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Marginal Prince Short Story
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■アンリ×姉貴
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##NAME1##の携帯電話が鳴った。
手に取ると、サブディスプレイには、
『ユウタ』と弟の名前が表示されていた。

ユウタの携帯電話から電話が来ている。
だが、相手がユウタだとは限らない。
聖アルフォンソ学院の誰かかもしれない。

昨日はアンリと電話で話した。
電話をかけたのは##NAME1##のほうからで、
彼のほうからかかってくることは少ない。

アンリさんからだったら良いな、そんなわけないか、
と思って##NAME1##は電話に出た。

「はい。もしもし?」

しかし、テレビ電話の画面は真っ暗だった。
カメラは起動しているので、相手の居る場所が異常に暗いようだ。
相手の声だけが聞こえてきた。

「##NAME1##? 繋がっている?」

「はい。アンリさんですか?」

「うん。僕」

「あの、画面が暗くて、アンリさんの顔が、
見えないんですけど、部屋、暗くしてるんですか?」

「寮の部屋には居ないよ。ねえ、この携帯、ライトとかないの?」

「ありますよ。ライトの絵が書いてあるボタンが、
下のほうに、あると思うんですけど」

「ああ、これかな」

画面が明るくなり、アンリの顔が見えた。
しかし、やっと顔が映っている程度で、顔の周囲は暗いままだ。
かろうじて緑の制服とワイシャツの襟元までが見える。

「えっと、アンリさん、今、どこに居るんですか?」

「縦に深い穴のようなところ、かな? 一人では出られないような」

「あ、穴!?」

「土でできた穴だから、外に居るんだろうね。
上を見ると、夜空が見えるし。綺麗に星が出ているよ」

「穴って、どこの? 島で迷子にでもなったんですか?」

「さあ? 解らない」

「え?」

「ここは、聖アルフォンソ島ではないかもしれない。
あとは、携帯電話が繋がったのだから、
現代からそう離れてはいないんだろうね」

「現代って、どういう」

「にゃあ」

「ええっ?」

今、携帯の画面を一瞬、灰色の影が横切った。
にゃあ、という鳴き声と共に。アンリは右下のほうを見ながら叱る。

「ちょっと、狭いんだから、大人しくして」

「アンリさん、今、通ったのって、猫ですか?」

「うん。そうなんだ」

アンリが携帯のカメラを猫に向けてくれたようで、
画面には猫が一匹映った。灰色の毛をした小柄な猫。
パチリとブルーの瞳を大きくした猫は、すぐに逃げ、画面から消えた。

「もう。だから、暴れないでってば」

真っ暗な画面のまま、アンリの声がする。
かなり暗く、狭い場所に、アンリが猫と二人で、
いや、一人と一匹で居るというのだろうか。
しかもアンリは自分が今どこに居るのか解らないと言う。
これは一体どういう状況なのか。

「アンリさん、あの……どうなってるんですか?」

画面に映ったアンリは、冷笑しながら、首を傾げていた。

「僕にも説明が難しくてね。話しても、信じて貰えないと思うし」

「聞かせて下さい。アンリさんの言うことなら、私、信じます」

「そう……君はそういう人だったね。解った。
じゃ、僕の身に起こったことを、ありのまま説明しようか。
僕にも、そうすることしかできないから」

「にゃあ」

また灰色の影が画面を横切る。アンリの溜め息が聞こえた。

「僕がこんな目に遭っているのは、この子のせいなんだ」

アンリの語った内容はこうだ。


今日の放課後、僕がウーティス寮へ帰る途中、
月桂樹の森の近くを通った際に、灰色の猫を見かけた。
学院に棲む動物に灰色の猫は居なかったので、
外から入ったのだろうと僕は思った。
綺麗な灰色の毛をしていたので、なんとなく猫の後を付いて行った。

数メートルの距離を保ちながら、
暫くの間、猫と一緒に森の中を散歩していた。
島も最近すっかり暖かくなってきたので、
辺りには小さな花がたくさん咲いていたし、木漏れ日も綺麗だった。
入学した頃には、森に一歩入ることもできなかったのに、
今では普通に森の中を歩けるのが不思議だった。

いつのまにか、棕櫚の木が一本あるところまで来ていた。
ここは森の奥のほうだ。そろそろ寮に戻ろうかと思った。
猫を見ると、猫は棕櫚の木を黙って見上げていた。
すると、木の周りがキラと光ったような気がした。

気のせいかと思った時に、また白く光った。
周囲の月桂樹には何も起こっていないのに、
棕櫚の木の周りだけが、キラ、キラ、と白く光り続けている。
猫はゆっくりと光のほうへ歩き始めた。
まるで、何かに操られているかのような足取りに見えた。

「だめ」

思わず僕は猫に向かって、声をかけていた。
しかし、猫は止まらない。

「行ってはだめ、その光に近付いたら」

人間の言葉が通じていないというよりは、
僕の声自体が聞こえていないようだった。
猫が光に近付いて行く。いけない、と思った時に異変は起きた。
光に触れた頭の部分から、猫の身体が消えていく。
光の向こう側に、猫の身体が擦り抜けて行くかのように。

映画や物語の世界で起きるようなことが、今、目に映っている。
猫は異変に気付かないのか、前に進むのを止めない。
胴体も見えなくなり、後ろ脚と尻尾だけが見えている。
このままでは完全に消えてしまう、この世界から。

「だめだ、って言ってるのに」

普段の自分ならこんなことしないのに。
後先考えずに身体が動いてしまっていた。
光の中へ消えかけている灰色の尻尾。
僕の手がそれに届いた時、光が強くなり、目の前が真っ白になった。
何か強い力が発生したようで、僕は猫と一緒に引き摺り込まれた。
白い光の向こう側へ。

真っ白で、何もない光の中。
空中に浮かんでいるような感覚が一瞬あって、僕は真っ逆さまに落ちた。

ドン、と地面に叩きつけられた。
目を開けたら、僕は深い穴の中に居て、
見上げると、夜の空と星が見えた。

周りは土の匂いでいっぱいで。
にゃあ、という鳴き声が僕の背後からした。
さっきの灰色の猫だ。

「……だから言ったじゃない」

猫が僕を見つめる。

「あの光に触れてはだめだと」

にゃあ、と猫は鳴き、穴の中を歩き始めた。
と言っても、狭い穴なので、僕の周りを歩いているようなものだ。
猫も猫なりに今の状況を把握しようとしているのだろうか。
僕も状況把握に努めた。

まず、今は解るのは、現在の時刻が夜だということ。
星が見えるから、天気はそう悪くないということ。
それから、ここからは推測になるが、
おそらくここは、聖アルフォンソ島ではないだろうということ。
それは直感的に思った。島内のどこかに居れば感じられる、
あの葉の香りも、海の香りもしないから。

何か役に立ちそうな物を持っていないだろうか。
僕は放課後の姿のままで、制服を着ていた。
全てのポケットに手を入れてみる。
最初に出てきたのはブルーのハンカチで、
これは大して役に立ちそうもない。他に何かないのか。


「ブレザーのポケットに入っていたんだ、ユウタの携帯が」

アンリが微笑が珍しく柔らかい雰囲気で、##NAME1##はドキリとする。

「君と電話で話したのは昨日だよね?」

「はい、昨日です」

「昨夜、携帯を返すのは明日でいいとユウタに言われていたから、
今日会った時に返そうと思って、ポケットに入れていたんだ。
それが、こんなふうに役に立つとは思わなかったけれど」

アンリは小首を傾げる。

「君に繋がる携帯を見つけた時、僕がどんなふうに感じたか、解る?」

どう答えれば良いのか迷っていると、アンリはこう言った。

「暗闇の中で天使に出会ったような気がしたよ?」

##NAME1##は何も言えなくなってしまった。
にゃあ、と声がする。

「ちょっと、どこに乗っているの。君は僕に遠慮がないね」

身体のどこかに猫が乗っているらしい。

「少し寒くなってきたな。猫の暖かさが貴重に思えるよ」

「えっ? アンリさん、大丈夫ですか?」

「夜だからね、気温が低いんだ。羽織るものもないし」

「アンリさん、これからどうしましょう?
誰か学院の人に連絡したほうが良いですよね?
あ、そうだ。まずはユウタの携帯に電話してジョシュアさんに」

「落ち着いてよ。これがユウタの携帯でしょう?」

「ああ、そうだった。じゃあ、ええっと」

「君には、ひとつ頼みたいことがあるんだ」

「は、はい! 私にできることがあるなら、何でも言って下さい!」

「もちろん、あるよ。君にしか頼めないことだ」

「何ですか?」

「僕の代わりに文句を伝えて? 彼に」

「彼って? あ、もしかして、ジョシュアさん?」

「生徒代表殿でも、この状況は打破できないよ。
僕が居る場所まで辿り着けるのは、多分、ボージェ教授だけだから」

「ボージェ教授? あの、神秘学の?」

「そう。君は学院の代表番号に電話をして、
ボージェ教授を呼び出してくれる? 彼が電話に出たら、こう伝えて?」

アンリから教授への伝言はこうだった。

「寒いから早く迎えに来て。僕が風邪を引いたらどうするの、って」



解りました、と言いながら、
##NAME1##は自宅のベッドで目を覚ました。
目を覚ましたということは、それまで寝ていたということだ。

##NAME1##は自分の携帯電話を手に取る。
時刻を見ると、起きるにはまだ早い時間だった。

アンリに電話をしてみようか、という考えが頭に浮かぶ。
今のは夢で、現実ではないのは解っている。

でも、もし。いや、もし、なんてことは有り得ないけれど。
アンリが無事で居ることを確認したい。顔を見たい。

でも、不思議な夢を見て心配になった、なんて言ったら、
彼には変に思われるだろうか。
##NAME1##は携帯電話を握り締める。

やっぱり電話してみよう。
手早くボタンを押し、ユウタの携帯に電話をかけた。


fin
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