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Marginal Prince Short Story
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■ハルヤ×シルヴァン
■アイディア提供 シハル姉さん
ピンクのアヒル加筆修正版
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聖アルフォンソ学院の休暇中。
ウーティス寮の面々も一部を除いて、実家へ帰っていった。

ハルヤは和歌山に帰るか悩んだ末、今回は諦めることにした。
休暇が梅香流の公演期間とぴったり重なっている。
地元での舞台ではあるが、集中力が必要な時に、
訪ねて行っても邪魔になるだけだ。
第一、日舞から離れた生活を送っている自分には、
彼等に合わせる顔が無い。しかし。

「僕、温泉って入ってみたいんですよね」

というシルヴァンの強い希望により、
急遽『日帰り温泉旅行』に連れ出されていた。

和歌山の山奥。川の中にある露天風呂だ。
見渡す限り山と岩に囲まれている。秘湯と呼ぶに相応しい場所だった。
ハルヤは湯に浸かり、岩に凭れる。

「…なんで俺、和歌山まで来て温泉入ってるのかなあ…」

他に人は居ない。
賑やかな連れを除いては。

「和歌山と言えば、温泉じゃないですか、ハルヤ♪」

「なんで?」

「愛媛、兵庫、和歌山を、日本三古湯(にほんさんことう)と言うのでしょう?
日本の古い書物に登場する、歴史ある温泉地なんですよね?」

「そうだったんだ?」

「おや? ハルヤ、温泉にアレを持ってくるの忘れてしまいました?」

「アレって?」

ハルヤの目の前を、
アヒルのオモチャが、ゆらゆらと通過する。
何故か黄色ではなくピンク色だ。

「僕は、ちゃんとアヒルさん持ってきたんですよ♪ 温泉の必需品なんですよね?」

「…いや、それは違うと思う」

「あれ? この温泉、オチョーシは浮いてないんですか?」

「浮いててもダメだよ。此処は日本だから、未成年は飲酒禁止」

ピンクのアヒルの後を、緑、青とカラフルな仲間達が続く。
兄弟のようにずらずらと並んで泳いでいた。

「シルヴァン…幾つ持ってきたの…」

「6つです♪ ハルヤにはー、この子を貸してあげますね♪」

ハルヤの前に紫のアヒルが泳いでくる。

「いや、この子、完全に顔色悪いよね?」

「あはは。じゃあ、ピンクの子は、のぼせちゃったんですかねー。あ。ハルヤー?」

「今度はどうしたの?」

「僕、ちょっと眩暈が」

「え。のぼせた!?」



温泉に併設されている旅館。
その一室で、シルヴァンは休ませて貰うことができた。
のぼせたという割には、元気そうなシルヴァンが、
浴衣姿で布団に寝そべっている。

「はしゃぎ過ぎなんだよ、いい年して…めんどくさいなあ…」

「すみません♪」

「んー。どうしようか。飛行機の便、夕方だったけど。
もう少し遅いのに変えられるかなあ」

「ね、ハルヤ。今夜は、このお宿に泊まって行きません?」

「飛行機、今日のチケットでしょ?」

「大丈夫です♪」

シルヴァンは勢い良く起き上がる。

「チケットは、女将さんが手配してくれました。
明日の午後の便ですよ。今夜の部屋とディナーも頼んでありますから。
バトラーにもその旨連絡済みですので、ご心配なく。
あ、ジョシュアからは『うん。解った。気を付けて』とのことでした♪」

「いつのまに…てゆうか、なんでそんなカンペキなんだよ…」

「それにしてもハルヤは、浴衣、似合いますね」

ハルヤは旅館の浴衣を纏い、髪を高く結わえていた。
シルヴァンを運んだり、布団を敷いたり、
水を飲ませたり、団扇で扇いだりする過程で結んだらしい。
生乾きで、そのままで居ては、くせがついてしまうが、
指摘するには勿体無い程、似合っていて、言い出せない。

「そう?」

「着物の凛々しさとは、また違うんですね。
そのように少しはだけた所が浴衣の美しさとは聞いていましたが…」

「えっ? あ、本当だ。ごめんね」

ハルヤは襟元を正す。
帯の周りで緩んでいた裾を引く。

「なんで直してしまうんですか!?」

「みっともないから」

「お美しいのに…」

「日本では、いけないことなの。サイズ合ってないのかも。
さっき慌ててたから、大きいの着ちゃったのかなあ?」

ハルヤが袖口を伸ばしてみると、手が出なかった。

「あ、ねえ。シルヴァン。
首の後ろにサイズがあったと思うんだけど、
何て書いてあるか見てくれない?」

シルヴァンに見えるように、背を向ける。
短いポニーテールの後ろで青白いうなじが覗いた。
しっとりと濡れている。

「シルヴァン? 書いてなかった?」

「…あ、あの…ちょっと待って下さい」

肌を見ないようにして、後ろの襟を返す。
湯上りの匂いが、ふわっと漂う。

「え、えっと…。L、ですね」

「やっぱり、いっこ間違えてたのか。でもまた着替えるの面倒だしなあ…」

シルヴァンは、ハルヤに背を向けて、
また布団の上に寝転がった。

「あれ。シルヴァン、まだ具合悪い?」

「平気です…今の所は」

「そう? あ、そだ。夕食って何時なの?」

「18時です。後2時間程ですね。あ、今宵のメニューは舟盛りなんですよ♪」

「そ。良かったね。俺、お腹空いてきたなあ」

シルヴァンは自分の胸に手を置く。
まだ鼓動が早い。

「僕が夕食までガマンできるか心配ですけどね」

「シルヴァンも、お腹空いたの?」

「…ええ、まあ」

「じゃあ、売店にでも行く? 俺、温泉まんじゅう食べたいな」

「あっ、良いですね♪ 寮のみんなにもお土産に持って行きましょうか♪」


売店の土産物コーナーで、
シルヴァンが飛び付いたのは木刀だった。
筆文字で漢字が刻まれている。

「ハルヤ! これ『トクナガヨシムネ』って書いてあるんですよね!?」

「ああ、うん。シルヴァン、よく読めたね?」

「サムライムービーで見たことあるんですー。サムライの名前ですよね!」

彼は紀州藩主で、その頃に吉宗と改名している。
和歌山には縁が深い。だから土産物にも名が刻まれているのだろう。

「この方は和歌山の人なんですか?」

「うん。えっと…まあ、この辺りの、
王様だったことがあるんだよ。お城も持ってたし」

「王様なんですかー」

シルヴァンは、改めて日本の文字を見つめる。

「漢字って難しいですけど、とても美しい文字ですよね。
あ、この前、四字熟語の本も読んだんですよー」

「へえ。講義をよくサボる割には、
そーゆーとこ勉強熱心だよね、シルヴァンって」

「んーっと、和歌山はー、『フーコーメイビ』ですよね?」

「凄い。使い方も合ってる」

「ハルヤはー、『ビジンハクメイ』ですよね♪」

「…それは色々間違ってる」

「えっ!? どうしてですか!?」

「いや…まあ、良いや。説明面倒だし。あ、その木刀買わないでね?」

「えー!? 『トクナガヨシムネ』ですよ!?」

「そんな大きいの持って帰るの恥ずかしいでしょ」

「僕は恥ずかしくないですよ?」

「俺が恥ずかしいの。君と歩くと只でさえ目立つのに。
あ、こっちのキーホルダーの方が良いんじゃない? 軽いしさ」

根付の木刀だ。
こちらにも『徳川吉宗』と刻まれている。

「あ、じゃあ、コレにしますー♪」

鼻歌混じりにレジに向かう。まるで修学旅行の小学生のようだ。
満足げに帰って来た人と共に、部屋に戻った。




「美味しかったですー、舟盛り! それから、あのー、
プティングのようなものは何と言うのでしたっけ?」

夕食後。
シルヴァンは郷土料理の余韻に浸っていた。

「茶碗蒸し?」

「あっ、そうそう、茶碗蒸しでした♪」

「なんかさ。シルヴァン、今日は一日中楽しそうだったね」

「はい♪ これから、布団の上で眠れるなんて夢のようです♪」

シルヴァンが、ごろごろごろと布団の上を転がる。

「…いや、そんな全身で喜びを表現しなくても、君が楽しいのは伝わるから」

「あ。こうしてると、畳の良い香りがします!」

「そうだね…こうして二人で布団を並べてると、なんか子供の時みたいだな」

シルヴァンの回転が止まる。
ハルヤは立ち上がって、照明のスイッチに触れる。

「電気、消しても良いかな。スタンドは点けておくから」

「ええ」

ふっと明かりが消える。
木目が美しい窓は、円く夜空を切り取っていた。
その隅に、控えめな三日月が輝く。
静まった部屋に、遠くから川の波音が届いた。

「さすが、山の宿だね。聞こえるのは川のせせらぎだけ、だなんて」

並んだ布団の枕元に、和風のフロアライト。
そう広くは無い和室でそこだけが、ぽうっと光る。
和紙にくるまれた灯火は、とても柔らかい。

「ね。シルヴァン…」

温かな灯かりを受けて、ハルヤの表情も朱色に見えた。




シルヴァンが目を覚ました時、
窓の中では、まだ三日月が覗いていた。

隣は静かに眠っていた。
昼間は自ら正した襟元も、今は乱れたままだ。
髪の毛先も枕の上で、四方に跳ねていた。
閉じた瞼には長めの睫が重なっている。
寝息が漏れ聞こえる。
乾燥した唇。
かさついている。
その唇が小さく動いた。

「……にい、さま…」

シルヴァンは、もう一度月を見上げた。
白く美しい光。

「成程。『同床異夢』とは、よく言ったものですね」

暗闇の中でも、月光は消えない。
周りの星では遠く及ばない輝き。
一等星ですら霞む程に。
月が輝いていた。



翌日。二人は旅館を発って、空港に居た。
ハルヤは、小さな旅行鞄を肩に掛けて、搭乗口に向かっていた。

隣を歩くシルヴァンのバッグには、
昨日買った木刀のキーホルダーがぶら下っている。
彼の手には温泉まんじゅうの紙袋。寮のみんなへのお土産だ。
他にも、シルヴァンが自分の為に買った日本グッズもたくさん入っている。
サムライにハマってる彼はこの2日間で見たもの触れたものは、
全て目新しく、魅力的に映ったんだと思う。

ハルヤは自分用のお土産を買っていなかった。
手を伸ばす気にはなれなかった。

此処は、子供の頃、自分が居た場所なのだから。

「29番の搭乗口、此処だね。そろそろ時間だし、入っちゃう?」

束の間の温泉旅行が終わろうとしている。
最初は、日帰りの予定を1泊してしまったのだから。
少しは長く滞在できたのだろう。
鞄を背負い直す。

「あー! すみません! ハルヤ、ちょっと此処で待っていて貰えます?」

「な、なになに?」

「僕、柿の葉寿司を忘れてしまいました! 機内で食べるのが夢だったんです!」

柿の葉寿司は奈良や和歌山の名物。
大きな柿の葉で、鯖か鮭の押し寿司を包んだものだ。
葉の仄かな甘い香りがする。

「解ったよ、俺も一緒に行く」

「ハルヤは、此処に居て下さい」

「え?」

「僕の荷物、重いので此処に置いて行きたいんですよ。
じゃ、すぐに戻りますからー♪」

財布だけをポケットに入れて、弁当屋の方へ向かう。
ハルヤは彼の陽気な背中を見ていた。
慌しく、予定外に宿泊までしてしまったけど、
彼は和歌山旅行を満喫したようだ。

それなら、いい。

彼が来たいと言ったから、和歌山に来たんだ。
他の目的で此処に居るのではない。
この休暇、元々は和歌山に来る予定は無かった。
梅香流は公演期間なのだから。

搭乗口の時計を見上げる。
そろそろ出発する時刻だ。
和歌山から、離れなくてはならない。

「春也!」

ハルヤの肩が跳ねる。
信じられない声がした。
自分の目は此処に居る筈の無い人を映していた。

「兄様…なんでこんな所に…公演は?」

「昨日終わったよ。今日もまだ片付けあるんやけどな」

「昨日…」

「この時間に、春也が此処に居るって聞いてな。飛んで来た。
和歌山に来てんのに、なんで顔見せに来ない? 俺に会うのは嫌か?」

「違う!…でも俺、どんな顔して会えば良いのか解らなくて…」

「そんなこと気にする必要ない、兄弟なんやから」

春臣は、ハルヤの後方で見守っている人に一礼した。

「貴方がシルヴァン・クラークさんですね。
初めまして、ハルオミ・ウメガエです。電話、ありがとうございました」

「お会いできて光栄です。お兄さんも英語お上手なんですね。
先程はすみません。僕、カタコトの日本語でお話してしまって」

「シルヴァン、日本語で喋ったの!?」

「ええ一応。でもよく解らなかったので、
とりあえず『ハルヤを預かっています。一人で此処に来て下さい』と」

「…脅迫電話じゃん。兄様、こんなの聞いて、一人で来たの?」

「ああ」

「もし、本物の誘拐だったら、どうすんのさ…」

「お前の為なら、どちらにしろ一人で来るだろうな。無事で良かった」

「兄様…」

「さあ。そろそろ時間じゃないのか?」

「あ、うん。そう、だね」

「ハルヤ…もう少し、和歌山に残りますか?」

「ううん。平気」

「春也。久し振りにお前の顔が見れて、ほっとしたよ。またいつでも来い」

「…ほんと?」

「当たり前だ。今度来る時はちゃんと連絡しろ」

「はい、兄様…」

兄と別れ、弟は友人の元に行く。
友人は持っている物を差し出す。

「あ。柿の葉寿司、ハルヤの分も買ってきましたよ♪」

「シルヴァン」

「はい」

「…ありがとう」

「どういたしまして♪」


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