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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン×ハルヤ
おやすみ。ごななの完結版
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「ハルヤ、僕とカケオチしません?」

シルヴァンは可笑しなアクセントながらも、日本語でそう言った。
ハルヤはクッションを抱いたまま、罪のない笑顔を見せる。

「シルヴァン、使い方が違うよ。それは好きな人に言うんだよ?」

ハルヤはプレイヤーから、DVDを取り出す。
ケースに仕舞うと、シルヴァンに差し出す。

「ありがと。面白かったね」

夜。ハルヤの部屋で、一緒にサムライムービーを見ていた。
DVDを持ってきたのはシルヴァン。
主人公が町娘とカケオチするところで、物語は終わる。
一度見たから知っていた。
『カケオチ』という言葉を和英辞典で調べて、
ちゃんと覚えた日本語で、ハルヤの前で言いたかった。
ハルヤのリアクションは予想通り過ぎて、苦笑せざるを得ない。
シルヴァンは一応、もう一言付け加える。

「好きな人に、ですか? 僕は好きですよ、ハルヤのこと」
「あ。そうじゃなくて、あの…今見たでしょ? えと…愛する人ってこと」

愛、という言葉を口にするにも、恥ずかしそうに頬を染める。
これ以上、話を進めるのは、彼に負担をかけるだけだ。
シルヴァンはDVDを手に立ち上がる。
時計を見ると、夜11時を回ったところだった。

「すみません。もう遅い時間になっちゃいましたね」
「あ、うん」
「ハルヤの分かり易い解説のおかげで、とても楽しく見れました。
ありがとうございます、ハルヤ」
「良いんだよ。俺も楽しかったから…」
「ではまた明日。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」

ハルヤの部屋を出る。
その顔には、先程まであった筈の笑みが消えている。
自分の部屋に戻ったシルヴァンは、銀色の携帯電話を手に取る。
慣れた手付きで、幾つかのボタンを押す。
耳にあてて、暫く待つ。相手はすぐに出た。

「よお。どうしたー?」
「こんばんは、アイヴィー。明日、遊んでくれません?」



翌日。島のバンド仲間が集まるバー。
アイヴィーはそこまでの運転手を頼まれた。
つまり「貴方は飲まないで」と言われているのと同義だ。
シルヴァンは元気良く手を挙げる。

「次は、テキーラ・サンセットをお願いします♪」
「お前、飛ばしてんなー」

アイヴィーは片手で肘を突き、頬を潰していた。
空いた手で明るいイエローのドリンクを呷る。
この島では「竜の涙」と呼ばれるレモンソーダだ。

「おい、シルヴァン」
「あ、アイヴィーも何か頼みますか?」
「いや。俺はいーんだけどさ。お前、何かあったの?」
「何もありませんよ?」
「言いたくねーんなら聞かねーけど」
「何もないことは、幸せで少し辛いですね」
「今、何て言った?」
「いえ、別に。今日は貴方とお酒が飲みたいなって思っただけですよ」

「お待たせ、シルヴァン」

顔見知りのボーイが、グラスを持ってくる。
白いワイシャツと裾が擦り切れたジーンズに、
黒のエプロンを身に付けている。
そのシンプルな服装は、明るく短い茶髪に似合っていた。

ボーイは、ピンクのフローズンカクテルを置く。
低いグラスには、小さく砕かれた氷が敷き詰められていた。
テキーラとレモンジュースが1:1で入っている。
『夕焼け』の名にふさわしい、赤みがかった桃色を演出しているのは、
ザクロジュースと砂糖で作られたグレナデン・シロップだ。
ワインよりもアルコール度数が高いカクテル。
意図しているか、今夜の不良王子は度数の高い酒ばかりをオーダーしていた。

シルヴァンは、バンド仲間でもあるボーイに礼を述べる。

「君が作るテキーラ・サンセットはとっても綺麗ですね」
「え。そっかな」ボーイが頬を掻く。
「ええ。お礼をしますね?」
シルヴァンは、彼の肩を強く引き寄せて、頬に口付ける。
「ごちそうさまです♪」
その様子を見掛けた周りの客達が、一斉に笑い出す。
皆バンド仲間で、シルヴァンが酔った時のクセをよく知っていた。
被害に合い易いボーイは「俺まで食べんなよ」と苦笑しながら、
手を振ってバーカウンターに戻っていった。

アイヴィーは相変わらず、片手で肘を突き、頬を潰していた。


聖アルフォンソ学院正門前。
車中の時計は、深夜0時を差している。

黄色いタクシーが停まる。
運転手は、ほろ酔いの助手席に声を掛ける。

「ほい、着いたぜー。シルヴァン」
「送って貰ってすみませんね、アイヴィー」
「思ってないくせに。…ってお前、これはオレのだろ」

タクシードライバーは助手席の口から、煙草を奪う。
悪びれることなく、シルヴァンは笑う。

「貴方の香りを補充しておいたんです」

アイヴィーは煙草を落としそうになる。

「お前なあ…そーゆーこと言われると、許しちゃうだろ…」
「今夜はありがとうございました、また大人の遊びに連れて行って下さいね?」
「ったく、夜遊びも程々にしろよ、不良王子」

シルヴァンは、くすくすと笑う。

「始終付き合ってくれた人の言うことですか?」
「ったく。ゴキゲンだなー、お前。気持ち良く酔いやがって…」
「あ、アイヴィー。タクシー代をお支払いしますね?」

運転手の頬で、チュッと音が鳴る。

「…唇で払うなよ、この酔っ払い…」
「それじゃ、おやすみなさい♪」

シルヴァンが車から出る。
運転手は、寮へ向かう背中を見ながら、頬に触れる。

「あいつ、酔うとキス魔になるからなー」

アイヴィーは煙草を咥える。

「あれ、酔いが覚めてないまま、寮に帰らせて良かったのか…?」


シルヴァンは上機嫌で夜遊びから帰って来た。
第一学生寮の扉を開けると、執事が居た。

「おかえりなさいませ、シルヴァン様」
「遅くなっちゃってすみません。これで許して下さいね♪」

シルヴァンはバトラーの頬にキスをした。

「おやすみなさい、バトラー♪」
「…おやすみなさいませ、シルヴァン様」

跳ねる長髪を見送りながら、バトラーは頬に触れた。


シルヴァンは景気良くサロンの扉を開けた。

「只今戻りましたー♪」
「遅いよ、シルヴァン。俺、心配してたんだからー」

ユウタが駆け寄ると、シルヴァンは身を屈める。

「僕のこと、心配してくれたんですか? 嬉しいです♪」

ユウタの頬にキスをする。
された方は、きょとんとした後、大声を出した。

「えええーー!!? き、き…キスされたあー!!?」

レッドは可笑しそうに笑う。

「面白いリアクションだなあ、ユウタ。そんなに驚くことかよ」
「驚くでしょ!?」
「でも、こいつ、酔うと割とこーだぜ?
てゆうか、たかがキスくらいで騒ぐなって」

シルヴァンは、レッドの頬にキスする。

「そーですよねー、ダーリン♪」
「ダーリンじゃねえ」

レッドに頭を叩かれたシルヴァンは、
生徒代表の元へ行く。

「ジョシュア♪」

頬にキスを受けたジョシュアは、柔らかく苦笑する。

「おかえり、シルヴァン」
「はい♪ 次はア…」

アンリは片手で頬を支えながら冷笑する。

「しても良いけど、末代まで呪うよ?」

爆笑しているのはレッドだけだ。

「お前が言うと、冗談に聞こえねー!」
「昔読んだ呪術書に、そういうの書いてあったんだよね。
いつか実験してみたいなって思ってたんだ」

ハルヤがシルヴァンを引きずる。

「シルヴァン。呪われちゃうから、もう部屋に行こ?
んじゃ俺、この人部屋に連れてくよ」

「頼むよ、ハルヤ」とジョシュア。

レッドは伸びをする。

「んじゃ、俺も寝るわ」
「俺もー。また明日ね。おやすみー」
「うん。おやすみ、レッド、ユウタ」

サロンには、ジョシュアとアンリが残る。

「アンリ、俺達も寝ようか?」
「ねえ。どうして平気でいられるの」
「シルヴァンのことかい? 酔った上での行為なら仕方ないじゃないか」
「酔っていたら、何でも許されるの?
君も避けられた筈なのに、何故シルヴァンに」

ジョシュアは微笑みながら、自分の頬を指差す。

「アンリも、してみたいのかな?」

冷たい視線が見上げてくる。
アンリは席を立つ。

「おやすみ」

不機嫌にドアが閉められる。
ジョシュアは、くすくすと笑った。


シルヴァンの部屋に着いたハルヤは、
笑顔の酔っ払いを、ベッドに乗せる。

「シルヴァン、ベッドに着いたよ。大丈夫?」
「はーい。大丈夫でーす♪」
「…ダメだな」
「ハルヤハルヤー。僕、今、とってもいい気分ですー♪」
「…良かったね。あれ。シルヴァン…アイヴィーと会ってたの?」
「そうでーす。よく解りましたね?」
「解るよ。アイヴィーの煙草の匂いだもん」
「あー。なるほどですー♪」

ハルヤは無意味に自分の髪に触る。

「あのさ。アイヴィーにも…その…キス、したの?」
「はい。タクシー代にして来ました♪」
「そう…」
「バトラーにもしましたよ♪」
「…見境なしに、そういうことしないでよ」
「ハルヤー! 妬いてくれてるんですね♪」
「妬いてなんかっ」
「照れ屋ですね、ハルヤは。そこが可愛いです♪」

飛び付いて来た友人と一緒にベッドに倒れ込む。
羽交い絞めにされたまま、見つめられて、
酔っていない人の方が、顔が赤くなる。

「ちょ、ちょっと…シルヴァン…」
「心配しないで、下さい」
「えっ」
「僕が、一番好き、なのは…」

シルヴァンは口の中で何か呟く。
やがて、それは寝息に変わった。

「シルヴァン、うそ…寝ちゃったの?」

規則的な呼吸が返って来る。

「てゆうか身動き取れないし…寝てんのに、なんでこんな力強いんだろ…」

腕ごと抱かれ、手さえ自由に動かない。
シルヴァンから、酒と煙草の香りを感じる。
アイヴィーの匂い。
自分の前に、たくさんの人と触れた唇がある。

ハルヤは息を吐く。

「一番好きなの、誰なんだよ…」


翌朝。
ユウタはシルヴァンの部屋に向かっていた。

「シルヴァン、二日酔いとか大丈夫かなー」

大きな独り言を呟きながら、部屋の前に来るとドアをノックした。

「シルヴァン。おはよー。朝ごはん、食べれそう?」

返事がない。
心配になったユウタは「入るよー?」と扉を開ける。
目に飛び込んで来た衝撃映像に、ユウタは硬直する。

ベッドに寝ている人が二人居た。

シルヴァンの腕の中に居る人が、ゆっくりと目を開ける。

「ユウ…タ…あれ…?」

ハルヤは身体が動かないことに気付く。
昨夜、抱き締められたまま眠ってしまったらしい。
ユウタは既に涙目だ。

「ハルヤ…なんで…シルヴァンと一緒に…」

ユウタはショックの余り、自分の言葉が、
日本語に切り替わっていることにも気付かない。
やっと状況を理解したハルヤも慌て始める。
シルヴァンの部屋で、動揺した日本語が飛び交う。

「ユウタ、これは、あの、そうじゃなくてっ」
「…ハルヤとシルヴァン、なんか仲良いなと思ってたけど、まさかこんなに…」
「そんなわけないじゃん! 本当に昨日は何も!」
「『昨日は』って何なの!?」
「えっと、だから…もうシルヴァン!
起きてよ! ねえ、シルヴァンからも何か言って!」
「ん…」

シルヴァンが目を開ける。
にこりと笑って、呟く。

「大好きです、ハルヤ…」

それだけ言うと、また安らかな眠りに戻った。
残された二人は慌てふためく。

「ば、ばかっ! ちょっと起きてよ、シルヴァン!」

ユウタは泣きながら、部屋から出て行く。

「ジョシュアー! ハルヤとシルヴァンがー!」
「ユウタ、待って!!」


大騒ぎするユウタの声を聞いて、
他の寮生達が、シルヴァンの部屋に集まって来た。
ユウタを先頭に、ジョシュア、アンリ、レッドが顔を覗かせる。

「どうしたんだい、ユウタ」
「朝から煩いな」
「なんだなんだー? おっ?」

ベッドの上で、未だシルヴァンの腕から、
抜け出せないでいるハルヤと、皆の目が合う。

「ハルヤ、シルヴァン…」
「へえ」
「おいおい、お前等いつのまに」

「やっ、違うんだってば!」

一人パニック状態のハルヤ。
シルヴァンはのんびりと身体を起こす。

「良いじゃないですか、ハルヤ」
「何が良いんだよ。シルヴァンはもう黙ってて、てゆうか離してっ」
「ハルヤ」

シルヴァンはハルヤの手を取る。
微笑みながら、優しく語り掛ける。

「僕は好きですよ。ハルヤのことが世界で一番大好きです」

ハルヤは目を丸くする。
頭の中で今聞いた音声が勝手にリピートされているのに、
言葉の意味が解らなくなるようだ。
視界の隅に、他の寮生達の姿が映る。

「…な、なに…言ってんだよ…みんなの前で」

「ハルヤは僕のこと、嫌いですか?」

「そんなわけっ」

「では僕のこと、好きですか?」

ハルヤは俯いてしまう。
顔がみるみる赤に染まっていく。
何度も視線が彷徨う。

突然投げかけられた質問に、ハルヤは困惑していた。
俺がシルヴァンを好きかどうかに、答える前に、
彼が俺を好きだと言っていることが信じられない。
だけど、この前もシルヴァンは言ってた。
カケオチの話をした時も、ハルヤのことが好きだと。
あの時、少し表情が悲しそうに見えたのは、
見間違いじゃなくて、本当だったの?
シルヴァンのことは、友達としてはもちろん好きだ。
一緒にバンドもやってるし、二人で居ることは楽しくて、面白い。
友達としての、好き。
いつからか解らないけど、その『好き』が膨らんでいくような気がしてた。
シルヴァンが他の人と話していると、苦しくなってる自分が居た。
昨夜も、シルヴァンは、他の皆にキスして回って、
俺だけには、何もしないまま眠った。
シルヴァンの腕の中に閉じ込められた時。
心臓がどきどきして、止まらなかった。
だけど、彼の身体からは、アイヴィーの匂いがして。
なんか。
すごく。
イヤだった。
夢に落ちるまで、ずっとシルヴァンのこと考えてた。
ううん、昨夜だけじゃない。
もっと前から、シルヴァンのこと。
本当は。

外野から「ハルヤ」という声援が届く。

ハルヤの手に重ねられた手が、もう片方増えた。
シルヴァンは、自分の両手をハルヤに預けている。
透き通るほど優しい笑顔で、もう一度尋ねられる。

「ハルヤは僕のこと、好きですか?」

重なった手は、とても温かい。
ハルヤは、シルヴァンの手を少し握る。
顔を真っ赤にしてハルヤは呟く。

「………すき」


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