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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
私はジョシュア殿下を学院に無事にお送りして、国へ戻って来た。
王の執務室。机には王のサインを待つ書類が山積している。
国政手腕は確かな御人なのに、机に向かって行う大人しいお仕事は何故か進まない。
現国王は、他国との交流に重きを置かない主義であられるので、
これでも書類の絶対量は少ない方だと思われるのだが。
「陛下? 私が聖アルフォンソ島に向かう前と比べて、
書類の山が高くなっているように見受けられるのですが、錯覚でしょうか?」
「レイナ。皮肉を言うくらいなら、少しは手伝ってくれてもいいんだぞ」
「国王陛下のお仕事を、一臣下が代行するわけには参りません」
「この堅物め」
「お褒め頂き、恐れ入ります」
頭を下げながら心の中で少し笑う。王との軽口の応酬。快い。
殿下のお傍に居た後では妙に懐かしく感じてしまう。
この叔父と甥には同じロレートの血が流れているとは言え、全く似ていない。
ジョシュア殿下は、やはり、お父上のエドワード様似だ。
もし、カーディス様にもお子様が居たら、どんな方になるだろうとふと思った。
ドアがノックされた。入れ、と私が言う。私の部下だった。
「失礼致します。レイナ卿、少々お時間頂けますでしょうか」
「解った。では、陛下。私は席を外しますが、お仕事の続きをお願い致します」
陛下が微笑んでいる。
「解っている。早く行って来い」
早く帰って来なくては。廊下に出てドアを閉める。
「陛下のお耳には入れられぬ話か」
「ええ。こちらへおいで頂けますか」
別室に案内される。他の者は居ない。部下は机に紙を広げた。
「実は先程、こんなものが」
皺の寄った白い紙には、殴り書きでこう記されてた。
「<新しい王子は、闇の血を引く者>と読めるな。誰がどこで見つけた?」
「場所は庭園。発見したのは庭師のロロです。
丸めた紙だったようですから、塀の外から投げ込まれた可能性が高いかと。
悪戯かもしれませんが、一応閣下にはお知らせを」
「そうか。これからも何かあれば全て私に」
「はい。これは只の嫌がらせでしょうか?
殿下にこんなものが届くとは思いませんでした。
誰かから恨みを買うようなお人に見えないのに。どう思われますか、閣下」
知らない間に買わされている可能性はゼロとは言えない。
誰からでも買えるものが恨みだろう、とは言いたくなかった。
「先ず、第一発見者に直接話を聞きたい。今、どこに居る?」
「庭園に居る筈です。ご案内しましょう」

ロレート王室の庭園。
ここには月桂樹も植えられている。植樹日は遥か昔に遡る。
大公家は聖アルフォンソ学院の出身者が多いからだろう。
部下は、その一本の前で止まった。
「ああ、木の上に居ましたね。おーい、降りてきてくれ」
「はーい」
高い枝から男が降って来た。ライトグレーのツナギ姿。
私と同年代、少し若いくらいか。
顔は知っていたが、庭師と側近は言葉を交わす機会がない。
「あ、側近の…」
相手も私の名前が解らないようだ。
「話をするのは初めてですね。私はラルヴィス・レイナです」
庭師はその時になって慌てて帽子を取る。
「あ、どうも。ケビン・ロロです…」
「どうしました? 私の顔に何か付いていますか?」
「いえ。近くで見てもお綺麗な方だと思って」
「ロロ」と部下。
「あ、すみません」
ポリポリと頭を掻く。私は先程の殴り書きを見せた。
「貴方がこれの発見者ですね?」
胸の前で帽子を両手で持っている。
「はい、そうです。ビックリしました」
「その時の話を聞かせて下さい」
「えっと。朝、木の枝を切っていた時に見つけて…あの木です。
木から降りたら、根元に落ちてました」
「これが現れた瞬間は見ていないんですね?」
「はい」
「木の近くに貴方以外の人は居ましたか?」
「庭には俺しか居ませんでした。
塀の外は分かりません。俺、木ばっか見てたから。
なんか、お役に立てなくてすみません」
「いいえ。良く知らせてくれました。感謝します」
「ど、どうも」
「どう致しましょう、閣下」
庭師の話だけでは、危険性の真偽がはっきりしなかった。
メッセージの内容は、良質ではないが、比較的悪質ではない。
突然現れた皇太子に不満を持った国民が、愚痴を投げてきただけかもしれない。
「この件は我々と警備の者を除いて、当面の間、箝口令(かんこうれい)を敷きます」
「了解」
「あ、あの。カンコーレーって何ですか?」
「関係者以外には情報を漏らさない、ということです。
特に陛下と殿下のお耳には入れないようお願いします。
皇太子が決定した今、お二人共、大切な時期です。余計な心労を増やしたくありません」
庭師の顔には、驚いた、と書いてあった。感情が表に出易い人間なのだろう。
「レイナ卿って優しいんですね。もっと冷たい人かと思ってました」
なかなか人を見る目がある男だ。
「ロロ」部下が窘める。
「あ、すみません」
またポリポリと頭を掻く。
「自分は警備の者に知らせてきます」
「ああ、頼む」
部下が駆けて行く。
「ロロさん、またこの庭に何か投げ込まれるかもしれません。
その時はまたすぐ知らせて下さい」
庭師は敬礼してくれた。
「了解です、レイナ卿」

「戻りました。お仕事、少しは進みましたか、陛…」
執務室には机に山積みの書類、だけ。
「…逃げられた」
こうして時折かくれんぼを挑まれる。36歳にもなられて。
執務室の扉を閉める。
「さて。何処へ行かれたか」


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