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Marginal Prince Short Story
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闇の家系09 続編
「わー。またラルちゃんの勝ちかー。もう勝てないや、俺ー」

アイヴィーはトランプを持ったまま、
両手を挙げて、降参のポーズをする。

「じゃー、俺の負けってことで、約束通り、
明日、ジュースおごるね? 空港辺りで」

「いいえ、アイヴィー様。お気持ちだけで結構でございますから」

「気にしないでよ、ジュースくらいで。そういう賭けだったんだから。
でも、ラルちゃんって、ポーカー強いんだねー。
やっぱ普段から、ポーカーフェイスだからかなー?」

「……申し訳ございません。陛下にもよくお叱りを受けました」

「あ、いやいや。ラルちゃんが謝ることじゃないんだよー。
っていうか、王様とカードゲームしたりするの?」

「以前は。近頃はなさいませんが」

「ふうん。ところでー、そろそろジョシュアは寝たかな?」

アイヴィー達がポーカーをしていたソファ席から離れたところに、
ジョシュアのベッドがあった。小さく寝顔が見える。
アイヴィーは念の為、静かにベッドへ近付き、
寝息を確かめたあと、そそそ、とソファまで戻ってきた。

「ダイジョブ。すやすや寝てた」

「ええ。先程、お休みになられたようですね」

「意外と早く寝たね。やっぱ疲れたのかな、今日一日。
あいつ、このお邸に着いてから、ずっと緊張してたみたいだし」

「左様でございますね。お心の優しい御方ですから、
ご実家の皆様にも、色々とお気遣いがあったのでしょう」

「うん。気ィ遣いだからなー、ジョシュアは」

「ええ」

「じゃー、王子サマもおねんねしたことだし、
俺達はオトナのナイショ話でも始めちゃう?」

「どのようなお話でございますか?」

アイヴィーは声を潜めながら、

「このお邸に入る前さ。ラルちゃん、感じた?」

「……ええ。アイヴィー様も感じていらっしゃいましたか」

「うん。誰かに見られてたよね、俺達」

「はい」

「何人だったと思う?」

「わたくしは一人の視線しか感じませんでした」

「俺も一人」

「では単独犯でしょうか。やはり、視線の主はグラント様を襲撃した犯人?」

「かもね。でも、邸に入ったあとは感じてないんだよ、あの視線」

「わたくしもです」

「そっか。じゃあ、犯人は邸の外部の人間だったりするのかなあ」

「外部犯であると考えたいものです」

「そうだね。内部犯じゃ、ジョシュアが傷付いちゃう。
俺達の王子サマ、どっちかって言うと、ガラスハートだから。
あ、悪いイミじゃなくて、繊細なタイプってイミね?」

「ええ。……あの、アイヴィー様?
わたくしも、少々お話ししたいことがあるのですが」

「ん? なあに?」

「殿下の御前では申し上げられなかったのですが、
アイヴィー様は、どう思われました? 先程のお話」

「グラントの後継ぎ問題?」

「ええ。あのお話、グラント様のご本心だったと思われますか?」

「え、じゃあ、俺達、ウソ吐かれたってこと?」

「解りません。けれど、グラント様は何かを試す為に、
わざと、あのようなお話をされたような気がして」

「何かを試すって……何を?」

「グラント様はお話の最後に、『これでひとつ解ったかもしれない』、
また、それについては『今言うのは控えさせて欲しい』と仰いました。
お話の中で、グラント様は何かを知ることに成功したのではないでしょうか」

「でも、それはラルちゃんが話したことじゃないの?
王様が健在で、当主が不在の状況なら、
ジョシュアが当主になることも可能かもって話、したでしょ?
ま、結局、ジョシュア自身は当主になるつもりはないって話になったけど」

「……そうですね。申し訳ございません。
まだ何も解らない状態で、不明確なことを申し上げました」

「いや、解らないんだから、不明確な話になるのはしょーがないよ。
でも、なんかさ。なんとなく居心地が良くないね、このお邸。
執事さんや秘書さんは、ジョシュアのこと、
あんまり良く思ってないみたいだし。
闇の家系なんて言われてるトコのご当主が、
やけにイイ人だったのも、なんか気になるし。
明日、ちゃんと無事に島に帰れるとイイんだけど」

「アイヴィー様……」

「あ、ゴメンゴメン。なんか俺まで妙なコト言っちゃって。
とにかく、明日に備えて、俺達も交代で少し寝とこ?
何かあったら叩き起こすルールでさ。
三時間くらいずつでも良い? どっちから先に寝よっか?」

「いえ。アイヴィー様もお疲れでしょう。今宵は私が起きておりますから」

「ダメだよ。それじゃあ、せっかく二人で来たイミないじゃん? ね?」

「……畏まりました。私などにまでお気遣い頂き、ありがとうございます」

「いやいや。その言葉、まるっとラルちゃんに返すよ。
あ、そだ。ゴメン。寝る前に、俺、ちょっと電話してきても良いかな?」

「お電話、ですか?」

「うん。俺、何故か、学院のセンセーに今日のご報告しなきゃいけなくてさ。
その間、ちょっとジョシュアのこと任せて良い? って言っても、
俺、部屋出たトコの廊下で電話するから、何かあったらすぐ呼んで?」

「畏まりました。行ってらっしゃいませ」


アイヴィーは廊下に出て、窓辺に凭れる。
周囲に誰も居ないことを確認してから、スマートフォンを耳に当てた。

「もしもーし、ソクちゃーん? こちらロンドンのアイヴィーでーす」

「随分遅かったな」

スマートフォンを通して、ソクーロフの吐息が聞こえる。
直接、耳に息を吹きかけられたような気がして、
思わずスマートフォンを少し遠ざけた。

「ジョシュアはもう眠っているのか?」

「ああ、うん。さっき寝たトコ」

「では、今日ジョシュアの周りで起こったことを、まとめて話せ」

「……イエッサー」

それからの数分間はアイヴィーが一方的に話していた。
アイヴィーの報告が終わっても、ソクーロフは黙ったままだった。

「ちょっとー。ソクちゃん、聞いてるー?
まさか、俺の話聞きながら寝ちゃったんじゃないでしょーね?」

「お前じゃあるまいし」

「俺だってそんなことしないよっ!」

「まず、確認したい。万一の場合は、当主の座を、
ジョシュアに譲りたいという話をしていた時、
その場に居たのは、お前達三人と、当主、秘書の五人だけか?」

「え、うん」

「執事はその場に居なかった?」

「うん。執事さんは部屋まで案内してくれただけだったから」

「そうか」

「今のって、何か関係あんの?」

「さあな」

「何か解ってんなら、頭スッカラカンの俺にも解るように教えてよ。
スッカラカンじゃないほうのソクーロフ先生?」

間を置いたあと、ソクーロフはこう言った。

「――お前は、幾つ思い付く?」

「え?」

「ジョシュアへの殺意を表に出さないまま、ジョシュアをこの世から葬り去る方法を」

アイヴィーはスマートフォンを持ったまま、首を傾ける。

「な、何それ? 自分が犯人だと誰にも気付かれずにジョシュアを葬るには、
どんな方法があるでしょーか、っていうシュミの悪いクイズ?」

「そうだ。思い付くか?」

「それなら、やっぱり、事故死や病死に見せかける、とか?」

「それもある」

「ソクーロフ先生はどんな方法を思い付いてるわけ?」

「成功率が高い方法をひとつ」

「どんな?」

「殺意を隠して、あの子を殺めたいのなら、あの子の傍に居る人間を狙えば良い。
そうすれば、あの子は自ら命を投げ出すさ。誰かを守る為に」


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