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■ロレートシナリオ
「また王子サマとデートする時は俺を呼んでくれ」
以前、エメリーにそう言われていたので今回も彼に護衛を頼もうとしたが、
陛下が今日の護衛にエメリーを連れて行ったそうで、居なかった。
代わりに、身体の空いていたホワイトに護衛を頼んだ。
陛下の側役六人のうちの一人。陛下に似せたらしい長い髪を持つ。
フルネームがブラウン・ホワイトなので、調子の良いエメリーなどは、
彼を『ラテ』というニックネームで呼んでいるが、私はそう呼べなかった。
よく気の回る優秀な男だが、私は彼にあまり良く思われていないことは解っていた。
彼は陛下の側近になることを希望していたからだ。
けれど、個人的な感情が執務に差し障ることはなかった。
私達は陛下に忠誠を誓っている同士。任務は同じなのだ。
私がホワイトに「殿下とご学友にロレートをご案内するので、共に護衛を務めて欲しい」
そう頼むと、いつものように無表情で、「了解した」すっと席を立った。
運転席にホワイト、助手席に私。私達は互いに言葉を交わさなかった。
自分で運転をしていない時は、外の景色に目を配るようにしている。
この車を狙う者が居ないかどうか、確認をする為だ。
今日は気持ちの良い青空だ。今のところ異常はない。
強いて言えば、サイドミラーに映っている、運転の荒いフェラーリが少し気になるくらいだ。
後部座席からは殿下とご学友の話し声がぽつぽつ聞こえる。
「ねえ。プリンス・ジョシュア」
「アンリ…そんな呼び方…」
「僕、間違ってる?」
「いや、間違っては、ないけど」
「じゃあ、ジョシュア1世?」
「俺はまだ国王じゃないから、1世は付かないよ」
「いつかは、付くけどね。レイナ卿、彼が玉座に就く日は決まっているの?」
「いいえ。陛下もまだお若いですし、殿下もまず王室やロレートについてのお勉強をなさいますので」
「ふうん。お勉強って、どんなことするの? プリンス・ジョシュア?」
「礼儀作法や心得、ロレートの歴史とか。本格的に始めるのは、卒業してからだよ」
「卒業か。君も、もうすぐ居なくなるんだ」
「寂しくなるな、アンリに会えなくなるなんて」
ぽつりと仰った。ご学友は窓の外を眺めながら、
「僕は清々するけれど?」
殿下は苦笑する。
「なら、いいけど」
沈黙が通り過ぎる。
ご学友は、ところで、と話題を転換した。
「その長髪は何なの? そんなにアルフォンソ王の格好が気に入っていたとはね」
「あ、これは、街を歩く時は、少し変装したほうが良いって…」
今日もお忍びのお出掛けなので、長髪とブルーのカラーコンタクトを着用して頂いた。
私はバックミラーから、ちらとお二人のお顔を伺う。
「瞳の色まで変えられて」ご学友が殿下の頬に触れて、瞳を見上げる。
「確かに緋眼を持つヒトは、ロレートでも君くらいだろうから、
隠すほうが無難だけど。君に碧眼なんて…似合わない」
「アンリ。もしかして、俺の瞳の色、気に入ってたの?」
「そうは言ってない」
殿下の顎をクイと横に向けた。
今日も陛下がお忍びで回られる場所の一部をご案内した。
街の住人達の幾人かは私の顔を見て、一緒に居るのが殿下だと気付いたようだが、
素知らぬフリをしてくれている。王も王子も安全に、気軽に歩ける場所があることは幸いだ。
それも全て『規格外の王』のお人柄と我が侭の成せる業である。
店が立ち並ぶ道、突き当たりは小さな広場となっている。
ご学友は舗装された綺麗な道を歩きながら、ポケットに手を入れる。
「へえ。意外と歩けるね。変装の効果だけとも思えないけれど」
ご学友の足が止まる。店先に並んでいる雑貨を見ていた。
「アンリ、欲しいのかい? その猫の置物」
「別に。目に入っただけ」
「ちょっと待ってて」
殿下はそれを持って店の奥に入っていった。
ご友人の元に戻ってきた殿下は小さなプレゼントの包みをご友人に差し出した。
「ロレートまで来てくれてありがとう、アンリ。お礼に受け取って貰えるかな?」
「僕、欲しいなんて一言も言ってな…」
「じゃ、寮で待ってるレッド達へのお土産にしようかな」
「あんな単細胞にあげるくらいなら、僕が貰う」
はい、と殿下は手渡した。
「さすが、プリンス・ジョシュアだよね。僕、君のそういうところが嫌い」
「アンリ、こんな街中で、その呼び方は困るよ」
「では、何て呼んで欲しいの?」
「えっ…そう、だね…」
「じゃあ、今日は君『アーサー』ね?」
「アーサー?」
「伝説の英雄アーサー王、お似合いでしょ?」
「それじゃ、アンリは今日一日、『マーリン』だね?」
「言うようになったよね、君も」
マーリンとは、アーサー王の助言者だったとして有名な、魔術師だ。
「良いだろう? マーリン?」
「良いよ、アーサー」
ご学友は、ポケットから携帯電話のような機械を取り出した。
歩きながらペンで機械の画面を数回タッチしていた。PDAと呼ばれる携帯情報端末のようだ。
ミニPC未満、携帯電話以上のスペックを持つ、高性能な電子手帳といったところだ。
「ねえ、アーサー。君、明日は忙しいんだっけ?」
「午前中だけ。午後は空いているよ。そうでしたよね、ラルヴィスさん?」
ええ、と私は頷く。その後で、おや、と思う。殿下から名前で呼ばれたのは初めてだ。
仮名で呼び合っている中、「レイナ卿」という敬称で呼ぶのは、不釣合いだとご判断されたのかもしれない。
「そう。では僕は、明日の午前中、一人でロレート観光しているから、
午後になったら君も合流する、というのはどう?
僕、行きたいところがあるから、そこで落ち合わない?」
「どこだい?」
「明日13時に『ラトナピュラ』という紅茶専門店。
そこにカフェもあるし、リーフも売ってるらしいから」
「先生へのお土産かい?」
「自分のだよ…何、笑ってるの、ジョシュア」
「だって、先生も好きなんだろう? 紅茶」
「彼には買わない」
ご友人を見て殿下が笑う。その時、前方から来た男とぶつかってしまった。
殿下は「すみません。大丈夫でしたか?」と丁寧にお声を掛けていた。
相手は無愛想に頷いただけで行ってしまった。ご学友は再び携帯情報端末をタッチしている。
「ねえ。『ラトナピュラ』の近くに、ロープウェイがあるらしいから、それも乗らない?」
「アンリって、高いところ好きだよね」
「高いところから見る景色は嫌いじゃないから。
ねえ、僕のことはマーリンって呼ぶんじゃなかったの?」
「君だって、さっき俺のこと、名前で呼んだじゃないか」
「君が変なこと言うからでしょう、アーサー」
「すまない」
ご学友は振り向いて、私に言う。
「レイナ卿、『ラトナピュラ』の場所はご存知ではないですよね? 後でお教えします」
「存じております。ロレートの老舗ですから。13時にそちらへお連れすればよろしいのですね?」
「ええ。お願いします」
「畏まりました。サン・ジェルマン様は午前中は何時にご出発なさいますか? お車をご用意致します」
「お構いなく。午前中は一人で行動したいので、車は自分で用意します」
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「また王子サマとデートする時は俺を呼んでくれ」
以前、エメリーにそう言われていたので今回も彼に護衛を頼もうとしたが、
陛下が今日の護衛にエメリーを連れて行ったそうで、居なかった。
代わりに、身体の空いていたホワイトに護衛を頼んだ。
陛下の側役六人のうちの一人。陛下に似せたらしい長い髪を持つ。
フルネームがブラウン・ホワイトなので、調子の良いエメリーなどは、
彼を『ラテ』というニックネームで呼んでいるが、私はそう呼べなかった。
よく気の回る優秀な男だが、私は彼にあまり良く思われていないことは解っていた。
彼は陛下の側近になることを希望していたからだ。
けれど、個人的な感情が執務に差し障ることはなかった。
私達は陛下に忠誠を誓っている同士。任務は同じなのだ。
私がホワイトに「殿下とご学友にロレートをご案内するので、共に護衛を務めて欲しい」
そう頼むと、いつものように無表情で、「了解した」すっと席を立った。
運転席にホワイト、助手席に私。私達は互いに言葉を交わさなかった。
自分で運転をしていない時は、外の景色に目を配るようにしている。
この車を狙う者が居ないかどうか、確認をする為だ。
今日は気持ちの良い青空だ。今のところ異常はない。
強いて言えば、サイドミラーに映っている、運転の荒いフェラーリが少し気になるくらいだ。
後部座席からは殿下とご学友の話し声がぽつぽつ聞こえる。
「ねえ。プリンス・ジョシュア」
「アンリ…そんな呼び方…」
「僕、間違ってる?」
「いや、間違っては、ないけど」
「じゃあ、ジョシュア1世?」
「俺はまだ国王じゃないから、1世は付かないよ」
「いつかは、付くけどね。レイナ卿、彼が玉座に就く日は決まっているの?」
「いいえ。陛下もまだお若いですし、殿下もまず王室やロレートについてのお勉強をなさいますので」
「ふうん。お勉強って、どんなことするの? プリンス・ジョシュア?」
「礼儀作法や心得、ロレートの歴史とか。本格的に始めるのは、卒業してからだよ」
「卒業か。君も、もうすぐ居なくなるんだ」
「寂しくなるな、アンリに会えなくなるなんて」
ぽつりと仰った。ご学友は窓の外を眺めながら、
「僕は清々するけれど?」
殿下は苦笑する。
「なら、いいけど」
沈黙が通り過ぎる。
ご学友は、ところで、と話題を転換した。
「その長髪は何なの? そんなにアルフォンソ王の格好が気に入っていたとはね」
「あ、これは、街を歩く時は、少し変装したほうが良いって…」
今日もお忍びのお出掛けなので、長髪とブルーのカラーコンタクトを着用して頂いた。
私はバックミラーから、ちらとお二人のお顔を伺う。
「瞳の色まで変えられて」ご学友が殿下の頬に触れて、瞳を見上げる。
「確かに緋眼を持つヒトは、ロレートでも君くらいだろうから、
隠すほうが無難だけど。君に碧眼なんて…似合わない」
「アンリ。もしかして、俺の瞳の色、気に入ってたの?」
「そうは言ってない」
殿下の顎をクイと横に向けた。
今日も陛下がお忍びで回られる場所の一部をご案内した。
街の住人達の幾人かは私の顔を見て、一緒に居るのが殿下だと気付いたようだが、
素知らぬフリをしてくれている。王も王子も安全に、気軽に歩ける場所があることは幸いだ。
それも全て『規格外の王』のお人柄と我が侭の成せる業である。
店が立ち並ぶ道、突き当たりは小さな広場となっている。
ご学友は舗装された綺麗な道を歩きながら、ポケットに手を入れる。
「へえ。意外と歩けるね。変装の効果だけとも思えないけれど」
ご学友の足が止まる。店先に並んでいる雑貨を見ていた。
「アンリ、欲しいのかい? その猫の置物」
「別に。目に入っただけ」
「ちょっと待ってて」
殿下はそれを持って店の奥に入っていった。
ご友人の元に戻ってきた殿下は小さなプレゼントの包みをご友人に差し出した。
「ロレートまで来てくれてありがとう、アンリ。お礼に受け取って貰えるかな?」
「僕、欲しいなんて一言も言ってな…」
「じゃ、寮で待ってるレッド達へのお土産にしようかな」
「あんな単細胞にあげるくらいなら、僕が貰う」
はい、と殿下は手渡した。
「さすが、プリンス・ジョシュアだよね。僕、君のそういうところが嫌い」
「アンリ、こんな街中で、その呼び方は困るよ」
「では、何て呼んで欲しいの?」
「えっ…そう、だね…」
「じゃあ、今日は君『アーサー』ね?」
「アーサー?」
「伝説の英雄アーサー王、お似合いでしょ?」
「それじゃ、アンリは今日一日、『マーリン』だね?」
「言うようになったよね、君も」
マーリンとは、アーサー王の助言者だったとして有名な、魔術師だ。
「良いだろう? マーリン?」
「良いよ、アーサー」
ご学友は、ポケットから携帯電話のような機械を取り出した。
歩きながらペンで機械の画面を数回タッチしていた。PDAと呼ばれる携帯情報端末のようだ。
ミニPC未満、携帯電話以上のスペックを持つ、高性能な電子手帳といったところだ。
「ねえ、アーサー。君、明日は忙しいんだっけ?」
「午前中だけ。午後は空いているよ。そうでしたよね、ラルヴィスさん?」
ええ、と私は頷く。その後で、おや、と思う。殿下から名前で呼ばれたのは初めてだ。
仮名で呼び合っている中、「レイナ卿」という敬称で呼ぶのは、不釣合いだとご判断されたのかもしれない。
「そう。では僕は、明日の午前中、一人でロレート観光しているから、
午後になったら君も合流する、というのはどう?
僕、行きたいところがあるから、そこで落ち合わない?」
「どこだい?」
「明日13時に『ラトナピュラ』という紅茶専門店。
そこにカフェもあるし、リーフも売ってるらしいから」
「先生へのお土産かい?」
「自分のだよ…何、笑ってるの、ジョシュア」
「だって、先生も好きなんだろう? 紅茶」
「彼には買わない」
ご友人を見て殿下が笑う。その時、前方から来た男とぶつかってしまった。
殿下は「すみません。大丈夫でしたか?」と丁寧にお声を掛けていた。
相手は無愛想に頷いただけで行ってしまった。ご学友は再び携帯情報端末をタッチしている。
「ねえ。『ラトナピュラ』の近くに、ロープウェイがあるらしいから、それも乗らない?」
「アンリって、高いところ好きだよね」
「高いところから見る景色は嫌いじゃないから。
ねえ、僕のことはマーリンって呼ぶんじゃなかったの?」
「君だって、さっき俺のこと、名前で呼んだじゃないか」
「君が変なこと言うからでしょう、アーサー」
「すまない」
ご学友は振り向いて、私に言う。
「レイナ卿、『ラトナピュラ』の場所はご存知ではないですよね? 後でお教えします」
「存じております。ロレートの老舗ですから。13時にそちらへお連れすればよろしいのですね?」
「ええ。お願いします」
「畏まりました。サン・ジェルマン様は午前中は何時にご出発なさいますか? お車をご用意致します」
「お構いなく。午前中は一人で行動したいので、車は自分で用意します」
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