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■ソクーロフ×姉貴(新婚モード)+アイヴィー ※ドリーム機能版はこちら
■マジプラス+@ソクーロフ 続編
『漁師の後悔』
後悔なんてしてやるなよ、こんなにウマイんだから。
ツナサンドを食べる時、アイヴィーはいつも同じことを思った。
聖アルフォンソ島では、ヘンな名前が付いてる料理が多いけど、
なんで、こんなザンネンな名前になったんだか。
今日、アイヴィーは休日だった。いつもより少し遅く起きたあと、
午前中からやっているアイリッシュパブへブランチを食べにきた。
夜は大人達で賑わっているこの店も、平日の昼間は空いている。
アイヴィーの他は一組のオジサン達しか居ない。
店内には、丁度イイ大きさで音楽が流れてる。今はレゲエっぽい曲だ。
頼めば、昼からビールも飲ませてくれる店だけど、
今日は車で来てるし、飲みたい気分でもなかった。
アイヴィーの前にある皿には、三切れのツナサンドと、細切りのフライドポテト。
食べ易いサイズに切ったフランスパンに、ツナマヨが挟んである。
パンは少し焦げ目が付く程度に焼かれたものだ。
この店でサンドイッチを頼むと、フライドポテトが付いてくる。何故かは解らない。
ここのポテトには、ブラックペッパーと、なんかウマイ塩がかかっててスキだった。
ツナサンドが『漁師の後悔』なら、フライドポテトは『農家の後悔』だろうか、なんて、
どうでもいいことを考えているうちに、全部食べ終わった。
日が良いと、ここで食べている間に、新曲を思いつくこともあるのだが。
今日は全くメロディが思い浮かばなかった。
店を出たあとは、一週間分の買い出し。
ブランチのあと買い物に行くのは、いつのまにか、休日のお決まりコースと化していた。
いつもは、こじんまりとした店だが家から近いスーパーに行くのだが、
今日はそこへ行く気がしなくて、新市街のど真ん中に向かってハンドルを切っていた。
新市街のショッピングモールにある食品フロア。
アイヴィーは、先週とほぼ同じ時間に同じ場所に居た。
一週間分の食材をカートに乗せて、歩いてる。
水、ビール、パスタ、野菜、肉、卵、牛乳エトセトラ。
これ以上買う物はないのに、ムダに店内をもう一周していた。
ムダな二周目を回る気にはならず、ショッピングモールをあとにした。
アストンマーチンの後ろに食材を乗せ、次の場所へ向かった。
新市街の噴水広場。そこにピンクと白の水玉模様をしたワゴン車が停まっている。
この島では有名なアイスクリームの移動販売車だ。
「アイスじーさん」と呼ばれる老人が一人でやっている。
アイヴィーがワゴン車の前に立つと、白いキャップを被った店主が話しかけてきた。
「おや。アイヴィーじゃないか」
「こんちは、アイスじーさん」
「いらっしゃい。あれ? 今日は一人かい? 珍しいねえ」
「あ、うん。なんか、急にアイス食べたくなっちゃって、さ。
先週、食べたのウマかったから。俺、クッキー&クリームね」
「おやおや、アイヴィーも先週と同じのを頼むんだねえ。気が合うことだ」
「え?」
「お嬢さんにも先週と同じアイスを頼まれたのさ。ついさっきまでそこで食べてたよ?」
「ちょ、##NAME1##ちゃんのこと!? ここに来たの!?」
「ああ。買い物帰りに寄ってくれたみたいでね。
そこのベンチに座って食べてってくれたよ」
「##NAME1##ちゃんが……」
「おやおや。可愛い顔をするじゃないか、アイヴィー。もしかして」
「なっ、そ、そんなんじゃないよ! 俺は……だって、##NAME1##ちゃんは人妻で……」
「良いじゃないか、略奪愛。しかも人妻なんて、昔見たドラマみたいだ」
「じーさん! もう、アイスはまだ!?」
「はははっ。ちょっと待ってな」
アイスを持って、先週と同じベンチに座った。
男が一人で、平日の昼間にアイスを食べてる。女の子も連れずに。
強い風が吹いて、アイヴィーは身震いした。
「寒いな……」
スーパーでムダに一周しなければ良かった、とアイヴィーは思った。
人には要領が良いとか言われるけど、そんなことはない。
俺はいつも、肝心なとこで抜けてる。
気付いた時には、もう遅くて、大事なものを失っている。
アイスを食べ終わった頃には、口の中が冷えていた。
何も持っていない手が寒々しく見える。
右手の薬指には、もう絆創膏は巻かれていない。
「傷、もう治っちゃったな」
その翌日。
夕方、##NAME1##は一人で自宅に居た。
今の家は、聖アルフォンソ島の高級住宅街と呼ばれる地区にある。
##NAME1##の旦那様であるソクーロフ博士が選んだ家だ。
本来、学院の職員には、メルキュール館という教職員の宿舎がある。
以前は博士もそこに住んでいたのだが、
##NAME1##と結婚後、宿舎とは別の住まいを用意した。
メルキュール館を出ることについて、一度は学院側に止められたらしい。
保健教師であり、生徒達の主治医でもある立場上、
彼の住居はキャンパス内にあったほうが良いからだ。
しかし、学院側との『相談』の結果、生徒に急患が出た際には、
いつなりとも駆け付けることを条件に、
キャンパス外に住居を持つことを許されたのだそうだ。
それが本当に『相談』の結果だったのかどうか、
博士を問い質す勇気は、##NAME1##にはない。
##NAME1##は時計を見上げる。現在16時。旦那様はまだ暫く帰ってこないだろう。
家事も終わってしまったし、夕食を作るにはまだ早い。
携帯電話が目に入る。##NAME1##は着信履歴から一人選んでキーを押した。
「あ、姉貴?」
テレビ電話に弟のユウタが映る。弟の背景に見えたのは、
学院内の景色ではなくスーパーの食品売場だった。
「今ね、俺達、みんなでスーパーに来てて、うわっ」
「##NAME1##じゃん! ハーイ! 元気ィ?」
「お姉さんですか!? わお! コンニチハ!
ご無沙汰じゃないですかー。もっと電話して下さいよー!」
「こんちは。煩くてごめんね」
アルフレッド、シルヴァン、ハルヤが顔を出した。
##NAME1##が「みんなでお買い物?」と尋ねると、四人は代わる代わる説明してくれた。
一時間程前、ユウタとデッド・プリンスは、四人でアイヴィーの家に遊びに行ったそうだ。
放課後になったので、おやつ代わりに何か料理を作って貰うつもりで。
ところが、「今日は何もしてやれないから帰れ」と追い返されてしまった。
狭く開かれたドアから現れたアイヴィーは、辛そうな顔で咳き込んでいたそうだ。
「アイヴィーさん、昨日から、風邪引いちゃったみたいなんだって」
「俺、ソクーロフ博士から薬貰ったのかって聞いたんだ」
「本人は薬は昨日飲んだって言うんですけどねえ」
「でも、博士の薬を飲んだら、すぐに治ると思うんだけど」
「ねえ、姉貴。博士から、アイヴィーさんが風邪だって話、聞いた?」
聞いていない。アイヴィーが体調不良で博士の世話になったのなら、
昨日の夕食の席で話題に上っても良さそうなものだが。
「そうでしたか。妻の##NAME1##にも話していないとなると、
博士もアイヴィーが風邪を引いたことを知らないのかもしれませんねえ」
「はぁー。妻かあ。マジなんで博士と電撃結婚したんだよ、##NAME1##ー」
「そうですよー! 僕も博士より貴女を幸せにする自信ありましたー!」
「ちょっと、レッドもシルヴァンも、今、その話関係ないでしょ」
「それでね。アイヴィーさん、一人暮らしだからさ、
俺達がアイヴィーさんに、何か消化に良い物、作ってあげたいなと思って」
「アイヴィーには、今までたくさんの美味しい料理を作って貰いましたから」
「今度は俺達がウマイモン食わせてやろうってわけよ!
どうだ、イイ話だろー? 惚れ直したかー?」
「それで、勢い勇んでスーパーまでやってきたのはいいんですが、
風邪を引いた時に食べる物って、食べたことはありますけど、
僕達、作ったことがないのに気付きまして」
「アメリカではさ、チキンスープとかホットハニーレモン飲むんだ。
イタリアだと、リゾーニっていうリゾットみたいなやつとか、ホットワインとか。
けど、俺じゃそんなの作れねーって、さっき気付いたんだよな……」
「俺、おかゆなら作れるかなって思ってたんだけど」
「肝心のお米がない、っていうな」
「アイヴィーんちに置かせて貰ってた俺の常備米も、
丁度この前使い切っちゃってて、このスーパーにも売ってなくてさ。
新市街のショッピングモールまで行ってみようかって話してたとこなんだ」
##NAME1##はキッチンのほうを振り向く。お米ならありますけど、と伝えた。
四人は学院の車で、##NAME1##の家まで迎えに来てくれた。
旧市街を抜け、海沿いの道を走っていく。
車中、##NAME1##は博士との新婚生活について、
質問責めに遭いながら、アイヴィーの自宅へ向かった。
海に近い崖っぷちのコテージに着いた。
一階はガレージになっていて、三台の車が停まっている。
その中には、先週、##NAME1##が乗ったメタリック・ブラックのBMWもあった。
一階から続く梯子の先にコテージがある。
アルフレッドは我が家を紹介するように言う。
「ここがアイヴィーの家。あ、##NAME1##は来たの初めて?」
##NAME1##は頷いた。
「そっか。俺達はよく遊びに来てんだ。ま、俺達の別荘ってカンジ?
だから、##NAME1##も遠慮しないで上がってくれよ」
「あ、ちょっと待って下さい。アイヴィー、寝ているかもしれませんから、
起こさないように中に入りましょう?」
シルヴァンはそう言うと、何故かガレージの中に入っていった。
##NAME1##は彼の背中を追いかける。シルヴァンはガレージの奥でしゃがんでいた。
地面に置いてある工具箱を開け、その中からカギを取り出した。
振り向いたシルヴァンは##NAME1##にウインクをしながら、
「合い鍵です。僕が入学した頃に作って貰ったんですよ。
あの頃は、しょっちゅう入り浸ってましたから。
さあ、アイヴィーの家に潜入しましょー!」
自然と手を取られ、二人はガレージの外へ走っていった。
五人でそーっと中に入る。アイヴィーは奥の寝室で寝ていた。
唇の前で人差し指を立てながら、五人はリビングに戻ってきた。
シルヴァンが寝室のドアを見ながら呟く。
「こんなにぞろぞろ入ってきても起きないなんて、本当に具合が悪いようですね」
「なあ。今のうちに、その、オカユとかいうヤツ作ってビックリさせてやろうぜ」
そうして料理開始となったのだが、おかゆ作りに五人も必要ない為、
調理班が##NAME1##とハルヤ、他三人は味見班となった。
##NAME1##はハルヤと一緒にキッチンに立っている。
おかゆは土鍋で作るのが理想だが、当然このキッチンにはないので、普通の鍋を使った。
量は三人前くらいあるだろうか。##NAME1##はお米を多めに持ってきたし、
シルヴァンが「僕も貴女お手製のおかゆ食べてみたいですー」と言うので、
たっぷり作ることになった。柔らかくなった白米が、良い具合にグツグツと煮立っている。
##NAME1##は「そろそろ火を消したほうがいいんじゃないですか」と
鍋の前に居るハルヤに言った。ところが、ハルヤには聞こえていないのか、
おかゆを見つめたまま、ぴくりとも動かない。
##NAME1##はとりあえずハルヤの前に手を伸ばし、火を止めた。
それを見てハルヤが我に返る。
「ご、ごめん。俺、ぼーっとしてたね」
##NAME1##はハルヤも体調が悪いのか尋ねた。
「ううん。大丈夫。お姉さんと一緒に、台所に立ってたら、
東京に居た頃、思い出しちゃって」
俯いたまま、ぼそっと呟いた。
「なんか、母様と一緒に居るみたいだなって」
小林家の母と子が並んで台所に居る光景。
##NAME1##は彼の少年時代がふっと見えたような気がした。
「あ、お姉さんに母様みたいなんて言ったら失礼だったかな。ヘンなこと言ってごめんね」
ハルヤは頬をピンクに染めていた。
楽しそうな笑い声で、アイヴィーは目を覚ました。
聞き覚えのある声がリビングのほうから複数聞こえる。
額に手をやると、まだ少し熱かった。
重い身体を引きずるようにしてリビングに顔を出した。
「お前ら……なんでまた来た? 帰れって言ったろ……え、##NAME1##ちゃん?」
アイヴィーはふらりと壁に凭れて、呟いた。
「なんだ、夢か……何回キミを夢に見たら気が済むんだよ、俺は」
「夢じゃありませんよ、アイヴィー。彼女は本物です。
僕達が連れて来てあげたんですよ、感謝して下さいね?」
「つーか、その前に問題発言があったろ。##NAME1##を何回夢に見てんだよ?」
「まあまあ、レッド。相手は病人ですから、その話は後日にしましょう?」
「アイヴィー、具合はどう? さっきよりは良さそうだけど」
「ああ。だから寝てれば治るって」
「じゃあ、今、少し食べられるかな? 俺達とお姉さん、みんなで作ったんだよ?」
ハルヤはアイヴィーにおかゆを差し出した。
「じゃ、またな、アイヴィー!」
「おじゃましましたー」
「あったかくして寝るんですよー」
「おだいじに」
四人の生徒達がコテージを出て、車に向かう。
その一番後ろに居た##NAME1##は、ドアの前で振り向いた。
見送りに出てきたアイヴィーを見上げる。
「##NAME1##ちゃん? どうしたの?」
##NAME1##はアイヴィーに封筒を渡した。
「え? 俺にお手紙、書いてくれたの?」
##NAME1##は首を横に振り、開けてみて下さい、と言った。
アイヴィーが封筒を開ける。そこに便箋は入っていない。
手に落ちてきたのは、プラスチックでできた銀色のパッケージ。
「コレ……もしかして、風邪薬?」
錠剤を三日分。自宅用の救急箱から、くすねてきた物だ。
自分の家にある物なのだから、「くすねてきた」という言い方には語弊があるが、
これは博士が自宅用として用意してくれた物だし、
風邪薬を貰っていく許可も取っていないので、気分的には盗んできたも同然だ。
博士に黙って、何かをアイヴィーに渡すこと自体にも罪悪感があった。
第一、薬は、医者に症状を診て貰い、処方された物を飲むべきだ。けれど――
薬を飲まないよりは、快復が早いだろう。そう思い、薬を渡した。
何か困ったことがあったら私の携帯に連絡して下さい、と言い添えて。
「あ、アリガト、##NAME1##ちゃん」
それじゃお大事に、と言って背中を向ける。
「##NAME1##ちゃん!」
##NAME1##は振り向く。
「あのさ。昨日、あのアイス屋に行ったってホント?」
##NAME1##は驚いた。「行きましたけど、どうして」と呟いた。
「アイスじーさんから聞いたんだ。『さっきまで居たよ』って……俺も行ったんだよ、昨日」
「##NAME1##ー! 何やってるんだよ、置いてくぞー」
アルフレッドが呼んでいる。
「あ、引き止めてゴメン。今日は来てくれてありがとね、ホント。じゃまた」
ドアが閉まった。梯子を上ってくる音がする。迎えに来たのはアルフレッドだった。
##NAME1##の顔を見て、首を傾げる。
「ん? どうした、##NAME1##。元気ないじゃん?」
##NAME1##は笑顔を作り、何でもない、と答えた。
「そ? じゃ、早く行こうぜ。あ、梯子下りる時、気ィ付けてな」
一段ずつゆっくり下りていく。タン、タンという音が物悲しく聞こえる。
「##NAME1##、手」
先に地上に降りているアルフレッドが手を差し出していた。
「最後の段、高くなってるから。ほら」
##NAME1##は彼の手に自分の手を重ねる。彼に支えられて、ふわりと最後の一段を下りた。
「行こうぜ、##NAME1##」
コテージとBMWをもう一度見てから、みんなが待っている車へと向かった。
fin
■マジプラス+@ソクーロフ 続編
『漁師の後悔』
後悔なんてしてやるなよ、こんなにウマイんだから。
ツナサンドを食べる時、アイヴィーはいつも同じことを思った。
聖アルフォンソ島では、ヘンな名前が付いてる料理が多いけど、
なんで、こんなザンネンな名前になったんだか。
今日、アイヴィーは休日だった。いつもより少し遅く起きたあと、
午前中からやっているアイリッシュパブへブランチを食べにきた。
夜は大人達で賑わっているこの店も、平日の昼間は空いている。
アイヴィーの他は一組のオジサン達しか居ない。
店内には、丁度イイ大きさで音楽が流れてる。今はレゲエっぽい曲だ。
頼めば、昼からビールも飲ませてくれる店だけど、
今日は車で来てるし、飲みたい気分でもなかった。
アイヴィーの前にある皿には、三切れのツナサンドと、細切りのフライドポテト。
食べ易いサイズに切ったフランスパンに、ツナマヨが挟んである。
パンは少し焦げ目が付く程度に焼かれたものだ。
この店でサンドイッチを頼むと、フライドポテトが付いてくる。何故かは解らない。
ここのポテトには、ブラックペッパーと、なんかウマイ塩がかかっててスキだった。
ツナサンドが『漁師の後悔』なら、フライドポテトは『農家の後悔』だろうか、なんて、
どうでもいいことを考えているうちに、全部食べ終わった。
日が良いと、ここで食べている間に、新曲を思いつくこともあるのだが。
今日は全くメロディが思い浮かばなかった。
店を出たあとは、一週間分の買い出し。
ブランチのあと買い物に行くのは、いつのまにか、休日のお決まりコースと化していた。
いつもは、こじんまりとした店だが家から近いスーパーに行くのだが、
今日はそこへ行く気がしなくて、新市街のど真ん中に向かってハンドルを切っていた。
新市街のショッピングモールにある食品フロア。
アイヴィーは、先週とほぼ同じ時間に同じ場所に居た。
一週間分の食材をカートに乗せて、歩いてる。
水、ビール、パスタ、野菜、肉、卵、牛乳エトセトラ。
これ以上買う物はないのに、ムダに店内をもう一周していた。
ムダな二周目を回る気にはならず、ショッピングモールをあとにした。
アストンマーチンの後ろに食材を乗せ、次の場所へ向かった。
新市街の噴水広場。そこにピンクと白の水玉模様をしたワゴン車が停まっている。
この島では有名なアイスクリームの移動販売車だ。
「アイスじーさん」と呼ばれる老人が一人でやっている。
アイヴィーがワゴン車の前に立つと、白いキャップを被った店主が話しかけてきた。
「おや。アイヴィーじゃないか」
「こんちは、アイスじーさん」
「いらっしゃい。あれ? 今日は一人かい? 珍しいねえ」
「あ、うん。なんか、急にアイス食べたくなっちゃって、さ。
先週、食べたのウマかったから。俺、クッキー&クリームね」
「おやおや、アイヴィーも先週と同じのを頼むんだねえ。気が合うことだ」
「え?」
「お嬢さんにも先週と同じアイスを頼まれたのさ。ついさっきまでそこで食べてたよ?」
「ちょ、##NAME1##ちゃんのこと!? ここに来たの!?」
「ああ。買い物帰りに寄ってくれたみたいでね。
そこのベンチに座って食べてってくれたよ」
「##NAME1##ちゃんが……」
「おやおや。可愛い顔をするじゃないか、アイヴィー。もしかして」
「なっ、そ、そんなんじゃないよ! 俺は……だって、##NAME1##ちゃんは人妻で……」
「良いじゃないか、略奪愛。しかも人妻なんて、昔見たドラマみたいだ」
「じーさん! もう、アイスはまだ!?」
「はははっ。ちょっと待ってな」
アイスを持って、先週と同じベンチに座った。
男が一人で、平日の昼間にアイスを食べてる。女の子も連れずに。
強い風が吹いて、アイヴィーは身震いした。
「寒いな……」
スーパーでムダに一周しなければ良かった、とアイヴィーは思った。
人には要領が良いとか言われるけど、そんなことはない。
俺はいつも、肝心なとこで抜けてる。
気付いた時には、もう遅くて、大事なものを失っている。
アイスを食べ終わった頃には、口の中が冷えていた。
何も持っていない手が寒々しく見える。
右手の薬指には、もう絆創膏は巻かれていない。
「傷、もう治っちゃったな」
その翌日。
夕方、##NAME1##は一人で自宅に居た。
今の家は、聖アルフォンソ島の高級住宅街と呼ばれる地区にある。
##NAME1##の旦那様であるソクーロフ博士が選んだ家だ。
本来、学院の職員には、メルキュール館という教職員の宿舎がある。
以前は博士もそこに住んでいたのだが、
##NAME1##と結婚後、宿舎とは別の住まいを用意した。
メルキュール館を出ることについて、一度は学院側に止められたらしい。
保健教師であり、生徒達の主治医でもある立場上、
彼の住居はキャンパス内にあったほうが良いからだ。
しかし、学院側との『相談』の結果、生徒に急患が出た際には、
いつなりとも駆け付けることを条件に、
キャンパス外に住居を持つことを許されたのだそうだ。
それが本当に『相談』の結果だったのかどうか、
博士を問い質す勇気は、##NAME1##にはない。
##NAME1##は時計を見上げる。現在16時。旦那様はまだ暫く帰ってこないだろう。
家事も終わってしまったし、夕食を作るにはまだ早い。
携帯電話が目に入る。##NAME1##は着信履歴から一人選んでキーを押した。
「あ、姉貴?」
テレビ電話に弟のユウタが映る。弟の背景に見えたのは、
学院内の景色ではなくスーパーの食品売場だった。
「今ね、俺達、みんなでスーパーに来てて、うわっ」
「##NAME1##じゃん! ハーイ! 元気ィ?」
「お姉さんですか!? わお! コンニチハ!
ご無沙汰じゃないですかー。もっと電話して下さいよー!」
「こんちは。煩くてごめんね」
アルフレッド、シルヴァン、ハルヤが顔を出した。
##NAME1##が「みんなでお買い物?」と尋ねると、四人は代わる代わる説明してくれた。
一時間程前、ユウタとデッド・プリンスは、四人でアイヴィーの家に遊びに行ったそうだ。
放課後になったので、おやつ代わりに何か料理を作って貰うつもりで。
ところが、「今日は何もしてやれないから帰れ」と追い返されてしまった。
狭く開かれたドアから現れたアイヴィーは、辛そうな顔で咳き込んでいたそうだ。
「アイヴィーさん、昨日から、風邪引いちゃったみたいなんだって」
「俺、ソクーロフ博士から薬貰ったのかって聞いたんだ」
「本人は薬は昨日飲んだって言うんですけどねえ」
「でも、博士の薬を飲んだら、すぐに治ると思うんだけど」
「ねえ、姉貴。博士から、アイヴィーさんが風邪だって話、聞いた?」
聞いていない。アイヴィーが体調不良で博士の世話になったのなら、
昨日の夕食の席で話題に上っても良さそうなものだが。
「そうでしたか。妻の##NAME1##にも話していないとなると、
博士もアイヴィーが風邪を引いたことを知らないのかもしれませんねえ」
「はぁー。妻かあ。マジなんで博士と電撃結婚したんだよ、##NAME1##ー」
「そうですよー! 僕も博士より貴女を幸せにする自信ありましたー!」
「ちょっと、レッドもシルヴァンも、今、その話関係ないでしょ」
「それでね。アイヴィーさん、一人暮らしだからさ、
俺達がアイヴィーさんに、何か消化に良い物、作ってあげたいなと思って」
「アイヴィーには、今までたくさんの美味しい料理を作って貰いましたから」
「今度は俺達がウマイモン食わせてやろうってわけよ!
どうだ、イイ話だろー? 惚れ直したかー?」
「それで、勢い勇んでスーパーまでやってきたのはいいんですが、
風邪を引いた時に食べる物って、食べたことはありますけど、
僕達、作ったことがないのに気付きまして」
「アメリカではさ、チキンスープとかホットハニーレモン飲むんだ。
イタリアだと、リゾーニっていうリゾットみたいなやつとか、ホットワインとか。
けど、俺じゃそんなの作れねーって、さっき気付いたんだよな……」
「俺、おかゆなら作れるかなって思ってたんだけど」
「肝心のお米がない、っていうな」
「アイヴィーんちに置かせて貰ってた俺の常備米も、
丁度この前使い切っちゃってて、このスーパーにも売ってなくてさ。
新市街のショッピングモールまで行ってみようかって話してたとこなんだ」
##NAME1##はキッチンのほうを振り向く。お米ならありますけど、と伝えた。
四人は学院の車で、##NAME1##の家まで迎えに来てくれた。
旧市街を抜け、海沿いの道を走っていく。
車中、##NAME1##は博士との新婚生活について、
質問責めに遭いながら、アイヴィーの自宅へ向かった。
海に近い崖っぷちのコテージに着いた。
一階はガレージになっていて、三台の車が停まっている。
その中には、先週、##NAME1##が乗ったメタリック・ブラックのBMWもあった。
一階から続く梯子の先にコテージがある。
アルフレッドは我が家を紹介するように言う。
「ここがアイヴィーの家。あ、##NAME1##は来たの初めて?」
##NAME1##は頷いた。
「そっか。俺達はよく遊びに来てんだ。ま、俺達の別荘ってカンジ?
だから、##NAME1##も遠慮しないで上がってくれよ」
「あ、ちょっと待って下さい。アイヴィー、寝ているかもしれませんから、
起こさないように中に入りましょう?」
シルヴァンはそう言うと、何故かガレージの中に入っていった。
##NAME1##は彼の背中を追いかける。シルヴァンはガレージの奥でしゃがんでいた。
地面に置いてある工具箱を開け、その中からカギを取り出した。
振り向いたシルヴァンは##NAME1##にウインクをしながら、
「合い鍵です。僕が入学した頃に作って貰ったんですよ。
あの頃は、しょっちゅう入り浸ってましたから。
さあ、アイヴィーの家に潜入しましょー!」
自然と手を取られ、二人はガレージの外へ走っていった。
五人でそーっと中に入る。アイヴィーは奥の寝室で寝ていた。
唇の前で人差し指を立てながら、五人はリビングに戻ってきた。
シルヴァンが寝室のドアを見ながら呟く。
「こんなにぞろぞろ入ってきても起きないなんて、本当に具合が悪いようですね」
「なあ。今のうちに、その、オカユとかいうヤツ作ってビックリさせてやろうぜ」
そうして料理開始となったのだが、おかゆ作りに五人も必要ない為、
調理班が##NAME1##とハルヤ、他三人は味見班となった。
##NAME1##はハルヤと一緒にキッチンに立っている。
おかゆは土鍋で作るのが理想だが、当然このキッチンにはないので、普通の鍋を使った。
量は三人前くらいあるだろうか。##NAME1##はお米を多めに持ってきたし、
シルヴァンが「僕も貴女お手製のおかゆ食べてみたいですー」と言うので、
たっぷり作ることになった。柔らかくなった白米が、良い具合にグツグツと煮立っている。
##NAME1##は「そろそろ火を消したほうがいいんじゃないですか」と
鍋の前に居るハルヤに言った。ところが、ハルヤには聞こえていないのか、
おかゆを見つめたまま、ぴくりとも動かない。
##NAME1##はとりあえずハルヤの前に手を伸ばし、火を止めた。
それを見てハルヤが我に返る。
「ご、ごめん。俺、ぼーっとしてたね」
##NAME1##はハルヤも体調が悪いのか尋ねた。
「ううん。大丈夫。お姉さんと一緒に、台所に立ってたら、
東京に居た頃、思い出しちゃって」
俯いたまま、ぼそっと呟いた。
「なんか、母様と一緒に居るみたいだなって」
小林家の母と子が並んで台所に居る光景。
##NAME1##は彼の少年時代がふっと見えたような気がした。
「あ、お姉さんに母様みたいなんて言ったら失礼だったかな。ヘンなこと言ってごめんね」
ハルヤは頬をピンクに染めていた。
楽しそうな笑い声で、アイヴィーは目を覚ました。
聞き覚えのある声がリビングのほうから複数聞こえる。
額に手をやると、まだ少し熱かった。
重い身体を引きずるようにしてリビングに顔を出した。
「お前ら……なんでまた来た? 帰れって言ったろ……え、##NAME1##ちゃん?」
アイヴィーはふらりと壁に凭れて、呟いた。
「なんだ、夢か……何回キミを夢に見たら気が済むんだよ、俺は」
「夢じゃありませんよ、アイヴィー。彼女は本物です。
僕達が連れて来てあげたんですよ、感謝して下さいね?」
「つーか、その前に問題発言があったろ。##NAME1##を何回夢に見てんだよ?」
「まあまあ、レッド。相手は病人ですから、その話は後日にしましょう?」
「アイヴィー、具合はどう? さっきよりは良さそうだけど」
「ああ。だから寝てれば治るって」
「じゃあ、今、少し食べられるかな? 俺達とお姉さん、みんなで作ったんだよ?」
ハルヤはアイヴィーにおかゆを差し出した。
「じゃ、またな、アイヴィー!」
「おじゃましましたー」
「あったかくして寝るんですよー」
「おだいじに」
四人の生徒達がコテージを出て、車に向かう。
その一番後ろに居た##NAME1##は、ドアの前で振り向いた。
見送りに出てきたアイヴィーを見上げる。
「##NAME1##ちゃん? どうしたの?」
##NAME1##はアイヴィーに封筒を渡した。
「え? 俺にお手紙、書いてくれたの?」
##NAME1##は首を横に振り、開けてみて下さい、と言った。
アイヴィーが封筒を開ける。そこに便箋は入っていない。
手に落ちてきたのは、プラスチックでできた銀色のパッケージ。
「コレ……もしかして、風邪薬?」
錠剤を三日分。自宅用の救急箱から、くすねてきた物だ。
自分の家にある物なのだから、「くすねてきた」という言い方には語弊があるが、
これは博士が自宅用として用意してくれた物だし、
風邪薬を貰っていく許可も取っていないので、気分的には盗んできたも同然だ。
博士に黙って、何かをアイヴィーに渡すこと自体にも罪悪感があった。
第一、薬は、医者に症状を診て貰い、処方された物を飲むべきだ。けれど――
薬を飲まないよりは、快復が早いだろう。そう思い、薬を渡した。
何か困ったことがあったら私の携帯に連絡して下さい、と言い添えて。
「あ、アリガト、##NAME1##ちゃん」
それじゃお大事に、と言って背中を向ける。
「##NAME1##ちゃん!」
##NAME1##は振り向く。
「あのさ。昨日、あのアイス屋に行ったってホント?」
##NAME1##は驚いた。「行きましたけど、どうして」と呟いた。
「アイスじーさんから聞いたんだ。『さっきまで居たよ』って……俺も行ったんだよ、昨日」
「##NAME1##ー! 何やってるんだよ、置いてくぞー」
アルフレッドが呼んでいる。
「あ、引き止めてゴメン。今日は来てくれてありがとね、ホント。じゃまた」
ドアが閉まった。梯子を上ってくる音がする。迎えに来たのはアルフレッドだった。
##NAME1##の顔を見て、首を傾げる。
「ん? どうした、##NAME1##。元気ないじゃん?」
##NAME1##は笑顔を作り、何でもない、と答えた。
「そ? じゃ、早く行こうぜ。あ、梯子下りる時、気ィ付けてな」
一段ずつゆっくり下りていく。タン、タンという音が物悲しく聞こえる。
「##NAME1##、手」
先に地上に降りているアルフレッドが手を差し出していた。
「最後の段、高くなってるから。ほら」
##NAME1##は彼の手に自分の手を重ねる。彼に支えられて、ふわりと最後の一段を下りた。
「行こうぜ、##NAME1##」
コテージとBMWをもう一度見てから、みんなが待っている車へと向かった。
fin
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