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Marginal Prince Short Story
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闇の家系11 続編
ロレート大公家、王の寝室。
一日を終えたカーディス1世は晩酌の時間だった。

主の側に帰ってきた側近が、トクトクと良い音を立てながら、
王のワイングラスに赤ワインを注いでいる。
たっぷりと注がれたワインに、王が口付ける。

「しかし、お前の顔をテレビで見るとは思わなかったぞ、ラルヴィス」

今宵の王は機嫌が悪くなかった。

「しかも、グラント家当主襲撃事件の犯人をお前が捕まえた、
というニュースだからな。英雄が凱旋したのだから記念式典でもやるか?」

当の本人は、ワインボトルの瓶口を拭きながら、ご冗談を、と呟いていた。


事件はロレート国王側近の手柄で無事に解決した。
犯人は、グラントの新規事業により会社を潰された男だった。

犯人の供述によると、衝動的にグラントの邸に行き、
帰宅してきた当主を金属バットで殴ったあと逃走し、次の機会を伺っていた。
すると、邸にジョシュアが入っていくところを目撃。

その顔を見た時、生まれながらにロレート大公家の血をひき、
またグラント次期当主の可能性まで秘めているジョシュアにも憎しみが生まれたという。

犯人は翌朝、ジョシュアが邸から出てきたところを同じ金属バットで襲撃。
しかし、ジョシュアに付いていたロレートの従者により身柄を確保され、逮捕となった。
ジョシュアに怪我はなかったが、従者が軽傷を負ったとのニュースが世界を駆け巡った。

王子を守った従者の顔として映し出されたのは、側近のラルヴィスのみで、
実際にはアイヴィーも側に居て、一緒に戦ってくれたことは報道されなかった。

手柄を一人占めするようで、ラルヴィスは本意ではなかったのだが、
アイヴィー本人から「学院関係者の顔は世に出せないから、
今回はラルちゃん一人のお手柄ってことにしといて? ね、お願いっ!」
と言われてしまい、ラルヴィスは了承することしかできなかった。


「そう言えば、犯人を捕らえた時、アイヴィーは無傷だったのか?」

主に尋ねられ、ラルヴィスは答えた。

「いいえ。アイヴィー様は肩を負傷された筈です。
アイヴィー様は、殿下と私を庇って、肩に一撃を……」

ラルヴィスは申し訳なさと悔しさで表情を歪ませる。
自分が至らなかったのだ。そのせいでアイヴィー様に怪我をさせてしまった。
結果的に殿下がお怪我をせずに済んだのも、
あの場に、アイヴィー様が居てくれなければ、不可能だったかもしれない。

「肩を壊す程の怪我だったのか?」

「いえ。ご本人は『全然平気』と仰って、肩も動いてはいるようでしたが」

「なら、大事には至らなかったのだろう。
あとは学院に居る医者がどうとでもしてくれるさ」

「それならば、良いのですが……」

「どうした、やけに沈んでいるじゃないか。王子を死守した英雄のくせに」

ラルヴィスは首を横に振る。金色のショートヘアがサラサラと揺れた。

「英雄などではありません。私は自分が不甲斐ないのです。
怪我をしないようにと殿下に厳命されていたにも関わらず、私は」

「そんなもの気にするな、無理難題を吹っかけているのはジョシュアだろう?
怪我をせずに主を守れ、などという命令は最初から矛盾がある。
理想が高いのは結構だが、実際にはこうして、臣下が怪我をしなければ、
主を守れない状況がある。それが現実というものだ。違うか?」

「しかし、殿下は」

「あいつはまだ、守る、守られる、という関係に対して、覚悟が足りないのさ。
臣下が主を守って負傷した時、主は臣下を褒めてやるくらいでなくてはな」

王は、立っている臣下を見上げる。

「よくやってくれたな、ラルヴィス。よくジョシュアを守ってくれた」

「陛下……」

臣下は瞳を瞬かせたあと、その場に膝を着き、頭を下げた。

「……勿体無い、お言葉です、陛下」

金髪の頭部を見下ろしながら、王は、さて、と言った。

「俺は、傷を負った臣下の面倒を看てやらなくてはな? 主として」

臣下は顔を上げる。王は不敵に微笑まれていた。

「お前は、後ろの首筋と背中に怪我をしたそうじゃないか? 見せてみろ?」

ラルヴィスは先程までの感動が冷めていくのを感じた。

「……いえ。陛下のお目にかけるようなものでは」

「構わん」

「傷は既に、医師に看て頂いておりますので」

「俺が看てやると言っているんだ。脱げ」

「陛下。どうぞお気遣いなく」

「なんだ、脱がされたいのか、仕方のない奴だ」


***

ロンドン郊外、グラントの邸。
静かな夜。当主は書斎で資料を眺めていた。
ドアがノックされ、どうぞ、と言った。

「旦那様」

入ってきたのは執事のルーカスだった。
当主は資料から目を離し、初老の執事を見上げる。

「なんだい? ルーカス」

「ジョシュア様からお電話がございました」

「あの子から?」

「ええ。ジョシュア様よりご伝言をお預かりしております。
『無事、聖アルフォンソ学院に到着しました。
直接会ってお話をする機会を作って下さったこと、
本当にありがとうございました。
伯父にもそう伝えて下さい』とのことでございます」

「そう。律儀な子だね。無事に着いて何よりだ」

「それから、もうひとつ、お知らせが」

執事は当主の傍に行き、そっと耳打ちした。
何事かを囁かれた当主は、ぽつりと呟いた。

「そう」

当主は椅子の向きを机側に戻し、執事に背を向ける。
再び資料に視線を落とした。執事を頭を下げる。

「それでは、失礼致します」

「ああ、ルーカス?」

「はい」

執事が顔を上げると、当主は背中を向けたまま、

「すまないが、コーヒーを一杯、頼めるかい?」

執事は再び一礼する。

「コーヒーでございますね、畏まりました」


***

ロレート大公家、王の寝室。
カーテンは柔らかな朝陽を受け止めている。
早朝。王の臣下は眠っていた、王の隣で。

今朝は先に目覚めた王は、無言で臣下の寝顔を眺めていた。
臣下は、うつ伏せで眠っており、まぶたには金色の前髪がかかっている。

今はブランケットで覆われているが、臣下の後ろの首筋と背中は、
ジョシュアを襲った犯人に金属バットで殴られ、赤く腫れていた。
この国の王子を守る為にできた赤い痣は、後に青くなってしまうだろう。

――怪我をするなとは言わん。ただ――

ブランケットからは臣下の右肩が素肌のまま、こちらを向いている。
滑らかで真っ白な肩。そこにはまだ傷はない。
白い素肌に引き寄せられるように、
王は臣下の右肩にそっと口付けを落とした。

「ん……」

臣下が身じろぐ。ゆっくりと臣下の目が開いた。
目の前にあるのが主の顔だと認識するまでに、数秒かかったようだ。

「……へい、か?」

掠れた声で呟かれる。目もまだぼんやりとしていた。

「起きたのか。敏感な奴だな」

「……え?」

「いや。起きたのなら、シャワーでも浴びるか。来い」

「はい……畏まりました」

のろのろと臣下は身を起こした。


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