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■アイヴィー4年前
■囚われ人11 続編
この島に来て、二度目の夏が来た。
おととい、発表された新しい生徒代表はジブリールだった。
生徒代表の交代劇を見届けた生徒達は、順次夏休みに入っていった。
聖アルフォンソ学院では、一年中、授業を受けることができる。
学院としては夏休みを設けず、生徒の自由に任せているのだ。
当然、多くの生徒は、外界の夏休みと合わせて、海外へ脱走してる。
学院の特質上、夏休みも島に残る留守番組の生徒が居るから、先生達や警備の俺達も、一斉の長期休暇などは取れない。
まあ、大部分の生徒が居ないから、侵入者はゼロに近い。お客さん達もバカンスを楽しんでるんだろう。
おかげで警備部隊は割とヒマな時期だ。
今日、新年度一回目の警備ミーティングがあった。もう副司令官は出席しなくなった。
メンバーは三人。俺、留守番組のジブリール、そして、前年度の功績から契約更新となったソクーロフ先生だ。
ジブリールに、「タクシードライバーで、警備組織の司令官です」って自己紹介したら、めっちゃ睨まれた。
でも、ヤン曰く「彼は別に睨んでるわけじゃなくて、じっと見てるだけ」らしいので、
多分、熱く見つめられただけなんだと自分に言い聞かせた。
ミーティングが終わったのが、丁度イイ時間だったから、
晩メシにソクーロフを誘って、旧市街まで車を走らせた。
ソクーロフが時々行っているという店で中華を食った。
腹もいっぱいになって、店を出たら、まさかのドシャ降り。
駐車場に着くまでに、靴下もびっちょびちょになった。
運転席に滑り込んで、手で顔を拭く。助手席では眼鏡を外しながら、
「酷い雨だな」
「だね。俺んちで、雨宿りしてく?」
言った後で、ヘンなこと言ったかなと思った。
なんか、使い古された誘い文句みたいだ。だけどソクーロフは「そうだな」と言った。
シャワー上がりのソクーロフを見たのは、当然、その時が初めてで、
普段の白衣姿とは別人みたいだった。眼鏡掛けてないし、濡れた髪は長くて。
顔だけ見たら、色白の美人さん……って、何考えてんの、俺。
「ビールでも飲む?」
「ああ」
俺もシャワーを浴びた後、二人で冷蔵庫にあった缶ビールを空けた。
つまみはピーナッツしかなかった。
今日は酔いの回りが早い気がして、窓を少し開けた。
夜の潮風が入ってくる。なんだか平和だ。
「ヒマでイイよねー、夏休みは。大人もさー、たまには、ながーいお休み貰って、どっか旅でも行きたいよねー」
「どこへ?」
「行くなら山だな」
「ほう。山、か」
「あっ! 今、カウンセラー的なこと考えたでしょ!? 『旅は現状への不満の表れ』とかなんとか」
「いいや? 私を旅行に誘っているのかと思っただけだが」
「ちがいますー。行くなら一人で行くよ。男の一人旅。夜行列車とか乗っちゃったりして」
「旅行が好きなのか? それともただの憧れか?」
ソクーロフにそう尋ねられて、理由が思い当たった。
「あー。いや、一人旅してるヒトからお便り貰うからさ、影響されてんのかな、俺」
「お便り?」
「ピコからなんだけどね。覚えてる? ピコ」
電子メールが主流になった時代に見る直筆の文字。
プライベートで俺なんかにアナログメールを送ってくるのは、この時代錯誤なじーさんだけだ。
ピコから貰ったポストカードをテーブルに広げる。
ピコが今世界のあちこちを一人旅していること、
旅先で買ったポストカードを俺に送ってくることを、初めて人に話した。
「ほう。それは羨ましいご身分だな」とか言ってくれると思ったのに。
カウンセラーはポストカードを手に取ったまま、真面目な顔をして黙りこくってしまった。
「ソクーロフ?」
カウンセラーはポストカードをテーブルに置く。
「おそらくピコは、これらをお前だけに送っているのだろう」
「それって、もしかして、ピコ、俺のこと……」
「違う。全く、興味深いな、この島は」
「ねえ。何、一人で納得しちゃってんの? 何が解ったのさ?」
「お前は、アルフォンソ王の伝説を知っているか?」
「え? うん。陰謀から逃れてこの島に辿り着き、立派になって祖国に帰りましたってお話でしょ?」
「現在もよく語られている、表のストーリーだな」
私も最近知ったのだが、とカウンセラーは話し始めた。
「王の伝説は複数存在する。その中のひとつに、
アルフォンソは災厄を呼ぶ王子だった為、この島に封じ込められた、という裏のストーリーがある。
生徒や島民を観察していくうちに、私には、裏のストーリーのほうが、
この島の特質を適確に表現しているように思えてきた。島民は、この島に囚われてる。心理的にな」
「囚われてる?」
「ここに住んでいる人間、ここから去っていく人間が、島に対して持っている感情は、愛国心や郷愁とは違う。
純粋にこの島が好きで留まっているというより、魅入られて、出られなくなっているように見受けられる。
帰らぬ友人を待っている青年、尊敬する上官を失った副司令官、島から追い出された老人にも当て嵌まる」
カウンセラーが窓の外を眺める。
開けた窓の向こうは、真っ暗な海。
「災厄の王子にとって、そうだったように、島自体が牢獄なのさ」
「牢獄って……」
「お前の手首にも、既に、見えない手枷が嵌められているかもしれないな」
→
■囚われ人11 続編
この島に来て、二度目の夏が来た。
おととい、発表された新しい生徒代表はジブリールだった。
生徒代表の交代劇を見届けた生徒達は、順次夏休みに入っていった。
聖アルフォンソ学院では、一年中、授業を受けることができる。
学院としては夏休みを設けず、生徒の自由に任せているのだ。
当然、多くの生徒は、外界の夏休みと合わせて、海外へ脱走してる。
学院の特質上、夏休みも島に残る留守番組の生徒が居るから、先生達や警備の俺達も、一斉の長期休暇などは取れない。
まあ、大部分の生徒が居ないから、侵入者はゼロに近い。お客さん達もバカンスを楽しんでるんだろう。
おかげで警備部隊は割とヒマな時期だ。
今日、新年度一回目の警備ミーティングがあった。もう副司令官は出席しなくなった。
メンバーは三人。俺、留守番組のジブリール、そして、前年度の功績から契約更新となったソクーロフ先生だ。
ジブリールに、「タクシードライバーで、警備組織の司令官です」って自己紹介したら、めっちゃ睨まれた。
でも、ヤン曰く「彼は別に睨んでるわけじゃなくて、じっと見てるだけ」らしいので、
多分、熱く見つめられただけなんだと自分に言い聞かせた。
ミーティングが終わったのが、丁度イイ時間だったから、
晩メシにソクーロフを誘って、旧市街まで車を走らせた。
ソクーロフが時々行っているという店で中華を食った。
腹もいっぱいになって、店を出たら、まさかのドシャ降り。
駐車場に着くまでに、靴下もびっちょびちょになった。
運転席に滑り込んで、手で顔を拭く。助手席では眼鏡を外しながら、
「酷い雨だな」
「だね。俺んちで、雨宿りしてく?」
言った後で、ヘンなこと言ったかなと思った。
なんか、使い古された誘い文句みたいだ。だけどソクーロフは「そうだな」と言った。
シャワー上がりのソクーロフを見たのは、当然、その時が初めてで、
普段の白衣姿とは別人みたいだった。眼鏡掛けてないし、濡れた髪は長くて。
顔だけ見たら、色白の美人さん……って、何考えてんの、俺。
「ビールでも飲む?」
「ああ」
俺もシャワーを浴びた後、二人で冷蔵庫にあった缶ビールを空けた。
つまみはピーナッツしかなかった。
今日は酔いの回りが早い気がして、窓を少し開けた。
夜の潮風が入ってくる。なんだか平和だ。
「ヒマでイイよねー、夏休みは。大人もさー、たまには、ながーいお休み貰って、どっか旅でも行きたいよねー」
「どこへ?」
「行くなら山だな」
「ほう。山、か」
「あっ! 今、カウンセラー的なこと考えたでしょ!? 『旅は現状への不満の表れ』とかなんとか」
「いいや? 私を旅行に誘っているのかと思っただけだが」
「ちがいますー。行くなら一人で行くよ。男の一人旅。夜行列車とか乗っちゃったりして」
「旅行が好きなのか? それともただの憧れか?」
ソクーロフにそう尋ねられて、理由が思い当たった。
「あー。いや、一人旅してるヒトからお便り貰うからさ、影響されてんのかな、俺」
「お便り?」
「ピコからなんだけどね。覚えてる? ピコ」
電子メールが主流になった時代に見る直筆の文字。
プライベートで俺なんかにアナログメールを送ってくるのは、この時代錯誤なじーさんだけだ。
ピコから貰ったポストカードをテーブルに広げる。
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ピコが今世界のあちこちを一人旅していること、
旅先で買ったポストカードを俺に送ってくることを、初めて人に話した。
「ほう。それは羨ましいご身分だな」とか言ってくれると思ったのに。
カウンセラーはポストカードを手に取ったまま、真面目な顔をして黙りこくってしまった。
「ソクーロフ?」
カウンセラーはポストカードをテーブルに置く。
「おそらくピコは、これらをお前だけに送っているのだろう」
「それって、もしかして、ピコ、俺のこと……」
「違う。全く、興味深いな、この島は」
「ねえ。何、一人で納得しちゃってんの? 何が解ったのさ?」
「お前は、アルフォンソ王の伝説を知っているか?」
「え? うん。陰謀から逃れてこの島に辿り着き、立派になって祖国に帰りましたってお話でしょ?」
「現在もよく語られている、表のストーリーだな」
私も最近知ったのだが、とカウンセラーは話し始めた。
「王の伝説は複数存在する。その中のひとつに、
アルフォンソは災厄を呼ぶ王子だった為、この島に封じ込められた、という裏のストーリーがある。
生徒や島民を観察していくうちに、私には、裏のストーリーのほうが、
この島の特質を適確に表現しているように思えてきた。島民は、この島に囚われてる。心理的にな」
「囚われてる?」
「ここに住んでいる人間、ここから去っていく人間が、島に対して持っている感情は、愛国心や郷愁とは違う。
純粋にこの島が好きで留まっているというより、魅入られて、出られなくなっているように見受けられる。
帰らぬ友人を待っている青年、尊敬する上官を失った副司令官、島から追い出された老人にも当て嵌まる」
カウンセラーが窓の外を眺める。
開けた窓の向こうは、真っ暗な海。
「災厄の王子にとって、そうだったように、島自体が牢獄なのさ」
「牢獄って……」
「お前の手首にも、既に、見えない手枷が嵌められているかもしれないな」
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