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■ホワイト・レディ8 の続編
後日。L博士の研究室に、C博士がやってきました。
登山土産だというナッツ入りチョコレートを小脇に抱えて。
C博士は持ってきたチョコレートをつまみながら、
L博士にコーヒーを淹れさせ、今後の作戦について話していきました。
コーヒー片手に、Sも入れて三人で打ち合わせしたわけです。
Sが、DとEから話を聞きたいと言っていた件について、
C博士が考えた作戦はこうでした。
ランチタイムに、C博士がDとEを連れて組織内にあるカフェに行く。
そこへ偶然を装って、L博士とSが来る。
C博士が「Lじゃないか。こっち空いてるぞ」と言う。
そして世間話的に話を聞き出す、というものでした。
どうだ。これなら、容疑者扱いにもならず、ごく自然に話せるだろう、
と、C博士は自慢気に話してくれました。
別に作戦という程のものではありませんでしたが、
悪くはなかったので、Sはその作戦に乗ることにしたんです。
早速、それは翌日に決行され、無事にDとEに会うことはできました。
ただ、「Lじゃないか。こっち空いてるぞ」
と言うC博士のセリフは、少々ワザとらしかったですが。
Sが間近でDとEを見た印象を、先に話しましょうか。
Dは、実に正義感の強い、真っ直ぐな目をした男でしたよ。
チームリーダーはC博士なのですが、
Dのほうが、しっかりしているというか、リーダー向きの男でしたね。
だからこそ、三度あった論文のデータ損失について、
三度ともDが第一発見者となったのかもしれません。
Eという男は、どうも引っ込み思案というか、
ランチタイムの間、始終、視線が俯きがちで、
居心地悪そうにしていましたね。
何か後ろめたいことでもあるのか、と疑いたくなるくらいに。
ただ、時々、L博士とSをチラチラと盗み見をするように見ていたので、
ただ単に、Eは人見知りをしていたのかもしれません。
長方形のテーブルに五人の男ーーC博士、D、Eと、L博士、Sーーが座り、
ランチを食べながら、話しました。
後にも先にも、その五人でランチを食べたのはこの時だけでしたがね。
「そう言えば、C君。先日、バーで聞いた盗難事件だけど。
その後、データやラット達は、大丈夫なのかい?」
口火を切ってくれたのはL博士でした。
「ああ、今のところはな」
と言って、C博士はハンバーグを口に放り込みました。
「C博士、あの件、L博士に話したんですか?」
そう言ったのはDでしたが、Eも少し驚いているようでした。
「ああ。この前偶然、LとSにバーで会った時にな」
必要な質問はL博士から聞いてくれるようでしたので、
Sはフォークを口に運びながら、DとEの様子を伺うことにしました。
「D君が第一発見者だったそうだね?
論文データのチェックは、いつも君がやっていたのかい?」とL博士。
「というより、論文の続きを書こうと思った時に、
ファイルの数が、ひとつ足りないのに気付いただけですよ。
いつも見ているフォルダですからね、そのくらい誰でも気付いたと思います。
でも、第一発見者だなんて、まるでミステリの登場人物にでもなったようですね」
「ラットが一匹、衰弱していることに気付いたのは、E君だそうだね?」
名前を呼ばれたEは、一瞬びくりと肩が跳ね上がりました。
「ラット達の管理は、君の仕事だったのかい?」
「え。ええと、違います……けど、僕は、いつも見てましたから」
C博士は笑って、代わりに説明しました。
「Eは動物好きなんだよ。ラットのエサ係にも自分から手を挙げたしな。
こいつは自分のペットみたいに、ラットを可愛がってんだ。
そういや、お前、家でも何か飼ってるのか?」
「……いえ、今は何も……」
Eの声は、とてもか細く、聞き取るのがやっとでした。
「ふうん? じゃあ昔は?」
「犬を……子供の時に」
「やっぱ、前は飼ってたのか」
「E君。そのラットを見つけた時の聞いても良いかな?」
「見つけた時のこと……」
ギュッと唇を噛み締め、Eは今にも泣いてしまいそうでした。
「……朝、僕が来て、いつもみたいに、ご飯、あげようとしたら、
皆の様子が、少し変で、どうしたんだろうって、思ったら、
端っこに、チェルシーが……倒れてて、
皆も心配そうにしてて、僕、どうしたらいいのか解らなくて、
そしたら、C博士が来て、チェルシーを診てくれたんですけど、
でも、どんどん、弱っていって、う、動かなく、なって……」
「ああ、ごめん、E君。辛いことを思い出させてしまって」
本当に悲しんでいるEを見て、
Dはますます犯人に対して憤慨しているようでした。
「Eが動物好きなのを知っていて、
こんなことをしているんだとしたら、犯人は人として最低な奴ですよ。
データを削除したり、ラットに手を出したり、手口が陰湿過ぎます。
第一、これがAの最後の仕事になるっていうのに。
こんな時に邪魔するなんて、許せない」
これはL博士も知らなかったようで、聞き直していました。
「最後の仕事? A君、組織を辞める予定なのかい?」
「ええ。論文の発表が終わったら、彼と結婚する約束だそうですよ」
「おや。A君はフィアンセが居たのか。もしかして組織内に居る人かい?」
「いいえ。銀行だかに勤めてる人で、大学時代の先輩だったかな。
本当はもっと前からプロポーズされてたみたいなんですけど、
Aは論文が終わるまでは、途中で投げ出したくないって」
C博士は頷いていました。
「あれで結構、研究に情熱持ってるほうだからな、Aは。
見た目はか弱く見えるけどさ、意外と努力家っていうか、
遅くまで残って仕事してたりとか」
「そうだったのか」
L博士が黙ってしまったので、次はSから質問しました。
「すみません。私もDさんとEさんにお聞きしたいんですが、
皆さんが今手がけている論文が完成すると、
困る人物に心当たりはありませんか? 些細な可能性でも構わないのですが」
Eは目に涙を溜めたまま、頼るように、Dを見ました。
Dは少し沈黙したあと、口を開きました。
「本当に些細な可能性ですが、
もしかしたら、Fかもしれません。隣のチームの」
「どうして?」
「Fは、Eの同期なんですが、どうもライバル視しているみたいで。
何かとこいつに突っかかってくるんですよ。な?」
話を振られたEは、慌ててブンブンと手を振りました。
「Fさんは、そんなこと、しません」
「そうか? お前、Fに何か嫌がらせとかされてないか?」
「そんな! 全然、されてません! 本当です!」
すると、唐突にEが席を立ちました。
「あの、僕、もう戻って良いですか? た、食べ終わったんで」
EはそうC博士に尋ねながらも、既にトレイを持っています。
「あ、ああ」
行かせて良いか、とL博士に目配せしているうちに、
Eは「失礼します」と呟いて、さっさと行ってしまいました。
そのうちに皆のランチも終わり、そのまま解散となりました。
SはL博士と一緒にカフェを出ました。
研究室へ戻る途中でL博士は、少し寄り道してから戻るよ、
と、一人でどこかに行ってしまいました。
Sが研究室に戻ろうと、エレベーターに乗った時、
そこには、白衣姿のBが居ました。
彼女の右手には、缶コーヒーが握られていたそうです。
それは黒い缶だったので、おそらくブラックコーヒーだったのだと思います。
Bは無視する気のようで黙っていましたが、
他には人も居なかったので、Sは少し話しかけることにしたんです。
事件に動きはないことは先程Dから聞いて知っていましたが、
Bにも同じ質問をしてみることにしました。
「あれから、何か変わったことは?」
「ない。もう終わったのかも」
「終わった? どうしてそう思う?」
「さあ。気が付いたんじゃない? 良いことじゃないって」
「それなら、最初から妨害工作なんてしなければ良かったのに」
「人間なんてそんなもんだろ。人間は世界で一番劣悪な生き物だ」
「どうして、君はそう思うんだい?」
「バカだからさ。非合理だと解っていながら自分をコントロールできない」
「成程。確かに、そういった場合もあるね、人間は」
エレベーターが止まり、Bは出て行ってしまいました。
「じゃあな」という別れの挨拶ひとつもせずに。
Sが研究室に戻り、仕事の続きに取り掛かりましたが、
L博士は、なかなか戻ってきませんでした。
暫くしてドアが開き、やっとL博士が帰ってきました。
「随分長い寄り道でしたね?」
すると、L博士は悲しそうな顔をして、ぽつりと言いました。
「S君」
「何です?」
「犯人が解ったみたいなんだ」
「え?」
「それが、本当に正しい答えか、確認しに行こうと思っている。
それには、S君の協力が必要だ。力を貸してくれるかい?」
→
後日。L博士の研究室に、C博士がやってきました。
登山土産だというナッツ入りチョコレートを小脇に抱えて。
C博士は持ってきたチョコレートをつまみながら、
L博士にコーヒーを淹れさせ、今後の作戦について話していきました。
コーヒー片手に、Sも入れて三人で打ち合わせしたわけです。
Sが、DとEから話を聞きたいと言っていた件について、
C博士が考えた作戦はこうでした。
ランチタイムに、C博士がDとEを連れて組織内にあるカフェに行く。
そこへ偶然を装って、L博士とSが来る。
C博士が「Lじゃないか。こっち空いてるぞ」と言う。
そして世間話的に話を聞き出す、というものでした。
どうだ。これなら、容疑者扱いにもならず、ごく自然に話せるだろう、
と、C博士は自慢気に話してくれました。
別に作戦という程のものではありませんでしたが、
悪くはなかったので、Sはその作戦に乗ることにしたんです。
早速、それは翌日に決行され、無事にDとEに会うことはできました。
ただ、「Lじゃないか。こっち空いてるぞ」
と言うC博士のセリフは、少々ワザとらしかったですが。
Sが間近でDとEを見た印象を、先に話しましょうか。
Dは、実に正義感の強い、真っ直ぐな目をした男でしたよ。
チームリーダーはC博士なのですが、
Dのほうが、しっかりしているというか、リーダー向きの男でしたね。
だからこそ、三度あった論文のデータ損失について、
三度ともDが第一発見者となったのかもしれません。
Eという男は、どうも引っ込み思案というか、
ランチタイムの間、始終、視線が俯きがちで、
居心地悪そうにしていましたね。
何か後ろめたいことでもあるのか、と疑いたくなるくらいに。
ただ、時々、L博士とSをチラチラと盗み見をするように見ていたので、
ただ単に、Eは人見知りをしていたのかもしれません。
長方形のテーブルに五人の男ーーC博士、D、Eと、L博士、Sーーが座り、
ランチを食べながら、話しました。
後にも先にも、その五人でランチを食べたのはこの時だけでしたがね。
「そう言えば、C君。先日、バーで聞いた盗難事件だけど。
その後、データやラット達は、大丈夫なのかい?」
口火を切ってくれたのはL博士でした。
「ああ、今のところはな」
と言って、C博士はハンバーグを口に放り込みました。
「C博士、あの件、L博士に話したんですか?」
そう言ったのはDでしたが、Eも少し驚いているようでした。
「ああ。この前偶然、LとSにバーで会った時にな」
必要な質問はL博士から聞いてくれるようでしたので、
Sはフォークを口に運びながら、DとEの様子を伺うことにしました。
「D君が第一発見者だったそうだね?
論文データのチェックは、いつも君がやっていたのかい?」とL博士。
「というより、論文の続きを書こうと思った時に、
ファイルの数が、ひとつ足りないのに気付いただけですよ。
いつも見ているフォルダですからね、そのくらい誰でも気付いたと思います。
でも、第一発見者だなんて、まるでミステリの登場人物にでもなったようですね」
「ラットが一匹、衰弱していることに気付いたのは、E君だそうだね?」
名前を呼ばれたEは、一瞬びくりと肩が跳ね上がりました。
「ラット達の管理は、君の仕事だったのかい?」
「え。ええと、違います……けど、僕は、いつも見てましたから」
C博士は笑って、代わりに説明しました。
「Eは動物好きなんだよ。ラットのエサ係にも自分から手を挙げたしな。
こいつは自分のペットみたいに、ラットを可愛がってんだ。
そういや、お前、家でも何か飼ってるのか?」
「……いえ、今は何も……」
Eの声は、とてもか細く、聞き取るのがやっとでした。
「ふうん? じゃあ昔は?」
「犬を……子供の時に」
「やっぱ、前は飼ってたのか」
「E君。そのラットを見つけた時の聞いても良いかな?」
「見つけた時のこと……」
ギュッと唇を噛み締め、Eは今にも泣いてしまいそうでした。
「……朝、僕が来て、いつもみたいに、ご飯、あげようとしたら、
皆の様子が、少し変で、どうしたんだろうって、思ったら、
端っこに、チェルシーが……倒れてて、
皆も心配そうにしてて、僕、どうしたらいいのか解らなくて、
そしたら、C博士が来て、チェルシーを診てくれたんですけど、
でも、どんどん、弱っていって、う、動かなく、なって……」
「ああ、ごめん、E君。辛いことを思い出させてしまって」
本当に悲しんでいるEを見て、
Dはますます犯人に対して憤慨しているようでした。
「Eが動物好きなのを知っていて、
こんなことをしているんだとしたら、犯人は人として最低な奴ですよ。
データを削除したり、ラットに手を出したり、手口が陰湿過ぎます。
第一、これがAの最後の仕事になるっていうのに。
こんな時に邪魔するなんて、許せない」
これはL博士も知らなかったようで、聞き直していました。
「最後の仕事? A君、組織を辞める予定なのかい?」
「ええ。論文の発表が終わったら、彼と結婚する約束だそうですよ」
「おや。A君はフィアンセが居たのか。もしかして組織内に居る人かい?」
「いいえ。銀行だかに勤めてる人で、大学時代の先輩だったかな。
本当はもっと前からプロポーズされてたみたいなんですけど、
Aは論文が終わるまでは、途中で投げ出したくないって」
C博士は頷いていました。
「あれで結構、研究に情熱持ってるほうだからな、Aは。
見た目はか弱く見えるけどさ、意外と努力家っていうか、
遅くまで残って仕事してたりとか」
「そうだったのか」
L博士が黙ってしまったので、次はSから質問しました。
「すみません。私もDさんとEさんにお聞きしたいんですが、
皆さんが今手がけている論文が完成すると、
困る人物に心当たりはありませんか? 些細な可能性でも構わないのですが」
Eは目に涙を溜めたまま、頼るように、Dを見ました。
Dは少し沈黙したあと、口を開きました。
「本当に些細な可能性ですが、
もしかしたら、Fかもしれません。隣のチームの」
「どうして?」
「Fは、Eの同期なんですが、どうもライバル視しているみたいで。
何かとこいつに突っかかってくるんですよ。な?」
話を振られたEは、慌ててブンブンと手を振りました。
「Fさんは、そんなこと、しません」
「そうか? お前、Fに何か嫌がらせとかされてないか?」
「そんな! 全然、されてません! 本当です!」
すると、唐突にEが席を立ちました。
「あの、僕、もう戻って良いですか? た、食べ終わったんで」
EはそうC博士に尋ねながらも、既にトレイを持っています。
「あ、ああ」
行かせて良いか、とL博士に目配せしているうちに、
Eは「失礼します」と呟いて、さっさと行ってしまいました。
そのうちに皆のランチも終わり、そのまま解散となりました。
SはL博士と一緒にカフェを出ました。
研究室へ戻る途中でL博士は、少し寄り道してから戻るよ、
と、一人でどこかに行ってしまいました。
Sが研究室に戻ろうと、エレベーターに乗った時、
そこには、白衣姿のBが居ました。
彼女の右手には、缶コーヒーが握られていたそうです。
それは黒い缶だったので、おそらくブラックコーヒーだったのだと思います。
Bは無視する気のようで黙っていましたが、
他には人も居なかったので、Sは少し話しかけることにしたんです。
事件に動きはないことは先程Dから聞いて知っていましたが、
Bにも同じ質問をしてみることにしました。
「あれから、何か変わったことは?」
「ない。もう終わったのかも」
「終わった? どうしてそう思う?」
「さあ。気が付いたんじゃない? 良いことじゃないって」
「それなら、最初から妨害工作なんてしなければ良かったのに」
「人間なんてそんなもんだろ。人間は世界で一番劣悪な生き物だ」
「どうして、君はそう思うんだい?」
「バカだからさ。非合理だと解っていながら自分をコントロールできない」
「成程。確かに、そういった場合もあるね、人間は」
エレベーターが止まり、Bは出て行ってしまいました。
「じゃあな」という別れの挨拶ひとつもせずに。
Sが研究室に戻り、仕事の続きに取り掛かりましたが、
L博士は、なかなか戻ってきませんでした。
暫くしてドアが開き、やっとL博士が帰ってきました。
「随分長い寄り道でしたね?」
すると、L博士は悲しそうな顔をして、ぽつりと言いました。
「S君」
「何です?」
「犯人が解ったみたいなんだ」
「え?」
「それが、本当に正しい答えか、確認しに行こうと思っている。
それには、S君の協力が必要だ。力を貸してくれるかい?」
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