?」

「うん。アンリ、今は眠っているし、傍を離れても良いんだけどね…」

ジョシュアは、ベッドで眠る人を見つめる。
とても穏やかな目をしていた。

「アンリの寝顔なんて、なかなか見れないから、かな。
なんだか…腰を上げる気になれないんだ。アンリが入学した頃、
みんな『天使のようだ』と言っていたけれど、
こうして見ると、本当に、天使が眠っているみたいに見えるよ」

「あの、ジョシュア」

「なんだい?」

「アンリ、入学当時は、どんな子だったんですか?」

「そうだね…今と比べると、大人しかったと思うよ。
あの、今ほどは、ずけずけ言わなかったし。
それに、入学当時は、学院全体が彼に注目していたからね、
アンリも少し緊張していたのではないかな?」

「サン・ジェルマン伯爵家の人間が1世紀振りの入学、ですものね。
アルフォンソ学院の入学の際に保証人を必要としないなんて、
特例が引かれているのは、サン・ジェルマン家だけですし」

「うん。それにアンリは、サン・ジェルマンの血を最も濃く受け継いでいるから、
彼だけに見えるものや、聞こえるものがあって。
以前、ある生徒に意味不明の暴言を吐いたと、アンリの発言が問題になってね、
学院に申し立てがあって、理事会に掛けられそうになったこともあったよ」

「理事会に?」

「うん。だけど結局、アンリに処分が下ることはなかった。
生徒同士のちょっとした揉め事に理事会が動く筈は無いんだけど。
申し立てをした生徒側から見れば、
理事会は、アンリを…いや、サン・ジェルマンの血を擁護した、
とも受け取れる結果だったから、
極一部だけど、アンリのこと奇異の目で見る生徒も居てね。
アンリ本人は気にしてないみたいだったけど、俺の方が見ていられなかったよ」

「…アンリを、守る為だったんですか?」

「え?」

「その為に貴方は、理事会と唯一接触できる、生徒代表になったのですか?」

ジョシュアは言葉を失った。
その顔には、戸惑いと動揺が露顕している。
図星というよりは、今まで考えたこともなかった、といった表情に見えた。

しかし、すぐに否定してこない、ということは、
少なからず心当たりがあるのだろうか。
ジョシュアは、意見をまとめる時間を取ってから、話し始めた。

「アンリの為にと思ったことは無いと思うな。
俺は、生徒代表になるつもりなんて、最初は全くなかったんだ。
ソクーロフ博士のカウンセリングの中で、勧められたのがきっかけで、
その後は生徒も教授も応援してくれて、あっという間に決まってしまったんだよ。
でも、シルヴァンの言うように、何処かでそういう想いがあったのかもしれないね。
アンリのこと心配で、何かできることはないかと思っていたのは事実だから」

彼らしい話し方だとシルヴァンは思った。
控えめながらも自分の考えを述べ、相手の意見も尊重した。

「すみません、可笑しなことを言って。
不快な想いをさせてしまいましたよね」

「ううん。俺の方こそ…誤解を招くような言い方だったから、すまない」

「誤解、ですか?」

「俺、そんなにアンリのこと気に掛けているように見えるのかな?
自分ではそんなつもり無かったんだけど」

では何故、今、貴方はアンリの部屋に居るのですか?
そう尋ねることはできず、他の言葉で繋ぐ。

「大切、なんですね、アンリのこと」

「うん。俺は、アンリのこと、大切な友人だと思ってる。
アンリがどう思ってるかは解らないけれどね」

「アンリは、貴方のこと、誰よりも信用していますよ。
それは、端から見ていても解ります」

「ありがとう。そうだと良いな。
実はさっき、ソクーロフ博士にも似たようなことを言われたんだ。
ジョシュアはアンリの兄のようだね、と」

「兄? それは…」

少し違うのでは、と続く前に口を押さえた。

「シルヴァン、どうかした?」

「いえ…本当に、ジョシュアなら、良いお兄さんになりそうですね」

「そうかな。ありがとう」

「ん…」

アンリが目を覚ました。


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