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Marginal Prince Short Story
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Song for Me1 続編
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「どんなのを書いてくるか楽しみですね」

生放送の音楽番組が終わり、俺達三人が楽屋に戻ってくると、
##NAME1##さんはスマートフォンで誰かと話しているところだった。

途端にアルフレッドは不機嫌そうな顔をして、鏡の前の椅子を引く。
シルヴァンはテーブル席に向かい、##NAME1##さんの向かい側に座った。
俺は空いている席、シルヴァンの隣に座る。

シルヴァンは笑顔で##NAME1##さんを見上げている。
##NAME1##さんも笑顔を見せながら、電話を続ける。

「丁度戻ってきました。三人には私から伝えておきますね。
はい。解りました。え? 覚えてますよ。はい。じゃあ、またあとで」

##NAME1##さんはスマートフォンをポケットに入れながら、俺達三人に言う。

「生放送お疲れ様でした。今日もすごく良かったですよ」

「んなこと言って。誰かと電話してたじゃねえか。
今の収録、見てくれてなかったのかよ? 今日はスゲエ良い出来だったのにさ」

拗ねた子供のように言ったのはレッドだった。

「いつも言ってるけど、ちゃんと見ててくれなきゃ困るぜ?
##NAME1##は俺達『ウーティス』のマネージャーなんだから」

「ちゃんとエンディングまで見ていましたよ、スタジオのはじっこで。
社長から電話がきたのは、ついさっきです」

「なんだ。電話の相手、アンリだったのかよ」

俺達の所属事務所はアンリが立ち上げた。
所属しているミュージシャンは俺達『ウーティス』だけだ。
事務所の社長、兼プロデューサーがアンリ。

アンリ社長は、学生時代より目が悪くなったのか、
今では眼鏡を掛けるようになって、コワイくらい似合ってる。
毒舌は相変わらずだけど、そういう人だって解ってるから、
レッドも「アンリがプロデューサーだと、やりやすい」って言ってた。

レッドとアンリは仕事の話になると、たまに意見がぶつかったりもするけど、
学生時代から二人はそうだったし、
相手に遠慮なく本音でぶつかれる仲だってことなんだと思う。

ちなみに、俺達のバンド名を『ウーティス』と決めたのはアンリだった。
レッドは『デッドプリンス』にしたかったみたいだけど、
「それじゃ売れない」とアンリに却下された。

そして、俺達のチーフ・マネージャーが、ユウタのお姉さん。
サブ・マネージャーがユウタだ。
ユウタはお姉さんより遅れて入ったから、
今はまだお姉さんのお手伝いといったかんじだけど、
姉弟だけあってチームワークは抜群だ。ケンカもしてるけど。

ユウタはよくアンリに怒られてるみたいだけど、
ユウタがユウタなりに一生懸命なのは俺達が解ってる。
バンドのメンバーもスタッフも友達ばかりで、
なんだか学生時代が続いているみたい。

ちなみにジョシュアは、ロレート公国で立派な王子様をやってる。
ジョシュアも俺達のデビューを喜んでくれた。
アンリのところには、ジョシュアから時々メールが来るみたい。

マネージャーとミュージシャンという関係になってから、
俺はユウタのお姉さんのことを、呼び捨てではなく、
##NAME1##さんと呼ぶようになった。
名字に『さん』付けだと、よそよそしいし。
かと言って、##NAME1##、と呼び捨てるのもダメな気がしたから。

「あ、そうそう。社長から、良いお知らせです」

##NAME1##さんが嬉しそうに言った。

「次のアルバムの発売が決まりました!」

「わお! もう次のアルバムですか」

シルヴァンが大きなリアクションで驚く。

「では、今お話ししていた『僕達に伝えること』というのはそれですか?」

「はい。しかも、ただのアルバムじゃあ、ありません。
なんと、ソロ曲ありです! しかも各自二曲ずつ。
作詞が絶対条件で、作曲するかどうかは任せる、とのことです」

えっ、と言う俺の小さな声は、声の大きな二人にかき消された。

「各自の作詞でソロ曲ですか! 面白そうですね!」

「作詞の締切はいつなんだよ?」

「それがあんまり時間がなくて申し訳ないんですけど、
今月末までに二曲の作詞をお願いできますか」

「二週間しかねえじゃん! ったく、またアンリのムチャ振りかよ」

不満げなレッドをシルヴァンがなだめた。

「アンリのムチャ振りはいつものことじゃないですか。
社長のご命令には逆らえませんよ。僕達はさっさと曲作りしましょう?」

「ありがとうございます、シルヴァンさん」

「いえいえ。お役に立てて光栄です。
敏腕美人マネージャーの##NAME1##女史?」

「私なんかを持ち上げても、何も出ませんよ。
じゃあ、すみませんが二曲の作詞、お願いしますね」

「はい。仰せのままに。僕達のお姫様」

##NAME1##さんと話す時、シルヴァンはいつも楽しそうだ。
やっぱり今でも好きなんだと思う。
レッドもシルヴァンも、##NAME1##さんのことが。

「それじゃ、私は事務所に戻らなくちゃいけないので、
今日はここで解散、ということで良いでしょうか?」

「そりゃ良いけど、##NAME1##は、まだ仕事残ってるのか?」

「ええ。仕事というか、社長と今後の打ち合わせで」

「アンリと? 二人っきりでか?」

「ええ、まあ」

「ハルヤ、ハルヤ。こういうのって、
四字熟語で『職権乱用』って言うんですよねー?」

「いや、うーん。どうかなあ?」

「##NAME1##、俺が事務所まで送ってってやるよ」

「大丈夫ですよ。レッドさんは生放送終わりで疲れてるでしょう?
今日くらいは早く帰って、おうちでゆっくりして下さい。
打ち合わせとかは、私達、裏方の仕事なんですから」

##NAME1##さんは上着と鞄を持つ。

「それじゃ、失礼しますね。お疲れ様でした」

ドアが閉まった。楽屋が俺達三人だけになると、
あーあ、と言いながら、レッドが椅子の背に凭れた。

「アンリのヤツ……ホントに仕事の打ち合わせなんだろうなあ?」

シルヴァンは楽しそうに笑った。

「もしかして、『次は、君の人生を僕にプロデュースさせて欲しいんだ』的な、
展開になったりするかもですね? プロデューサーだけに!」

「なっ!? やっぱ付いてったほうが良いんじゃないか、マジで!」

「大丈夫ですよ、レッド。##NAME1##は、底なしに鈍感ですから。
アンリが何らかのアプローチをしたとしても、
##NAME1##なら自然にスルーしてますよ」

「それもそうだな。心配ないか!」

「ええ。心配ないです」

「ま。おかげで俺達も、##NAME1##とは何の進展もないわけだけど。
アーティストとマネージャーになってからは、ずっと一緒に居るってのに」

「でも、幸せなんですよねえ、僕」

しみじみと言ったのはシルヴァンだった。

「いつも忙しいですし、楽しいことばかりではないですけど、
嬉しいんです。学院を卒業した今でも、
こうして、大好きな皆さんの傍に居られて」

思いのほか、場がしんみりしたのを察して、シルヴァンが笑顔を作る。

「……なーんて言うと、僕のキャラじゃないですかね?
僕、ウーティスのワイルドオタク系ですし」

「そのキャッチフレーズもイミ解んないけどな」

「僕にピッタリのフレーズだと思いますけど」

「そーかよ。あ、いっけね!
収録終わったのに、ツイッター書くの忘れてた!」

「あ、僕もツイートしてませんでしたー。三人で写真撮りましょうよ!」

「だな!」

レッドとシルヴァンがスマートフォンを取り出す。
楽屋前で写真を撮ろうという話になったようで、
二人に連れられて、俺も楽屋の外に出た。

楽屋のドアに貼られている、『ウーティス様』という文字と、
番組ロゴが入った貼り紙をバックに、三人並んで写真を撮った。
レッドのツイッター用には貼り紙を指差した写真、
シルヴァンのツイッター用には肩を組んで、とポーズを変えて撮った。

「よっし。これでツイッターはオッケーと」

写真を撮り終わったレッドは、サッサッとスマートフォンを触り、
あっという間に、ツイッターを書き終えたらしい。
レッドはツイッターの他にフェイスブックとかもやっている。

「ほんと、マメだよね、二人とも」

「ハルヤが面倒くさがり過ぎなんだよ。
俺のツイッターに『ハルヤ君はどうしてツイッターをやってないんですか?
ツイッターを始めるように、レッドからもハルヤ君に言って下さい』
ってツイートがファンのみんなからバンバン来てんだぞ?」

「あ、それ、僕のところにもよく来てますー」

「え。そうなの?」

「ファンに求められてんだから、お前もいい加減、始めろよな」

「やだよ、ツイッターなんて」

「なんで、ツイッターやんないんだよー、始めたら絶対楽しいってー」

二人みたいに一日に何回もツイッターを書くのなんて、俺には絶対無理だし。
仮に、始めたとしても、三人の中でフォロワー数が一番少ないのは、
俺に決まってる。三人の中で、人気が三番手だという、
解りきってる現実を、わざわざ世界に公開したくなかった。

「俺は二人と違ってマメじゃないし、
ブログとファンメールだけで精一杯なんだから」

「あ、ファンメ用の写真、撮ってねえや!」

「そうでした! 僕も撮らなくっちゃ」

俺達がファンメールと呼んでいるのは、アンリ直々の社長命令で始まった、
ファンサービスのひとつで、俺達が書いたメールが、ほぼリアルタイムで、
ファンのメールアドレスに直接届くメールサービスのことだ。
ファンの人は、アルフレッド、シルヴァン、ハルヤのうち、
何人登録してもOKで、一人登録するごとに月額315円かかるそうだ。

それが高いのか安いのか俺には解らないけど、
俺が書くメールにお金が取れる価値があるのかどうか、
そう考え始めると、自信がなくて、申し訳ない気持ちになる。

アンリには「ファンサービスの中でも、特に喜ばれているものだし、
コスト的にも、悪くない商品なんだから、君達はできるだけ多く、
メールを送信するようにね」と言われている。

三人の中で、誰が一番登録数が多いのか、俺達には知らされてないけど。
聞くまでもなく、レッド、シルヴァン、俺の順だろう。
『ウーティス』の人気ランキングは、どう考えたって、そうに決まっている。

「レッドー、写真、また三人で撮りますー?」

「俺はいいや。ファンメは、俺のワンショットにするから」

そう言いながら、スマートフォンに向かってウインクしていた。
前にレッドがこう言っていた。
「ファンメは、ファンからお金貰ってるサービスなんだから、
ツイッターよりもサービスしなきゃな」と。

だからレッドは、好きな人に送るようなメールになるよう心掛けて、
ファンメールを送っているらしい。
おはようメール、とか、おやすみメール、だけじゃなくて、
疲れた日は、正直に「今日は疲れた」と打ち明けるのも、
大事なんだって言っていた。

「じゃあ僕は、ハルヤとツーショットにしまーす。
ハルヤー、お写真一枚、お願いしまーす」

「はいはい」

俺がシルヴァンの傍に行くと、
サッと腕を組まれて、あっという間に一枚撮られた。

「はい。ありがとうございまーす。
フフッ。ビックリした顔のハルヤが撮れましたー」

「撮るよ、って言ってから撮ってよ……」

「だって、驚いた顔の可愛いハルヤが撮りたかったんですもーん」

「もう……」

「ハルヤは、僕とのツーショット撮らなくて良いんですかー?
ファンメールに載せたら、ハルヤのファンの皆さんも、
きっと喜んでくれると思いますよ?」

「そんな、照れくさいよ……」

「ハルヤがそんなこと言っているから、
僕のファンメールに登録している、
ハルヤファンがとっても多いんですからねー?」

「……え?」

「僕はハルヤの写真もいっぱい載せますからね。
ファンの方が言ってましたよ? 『ハルヤ君は恥ずかしがって、
たまにしか自分の写真を載せてくれない』って。
まあ、ファンの皆さんも、ハルヤのことを解っていて下さいますから、
ハルヤの恥ずかしがり屋さんなところも、愛おしいんでしょうけど」

「じゃー、俺はそろそろ帰るぜー?」

レッドがスマートフォンをズボンのポケットに入れる。

「駐車場でアイヴィーが待ちくたびれてるだろうしな」

学院の専属ドライバーだったアイヴィーも、
レッドから強引な誘いを受けたようで、
今では俺達『ウーティス』の専属ドライバーだ。

なんでアイヴィーまで巻き込んだのかとレッドに聞いたことがある。
その理由を聞いた時、俺はびっくりしてしまった。
大分前に、アイヴィーに言われた一言が原因だったらしい。

いつだったか、在学中に俺達がアイヴィーの車を呼ぼうとした時、
「今日はダメだ」と言われて、他の車が来たことがある。
結局はその車でアイヴィーの家まで押しかけちゃったんだけど。
その時、俺達はアイヴィーにこう言われた。

――俺は学院とは専属契約してるが、
  お前さんらの専属じゃないんだよ――

「それ聞いた時、なんかカチンと来たからさ。
だから、俺達の専属にしてやったんだ。
これならアイヴィーも、いつだって来れんだろ?」
とレッドは笑っていた。

本当にアイヴィーを専属ドライバーにしてしまった人は今、
芸能人的なサングラスをかけながら、

「シルヴァンとハルヤも、今日は俺の車に乗ってくかー?」

俺はシルヴァンの顔を見る。すると、シルヴァンが答えてくれた。

「ありがとうございます。でも今日は、僕の車で来ているので」

「そっか。じゃあお前達、気を付けて帰れよ?
今日の帰り道は特に、な?」

「なんで?」と俺が聞く。

「なんでって、お前達がさっき『二人で一緒に住んでる』って、
バカ正直に言っちまったからだろーが。
生放送で、あんなこと言ったら、
出待ちのファンに、家まで付けられるぞ?」

「うそ……」

「成程ー。僕、そこまで考えてませんでしたー。
さすが、芸歴の長い大先輩は違いますねえー」

「バーカ。そんな呑気なこと言ってる場合じゃねえっつの」

「どうしよ……じゃあ俺達もアイヴィーの車に乗っけて貰ったほうが」

「しょーがねえ。俺が先に出て、ファンの子達、引き受けてやるよ。
ファンのみんなと写真撮ったり、サイン書いたりしてる間に、
お前達は隙見て、さっさと車に乗って帰れ。解ったか?」

「はいっ! 解りましたっ!」

「ありがと、レッド」

「いいってことよ。芸能界では俺のほうが断然、兄貴なんだからな」

「わお! レッド、カッコイイです! アーニキー!」

「調子に乗んな。じゃ、お前達は、今から十分後くらいに来るんだぞ?」

「了解です、アニキ!」

「うん。解った」

「じゃー、お疲れっ」

レッドがバックを左肩に背負う。

「また明日なー」

右手を挙げて、楽屋を出て行った。


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