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Marginal Prince Short Story
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博士の平日 -09:00pm- 続編
捕らわれの侵入者が待っている部屋の前に着くと、
司令官に「じゃあ俺は鏡越しに見てるから」と言われた。
マジックミラー越しに司令官が見学してくれるようだ。
ソクーロフは一人、取調室の中へ入った。

ここは数少ないインテリアは白や灰色の物ばかり。
白い部屋の中央には、ポツンと椅子があり、
一人の男が項垂れた様子で座っていた。

年は三十後半だろうか。整っていない無精髭が目立つ。
よれよれのグレイのワイシャツ、ジーンズは裾や膝が少し汚れていた。
捕らわれの男はソクーロフを珍しそうに見た。

「アンタは? ここのおエライさんか?」

「いいや。この警備組織に雇われている医師兼カウンセラーだよ。
君の話をよく聞いてくるように、と頼まれている」

「じゃあ、聞いてくれ! んで、俺を見逃してくれよ!」

男はまくし立てるように喋った。

「最後のチャンスだって言われてんだ。
ガキを一人連れて帰れば、助けてくれるって」

彼の話は支離滅裂だったが、根気良く聞いているうちに事情が呑み込めた。
この男が島に来た目的は、学院のある生徒を誘拐、もしくは殺害することだった。
世話になっている人物にそれを依頼されたらしい。
その為、男は生徒に対して恨みどころか面識さえないとのことだった。
男はソクーロフにすがった。

「そのガキを連れて行かなきゃ、俺はおしまいなんだよ。
手土産なしで帰ったんじゃ、俺は殺されちまうかもしれねえんだ。
なあ、今回だけ見逃してくれよ。金なら後で必ず払う」

「金?」

「ああ。今は持ってないけど、成功報酬がたんまり貰える約束なんだ」

「ほう。成功報酬か」

「頼む。見逃してくれよ!」

「君は私を買収したいんだね?」

「ああ。先生にとっても悪い話じゃないだろ?」

「残念だが、君の話には乗れないな」

「じゃあアンタ、俺を見殺しにするってのか?
俺の命はどうだっていいっていうのか!?」

彼はヒステリックに叫んでいた。

「ガキの命を守る為に、俺の命を捨てるってことだろ!?
医者のくせに、二つの命を比べて、片方捨てようとしてんじゃねえか!」

「……そうだね」

「命ってやつだけは、みんな平等じゃねえのかよ!
なあ、医者のアンタなら解ってくれる筈だ! 俺の命を助けてくれよ!」

ソクーロフは一呼吸置いたあと、静かに言った。

「すまないが、今の私は聖アルフォンソ学院の人間なのでね。
生徒を君に渡さないことで、本当に君が危険に晒されるのだとしても、
私は生徒の命を守らなくてはいけないんだよ。
命の二者択一を迫られた時、医師は自己の判断で選ばなくてはいけない。
どちらを選んでも、きっと後悔すると解っていてもね」

深く項垂れた男はぽつりと呟いた。

「……人殺し」

ソクーロフは言葉を返さなかった。
バッと顔を上げた男は憎しみに燃える目で睨んできた。

「あんたは医者じゃない! ただの人殺しだ!」

それから男は、あらゆる言葉でソクーロフを罵り始めた。
彼の口から放たれる罵詈雑言。
プロのカウンセラーは、どんな言葉を投げつけられても、
相手の言葉に飲み込まれないよう訓練されている。
ソクーロフも静かに彼の言葉に耳を傾けていた。

自分が持っている技術を使えば、途中で彼の言葉を遮ることは可能だったが、
この時のソクーロフは、敢えてそうしなかった。
彼の気が済むまで、ソクーロフは罵声の嵐を聞き続けた。

男が叫び疲れ、今度はすすり泣き始めた頃、
ソクーロフは彼を深い催眠状態にいざなった。

彼が誘拐もしくは殺害しようとしていた生徒の名前を聞き出したところ、
うつろな目をした男は、こう答えた。

「……金髪の……ミハイルって名前のガキだ」


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