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Marginal Prince Short Story
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2日前 続編
■ユウタと愉快な仲間達
「姉貴のばか…11月は博士の誕生日にまで電話かけてきたのに」
12月15日午後。
ユウタはしょぼんとベッドに座っていた。
シーツの上には、鳴らない携帯電話。
「やっぱり忘れてるんだ、俺のことなんか」
不在着信もないし、新着メールを何度チェックしても何もない。
寮の皆からも何も言われていない。
それどころか、今日は皆、何処かへ行ってしまった。
朝起きたら誰も居なくて朝食は一人で食べた。
自然と去年のことを思い出した。家族に祝って貰った誕生日。
母さんも姉ちゃんもプレゼントはどっちもマフラーで、
姉ちゃんが作ったへたっぴケーキのろうそくを消した。
すっごい平凡な誕生日だとその時は思ったけど。
今年はそんなお祝いもして貰えないんだ。
「クリスマスにジョシュアに代わってって言われても絶対代わってやんないぞ!」
叫んでも携帯電話は光らない。


「ユウタ、喜んでくれるかな」
泉の傍には、一本だけ棕櫚の木がある。
幹に背を預けてミハイルは体育座りをしていた。
膝の上にはプレゼントの袋を抱えている。
タクシードライバーのアイヴィーさんと買いに行ったもの。
お店には色んなものが売っていて、なかなか決められなかった。
すごく時間がかかっちゃったのにアイヴィーさんは全然怒らなくて。
最後まで僕と一緒に居てくれたし、なんか細長いお菓子も食べさせてくれた。
シナモンのいい香りがして、甘くて美味しかった。
学校の前まで送って貰って、さよならする時は、
「楽しみだな、明日」ってぼくの頭を撫でてくれて。
アイヴィーさん、すごく優しくて、楽しい日になった。
「ユウタに喜んで貰えるといいな」
もうすぐ、プレゼントを渡しに行く時間。
その前に心を落ち着ける為、此処に来ていた。
ウーティス寮の皆が今日のパーティに誘ってくれた。
他の寮の人にこんなに仲良くして貰えるなんて。
みんな、ユウタのおかげだ。
昨日の夜はどきどきしてあんまり眠れなかった。
「ゴメンネ! ゴメンネー!」
空から甲高い声が降りてくる。
白い翼をばたつかせながら大型の鳥が降り立った。
ミハイルが此処でよく会う友達だ。
「あっ、こ、こんにちは、オウムさん」
「ゴメンネ、コンニチハ!」
片方の翼を挙げて、いつもの挨拶。
ミハイルの傍に寄って来る。動物が大好きなミハイルにとって、
動物の方から来てくれることはとても嬉しいことだった。
くりくりの黒目で見上げられる。
「ゴメンネ、キョウもナミダ?」
「ううん。今日はね、涙は出てないよ。今日は素敵な日だから。
 ごめんね、ぼくのせいで。オウムさんにはいつも心配して貰って」
膝の上にあるプレゼントを見せる。
「あ、あのね、これ、あげるんだ。ユウタに」
「ユウタ? ユウタにはナイショ?」
内緒という言葉は、以前オウムと会った時に、ミハイルが言ったもの。
ユウタへ誕生日プレゼントを贈ろうと考えていることは内緒だよと。
自分の言葉を覚えていてくれたことが嬉しかった。
「そう、内緒。でも、もう内緒にしなくてもいいんだ、今日、だから」
「キョウ、ダカラ?」
「うん。今日なんだ、12月15日。ユウタのお誕生日。
 オウムさんは今日までユウタには内緒にしててくれたんだね。ありがと」
オウムは胸を張って翼を挙げる。
「ユウタにはナイショ! ユウタにはナイショ!」
「オウムさんって、ほんと頭良いんだね。すごいなあ」
「スゴイナー!」
楽しげな一羽と一人の背後に、もう一人の人間が現れた。
「おい」
低い声。ミハイルが振り向く。
其処に立っていたのは一人の生徒。
すらりと高い背。黒髪に緑翠の瞳。
「あっ、この前、うさぎさんを助けてくれた…」
「それ、今日、ユウタに渡すのか?」
「あ、う、うん。ユウタ、誕生日だから…」
「そうか。なら、ついでにこれも渡してくれ」
突き出された、ギフト用の袋。
ラッピングは可愛らしく、リボンで結ばれている。
おそるおそるミハイルは袋を受け取る。
「あ、あの…これ…」
「クッキーだ。では、頼んだぞ」
空っぽになった手をポケットに入れて、森の出口へと向かう。
黒髪に当たる木洩れ陽はキラキラして綺麗だった。


「大体、姉貴はいつも勝手なんだよ」
ユウタの部屋では、姉への恨み言が続いていた。
携帯電話を握ったまままベッドに転がる。
「ちょっと年上だからって、弟に何でも命令するし。
 機嫌が悪い時は、俺に当たり散らすし。
 俺が楽しみにしてたアイス、勝手に食べたこともあるし」
思い出してみると、姉にされた悪事が次から次へと浮かんできた。
「なのに、ジョシュア達には人気あってさ。あんな姉貴のどこが良いんだろっ」
寮の皆は姉貴の嫌なところを知らない。
姉貴のことよく知らないのに。
俺からこの携帯電話を、俺から姉貴を取ろうとする。
「みんなの誕生日には電話してきたのに…どうして僕には」
手の中でミシリと携帯電話が音を立てる。
「…姉ちゃんのばか…姉ちゃんのっ」

コンコン、とドアがノックされた。
目を擦ってから、ドアを開けに行く。
立っていたのはバトラーだった。両手で箱を持っている。
老紳士は優しく微笑した。
「ユウタ様にお荷物が届いています」
ちょっと重い箱を受け取る。
バトラーは一礼して、部屋から下がった。
ユウタは箱をテーブルの上に置く。
差出人の欄に書かれていたのは、見慣れた住所。
箱を開けたユウタは、中を見て目を丸くした。
うさぎ怪獣型のバースデーケーキ…の残骸と言った方が良いかもしれない。
郵送の過程で揺れたのか、ぐっしゃぐしゃだ。
ただでさえコワイ顔なのに、チョコペンの線が歪んで、
クチがすごい裂けちゃってるし、
箱のあちこちに淡いピンクのクリームがベタベタ付いてる。
添えられたカードには日本語で、
『誕生日おめでとう みんなで食べてね』と書いてあった。

ユウタは携帯電話を掴んだ。ミシと音が鳴る。
携帯を開いても、電話のボタンは押せなかった。
今、電話なんかできない。
上手く動いてくれない指でメールを打った。


姉貴、前にもクッキー送ってきたことあったけどさ、
なんでケーキなんか送って来るんだよ!
てゆうか、箱がクリームまみれだったし!
お菓子とか上手くないくせに、こんなの作って…
こんな、めちゃくちゃなケーキ、みんなに食べさせられないよ!


コンコン、とまたドアがノックされた。
慌てて携帯をポケットに仕舞う。
「開けるよ」
優しい声がして、扉が開く。
ユウタが見上げると、其処にはジョシュアの笑顔があった。
「お姉さんから無事に届いたみたいだね。良かったね、ユウタ」
「え…どうして、姉貴からだって知って…」
「聞いていたからね。今年は去年よりは上手く作れたと思うって」
ユウタから視線を外し、後方へ向かって言う。
「バトラー。ケーキのことを頼むよ」
「はい。ジョシュア様」
控えていた執事が現れ、「お預かりします」とケーキを運んだ。
ユウタは呆然と見つめていた。ジョシュアはユウタへ向き直る。
「じゃ、行こうか。みんな、ユウタのこと待っているよ?」
右手を差し出し、ふんわりと微笑する。
「お姉さんからのプレゼントには敵わないと思うけど。
 俺達のバースデイプレゼントも受け取ってくれるかい?」


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