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Marginal Prince Short Story
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■レッド×シルヴァン
■二人のシナリオのクリア者向け
------------------------------
「シルヴァン! 今からツーリング行こうぜ!」

「…君はまた急ですね、レッド。僕、寝起きですよ?」

今日は森では無く、部屋で午睡していた。
なんとなく気分が優れなくて、森まで行く気力が無かった。
少しは眠ったものの、眠りが浅過ぎてまだ具合が悪い。
そんな時に、喧しい声に喚かれる。

「ぐだぐだ言うなって! ほら、さっさと行くぞ」

「でも、今からですか? もうすぐ夕食ですよ?」

「大丈夫だって! すぐ戻って来るから!」

「ツーリングと言っても、バイクは君のしか無いでしょう?」

「さっき、街で1台借りて来た♪ あ、返しに行くのはお前な?」


二人はバイクで丘の方へ向かった。
走法は付かず離れず、一定の距離を保っていた。

小高い丘に着く。
遠く海が見える。

二人は草の上に寝転ぶ。
空は茜色だ。

「あー! 気持ち良かったー! やっぱバイクってサイコー!」

「そうですね。僕も好きです」

「あっ!!!」

レッドが突然、上体を起こす。
続いて、シルヴァンも起き上がった。

「どうしました?」

「シッ! 曲が聞こえてきた!」

人差し指を口に当て、そのまま目を閉じる。
シルヴァンの耳には何の音楽も聞こえない。
レッドの中だけで鳴り響いているのだ。

シルヴァンは今までにも遭遇したことのある場面だった。
レッドは幼い頃から役者だっただけに、感性が高いせいか、
何か刺激を受けると、それがメロディや歌詞となって、
『聞こえてくる』ことがあるそうだ。

今まさに、夕陽が歌っているのだろう。
レッドだけが感じ取れる歌声で。

レッドは靴を小気味良く鳴らしながら、
降りてきた曲を、自分の物にしていく。
小さく口ずさみながら、
サビと思われるメロディを何度か復唱した後、
曲全体まで徐々に骨組みされていく。

レッドが「できたっ!」と言うまで、たった数分だった。

「あー! 何で此処にギターがねえんだろっ!
シルヴァン! 忘れちまう前にお前も聞いてくれ!」

はい、と了承する前に歌い出していた。
丘の頂上に立って、島の全てに向けて歌っているようだった。

パワーに満ちた伸びやかな歌声。

この歌が今生まれたばかりとは思えない程、
自信たっぷりに歌い切った。
メロディからもレッドの個性が溢れている。
明るくて、口が悪くて、友人が大好きで…
そういうところが、彼によく似ている。

「どーよっ!?」

「とても良い曲ですね」

「サンキュ! …って、どうした、シルヴァン!?」

急に俯いて沈痛な表情を見せた。
シルヴァンは、少し無理をして微笑を浮かべる。

「歌う君を見ていたら、ブライアンのこと、思い出してしまいました。
彼も、君のような歌い方でしたから」

ブライアンは二人の共通の友人だったが、数年前、事故で亡くなってしまった。
レッドは以前、ブライアンとバンドを組んだり、映画を撮ったりしていた。

シルヴァンにとっては、ブライアンは唯一の幼馴染だった。
そのおかげで、入学直後レッドとすぐに仲良くなり、バンドも組むことになった。
ブライアンの父が、アルフォンソ学院に入学に必要な保証人であり、
彼等親子には、感謝し尽くせない程世話になっている。

レッドは明るい声で返して来た。

「あいつ、俺に似てるとこあったもんな。ま、俺の方がカッコイイけど?」

「そうですね、そうやってジョークばかり言うところも似ていますよ」

「あー? ジョークじゃないんだけど?」

「ブライアンもそう言うでしょうね。彼も自信過剰でしたから」

シルヴァンは横髪に指を通す。
彼と初めて会った時は、まだ肩にも届かなかったのに。

「彼が亡くなって、もう何年も過ぎたんですよね…嘘みたいです」

「ほんっとだな。最後まで、冗談みたいに居なくなりやがって」

「ええ。本当に。彼のジョークには散々振り回さたものですが、
こうして亡くなってしまうと、笑顔しか思い出せなくて…悔しいです」

二人の間を少し冷たい風が通り過ぎる。
丘の草原が、さらさらと揺れている。
遠くで鳥が鳴いていた。

「でも俺、お前とアルフォンソ学院で初めて会った時、
ブライアンを知ってるって聞いて、すっげー嬉しかったんだぜ。
あいつが最後に残した、最高のプレゼントだって、マジで思った」

「ありがとう。それは僕もですよ、レッド。
君の口から彼の名前を聞いた時、なんだか、
ブライアンにまた会えたような気がして、
この学院に来れたことは、本当に幸せだったと感じましたよ」

「お前は、ガキん時から、ブライアンと一緒だったんだもんな」

「ええ。親同士の仲が良かったですからね。
僕は転校ばかりでしたから、昔からの僕を知っているのは彼だけでした」

「そうだよな」

「あの。ところでレッド?
今日は何故、突然僕をツーリングに誘ったんですか?」

「…お前、去年もそうだったから」

「去年?」

「ブライアンの命日が近付くと、お前落ち込んでたからさ」

「え…」

「バイクにでも乗ったら、少しは気が晴れるかと思ったんだけど」

「すみません、君がそんなことを考えていたなんて…
僕、ブライアンの話ばかりして…」

「なんか逆効果みたいだったな。悪い、余計辛くさせちまって」

「いいえ。ありがとう、レッド。綺麗な夕陽を見せてくれて。
今日ほど、君と会えて、幸せだと思ったことはありません」

「そっか」

「ブライアン、きっと今頃妬いていますね。
君にこの夕陽を見せて貰えなくて。
…生きていれば、一緒に見れたかもしれないのに」

「見てんだろ」

レッドが空を指差す。

「特等席でさ」

シルヴァンも空を仰ぐ。
燃えるように、美しい赤。

僕達よりずっと良い席で、彼も同じ色を見ている。

そんなレッドの言葉は、胸に吹いた隙間風を、ふっと止めてくれるようで。
シルヴァンは「そうですね」と言うのがやっとだった。

普段は乱雑な言葉ばかり、口にするくせに。

相手が本当に沈んでいる時には、
下手に優しいところまで似ているのだから。
この二人にはずっと振り回されている。

レッドが立ち上がる。

「さてっと。そろそろ帰るか。
さっきの新曲、ギターで弾いてみねえといけねーし」

「そうですね。あ、曲のタイトルは、決まったんですか?」

「んー。そーだなあ。んじゃ『サンセット・ボーイズ』ってのは、どおっ?」

「ネーミングセンス無いですよねー、レッドって」

「ちぇっ。どーせ『デッド・プリンス』って付けたのは俺ですよー」

「すみません。曲自体はとても素敵でしたよ?」

「トーゼン!」

その笑顔は赤い太陽より、ずっと眩しい。
一番似ているのは、やっぱりこの無邪気な笑顔だ。

レッドと共にバイクを停めた場所まで歩いて行く。

「レッド。今日は本当にありがとうございました。
またツーリング、行きましょうね」

「ああ、もちろん! 寮の奴等もバイク乗れれば良いんだけど。
なーんで、みんなバイク乗らないんだろーな?」

「人には相応というものがあるんですよ。
…バイクを乗り回してるアンリが想像できます?」

「うわー! ありえねー!」

レッドは一頻り爆笑した後、シルヴァンの傍に寄った。

「お前はさ、バイク似合うよな。特にコレ」

レッドは、シルヴァンの長い横髪を少し取る。

「…髪、ですか?」

「うん。バイクに乗ってる時さ、
お前の髪、風になびいてキレーなんだよなー」

「…運転中に、何よそ見してるんですか。危ないでしょう?
僕の髪など見ていて、転倒したらどうするんです?」

「だって、さっきもさ、夕陽に当たって、すっげーキラキラしてたんだぜ!」

「褒めて頂いた後で恐縮ですが、僕はそろそろ切らなくてはと思ってるんです」

「えー!? マジかよっ!?」

「もう大分長くなりましたからね。いっそ、君くらい短くするのも良いかと」

「ダメだ! 俺、お前の長い髪、気に入ってんだぞ!」

「では、君の為に、このまま伸ばしていろと?」

「そう!」

「…勝手な人ですね、君も」

今は亡き悪友の声が、シルヴァンの耳だけに聞こえてくる。


――お前の髪キレーだから、ゼッタイ長い方がイイっって!


シルヴァンは、自らの髪を手に取る。
もうこんなに長くなったのに。

「…また切れなくなってしまいましたね」


fin
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