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Marginal Prince Short Story
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■ロレートの細か過ぎて伝わらない側近達
「あーあ。ヒマだなー」

「おい、エメリー。何て態度だ」

執務中だというのに茶髪の男は、
両腕を投げ出し、机にべったりと頬を付けていた。
見兼ねた私が注意すると、こう返してきた。

「別にイイじゃーん。陛下とレイナは居ないんだしー」

これがアル・エメリー。
このようにだらしのない姿では、
誰にも信じて貰えないと思うが、
私と同じく、陛下にお仕えする側近の一人だ。

ここはロレート公国大公家。
この国の王であるカーディス国王陛下の邸だ。
陛下にお仕えする者達もここで暮らしている。

私とエメリーは、側近達の執務室にて、
今後の公式行事に関する調整等を行っている最中だった。
私が今、手がけているのは花祭りについて。
早いもので、もう二か月後に迫っていた。

エメリーにも、私と同じ仕事が与えられている筈だが、
今日のエメリーは、いつも以上にだらけている。
これが同じ身分の者かと思うと恥ずかしく、陛下にも申し訳ない。
奴は右頬を机に付けたまま、私を見上げた。

「なあ、ラテー」

ラテ。奴は私のことをしつこくそう呼ぶ。
『ブラウン・ホワイト』という私の本名が、
カフェ・ラテ色のようだから、らしい。
止めろと言っても聞かないので、とうの昔にこちらが折れた。

「陛下達、帰ってくるの、いつだっけー?」

「予定では、そろそろお戻りになる時刻だが」

本日、陛下の午後のスケジュールは、国立の児童福祉施設へご訪問。
陛下が折に触れて、ふらりとご視察に向かわれる場所だ。
この日、空が気持ち良く晴れ渡ったのも、
きっと神が、陛下と子供達に味方したからだろう。

バレンタインやクリスマスの季節になると、
お土産に、たくさんのお菓子を携えて、子供達に会いに行かれる。
子供達は王様からのプレゼントをいつも楽しみにしているという。
今月はバレンタインがあることから施設の女性スタッフ向けに、
お花のプレゼント等も用意されていた。

頻度の上では、公式行事といっても過言ではないご訪問だが、
各メディアを完全にシャットアウトする目的で、
これはあくまでプライベートなご訪問ということになっている。
本日も陛下は「じゃあ、子供達と遊びに行ってくる」
と仰って、お出かけになられた。

大きな行事の際には、全六名の側近をお連れ下さるが、
本日のお供が一人のみであったことも、報道の目を避け、
施設に迷惑がかからぬようにと慮ってのことだ。

私個人としては、子供達と触れ合い、関係者を激励される御姿こそ、
広く世間に報じて欲しい、と常々思っているのだが、
陛下はこのような場合にこそ、目立たぬよう行動される。
それは私にとって、誇らしくもあり、少々もどかしくもあった。

「今日はお忍び用の車で出てったんだよなー」

エメリーはついに席から離れ、窓の下を眺めだした。
執務に戻る気は全くないのだろうか。
よもや、また逃げるつもりではあるまいな、と疑いたくなる。
あいつは、何かと理由を付けては、
私に仕事を押し付けることが度々あった。

「早く帰ってこないかなー」

しかし、ああしていると、まるで犬がしっぽを振りながら、
主人の帰りを待っているかのようだ。

エメリーは、六人居る側近の中で、最も理解のできない男だ。
私とはあらゆることが違い過ぎて、
異なる星の下に生まれてきた人間なのだろうとしか思えない。

第一に、エメリーは対外的な顔と、素の顔が違い過ぎる。
奴が側近らしく振る舞うのは、本当に公の場だけで、
国民の目がない場では、どこにでも居る若い男と変わらない。

カーディス国王陛下にお仕えする身でありながら、
その自覚が全くないのかと思う程、
立ち居振る舞いや口の利き方がなっていないのだ。

時には陛下に対しても、無礼な口を利く。
しかし、陛下はお優しいので、奴を咎めることはなく、
むしろ同じように砕けた口調でお話しになる。

主従の関係であるのに、学校の先輩と後輩かのようだ。
もし奴が他国の従者であったなら、決して許されないだろう。
我が国の陛下は、本当に寛大な御心をお持ちだ。

「あ、帰ってきたっ」

エメリーが声を上げる。車が見えたらしい。

「俺、先、行ってるぜっ」

瞬く間に執務室を出て行った。
執務を放り出していた時の鈍重さは欠片もない。
しかし、お帰りになった主を見て、心躍る気持ちは私とて同じだ。

この邸では、主のお帰りを従者が揃って出迎えることは、
決して義務ではない。そういった主従らしい振る舞いを、
「仰々しい」と言って陛下が好まれないからだ。

しかし、この大公家にお仕えする者達は皆、
陛下をお慕いしているので、エントランスに居た場合や、
お帰りに気付いた際には、自然と陛下をお出迎えする。
それについては陛下も許して下さる。

エメリーも陛下をお迎えせずにはいられないのだろう。
その気持ちはよく解る。気質などはまるで違えど、
私達は同じ主にお仕えする者同士。
奴も高い忠誠心を持っていることは、私も認めている。
無論、忠誠心の高さに於いて、私は誰にも負ける気はしないが。

私も手を止め、席を立つ。
さあ、我々の主をお迎えに行かねば。


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