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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
ダイニングルームへ戻ってすぐ、陛下とサン・ジェルマン様がお戻りになった。
お二人は、何についてお話しされたのか、殿下にも言わなかった。
陛下が「では明日の朝食でな」と仰って、お開きとなった。
サン・ジェルマン様に「ジョシュアの部屋に、紅茶と、カップを二つ、お願いできますか?」
と言われた私は、イングリッシュブレンドをご用意することにした。
陛下も殿下も紅茶はあまり飲まれないので、紅茶の在りかを探してしまった。

ティーセットを持って、殿下のお部屋の前まで来る。
ノックしようと手を持ち上げた時、中からお二人のお声が聞こえてきた。
最初に耳に入った言葉。聞き違いかと思ったが、確かにご友人の声だった。
「綺麗になったね?」
「えっ」
「王冠」
「…そう、なのかい?」
「うん。寮で見る時より、綺麗に見えるんだ。ロレートに居るからかもね」
「あっ…」
「やっぱりこの王冠は、グラントに関わるものじゃなくて、ロレートのものだったのかな」
一体何の話をしているのだろう。そこに王冠があるのだろうか。
「君はこのお邸の中でも、好かれているようだね、生徒代表殿?
メディアでも『プリンス・ジョシュア』はアイドル扱いのようだし」
「俺のせいじゃないよ。国民から支持を受けているカーディスに指名されたからだ」
「それだけじゃないでしょう? 僕、これからあまり面白くない事実を並べ立てるけれど。聞ける?」
「うん」
「君の人気振りを見て、僕は逆に心配になったよ。
正式にロレート皇太子となっても、君はまだグラントから手を切れていないんだ。
その血が君を酷評から守ってくれている。グラントの力はメディアにも浸透しているからね?」
殿下が否定するお声が聞こえない。
「ねえ。皇太子になることで、本当にグラントからは何も言われなかった?
例えば『ロレートを飲み込むのに一役買ってくれ』だとか」
「まさか。応援しているよ、って励ましてくれたし」
「応援、ね」
沈黙。次にサン・ジェルマン様は質問を変えた。
「現在の家長は伯父上のネイサン・グラント氏だったよね? 彼って家ではどういう人なの?」
「伯父さんは親切な人だよ」
「君に聞いた僕が馬鹿だった」
「え?」
「君の心象は当てにならない。この世の大体の人が親切に見えるんでしょう?
でも、君みたいなお人好しに黒い内情を話すわけないよね。それこそ、身の破滅を招く」
また沈黙。心配そうな殿下のお声が聞こえる。
「アンリ? どうしたの?」
「寮に置いてきたのか、と思っただけ」
「何か忘れ物かい?」
「特別困る物じゃないけど。持ってこなかったな、と思ってね。タロット」
タロット? あの占いに使うカードのことを言っているのだろうか。
「傍に無いと、落ち着かないの?」
「いいや。急に、カードが引きたくなっただけ。気にしないで」

そう言えば、先程の会食で、ご先祖が高名な錬金術師だという話題が出ていた。
殿下のご友人は全く、只者ではない。
次に「遅いね、紅茶」と言うご友人の呟きが聞こえた。
私の横にあるティーセット。ひと息吐いてから、お部屋に入った。

紅茶をサーブすると、相変わらず殿下からはお礼のお言葉を頂いた。
私が部屋に居る間、お二人の会話は止まっていたので、早々に退出した。
今、目に映してきたものを頭の中でもう一度思い浮かべる。
殿下のお姿、部屋のどこにも、なかった。
「もしかしたら、カーディス1世も、そうなのかと思ったんだけれど」
部屋の中から声が聞こえる。ご学友は、ぽつりと呟かれた。
「彼は被ってなかった、月桂樹の王冠」


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