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Marginal Prince Short Story
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闇の家系05 続編
ロンドン郊外。『ランベール館』と呼ばれる、この大きな邸がグラントの本家だ。
アイヴィーはラルヴィスと共に護衛役として、ジョシュアをこの邸まで連れてきた。

ジョシュアは父親のエドワードが亡くなった後、
母親のクリスティーナ・グラントに連れられ、
彼女の実家にあたる、このランベール館に来たという。

父親が亡くなったのは、ジョシュアが五歳の頃。
それから、十三歳でアルフォンソ学院に入学するまで、
約八年の間、ジョシュアはこの邸で暮らしていたことになる。
母親はボランティアで世界中を回っていた為、
この邸に居る時、ジョシュアはいつも一人ぼっちだったのかもしれない。

ランベール館に着いた時、ジョシュアは邸の外観をぼうっと眺めていた。
あの時ジョシュアは、何を考えながら邸を見ていたんだろう。
あいつは、グラントのことをどう思っているんだろう。


「あの、アイヴィー様」

ラルヴィスの声でアイヴィーは我に返る。ここは既にランベール館の中。
グラント当主と会う為、アイヴィー、ジョシュア、ラルヴィスの三人は、
この応接室で待たされていた。ご当主はお電話中とのことだった。

「ん? なあに、ラルちゃん?」

「失礼ですが、アイヴィー様のネクタイが、
少々、緩んでいるようでしたので、
グラント様とお会いする前に直したほうが良いのではと」

今日のアイヴィーは、ジョシュア王子の護衛役ということで、
SPっぽい服のほうが良いかと思い、黒のスーツを着てみた。
スーツの中は、白のワイシャツに渋めのブルーのネクタイ。
アイヴィーは普段からそうだが、ネクタイは緩めに結ばれていた。

ラルヴィスはいつも通り、ダークグレイを基調とした軍服チックな正装。
ロレート国王側近としての服だ。今日もよく似合っている。
赤ワイン色の襟は折り目一つなく、きっちりと立てられていた。

ちなみにジョシュアも今日は正装だった。
ラルヴィスが身に付けているダークグレイと比べると、
色は明るいが、ジョシュアもグレイのシックなスーツを着ている。
甥と伯父が会うというには随分堅苦しい格好だ。

「アイヴィー様? 宜しければ、
わたくしがネクタイをお直し致しましょうか?」

「ああ、イイの、イイの。俺はコレで。
俺のネクタイは、こーゆー作戦だから」

「……作戦、でございますか?
何か深いお考えがあってのことなのですね?」

「まー、そんなカンジ」

「左様でございましたか。そうとは存じ上げず、
申し訳ございません。失礼なことを申し上げ」

「あー、いやいや、ゴメンね、コッチこそ」

コンコン、とドアがノックされた。

「失礼致します」

応接室に初老の紳士が入ってきた。彼はグラント家の執事だという男。
名前はルーカスと言ったか。玄関からこの部屋まで案内してくれた人だ。
年はおそらく50歳前後、白髪混じりの髪、ブラウンのスーツ姿だ。

「ジョシュア様、お待たせ致しました。旦那様のお部屋へご案内致します」

ご当主の長電話が終わったらしい。

「はい」

緊張した面持ちでジョシュアが席を立つ。
アイヴィーとラルヴィスも共に行こうとすると、執事はこう言った。

「恐れ入りますが、お付きの方は、お控え頂けませんか?」

ジョシュアは驚いて立ち止まり、護衛達を振り返る。執事は丁寧な口調で話す。

「旦那様とジョシュア様が、お話しになる席ですので、
お付きの方は、こちらでお待ち頂けないでしょうか?」

アイヴィーが、どういう言葉遣いで切り抜ければ良いのか悩んでいる間に、
すっと一歩前に出たのは、ラルヴィスだった。

「恐れ入りますが、私共も同行させて頂きたく存じます。
でなければ、ロレート公国のジョシュア殿下は、どこへもお連れできません。
これは、カーディス国王陛下、直々のご命令です」

ほう、と執事が微笑む。

「それはまた。陛下のお言葉ならば、無下にはできませんね。
しかし、ご幼少の頃は、ここで暮らしておいででしたのに、
それほど、この家は信用できませんか、ジョシュア様?」

ジョシュアが口を開くより先にラルヴィスが答えた。

「殿下のご意思ではございません。先程も申し上げましたように、
陛下のお言葉によるものであることを、ご理解頂きたく存じます」

「――成程。左様でございましたね。申し訳ございません」

執事はジョシュアに向かって、軽く頭を下げた。

「大変失礼致しました、ジョシュア様」

か細い声でジョシュアは、いいえ、とすぐに許した。
執事に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだろう。
アイヴィーは見ていて、ジョシュアが痛々しかった。

ロレートとグラントの間に生まれた子どもは、
邸に入って早速、両家の板挟みに遭ってしまっていた。
当主に会う前からこんなんで大丈夫か、とアイヴィーは心配になる。

「それでは、お付きの方もご一緒にご案内させて頂きます。どうぞ」


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