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■初夏はアイスコーヒー(前編) 続編
雑味までしっかり入った黒い液体を飲みながら、
ソクーロフは金髪の患者を観察していた。
保健室に訪れる者は、多かれ少なかれ、
患者としての要素を持ち合わせているものだ。
喉を潤した金髪の患者は「ベッド貸してー」と言って、
ソクーロフの了承を得る前に診察用の簡易ベッドに横たわった。
固いベッドに金色の長い髪がパサリとかかる。
引き続き、ソクーロフは患者を観察した。
奴は横たわった状態で、スマートフォンに触れていた。
一時間後に起きる為のアラームを設定しているのだろう。
それが終わると、こちらを向いて、「ねえー」と甘えた声を出した。
「ミーティングの10分前になっても、
俺が起きてなかったら、起こしてねー?
んで、一緒にジョシュアんトコ行こ?」
この男が保健室のベッドを借りに来る理由には、
大きく分けて二つのケースがある。
ソクーロフは経験則で知っていた。
ひとつは、空き時間の時間潰し。
主にタクシードライバーとして生徒に呼ばれている時がこれに当たる。
生徒との待ち合わせ場所である、正門前へ迎えに行くまでの、
時間調整として保健室が使われる場合。
これは文字通り、ただの時間潰しなので特に観察は必要としない。
だが、今日はそちらのケースではないようだ。
いつの頃からか、奴が纏う雰囲気で解るようになっていた。
他の人間は全く気付かないレベルだろうが、
表情や声、他愛もない遣り取りの中に、
過剰な陽気さや、僅かな偽りが見えた時は、観察が必要だ。
ソクーロフはコーヒーに口付けたあと、ベッドに向かってこう言った。
「昨夜は来客があったのか? 私は呼ばれていないが」
「うん。昨日のお客さんはみんな素直で、センセを呼ぶまでもなかったから」
タクシードライバーとしてではない仕事。
この島の警備として、招かれざる客を排除する。
この男の本職はこちらだ。
本業の仕事を終えた翌日は、こうして保健室に訪れることがある。
お気楽者の目の奥に、暗い影をちらつかせながら。
「んじゃ、おやすみー」
ソクーロフに背を向け、身体を少し丸める。
それ以降、会話は止まった。
ソクーロフはカルテ書きを再開することにした。
そのうちに静かな寝息が聞こえてきた。
太陽が降り注ぐ時間帯、かつ、カフェインの摂取後。
それでも、すぐに眠れるということは、
睡眠時間が圧倒的に不足しているということだ。
今日の態度や言葉の端々には疲れが見えた。
“仕事”のあと、一睡もせずに、朝を迎えたのかもしれない。
しかし、帰宅後に眠る時間自体はあった筈だ。
自分を呼ばずに済んだ案件なのだから。
寝返りを打った顔には、太陽の光が当たっていた。
それで余計に顔の陰影が濃く見えるのかもしれないが、
目の下には影があり、少し窪んでいるようだった。
ソクーロフは窓辺に行き、カーテンを閉めたあと、
再び机上のカルテと向かい合った。
保健室にはペンの走る音と、静かな寝息。
窓の向こうからは、子ども達の声が遠く聞こえていた。
fin
雑味までしっかり入った黒い液体を飲みながら、
ソクーロフは金髪の患者を観察していた。
保健室に訪れる者は、多かれ少なかれ、
患者としての要素を持ち合わせているものだ。
喉を潤した金髪の患者は「ベッド貸してー」と言って、
ソクーロフの了承を得る前に診察用の簡易ベッドに横たわった。
固いベッドに金色の長い髪がパサリとかかる。
引き続き、ソクーロフは患者を観察した。
奴は横たわった状態で、スマートフォンに触れていた。
一時間後に起きる為のアラームを設定しているのだろう。
それが終わると、こちらを向いて、「ねえー」と甘えた声を出した。
「ミーティングの10分前になっても、
俺が起きてなかったら、起こしてねー?
んで、一緒にジョシュアんトコ行こ?」
この男が保健室のベッドを借りに来る理由には、
大きく分けて二つのケースがある。
ソクーロフは経験則で知っていた。
ひとつは、空き時間の時間潰し。
主にタクシードライバーとして生徒に呼ばれている時がこれに当たる。
生徒との待ち合わせ場所である、正門前へ迎えに行くまでの、
時間調整として保健室が使われる場合。
これは文字通り、ただの時間潰しなので特に観察は必要としない。
だが、今日はそちらのケースではないようだ。
いつの頃からか、奴が纏う雰囲気で解るようになっていた。
他の人間は全く気付かないレベルだろうが、
表情や声、他愛もない遣り取りの中に、
過剰な陽気さや、僅かな偽りが見えた時は、観察が必要だ。
ソクーロフはコーヒーに口付けたあと、ベッドに向かってこう言った。
「昨夜は来客があったのか? 私は呼ばれていないが」
「うん。昨日のお客さんはみんな素直で、センセを呼ぶまでもなかったから」
タクシードライバーとしてではない仕事。
この島の警備として、招かれざる客を排除する。
この男の本職はこちらだ。
本業の仕事を終えた翌日は、こうして保健室に訪れることがある。
お気楽者の目の奥に、暗い影をちらつかせながら。
「んじゃ、おやすみー」
ソクーロフに背を向け、身体を少し丸める。
それ以降、会話は止まった。
ソクーロフはカルテ書きを再開することにした。
そのうちに静かな寝息が聞こえてきた。
太陽が降り注ぐ時間帯、かつ、カフェインの摂取後。
それでも、すぐに眠れるということは、
睡眠時間が圧倒的に不足しているということだ。
今日の態度や言葉の端々には疲れが見えた。
“仕事”のあと、一睡もせずに、朝を迎えたのかもしれない。
しかし、帰宅後に眠る時間自体はあった筈だ。
自分を呼ばずに済んだ案件なのだから。
寝返りを打った顔には、太陽の光が当たっていた。
それで余計に顔の陰影が濃く見えるのかもしれないが、
目の下には影があり、少し窪んでいるようだった。
ソクーロフは窓辺に行き、カーテンを閉めたあと、
再び机上のカルテと向かい合った。
保健室にはペンの走る音と、静かな寝息。
窓の向こうからは、子ども達の声が遠く聞こえていた。
fin
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