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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュア×アンリ 精神的リバ
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 雨が止まない。
 今日は朝からずうっと雨が降っている。
 ジョシュアは窓辺に寄り添って、暗い闇を眺めていた。
 何度も繰り返される水滴。
 止まることを許されない流れ。
 雨は硝子を打ち付け、雫が伝い落ちていく。

「雨の夜、だったな。あの時も」
 意図せず、零れた言葉。
 口に出してしまった、過去の記憶。
 大切な人を失った日は、雨が降っていた。
 子供の時、両親を失った悲しみに暮れるのも、決まって雨の夜だ。

 部屋には、雨音だけが響く。
 息が苦しくなる。
 ジョシュアの頬に何かが伝った。
 手で触れてみて、それが目から零れたものだと気付く。
 手の甲で、目を押さえる。
 突然の雨は、猶もぽたぽたと、指の間を流れていく。
 壁に凭れていないと立てない。
 窓から冷たい隙間風が吹いてきた。
 雨は一向に止む気配がない。


アンリは、自室で小説を読んでいた。
部屋の照明は落としている。
ベッドサイドだけ明かりを点けていた。
本を読むくらいなら、この小さな火と月光だけで充分だ。
また一枚頁を繰るが、余り面白くない。
自分では、まず手を伸ばさない類のものだ。
話が爽やか過ぎて、先のストーリーが解ってしまう。
「主人公の友人がね、とても個性的なんだよ」
とジョシュアに押し付けられたものだ。
…こんなに無口で無愛想な男のどこが良いのだろう。

最後の頁を読み終える。
予想通りのハッピーエンドで幕を閉じた。
楽しめなかった、と言ってやりたい。

彼の部屋をノックする。
名を告げてから扉が開くまでの時間が、いつもより長く感じられた。
「アンリ。どうしたの?」
いつもは嫌になるくらい甘ったるい声が、今夜は硝子のように危うい。
「これ。君に借りた本を返しに来た。僕は楽しめなかったよ?」
「そうか。でも、主人公の友人は、気に入って貰えただろう?」
「いいや。僕にはどこが良いのか解らない」
「俺は好きなキャラクタなんだけどな」
儚い笑顔。
心から笑っているのではない。
何より。
目元が仄かに赤く染まっている。

「ジョシュア。僕に何か言いたいことがある?」
「うん。あの…」
「なに?」
「…アンリの紅茶が飲みたくなってしまったな」

アンリは顔を顰める。
普段は、珈琲を好んで飲むくせに。
ジョシュアは、偶に紅茶を欲しがる。
それは決まって、余裕の無い時だ。

アンリは、ジョシュアの右の頬に手を伸ばす。
「アンリ?」不思議そうに見上げてくる。
ひんやりと冷たい頬。
「君、長い間、雨を眺めていた?」
ジョシュアは素直に頷く。
「降り止まなくて…ずっと見てた」
「薄着でこんな処に居たら身体を冷やすよ」
「大丈夫。俺にはアンリが居るから」
「寝言? 意味が解らない」
アンリが部屋を出ようとすると、背中に温かみを感じた。
「行かないで、アンリ」
「離して」
言葉が返って来ない。
首を後ろに向けたが、ジョシュアは目を合わせてこなかった。
アンリはひとつ溜息を吐いた。
「このままじゃ、紅茶が用意できないでしょ」
「えっ?」
アンリは緩んだ腕から逃れて、ジョシュアと向かい合う。
「紅茶、飲みたくないの?」
「ごめん。飲みたいな」
「なら、大人しく待っていて」

ドアが閉まる。
窓の向こうで、まだ雨は降り続いているのに。
先より、音が気にならなくなっている。
紅茶を飲み終わる頃には止んでいるかもしれない。
「…アンリは、だんだん優しくなるみたいだね」
ジョシュアの表情は先よりも柔らかくなっていた。
「これ以上、優しくされたら、困ってしまうな」


fin
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