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■闇の家系13 後日談
■カーシャ様お誕生日記念おまけ作品
聖アルフォンソ学院に鐘の音が鳴る。
一日の授業が終わり、放課後の時間となった。
ここ保健室には、クラシックの音楽がゆるやかに流れていた。
ソクーロフ博士は机に向かっている。
机の上には数枚に渡るカルテが乗っていた。
博士は机に両肘を着き、両手の指を組んでいる。
祈り、もしくは、懺悔のような姿勢で、目を瞑っていた。
保健室で音を発しているのは、カセットテープだけ。
バッハ作曲のゴルトベルク変奏曲。
それはソクーロフがカルテを書く際によく流れている曲だった。
すると、保健室の外から僅かに足音が聞こえてきた。
博士は目を開け、机上のカルテを手早く裏返しにする。
まもなく、コンコン、と二回ドアがノックされた。
博士はカセットテープの停止ボタンを押したあと言った。
「入りたまえ」
「失礼します」
きちんとドアを閉めてから、中へ入ってきたのは、緋色の瞳を持つ生徒。
昨日、ロンドンから戻ってきたジョシュア・グラントだった。
「やあ。そろそろ来る頃だと思っていたよ、ジョシュア」
「博士、アイヴィーの肩、診て頂けましたか?」
授業中もそれが気になって仕方がなかった、と言わんばかりの表情だ。
挨拶も抜きで用件を先に口にするとは、
いつも礼儀正しいこの子にしては珍しいことだ、と博士は思う。
「診たよ。昨日、君が教えてくれたからね?
あのあと、すぐに、きっちり診察をして、適切な処置をしておいた」
「どうでした? 大丈夫でしたか?」
「ああ。心配は要らないよ。軽い打撲だからね。
念の為、レントゲンも撮ったが、骨にも異常はなかった」
「そうですか……ありがとうございます、博士」
「いいや。怪我人を診るのは、私の仕事だからね」
「でも、俺……俺のせいで、アイヴィーと、
レイナさんにも怪我をさせてしまったんです。
誰にも傷付いて欲しくなかったのに、二人とも俺を守る為に……」
「アイヴィーから聞いたよ。グラント家に泊まった夜、
君はアイヴィーを叱ってくれたそうだね?
『死んでも守るなんて言わないで下さい』、『一緒に島に帰りましょう』と」
「はい……でも、結局」
「警備の人間というのはね、ジョシュア。本人がその気になれば、
いつだって、仕事を理由に、命を落とせるものなんだよ?」
「えっ?」
「アイヴィーが君を守った時も、やり方によっては、
犯人に殺されてしまうこともできた筈だ。けれど、彼はそうしなかった。
最小限の怪我で済み、全員無事に帰れたのは、
ジョシュア、君のおかげだったと私は思うよ?」
「博士……」
「しかし、不必要な怪我をして、君に心配をかけた点については、
私から厳しく注意しておいた。本人は『素人さん相手だったから、
逆にやりにくくて、つい一発やられてしまった』などと、
つまらない言い訳をしていたがね」
ジョシュアは不思議そうに博士を見つめたあと、ふっと笑みを溢した。
「仲が良いですよね、博士とアイヴィーって」
「……ん?」
「博士は、俺達生徒には優しいですけど、アイヴィーには、時々、
遠慮のないことを言いますよね? ミーティングの時とか。
だから、博士にとってアイヴィーは、大切な友人なんだろうなって」
「……友人などではないよ、あれは」
「えっ? 違うんですか?」
「あれは、ただの」
コンコンコン、と軽快に三回、保健室のドアがノックされた。
fin
■カーシャ様お誕生日記念おまけ作品
聖アルフォンソ学院に鐘の音が鳴る。
一日の授業が終わり、放課後の時間となった。
ここ保健室には、クラシックの音楽がゆるやかに流れていた。
ソクーロフ博士は机に向かっている。
机の上には数枚に渡るカルテが乗っていた。
博士は机に両肘を着き、両手の指を組んでいる。
祈り、もしくは、懺悔のような姿勢で、目を瞑っていた。
保健室で音を発しているのは、カセットテープだけ。
バッハ作曲のゴルトベルク変奏曲。
それはソクーロフがカルテを書く際によく流れている曲だった。
すると、保健室の外から僅かに足音が聞こえてきた。
博士は目を開け、机上のカルテを手早く裏返しにする。
まもなく、コンコン、と二回ドアがノックされた。
博士はカセットテープの停止ボタンを押したあと言った。
「入りたまえ」
「失礼します」
きちんとドアを閉めてから、中へ入ってきたのは、緋色の瞳を持つ生徒。
昨日、ロンドンから戻ってきたジョシュア・グラントだった。
「やあ。そろそろ来る頃だと思っていたよ、ジョシュア」
「博士、アイヴィーの肩、診て頂けましたか?」
授業中もそれが気になって仕方がなかった、と言わんばかりの表情だ。
挨拶も抜きで用件を先に口にするとは、
いつも礼儀正しいこの子にしては珍しいことだ、と博士は思う。
「診たよ。昨日、君が教えてくれたからね?
あのあと、すぐに、きっちり診察をして、適切な処置をしておいた」
「どうでした? 大丈夫でしたか?」
「ああ。心配は要らないよ。軽い打撲だからね。
念の為、レントゲンも撮ったが、骨にも異常はなかった」
「そうですか……ありがとうございます、博士」
「いいや。怪我人を診るのは、私の仕事だからね」
「でも、俺……俺のせいで、アイヴィーと、
レイナさんにも怪我をさせてしまったんです。
誰にも傷付いて欲しくなかったのに、二人とも俺を守る為に……」
「アイヴィーから聞いたよ。グラント家に泊まった夜、
君はアイヴィーを叱ってくれたそうだね?
『死んでも守るなんて言わないで下さい』、『一緒に島に帰りましょう』と」
「はい……でも、結局」
「警備の人間というのはね、ジョシュア。本人がその気になれば、
いつだって、仕事を理由に、命を落とせるものなんだよ?」
「えっ?」
「アイヴィーが君を守った時も、やり方によっては、
犯人に殺されてしまうこともできた筈だ。けれど、彼はそうしなかった。
最小限の怪我で済み、全員無事に帰れたのは、
ジョシュア、君のおかげだったと私は思うよ?」
「博士……」
「しかし、不必要な怪我をして、君に心配をかけた点については、
私から厳しく注意しておいた。本人は『素人さん相手だったから、
逆にやりにくくて、つい一発やられてしまった』などと、
つまらない言い訳をしていたがね」
ジョシュアは不思議そうに博士を見つめたあと、ふっと笑みを溢した。
「仲が良いですよね、博士とアイヴィーって」
「……ん?」
「博士は、俺達生徒には優しいですけど、アイヴィーには、時々、
遠慮のないことを言いますよね? ミーティングの時とか。
だから、博士にとってアイヴィーは、大切な友人なんだろうなって」
「……友人などではないよ、あれは」
「えっ? 違うんですか?」
「あれは、ただの」
コンコンコン、と軽快に三回、保健室のドアがノックされた。
fin
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