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■アイヴィー+ラルヴィス
聖アルフォンソ学院正門前。
タクシーに背を預けながら、アイヴィーは空を見ていた。
良く晴れた空に、ふわりふわりと雲が泳いでる。
青い空を見ていたら、ふと、ある人の顔を思い出した。
ズボラな自分とは違って、仕事に真面目な、金髪美人さん。
「……ラルちゃん、元気かなあ?」
ラルヴィス・レイナ。
通称ラルちゃんの肩書きは、ロレート公国国王の側近さんだ。
急にラルちゃんのことを思い出したのは、
さっきまで生徒代表室で、その関係者、というか、
ラルちゃんのお国の王子サマとミーティングしていたからかもしれない。
ラルちゃんと接する機会が増えたのは、
ジョシュアがロレートの第一王子になると決めたからだ。
以来、ロレートの遣いや護衛として、
ラルちゃんは国と島を何度か行き来している。
その間に、俺達は互いの連絡先を交換して、
島に来る前にはラルちゃんから律儀なメールが来るようになった。
島にラルちゃんが来た時は、俺も迎えに行って、
色々話したりするようになった。
それで解ったことは、ラルちゃんは、良い人だということだ。
ラルちゃんと俺のカンケイは、ちょっとフシギだ。
『同僚』というわけではないし、『お客様』というのも、ちょっと違う。
でも、ただの『知り合い』では、もう足りない気がする。
ラルちゃんに対して、コッチは勝手に仲間意識みたいなものを感じていた。
それは多分、種類は違うけど、似たようなことを、
生業としているからかもしれないし、
単に、ラルちゃんと時々会ったり話したりすることがスキなのかもしれない。
だから、ラルちゃんから業務連絡的なメールが来た時も、
つい、仕事に関係ない話までして、
メールの遣り取りを少し長引かせてしまう。
今、ラルちゃんは何してるんだろう、と思った。
「……電話、してみよっかな?」
マージナルプリンスどもの送迎まで、まだ時間はある。
用もないのに電話なんかしたら悪いかな、と思いながらも、
ラルちゃんの驚く声が聞きたいと思っている自分が居た。
同じ頃。ロレート公国大公家。
ラルヴィスは、執務中の陛下のお側に控えていた。
ロレート公国国王、カーディス一世は、
日頃から溜めていたデスクワークと格闘中。
今日は朝から晩まで、こうしている予定だ。
今夜までに最低でも、この書類の山の半分は片付けて頂かなければならない。
側近のラルヴィスは、陛下が執務室から逃げ出さないよう監督していた。
陛下は書類を読むスピードが落ちている。
先程、お食事をされたせいか、睡魔が襲ってきているようだった。
陛下はおもむろに天井に向かって両腕を伸ばした。
どうやら、もう飽きてしまわれたようだ。
「陛下。コーヒーをお持ち致しましょうか」
「いや、いい。少し庭を散歩してくる」
「いけません。本日は執務が終わるまで、
外出はお控え頂きたいと申し上げた筈ですよ」
「庭は外出に入らんだろう」
「入ります」
「この堅物め」
「お褒め頂き、恐れ入ります」
「褒めてなど」
その時だ。ラルヴィスの携帯電話が鳴ったのは。
「電話か。誰からだ?」
陛下に問われ、携帯電話に表示されている名前を確認する。
相手は思ってもみない人物だった。
「聖アルフォンソ島のアイヴィー様からお電話のようです」
「ほう。お前達が気軽に電話する仲になっていたとはな。
いつの間にそれほど親しくなったんだ?」
何を呑気に、とラルヴィスは思った。
アイヴィー様は表向きは学院専属ドライバーだが、
本職は警備組織の司令官なのだ。
警備のトップが直々に連絡を寄こすということは、
余程の緊急事態に違いない。
「ジョシュア殿下について、何か緊急のご連絡かもしれません。失礼致します」
陛下の御前だったが、ラルヴィスはその場で電話に出た。
「お待たせ致しました。ロレート公国のレイナでございます」
「アルフォンソ島のアイヴィーでーす。ラルちゃん、今、大丈夫ー?」
「はい。アイヴィー様、緊急のご連絡ですか。殿下の御身に何か」
「え? ああ、いや、ゴメンゴメン。今日はジョシュアの話じゃなくてー。
ラルちゃん元気かなー、と思ってちょっとお電話してみただけー」
「……わたくし、でございますか?」
「うん。元気ー?」
「……え、ええ」
「そ。ヨカッター」
「……アイヴィー様? 確認させて頂きたいのですが」
「んー?」
「殿下はご無事なのですね?」
「ああ、元気、元気。さっきミーティングで会ったばっかだし」
「……それならば良いのですが」
「あれっ? あいつら、もう来た」
「えっ?」
「ああ、ゴメン。マージナルプリンスどもが、
早く来ちゃったから、ちょっと街まで送ってくるね」
「左様でございましたか。では、どうぞお気を付けて」
「アリガト。あ、ラルちゃん!」
「はい」
「あのさ。また、今日みたいにお電話してもイイかなあ?」
「え? ええ」
「ホント? やった。じゃあ、またね、ラルちゃん」
一方的にかかってきた電話は、一方的に切られた。
ラルヴィスは、通話の終わった携帯電話を呆然と見つめていた。
「おい、アイヴィー。ケータイ見て、何ニヤニヤしてんだよ?」
開口一番、アルフレッドにそう言われた。
「楽しいお電話みたいでしたけど、どなたと話していたんですか?」
そう言うシルヴァンの横で、ハルヤも不思議そうに俺を見ていた。
俺はポケットに携帯電話を仕舞いながら、
「相手がダレかって? ナイショー」
「えー。なんでナイショなんですかー?」
「まさか、オンナか!?」
「バーカ。ちげーよ」
「じゃー、ダレなんだよー」
「まあー、俺のトモダチだよ、トモダチ。
つっても、向こうが俺のことトモダチだと思ってくれてるかは解んないけどな」
「何だよソレー。余計ワケ解んねえよー」
「さ、ライブハウス行くんだろ? 乗った乗ったー」
その時、俺は自分でも初めて解った気がした。
今までは、自分とラルちゃんのカンケイに名前が付いていなかったけれど。
自分はラルちゃんのことを『トモダチ』だと感じていたらしいことに。
だからかもしれない。
トモダチだと思っているから、元気かどうか気になって、
これからもずっと元気でいて欲しいと、
そう感じたのかもしれない。
運転席に乗り込み、ハンドルを握り締める。
空は澄み渡るように晴れていた。
fin
聖アルフォンソ学院正門前。
タクシーに背を預けながら、アイヴィーは空を見ていた。
良く晴れた空に、ふわりふわりと雲が泳いでる。
青い空を見ていたら、ふと、ある人の顔を思い出した。
ズボラな自分とは違って、仕事に真面目な、金髪美人さん。
「……ラルちゃん、元気かなあ?」
ラルヴィス・レイナ。
通称ラルちゃんの肩書きは、ロレート公国国王の側近さんだ。
急にラルちゃんのことを思い出したのは、
さっきまで生徒代表室で、その関係者、というか、
ラルちゃんのお国の王子サマとミーティングしていたからかもしれない。
ラルちゃんと接する機会が増えたのは、
ジョシュアがロレートの第一王子になると決めたからだ。
以来、ロレートの遣いや護衛として、
ラルちゃんは国と島を何度か行き来している。
その間に、俺達は互いの連絡先を交換して、
島に来る前にはラルちゃんから律儀なメールが来るようになった。
島にラルちゃんが来た時は、俺も迎えに行って、
色々話したりするようになった。
それで解ったことは、ラルちゃんは、良い人だということだ。
ラルちゃんと俺のカンケイは、ちょっとフシギだ。
『同僚』というわけではないし、『お客様』というのも、ちょっと違う。
でも、ただの『知り合い』では、もう足りない気がする。
ラルちゃんに対して、コッチは勝手に仲間意識みたいなものを感じていた。
それは多分、種類は違うけど、似たようなことを、
生業としているからかもしれないし、
単に、ラルちゃんと時々会ったり話したりすることがスキなのかもしれない。
だから、ラルちゃんから業務連絡的なメールが来た時も、
つい、仕事に関係ない話までして、
メールの遣り取りを少し長引かせてしまう。
今、ラルちゃんは何してるんだろう、と思った。
「……電話、してみよっかな?」
マージナルプリンスどもの送迎まで、まだ時間はある。
用もないのに電話なんかしたら悪いかな、と思いながらも、
ラルちゃんの驚く声が聞きたいと思っている自分が居た。
同じ頃。ロレート公国大公家。
ラルヴィスは、執務中の陛下のお側に控えていた。
ロレート公国国王、カーディス一世は、
日頃から溜めていたデスクワークと格闘中。
今日は朝から晩まで、こうしている予定だ。
今夜までに最低でも、この書類の山の半分は片付けて頂かなければならない。
側近のラルヴィスは、陛下が執務室から逃げ出さないよう監督していた。
陛下は書類を読むスピードが落ちている。
先程、お食事をされたせいか、睡魔が襲ってきているようだった。
陛下はおもむろに天井に向かって両腕を伸ばした。
どうやら、もう飽きてしまわれたようだ。
「陛下。コーヒーをお持ち致しましょうか」
「いや、いい。少し庭を散歩してくる」
「いけません。本日は執務が終わるまで、
外出はお控え頂きたいと申し上げた筈ですよ」
「庭は外出に入らんだろう」
「入ります」
「この堅物め」
「お褒め頂き、恐れ入ります」
「褒めてなど」
その時だ。ラルヴィスの携帯電話が鳴ったのは。
「電話か。誰からだ?」
陛下に問われ、携帯電話に表示されている名前を確認する。
相手は思ってもみない人物だった。
「聖アルフォンソ島のアイヴィー様からお電話のようです」
「ほう。お前達が気軽に電話する仲になっていたとはな。
いつの間にそれほど親しくなったんだ?」
何を呑気に、とラルヴィスは思った。
アイヴィー様は表向きは学院専属ドライバーだが、
本職は警備組織の司令官なのだ。
警備のトップが直々に連絡を寄こすということは、
余程の緊急事態に違いない。
「ジョシュア殿下について、何か緊急のご連絡かもしれません。失礼致します」
陛下の御前だったが、ラルヴィスはその場で電話に出た。
「お待たせ致しました。ロレート公国のレイナでございます」
「アルフォンソ島のアイヴィーでーす。ラルちゃん、今、大丈夫ー?」
「はい。アイヴィー様、緊急のご連絡ですか。殿下の御身に何か」
「え? ああ、いや、ゴメンゴメン。今日はジョシュアの話じゃなくてー。
ラルちゃん元気かなー、と思ってちょっとお電話してみただけー」
「……わたくし、でございますか?」
「うん。元気ー?」
「……え、ええ」
「そ。ヨカッター」
「……アイヴィー様? 確認させて頂きたいのですが」
「んー?」
「殿下はご無事なのですね?」
「ああ、元気、元気。さっきミーティングで会ったばっかだし」
「……それならば良いのですが」
「あれっ? あいつら、もう来た」
「えっ?」
「ああ、ゴメン。マージナルプリンスどもが、
早く来ちゃったから、ちょっと街まで送ってくるね」
「左様でございましたか。では、どうぞお気を付けて」
「アリガト。あ、ラルちゃん!」
「はい」
「あのさ。また、今日みたいにお電話してもイイかなあ?」
「え? ええ」
「ホント? やった。じゃあ、またね、ラルちゃん」
一方的にかかってきた電話は、一方的に切られた。
ラルヴィスは、通話の終わった携帯電話を呆然と見つめていた。
「おい、アイヴィー。ケータイ見て、何ニヤニヤしてんだよ?」
開口一番、アルフレッドにそう言われた。
「楽しいお電話みたいでしたけど、どなたと話していたんですか?」
そう言うシルヴァンの横で、ハルヤも不思議そうに俺を見ていた。
俺はポケットに携帯電話を仕舞いながら、
「相手がダレかって? ナイショー」
「えー。なんでナイショなんですかー?」
「まさか、オンナか!?」
「バーカ。ちげーよ」
「じゃー、ダレなんだよー」
「まあー、俺のトモダチだよ、トモダチ。
つっても、向こうが俺のことトモダチだと思ってくれてるかは解んないけどな」
「何だよソレー。余計ワケ解んねえよー」
「さ、ライブハウス行くんだろ? 乗った乗ったー」
その時、俺は自分でも初めて解った気がした。
今までは、自分とラルちゃんのカンケイに名前が付いていなかったけれど。
自分はラルちゃんのことを『トモダチ』だと感じていたらしいことに。
だからかもしれない。
トモダチだと思っているから、元気かどうか気になって、
これからもずっと元気でいて欲しいと、
そう感じたのかもしれない。
運転席に乗り込み、ハンドルを握り締める。
空は澄み渡るように晴れていた。
fin
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