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■ホワイト・レディ4 の続編
リキュール当てクイズで場が和んだあとは、C博士の山や海の話を始め、
互いの近況報告のような話をしていたと思います。
新鮮なメンバーが五人揃ったせいで、Sにはどの話も目新しいものでしたが、
予定外に帰りが遅くなっていることも気になっている頃でした。
「おっ、イイねえ~」
突然、ニヤニヤしながらC博士がそう言いました。
何が良いのかと、彼の視線を負うと、
C博士が見ていたのは、一人の女性でした。
モデルのような肉体を持つ女性が、
このテーブルの横を通り過ぎ、カウンター席に座ったんです。
紫のワンピースは、女性であることを見せ付けるかの如く、
ボディラインにピッタリと合い、
スカートの部分はかなり短く、白い太ももを覗かせていました。
「いやー、イイもん見たな~」
「止めて下さいよ、恥ずかしい」
喜んでいるC博士をたしなめたのは、Bでした。
「C博士って、ああいう明らさまなのが好みなんですね」
「何だ、B。妬いてんのか~?」
「失望してるんです。あんなのにフラフラ付いていったら、
大金だけ取られて泣かされるのがオチですよ」
「そりゃ~、偏見だろ。あのナイスバディが羨ましかったら、
お前も一度、ああいうムチムチの着てみろって。
お前、背だけは高いからな、案外似合うかもしれないぞ?」
「死んでもイヤです」
「あ、あの、C博士」
「んー? どうした、A」
先程から、もじもじとしていたAが、
何か、思い切ったように、こう言い出したのです。
「あの件、L博士とSさんに、ご相談してみるのは、どうでしょうか?」
Aがそう言うと、同じチームのBとC博士は三人で顔を見合わせました。
「おい、A。部外者には関係ない話だろ」
止めに入ったのはBで、彼女は反対のようでした。
「でも、お二人にご相談したら、
何か良いアドバイスが頂けるかもしれませんし」
C博士は腕を組みながら、そうだな、と言いました。
「俺達の間で煮詰まってるよりは、外部の意見を聞いたほうが良いかもな。
うちの組織内でも、最もクレバーでクレイジーなお二人さんだから」
L博士はたしなめるように、
「C君。全く、アルコールが入ると更に口が悪くなるね、君は。
それで、A君? あの件というのは、何か困っている事があるのかな?」
「はい。実は最近、私達のチーム内で、紛失というか、
資料の一部が無くなってしまうことが続いていて」
「えっ? それは、大変じゃないか。要は盗難だろう?」
「盗難と言うほど、重大な被害ではないんです。
無くなったと言っても、ほんの少しで、回復が可能なレベルでしたから」
Sは、大人ばかりの組織内で、そんな性質の悪い、
イタズラ染みたことがあるのか、と思いました。
面倒見が良いL博士は、親身に相談に乗るつもりのようで、
話を詳しく聞きたい様子でした。
「A君、それはいつから始まって、
今までに何回くらいあったのかな?」
「ええと、回数は四回くらいです。最初は……いつからでしたっけ?」
話を振られたBが気だるげに答えました。
「さあ。いつだったかな。結構前じゃない?」
「一度目は二か月前で、パソコンの中にあった論文データの削除」
そう答えたのはC博士でした。
「その時に無くなったのは、ファイルひとつ。と言っても、
中身は数ページ程度だったから、大したダメージじゃなかったのさ。
一度目だったし、誰かが操作ミスで消しちまったのかも、くらいで、
皆も別に気にしてなかったから、皆の記憶を頼りにもう一度書き直したよ」
「それで二度目は?」とL博士。
「二度目も同じさ。論文のデータファイルがひとつ無くなってた。
これも量的には数ページ。一度目よりは少し増えてたがな。
まさか、うちのデータが続けて無くなるとは、
誰も思っていなかったから、バックアップもとっていなかったんだ。
これも少し手間だったが、すぐに修復可能だったよ」
「成程。バックアップをとるようになったのはその時からかい?」
「ああ。よく解ったな。二度目の盗難が起こったあとから、
他の皆には内緒で、俺がバックアップをとることにしたんだ。
一日一回、帰る前に、論文データを全てUSBメモリに落とした。
そしたら案の定、三度目が起こったわけよ。
論文のファイルが、今度は二つ無くなってた」
「ではその時に、バックアップをとっていたことを皆に話したんだね?」
「まあ、そうなんだけどさ。俺が次に何を言うか解るからって、
俺の台詞を取るなよ、L。お前、そういうとこ昔から変わらないな」
「ああ、すまない、つい、ね。ではどうぞ。続けて?」
「でー、ええと、どこまで言ったっけ?」
「皆に話したんだろう? バックアップをとっていた、って」
「ああ、そうそう。三度目の盗難のあとな。
皆も流石に気味悪がってたしさ。
とりあえずデータは無事だぜ、って安心させてやりたかったんだ」
「自分の株を上げたかったから、ではないのかい?」
「L! そ、そういうこと言うなよ!」
「でも、あの時のC博士、格好良かったです」
フォローしたのはAだった。
「さすがチームリーダーだなって、Dさんも言ってたんですよ」
「そ、そうか」
ジッポが開く音がしてSが視線を配ると、Bが煙草に火を点けていました。
それに気付いたAは、自分の近くにあった灰皿をBの前へ置いたんです。
すると、Bの口が少し動きました。
Bと席が離れているSには聞こえませんでしたが。
「また話を中断させてしまったね、すまない。
では、四度目の盗難について聞かせてくれるかい?」
L博士に促され、C博士は苦い顔をしました。短い髪を掻きながら、
「こいつがやっかいでな。今度はデータじゃなかった。
うちで扱ってる研究材料のほうに手を出された」
「君のとこの研究材料というと、まさか、ラット達かい?」
「ああ。朝来たら、実験中の一匹が、酷く衰弱してた」
「何をされたんだい?」
「投薬だ。そいつは結局、死んじまった。
解剖してみたら、カフェインの過剰摂取だったよ」
L博士は、ううむ、と小さく呻きながら椅子に凭れました。
「カフェインの急性中毒か。
ラットのLD50は、192mg/kgだったね」
LD50とは半数致死量の略語です。
何かを動物に投与した時、その半数が死亡する量を意味します。
192mg/kgは、動物1kgに対して192mg与える、
ということですから、例えばラット1匹の体重を300gとした時、
100匹のラットに、63.9mgずつカフェインを投与すれば、
その半数である50匹が死亡する、という数値です。
C博士は呆れたと言わんばかりに、
「何も見ずに……よくLD50なんか覚えてるな。
相変わらずお前の記憶力はとんでもねえ」
「ラットのLD50は、あらかた全部覚えさせられたじゃないか?」
「何年前の話だよ、それ」
「まあ、それはさておき」
L博士は背を椅子から離し、座り直しました。
「パソコンの中にあるデータは、C君にバックアップをとられているから、
これ以上、どんなに消去しようとも、もう意味がない。
だから次は、実験に使用しているラットに目を向けたんだね。
実験中のラットなら、バックアップも修復も不可能だから」
「ああ、とんでもねえ奴だよ」
C博士は悔しそうでした。
「ねえ、C君。ラットに投与されていたカフェインだけれど、
それは、薬品庫の中にあるものだったのかな?」
「ああ。多分な」
「そうか。では、誰にも入手可能だね」
「そーゆーこと」
今度はC博士が椅子に凭れかかりました。
→
リキュール当てクイズで場が和んだあとは、C博士の山や海の話を始め、
互いの近況報告のような話をしていたと思います。
新鮮なメンバーが五人揃ったせいで、Sにはどの話も目新しいものでしたが、
予定外に帰りが遅くなっていることも気になっている頃でした。
「おっ、イイねえ~」
突然、ニヤニヤしながらC博士がそう言いました。
何が良いのかと、彼の視線を負うと、
C博士が見ていたのは、一人の女性でした。
モデルのような肉体を持つ女性が、
このテーブルの横を通り過ぎ、カウンター席に座ったんです。
紫のワンピースは、女性であることを見せ付けるかの如く、
ボディラインにピッタリと合い、
スカートの部分はかなり短く、白い太ももを覗かせていました。
「いやー、イイもん見たな~」
「止めて下さいよ、恥ずかしい」
喜んでいるC博士をたしなめたのは、Bでした。
「C博士って、ああいう明らさまなのが好みなんですね」
「何だ、B。妬いてんのか~?」
「失望してるんです。あんなのにフラフラ付いていったら、
大金だけ取られて泣かされるのがオチですよ」
「そりゃ~、偏見だろ。あのナイスバディが羨ましかったら、
お前も一度、ああいうムチムチの着てみろって。
お前、背だけは高いからな、案外似合うかもしれないぞ?」
「死んでもイヤです」
「あ、あの、C博士」
「んー? どうした、A」
先程から、もじもじとしていたAが、
何か、思い切ったように、こう言い出したのです。
「あの件、L博士とSさんに、ご相談してみるのは、どうでしょうか?」
Aがそう言うと、同じチームのBとC博士は三人で顔を見合わせました。
「おい、A。部外者には関係ない話だろ」
止めに入ったのはBで、彼女は反対のようでした。
「でも、お二人にご相談したら、
何か良いアドバイスが頂けるかもしれませんし」
C博士は腕を組みながら、そうだな、と言いました。
「俺達の間で煮詰まってるよりは、外部の意見を聞いたほうが良いかもな。
うちの組織内でも、最もクレバーでクレイジーなお二人さんだから」
L博士はたしなめるように、
「C君。全く、アルコールが入ると更に口が悪くなるね、君は。
それで、A君? あの件というのは、何か困っている事があるのかな?」
「はい。実は最近、私達のチーム内で、紛失というか、
資料の一部が無くなってしまうことが続いていて」
「えっ? それは、大変じゃないか。要は盗難だろう?」
「盗難と言うほど、重大な被害ではないんです。
無くなったと言っても、ほんの少しで、回復が可能なレベルでしたから」
Sは、大人ばかりの組織内で、そんな性質の悪い、
イタズラ染みたことがあるのか、と思いました。
面倒見が良いL博士は、親身に相談に乗るつもりのようで、
話を詳しく聞きたい様子でした。
「A君、それはいつから始まって、
今までに何回くらいあったのかな?」
「ええと、回数は四回くらいです。最初は……いつからでしたっけ?」
話を振られたBが気だるげに答えました。
「さあ。いつだったかな。結構前じゃない?」
「一度目は二か月前で、パソコンの中にあった論文データの削除」
そう答えたのはC博士でした。
「その時に無くなったのは、ファイルひとつ。と言っても、
中身は数ページ程度だったから、大したダメージじゃなかったのさ。
一度目だったし、誰かが操作ミスで消しちまったのかも、くらいで、
皆も別に気にしてなかったから、皆の記憶を頼りにもう一度書き直したよ」
「それで二度目は?」とL博士。
「二度目も同じさ。論文のデータファイルがひとつ無くなってた。
これも量的には数ページ。一度目よりは少し増えてたがな。
まさか、うちのデータが続けて無くなるとは、
誰も思っていなかったから、バックアップもとっていなかったんだ。
これも少し手間だったが、すぐに修復可能だったよ」
「成程。バックアップをとるようになったのはその時からかい?」
「ああ。よく解ったな。二度目の盗難が起こったあとから、
他の皆には内緒で、俺がバックアップをとることにしたんだ。
一日一回、帰る前に、論文データを全てUSBメモリに落とした。
そしたら案の定、三度目が起こったわけよ。
論文のファイルが、今度は二つ無くなってた」
「ではその時に、バックアップをとっていたことを皆に話したんだね?」
「まあ、そうなんだけどさ。俺が次に何を言うか解るからって、
俺の台詞を取るなよ、L。お前、そういうとこ昔から変わらないな」
「ああ、すまない、つい、ね。ではどうぞ。続けて?」
「でー、ええと、どこまで言ったっけ?」
「皆に話したんだろう? バックアップをとっていた、って」
「ああ、そうそう。三度目の盗難のあとな。
皆も流石に気味悪がってたしさ。
とりあえずデータは無事だぜ、って安心させてやりたかったんだ」
「自分の株を上げたかったから、ではないのかい?」
「L! そ、そういうこと言うなよ!」
「でも、あの時のC博士、格好良かったです」
フォローしたのはAだった。
「さすがチームリーダーだなって、Dさんも言ってたんですよ」
「そ、そうか」
ジッポが開く音がしてSが視線を配ると、Bが煙草に火を点けていました。
それに気付いたAは、自分の近くにあった灰皿をBの前へ置いたんです。
すると、Bの口が少し動きました。
Bと席が離れているSには聞こえませんでしたが。
「また話を中断させてしまったね、すまない。
では、四度目の盗難について聞かせてくれるかい?」
L博士に促され、C博士は苦い顔をしました。短い髪を掻きながら、
「こいつがやっかいでな。今度はデータじゃなかった。
うちで扱ってる研究材料のほうに手を出された」
「君のとこの研究材料というと、まさか、ラット達かい?」
「ああ。朝来たら、実験中の一匹が、酷く衰弱してた」
「何をされたんだい?」
「投薬だ。そいつは結局、死んじまった。
解剖してみたら、カフェインの過剰摂取だったよ」
L博士は、ううむ、と小さく呻きながら椅子に凭れました。
「カフェインの急性中毒か。
ラットのLD50は、192mg/kgだったね」
LD50とは半数致死量の略語です。
何かを動物に投与した時、その半数が死亡する量を意味します。
192mg/kgは、動物1kgに対して192mg与える、
ということですから、例えばラット1匹の体重を300gとした時、
100匹のラットに、63.9mgずつカフェインを投与すれば、
その半数である50匹が死亡する、という数値です。
C博士は呆れたと言わんばかりに、
「何も見ずに……よくLD50なんか覚えてるな。
相変わらずお前の記憶力はとんでもねえ」
「ラットのLD50は、あらかた全部覚えさせられたじゃないか?」
「何年前の話だよ、それ」
「まあ、それはさておき」
L博士は背を椅子から離し、座り直しました。
「パソコンの中にあるデータは、C君にバックアップをとられているから、
これ以上、どんなに消去しようとも、もう意味がない。
だから次は、実験に使用しているラットに目を向けたんだね。
実験中のラットなら、バックアップも修復も不可能だから」
「ああ、とんでもねえ奴だよ」
C博士は悔しそうでした。
「ねえ、C君。ラットに投与されていたカフェインだけれど、
それは、薬品庫の中にあるものだったのかな?」
「ああ。多分な」
「そうか。では、誰にも入手可能だね」
「そーゆーこと」
今度はC博士が椅子に凭れかかりました。
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