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Marginal Prince Short Story
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■ディーノ×アンリ シリアス
■アンリシナリオクリア者向け
の続編
-----------------------------
「ディーノ。もう、知っているよね?」

アンリから電話が掛かってきた。

「ああ。お前の親父のことだろ」
「うん。念の為に確認させて。君達の仕業ではないよね?」
「当たり前だ。病気だったんだろう?」
「うん。そのようだね」

アンリの父親が急逝した。
すぐに掛かってきた電話がそれだった。
アンリの声はいつもの鋭さはなかったものの冷静さは保っていた。
次に電話があったのは一週間後。

「やっと手が空いたから。一度会った方が良いよね?」

シチリアにあるホテルの最上階。
俺が別荘のように使っているVIPルームに招待した。

今まで、ボディガードとクライアントが、
打ち合わせ、と称して使ってきた部屋だが、それも今夜で最後になるだろう。

ディナーを用意してやったのに、大した会話もない。
更にこいつは、どの皿も味見する程度しか口を付けなかった。
その静かな時間は、最後の晩餐には相応しいかったのかもしれない。

俺はソファに座り、あいつは窓の傍で夜景を見ている。
この部屋に入ってから、俺の顔を見ていなかった。

「今日、僕が何の話をしに来たか、解っているよね?」
「別れ話、だろ?」
「可笑しな言い方しないで。ビジネスが終わるだけだ」
「お前の命は、これで保障されたからな」
「ディーノ。ビジネスが終わることに、異論はないの?」
「お前に切られたら、こっちはどうしようもねえだろうが」
「ねえ。どうしたの? …今日の君、可笑しいよ」
「何が」
「僕のこと『お姫様』って一度も呼んでない」
「なんだ、お前。呼んで欲しかったのか?」
「それだけじゃ、ない」

アンリは初めて顔を上げる。

「どうして葉巻、吸わないの? ヘビースモーカーのくせに」

今日は葉巻の箱に触れていなかった。
理由は明確だ。俺の愛煙している葉巻は、
こいつの死んだ父親と同じものだからだ。

アンリは苦々しく吐き捨てる。

「君まで、似合わないことしないで」

そう言い放つと、自らの苛立ちに一瞬驚いた様子だった。
一呼吸置いて、目を合わせずに言う。

「もう何日も、気遣いや哀れむ言葉に晒されてるんだよ。
僕は、そんな言葉を受ける人間じゃないのに…。
もううんざりだ。吐き気がする」

「成程な。さぞ具合の悪い葬列だったんだろうよ」
「ああ。それに君には同情なんかされたくない」
「へえ。他のことなら、されたいのか?」

ベッドに身を押さえ付ければ、睨み付けて来る。
だが、その視線はいつもの鋭さを失っていた。
表情にも疲労の色が窺えた。
それは身体的なものではない。
酷く憔悴している。張り合いのないツラだった。

「俺としちゃ、ひ弱な顔はシュミじゃないんだが?」
「僕だって、君みたいに暑苦しい顔はシュミじゃないよ」
「坊やにはイタリア系の魅力が解らないんだな」
「そんなの、解りたくもない」
「減らない口だ」

生意気な口を塞ぐ。
唇を撫でてやると今夜はすぐに開いた。
こんなのは本意じゃない。
許されぬことを無理矢理に犯すのがマフィアの美学だ。

いつもは逃げ惑う小さな舌が向こうからやってくる。
面白くない。
乞われて与えるのなんかシュミじゃなかった。
自分から唇を離す。

「あっ…」名残惜しそうな声が聞こえた。

艶めいた琥珀の瞳に見上げられる。
鋭さも冷たさもない。
空ろな目で見つめられる。

「…ん…はあ…ディ…ノ…どう、して…」
「最初から欲しがられるのイヤなんだよ」
「…サイアク、だね…」
「今の目なら少しは好みだぜ?」

再び唇を重ねると、今度は向こうからは来なかった。
こちらから攻め立てる。息が続かなくなるまで追う。
求められれば突き放し、逃げられれば追い回す。
こうじゃなきゃ面白くないだろう。
酸素を欲して、小さな口が開く。

「…はあ…はあっ、…んっ」

微量の酸素を吸わせただけですぐに塞ぐ。
常に酸欠直前の状態にさせてやる。
小さな身体が熱を帯びていく。
口付けを口から首へ、下へ下へと落としていく。
首許を吸い上げて、赤い証を付けた。
上からクレームが降って来る。

「そんな、とこ…人に、見られる…」
「俺を欲しがった罰さ」
「本当に…サイアク、だね、君は」
「褒めるな。図に乗るぜ?」

俺は口の中でだけで嗤った。



「…あっ…ああ…」

暗い部屋の中で、水音と嬌声が響く。
散々焦らして、欲情の檻に追い詰めていく。

「いっ、やあ……ん…あっ」

その後に俺を欲しがる声は、
堪らなく好きだ。

「…ねえ…いい、か、げんに…っ…して…」

俺のことしか考えられなくなった頭で、
俺の名を呼ばれる。

「ディーノ……は、…やくっ……はや、く…」

知性もプライドもが高いお前が、
どうしようもなく俺の身体を求める。

「…きみ、が…あっ…ほし、い……ディ、ノ」

自己の快楽より、
それが至上の瞬間だった。


絶頂に達した後、子供は熱い息を吐き出していた。
ベッドに横渡る滑らかな肢体には、赤い花が散っている。
白い肌には赤がよく目立った。
ところどころ濡れている場所が、余計に艶かしい。
この全てを自分が付けたのだと思うと、思わず笑いが漏れた。
人目に付く首許にもちゃんと残っている。
この赤い花を気にするこいつを、傍で見られないのが残念だ。

未だ興奮が鎮まらない息が、耳に心地好い。
短い呼吸に、白い胸が跳ねている。

「はあっ、はあっ、…んっ…はあっ…」

徐々に治まる筈だが、今夜は違った。
呼吸が不規則に乱れていく。

ディーノの腕に、ぽたりと雫が落ちた。

声に、これまでにはない震えがが混じり始めた。
子供は顔を上げず、肩で息をしていた。

「…なん、で……」

またひとつ雫が落ちる。

「死んで、しまっ、たの…どう、してっ…」

先とは違う、感情的な息遣い。
今まで一度も聞いたことがない息だった。
余りにも複雑な感情が絡み合っている。
後悔、安堵、畏怖、憧憬、絶望――
これまで抑圧されてきた全ての想いが、
対象を失い、理性を失って初めて、
表に露顕したようだった。

こいつが求めていたのは父親の愛情だけだ。
父親は子供を殺意の対象としか見ていなかった。
父親が死んで、子供の命は守られた。

どうかしてやがる。
俺達マフィアの親子だって殺し合わないのに。

これで子供は、永久に唯一の愛情を受けることができなくなった。
子供は今、小さな肩を上下に震わせている。
命を狙われた相手だというのに。

アンリは何事かを繰り返し唱えていた。

「…かわ、りに……った…」

胎児のように顔を埋めていて、よく聞きとれない。

「…ぼく…が…」

言葉を詰まらせながら、切れ切れに呟かれる。

「…よかっ…のに…」

熱い息の中、か細い声が願う。

「…ぼくが…し」

俺は重く吐き捨てた。

「馬鹿が」

子供の背を掻き抱く。
骨が折れそうなほど、強く抱いていた。

小さな白い手がシャツを掴んで来た。
そうしなければ、自己が崩壊してしまうかのように。
拳を震わせながら、強く強く握り締めてきた。

それきり、言葉は消えた。
どんな言葉も意味がなかった。

光が差さない部屋には、取り残された嗚咽。
子供の泣きじゃくる声だけが響いていた。


fin
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