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Marginal Prince Short Story
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闇の家系04 続編
「あのねえ」

アンリは苛立ちを隠さない。

「ネイサン・グラントに呼ばれたからって、
素直にロンドンに行くことないでしょう?」

鋭い眼差しに、ジョシュアは思わず一歩後退りながら、

「でも、伯父さんが大事な話があるから、直接会って話し」

「だから」

アンリはジョシュアの言葉を切った。

「それで君が、体良く犯人に仕立て上げられたり、
挙句に殺されたりする可能性をちっとも考えないの?」

「伯父さんはそんなことするような」

「彼の人柄について君と議論したくない。するだけ無駄だから」

昨日、ジョシュアの元に、グラント家の執事から電話があった。
怪我の具合が良くなり、退院した当主のネイサン・グラントが、
ジョシュアと会って話したいことがあるので、
できるだけ早く、グラント本家に来て欲しい。そう言われたのだ。

一晩考え、伯父に会いに行くことを決めたジョシュアは、
先程、夕食の席で「明日からロンドンに行ってくる」と皆に話した。

その夕食後、ジョシュアはアンリに手首を掴まれ、
「ちょっと来て」とアンリの部屋に連れて来られた。

「君ってさ、どうしてそんなに、お人好しなの?」

おそらく怒られるのだろうと思ってはいたが、予想以上にアンリは苛立っていた。

「ごめん。アンリの言う通り、俺が今、ロンドンに行くのは、
危険かもしれない。それで、護衛が二人付いてくれることになったんだ」

「その二人の護衛、信用できるの?」

「大丈夫だよ。二人とも本当に良い人で、
あの二人が一緒に来てくれるなんて、申し訳ないくらいなんだ」

「じゃあ、僕がこれ以上、何を言っても、君はネイサン・グラントと会うんだね?」

「うん。会ってくる」

「じゃあ、この話はこれで終わりだね。時間の無駄だから。
もう用はないから、さっさと出て行って」

「うん。ごめんね、アンリ。おやすみ」

ドアが開き、閉まる音がした。
一人になったアンリは、短い息を吐きながら、ベッドに倒れ込んだ。


同じ夜。
アイヴィーはソクーロフを連れて、旧市街のバーに来ていた。
二人はカウンター席の端に座っている。
軽く夕食を取りながら、ちびりちびりと飲んでいた。

今日は車で来ているアイヴィーはジンジャーエール、
助手席に乗ってきたソクーロフは透明なウオッカだ。

「では、ロレートからも応援が来るんだな? 国王の側近が直々に」

「うん。ラルちゃんがね。やっぱ俺一人で24時間守るのは無理あるし、
ラルちゃんもジョシュアのこと心配してくれてたから。
今回は協力して貰っちゃった。明日、朝イチで島の空港まで来てくれるって。
だから、島を出るところから、二人体制でバッチリ警備」

アイヴィーは指でピースして見せる。

「ロンドンで合流すれば良さそうなものだがな」

「俺もそう言ったんだけど、ラルちゃん、マジメだから。
ま、今回は三人で仲良くロンドンに行ってくるよ。
ちょっとの危険はあるカモだけど、行かないよりは解ることもあるだろうし」

「今回の状況では、ロレートに応援を要請したのは正解だろうな。
島は警備強化期間中なのだから、なるべく外に人員を出したくはない。
また、グラント側から、見知らぬSPを付けられるよりは、
顔や性格を知っている、ロレートの側近のほうが余程信用できる。
側近の彼ならば、誠心誠意、ジョシュア殿下を守ってくれるだろう」

「おっ? ソクちゃんが俺の作戦をホメてくれるなんて珍しいじゃん?」

「私が評価しているのは、側近の真面目さと従順さだ」

「もー。俺には冷たいんだからー」

アイヴィーは笑っていた。
そのあと、笑みを浮かべながら静かにこう言った。

「でも、こうやって、ソクちゃんにイジワル言われるのも、
今夜が最後かもしれないねー。……なーんつって」

アイヴィーは隣を覗き込む。

「アレ? ちょっとムシしないでよー。ジョークなんだから」

「笑って欲しければ、面白いジョークを言うんだな」

「ほらー。またすぐイジワル言うー」

「そろそろ引き上げるぞ。警備する側が寝不足で体調不良では話にならん」

「あ、ちょっと待ってよー」


アイヴィーの車で、ソクーロフを教職員用の宿舎まで送って行く。
海沿いの道路を走っている時、黒い海の上には金色の三日月が浮かんでいた。
その夜、月は、やけに綺麗に見えた。

「明日の早朝、島を出発し、その夜はグラント家に泊まるんだったな?」

唐突に、助手席から声がした。
どうしたんだろうと思いながら、運転手は答える。

「うん。そうだけど?」

「グラント家に着き、当主とジョシュアの対面が終了したら、状況を報告しろ」

運転手は思わず聞き返す。

「えっ? 報告?」

「何か起こっても、起こらなくても、
その日、ジョシュアの周りで起きたことを、私に報告するんだ」

「ええっ!? 俺がロンドンから、ソクちゃんにお電話しろってこと?」

「できないのか?」

「い、いや、でも……」

「返事は?」

「ハイ……って! 次の日には島に帰ってくんのに、
なんで、わざわざ国際電話しなきゃなんないのさー?」

「ジョシュアを守る為に決まっている。お前が見聞きしたことを、
私の頭で考え、解析してやる。お前の頭はスッカラカンだからな」

「だ、誰がスッカラカンだー!」


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