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■報われない俺達1 続編
ロレート大公家は、由緒正しき古いお邸なので、
こんなに大きくて広いくせに、
エレベーターもエスカレーターもない。
フロアを昇り降りするのにいちいち、
長い階段を使わなきゃいけないのは面倒なところだ。
だから、急いでいて、煩いのが見ていない時は、
階段の手すりに乗って階下に向かう。
このほうが断然早くて気持ちイイから。
今日も俺は、スルスルー、ストン、と一階に到着した。
まだ、エントランスにあの二人の姿はなかった。
余裕を持って、間に合ったらしい。
俺は従者らしく、ピシと背を伸ばして待っていると、
ゆっくりと厳かに扉が開いた。
金髪の側近が開けた扉から陛下が入ってきた。
俺は、すかさず頭を下げて、お出迎えした。
「おかえりなさいませ、陛下。お疲れ様でした」
「ん? どうした、エメリー。
わざわざ迎えに出てきて」
「従者が主のお迎えに上がるのは、
当たり前じゃないですか。私は陛下の側近ですよ?」
陛下は笑ってくれた。俺も笑う。
ドアを閉めた側近が、陛下の側に戻ってくる。
俺の顔を見ると「なんで居るんだ」という顔をされた。
少し錆び付いた金色のショートヘア。
少しくすんだ緑の目。
あれが陛下に最も近しい側近、ラルヴィス・レイナ。
側近の中でも最高位にあり、
レイナ以外の五人から見れば、直属の上官に当たる。
と言っても、俺達の間に大した上下関係はない。
年はそう変わらないのもあって、
互いに気安く話してた。
この女みたいにキレーな顔は、
いつも少し機嫌が悪いか、良くて無表情。
俺が話しかければ、更に機嫌が悪くなる。
だけど今日は、既にご機嫌斜めのようだった。
そんなに俺に出迎えられたことが嫌なのか。
それとも外で何かあったのか。
「何、不貞腐れてんだよ、レイナ」
目だけで「何だと」と言われた。
自分がむくれていることに気付いていないらしい。
「久し振りに、陛下と二人きりのデートだったのに、
面白くなかったのか?」
「馬鹿を言うな。ご視察だ」
視線を逸らされた。図星か?
「女性と間違われたのさ」
答えをくれたのは陛下だった。
「今日はラルヴィスが、新しく入った子達に、
えらく気に入られたようでな。
『お姉さんも一緒に遊ぼう』と、
引く手あまただったのさ。実に見る目のある、
将来有望な子供達だったな?」
それで機嫌が悪かったのか。
その場面を想像して俺も笑う。
「へーえ? モテモテだったんだー。やるじゃん、レイナ」
重い息を吐きながら、レイナは陛下を恨めし気に見上げる。
こいつは怒っている時程、
声が冷たくなる。今みたいに。
「陛下。何故、今、それをお話しになるんです」
「エメリーには、是非聞かせようと思っていた。
良い土産話だからな。そうだろう?」
「ええ。大変貴重なお土産話でした。
お聞かせ頂き、ありがとうございます、陛下」
俺は胸に手を置いて丁寧にお礼を述べる。
横から飛んでくる、刺さるような視線を感じながら。
きっと心の中でこう毒づいているんだろう。
こいつ、こんな時だけ従者らしくしやがって。
「おかえりなさいませ、陛下」
陛下と似た髪をした男が来た。
誰より陛下を敬愛してやまない側近。通称ラテ。
由来はもちろん、そのカラー過ぎる名前から。
初対面で自己紹介をされた時は、
思わず「ブラウン・ホワイトって、カフェラテかよ」
と言ってしまった程だ。
自画自賛できるくらい、こいつに『ラテ』ってのは、
ピッタリな愛称だと俺は思ってる。
何ていうか、ホントにミルクっぽい奴だから。
マイルドで、柔らかで、健康的で、
汚れを知らない、真っ白な男だから。
ま、『ホワイト』より、短くて呼び易いし。
「陛下、コートをお預かり致します」
「ああ」
陛下が脱いだコートを受け取ったラテは、
それを何より大切な宝物のように抱えた。
「陛下? まだ少し早いですが、ご夕食になさいますか?」
「いや、まだいい。それよりコーヒーを頼めるか。
先程は甘いミルクティを出されたのでな」
「畏まりました。すぐにご用意致します」
陛下に御用を命じられると、ラテは目に見えて生き生きする。
陛下はラテと連れ立って、歩き出した。
エントランスに俺とレイナが残る。何故かレイナは、
陛下のあとを追わず、その場に立ち止まっていた。
どうしたんだと思って覗き込むと、小さな呟きが聞こえた。
「……子供は、苦手だ」
そう言う顔は先程よりご機嫌斜めで、ぐったりしていた。
疲労困憊だったことを陛下の前では隠していたらしい。
俺は笑いながら、レイナの肩に手を置く。
「お疲れ、お疲れっ。お前には俺がコーヒー淹れてやろうか?」
無言の拒否。急に歩き出したレイナによって、
俺の手はカクッと外された。
→
ロレート大公家は、由緒正しき古いお邸なので、
こんなに大きくて広いくせに、
エレベーターもエスカレーターもない。
フロアを昇り降りするのにいちいち、
長い階段を使わなきゃいけないのは面倒なところだ。
だから、急いでいて、煩いのが見ていない時は、
階段の手すりに乗って階下に向かう。
このほうが断然早くて気持ちイイから。
今日も俺は、スルスルー、ストン、と一階に到着した。
まだ、エントランスにあの二人の姿はなかった。
余裕を持って、間に合ったらしい。
俺は従者らしく、ピシと背を伸ばして待っていると、
ゆっくりと厳かに扉が開いた。
金髪の側近が開けた扉から陛下が入ってきた。
俺は、すかさず頭を下げて、お出迎えした。
「おかえりなさいませ、陛下。お疲れ様でした」
「ん? どうした、エメリー。
わざわざ迎えに出てきて」
「従者が主のお迎えに上がるのは、
当たり前じゃないですか。私は陛下の側近ですよ?」
陛下は笑ってくれた。俺も笑う。
ドアを閉めた側近が、陛下の側に戻ってくる。
俺の顔を見ると「なんで居るんだ」という顔をされた。
少し錆び付いた金色のショートヘア。
少しくすんだ緑の目。
あれが陛下に最も近しい側近、ラルヴィス・レイナ。
側近の中でも最高位にあり、
レイナ以外の五人から見れば、直属の上官に当たる。
と言っても、俺達の間に大した上下関係はない。
年はそう変わらないのもあって、
互いに気安く話してた。
この女みたいにキレーな顔は、
いつも少し機嫌が悪いか、良くて無表情。
俺が話しかければ、更に機嫌が悪くなる。
だけど今日は、既にご機嫌斜めのようだった。
そんなに俺に出迎えられたことが嫌なのか。
それとも外で何かあったのか。
「何、不貞腐れてんだよ、レイナ」
目だけで「何だと」と言われた。
自分がむくれていることに気付いていないらしい。
「久し振りに、陛下と二人きりのデートだったのに、
面白くなかったのか?」
「馬鹿を言うな。ご視察だ」
視線を逸らされた。図星か?
「女性と間違われたのさ」
答えをくれたのは陛下だった。
「今日はラルヴィスが、新しく入った子達に、
えらく気に入られたようでな。
『お姉さんも一緒に遊ぼう』と、
引く手あまただったのさ。実に見る目のある、
将来有望な子供達だったな?」
それで機嫌が悪かったのか。
その場面を想像して俺も笑う。
「へーえ? モテモテだったんだー。やるじゃん、レイナ」
重い息を吐きながら、レイナは陛下を恨めし気に見上げる。
こいつは怒っている時程、
声が冷たくなる。今みたいに。
「陛下。何故、今、それをお話しになるんです」
「エメリーには、是非聞かせようと思っていた。
良い土産話だからな。そうだろう?」
「ええ。大変貴重なお土産話でした。
お聞かせ頂き、ありがとうございます、陛下」
俺は胸に手を置いて丁寧にお礼を述べる。
横から飛んでくる、刺さるような視線を感じながら。
きっと心の中でこう毒づいているんだろう。
こいつ、こんな時だけ従者らしくしやがって。
「おかえりなさいませ、陛下」
陛下と似た髪をした男が来た。
誰より陛下を敬愛してやまない側近。通称ラテ。
由来はもちろん、そのカラー過ぎる名前から。
初対面で自己紹介をされた時は、
思わず「ブラウン・ホワイトって、カフェラテかよ」
と言ってしまった程だ。
自画自賛できるくらい、こいつに『ラテ』ってのは、
ピッタリな愛称だと俺は思ってる。
何ていうか、ホントにミルクっぽい奴だから。
マイルドで、柔らかで、健康的で、
汚れを知らない、真っ白な男だから。
ま、『ホワイト』より、短くて呼び易いし。
「陛下、コートをお預かり致します」
「ああ」
陛下が脱いだコートを受け取ったラテは、
それを何より大切な宝物のように抱えた。
「陛下? まだ少し早いですが、ご夕食になさいますか?」
「いや、まだいい。それよりコーヒーを頼めるか。
先程は甘いミルクティを出されたのでな」
「畏まりました。すぐにご用意致します」
陛下に御用を命じられると、ラテは目に見えて生き生きする。
陛下はラテと連れ立って、歩き出した。
エントランスに俺とレイナが残る。何故かレイナは、
陛下のあとを追わず、その場に立ち止まっていた。
どうしたんだと思って覗き込むと、小さな呟きが聞こえた。
「……子供は、苦手だ」
そう言う顔は先程よりご機嫌斜めで、ぐったりしていた。
疲労困憊だったことを陛下の前では隠していたらしい。
俺は笑いながら、レイナの肩に手を置く。
「お疲れ、お疲れっ。お前には俺がコーヒー淹れてやろうか?」
無言の拒否。急に歩き出したレイナによって、
俺の手はカクッと外された。
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