■アイヴィーシナリオBL
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■背景:厩舎
■人物:アルセイデス(不満)
【アイヴィー】
綺麗な黒目とさらさらヘアで美人さんだな、アルセイデス。
■背景:厩舎
■人物:アルセイデス(照)
【アルセイデス】
…ヒヒーン。
【アイヴィー】
照れてんの? なかなか色っぽい声じゃん? あっ、ちょっと…
■背景:厩舎
■人物:アルセイデスがアイヴィーにチュウ
おいおい。いきなりチュウなんて、ホントはダメなんだぞ?
チュウは三回目のデートから。解った?
■背景:厩舎
■人物:ジョシュア(驚き)
【ジョシュア】
アルセイデスが他の人にキスをするなんて…
【アイヴィー】
ジョシュアもアルセイデスにチュウされたことあんの?
【ジョシュア】
ええ、それはありますが…
【アイヴィー】
じゃ、俺、ジョシュアと間接チュウしちゃった。
【ジョシュア】
…ちょっと、アイヴィー…
【アイヴィー】
あ、ラブラブデート行くとこジャマして悪かったな。
んじゃ、いってらっしゃい、お二人さん。
【ジョシュア】
はい。では行ってきます。
→
■人物:アルセイデス(不満)
【アイヴィー】
綺麗な黒目とさらさらヘアで美人さんだな、アルセイデス。
■背景:厩舎
■人物:アルセイデス(照)
【アルセイデス】
…ヒヒーン。
【アイヴィー】
照れてんの? なかなか色っぽい声じゃん? あっ、ちょっと…
■背景:厩舎
■人物:アルセイデスがアイヴィーにチュウ
おいおい。いきなりチュウなんて、ホントはダメなんだぞ?
チュウは三回目のデートから。解った?
■背景:厩舎
■人物:ジョシュア(驚き)
【ジョシュア】
アルセイデスが他の人にキスをするなんて…
【アイヴィー】
ジョシュアもアルセイデスにチュウされたことあんの?
【ジョシュア】
ええ、それはありますが…
【アイヴィー】
じゃ、俺、ジョシュアと間接チュウしちゃった。
【ジョシュア】
…ちょっと、アイヴィー…
【アイヴィー】
あ、ラブラブデート行くとこジャマして悪かったな。
んじゃ、いってらっしゃい、お二人さん。
【ジョシュア】
はい。では行ってきます。
→
■アイヴィーシナリオBL おさんぽ 続編
■背景:厩舎
■人物:なし
【アイヴィー】
あ、俺のご主人様、めーっけ。おーい。ジョシュアー。
■背景:厩舎
■人物:ジョシュア(乗馬服)
【ジョシュア】
え? あ、アイヴィー。こんにちは。
【アイヴィー】
お二人さんはこれからデート?
【ジョシュア】
はい。西の海岸まで行こうかと。
【アイヴィー】
へえ。そういや、お前さん、家から馬連れて来たんだったな。
【ジョシュア】
はい。家族同然の動物ならば入学を許可して頂けるという話だったので。
母が亡くなってからは、本当に彼女が唯一の家族でしたから。
…あっ、すみません。しんみりした話になってしまって。
【アイヴィー】
気にすんなよ。で、彼女さん、お名前なんていうの?
【ジョシュア】
アルセイデスと言います。アルセイデス、彼はアイヴィーだよ。
俺のこと、いつも助けてくれる人なんだ。
【アイヴィー】
あ、お世話になってまーす。アイヴィーでーす。
■背景:厩舎
■人物:アルセイデス(不満)
【アルセイデス】
ブルルルンッ。
【ジョシュア】
アルセイデス、そんなに怒らなくても良いじゃないか。すみません、アイヴィー。
彼女、人見知りをするところがあって、なかなか俺以外の人に懐かないんです。
【アイヴィー】
へえ。そいつはラブラブなことで。美男美女でお似合いだもんなー。
→綺麗な黒目とさらさらヘアで美人さんだな、アルセイデス。
→いいなー、アルセイデス。お兄さんも王子様を乗せてみたいかもっ。
■人物:なし
【アイヴィー】
あ、俺のご主人様、めーっけ。おーい。ジョシュアー。
■背景:厩舎
■人物:ジョシュア(乗馬服)
【ジョシュア】
え? あ、アイヴィー。こんにちは。
【アイヴィー】
お二人さんはこれからデート?
【ジョシュア】
はい。西の海岸まで行こうかと。
【アイヴィー】
へえ。そういや、お前さん、家から馬連れて来たんだったな。
【ジョシュア】
はい。家族同然の動物ならば入学を許可して頂けるという話だったので。
母が亡くなってからは、本当に彼女が唯一の家族でしたから。
…あっ、すみません。しんみりした話になってしまって。
【アイヴィー】
気にすんなよ。で、彼女さん、お名前なんていうの?
【ジョシュア】
アルセイデスと言います。アルセイデス、彼はアイヴィーだよ。
俺のこと、いつも助けてくれる人なんだ。
【アイヴィー】
あ、お世話になってまーす。アイヴィーでーす。
■背景:厩舎
■人物:アルセイデス(不満)
【アルセイデス】
ブルルルンッ。
【ジョシュア】
アルセイデス、そんなに怒らなくても良いじゃないか。すみません、アイヴィー。
彼女、人見知りをするところがあって、なかなか俺以外の人に懐かないんです。
【アイヴィー】
へえ。そいつはラブラブなことで。美男美女でお似合いだもんなー。
→綺麗な黒目とさらさらヘアで美人さんだな、アルセイデス。
→いいなー、アルセイデス。お兄さんも王子様を乗せてみたいかもっ。
■アイヴィーシナリオBL
配置場所:各ルートごとに異なります
配置場所:各ルートごとに異なります
■背景:正門前
■人物:なし
【アイヴィー】
はい、15時に正門前に、とーちゃーく。俺の方が早く着いたみたいだな?
今日のマジプリはミハイルだよな。ミハイル、かわいーよなー。
今年になってからは外に出掛けるようになったよなー。
この前も「ごめんなさい、今日はカフェに行ってみたいんです」とか言ってたし。
今日はドコにお出掛けするのかねー。あや? 電話だ。
■背景:正門前
■人物:手の中に着信中の携帯
【アイヴィー】
お? 変態さんからだ。
■背景:正門前
■人物:携帯を持っているアイヴィーの後ろ姿
【アイヴィー】
はい。こちらアイヴィータクシーです。
只今、ミハイルと待ち合わせ中なので、お話することができません。
発信音の後にメッセージをどぞ。ぴー。
【ソクーロフ】
ミハイルの送迎はキャンセルだ。
【アイヴィー】
ええっ!? ちょっと何ソレ! ソクちゃんの陰謀?
俺、もう正門前まで来てんだぞ! 俺のささやかな楽しみを奪うなっ!
【ソクーロフ】
電話口で叫ぶな。ミハイルは今朝、熱を出した。今、保健室に居る。
【アイヴィー】
えっ!?
【ソクーロフ】
ミハイルだけでなく、シュヌーシアの生徒が数人、風邪を引いている。
【アイヴィー】
そ、そうなんだ。お疲れさんだね、お医者さん。
【ソクーロフ】
ん? どうしたんだい? 二階で寝てなくてはいけないよ、ミハイル。
【アイヴィー】
うわ。急に声のトーン変わったよ。変幻自在だなー、相変わらず。
生徒には優しーんだよな、この保健室のセンセは。
【ソクーロフ】
そうだよ。タクシーのおじさんと話しているところだ。
【アイヴィー】
ちょっと! タクシーのお兄さんだっての!
【ソクーロフ】
アイヴィー。
【アイヴィー】
ハ、ハイ。
【ソクーロフ】
ミハイルがお前と話したいそうだ。代わる。
【ミハイル】
あのっ、こ、こんにちは。ミハイルです。タクシーのお兄さんですか?
【アイヴィー】
ミハイルー。そうだよ、タクシーのお兄さんだよー。
【ミハイル】
ごめんなさい。ぼく、今日行けなくなっちゃって、ごめっ、けほっ、ごめんなさい。
【アイヴィー】
あー、俺は全然平気だから! 気にしなくて良いってー。
俺に気遣ってくれるなんて優しいな、ミハイルは。主治医さんと大違いだねー。
【ミハイル】
え? 博士? 博士は、いつも優しいよ?
【アイヴィー】
あ、あー、そうだよねー。そうなんだよねー。
じゃ、じゃあ、おだいじにな。今日はゆっくり休むんだぞ。
【ミハイル】
ありがとう…あ、はい。あの、それじゃ、博士と代わりますね。
【アイヴィー】
おう。お医者さんに変なクスリとか飲まされんなよー。
【ソクーロフ】
おい。
【アイヴィー】
ひっ!
【ソクーロフ】
私のクランケに可笑しなことを吹き込むな。
【アイヴィー】
急に出てくんなっ。今、心臓止まった!
【ソクーロフ】
止まる筈がないだろう。ではそういうことで。切るぞ。
【アイヴィー】
う、うん。あ、ソクーロフ!
【ソクーロフ】
なんだ?
【アイヴィー】
お医者さんも風邪引かないようにね?
【ソクーロフ】
…医師が風邪など引いていられるか。
■背景:正門前
■人物:手の中の携帯(通話終了)
【アイヴィー】
んー。じゃあ、俺、時間空いちゃったなあ。学院まで来ちまったし。
まあ、お天気良いし、どっかぶらぶらお散歩でもするか。ドコ行こっかなー?
→厩舎
→ジム
→天文台
→聖堂
→キッチン
→アトリエ
→保健室
→図書館
■人物:なし
【アイヴィー】
はい、15時に正門前に、とーちゃーく。俺の方が早く着いたみたいだな?
今日のマジプリはミハイルだよな。ミハイル、かわいーよなー。
今年になってからは外に出掛けるようになったよなー。
この前も「ごめんなさい、今日はカフェに行ってみたいんです」とか言ってたし。
今日はドコにお出掛けするのかねー。あや? 電話だ。
■背景:正門前
■人物:手の中に着信中の携帯
【アイヴィー】
お? 変態さんからだ。
■背景:正門前
■人物:携帯を持っているアイヴィーの後ろ姿
【アイヴィー】
はい。こちらアイヴィータクシーです。
只今、ミハイルと待ち合わせ中なので、お話することができません。
発信音の後にメッセージをどぞ。ぴー。
【ソクーロフ】
ミハイルの送迎はキャンセルだ。
【アイヴィー】
ええっ!? ちょっと何ソレ! ソクちゃんの陰謀?
俺、もう正門前まで来てんだぞ! 俺のささやかな楽しみを奪うなっ!
【ソクーロフ】
電話口で叫ぶな。ミハイルは今朝、熱を出した。今、保健室に居る。
【アイヴィー】
えっ!?
【ソクーロフ】
ミハイルだけでなく、シュヌーシアの生徒が数人、風邪を引いている。
【アイヴィー】
そ、そうなんだ。お疲れさんだね、お医者さん。
【ソクーロフ】
ん? どうしたんだい? 二階で寝てなくてはいけないよ、ミハイル。
【アイヴィー】
うわ。急に声のトーン変わったよ。変幻自在だなー、相変わらず。
生徒には優しーんだよな、この保健室のセンセは。
【ソクーロフ】
そうだよ。タクシーのおじさんと話しているところだ。
【アイヴィー】
ちょっと! タクシーのお兄さんだっての!
【ソクーロフ】
アイヴィー。
【アイヴィー】
ハ、ハイ。
【ソクーロフ】
ミハイルがお前と話したいそうだ。代わる。
【ミハイル】
あのっ、こ、こんにちは。ミハイルです。タクシーのお兄さんですか?
【アイヴィー】
ミハイルー。そうだよ、タクシーのお兄さんだよー。
【ミハイル】
ごめんなさい。ぼく、今日行けなくなっちゃって、ごめっ、けほっ、ごめんなさい。
【アイヴィー】
あー、俺は全然平気だから! 気にしなくて良いってー。
俺に気遣ってくれるなんて優しいな、ミハイルは。主治医さんと大違いだねー。
【ミハイル】
え? 博士? 博士は、いつも優しいよ?
【アイヴィー】
あ、あー、そうだよねー。そうなんだよねー。
じゃ、じゃあ、おだいじにな。今日はゆっくり休むんだぞ。
【ミハイル】
ありがとう…あ、はい。あの、それじゃ、博士と代わりますね。
【アイヴィー】
おう。お医者さんに変なクスリとか飲まされんなよー。
【ソクーロフ】
おい。
【アイヴィー】
ひっ!
【ソクーロフ】
私のクランケに可笑しなことを吹き込むな。
【アイヴィー】
急に出てくんなっ。今、心臓止まった!
【ソクーロフ】
止まる筈がないだろう。ではそういうことで。切るぞ。
【アイヴィー】
う、うん。あ、ソクーロフ!
【ソクーロフ】
なんだ?
【アイヴィー】
お医者さんも風邪引かないようにね?
【ソクーロフ】
…医師が風邪など引いていられるか。
■背景:正門前
■人物:手の中の携帯(通話終了)
【アイヴィー】
んー。じゃあ、俺、時間空いちゃったなあ。学院まで来ちまったし。
まあ、お天気良いし、どっかぶらぶらお散歩でもするか。ドコ行こっかなー?
→厩舎
→ジム
→天文台
→聖堂
→キッチン
→アトリエ
→保健室
→図書館
■ジョシュア×姉貴
■今週の王子電話より
■今週の王子電話より
「…ええ。解っています。ですが、俺は守りたいんです」
聖アルフォンソ学院 生徒代表室。
壁に飾られたものを除けば、上品で風格のある部屋。
常に塵ひとつなく、美しい花も置かれている。
一人用の執務室にしては広過ぎるが、
ごく限られた人間が訪れたり、会議も行われる。
目立つインテリアは、来客用のソファとローテーブル。
しかし、それらが使われることは多くない。
「え? 俺は大丈夫です。それより、先程の件ですが…」
学院の理事会はこの島には存在しない。
各国に存在する資産家、権力者で構成される。
よって、理事会との会談は主にネットミーティングで行われる。
通信は強固なセキュリティによって保護され、
決して傍受されることのないよう最新の技術が施されている。
「甚大なご協力に感謝します。生徒を代表してお礼申し上げます」
理事会と接触できるのは選ばれた生徒のみ。
理事会からの指名制で、基本的に断ることはできない。
生徒代表。その席に座るのはたった一人。
優秀な生徒達の中から選ばれた、王の中の王。
PCに向かっているのは深紅の瞳。
今年度、王の任を背負っているのは、控えめで優しい生徒。
名をジョシュア・グラントという。
「ありがとうございます。はい。それでは失礼します」
丁寧に一礼して顔を上げると、PCのウインドウが消えていた。
ネットミーティングが終了した。今日は理事会との打ち合わせだった。
画面が消えると、思わず少し息が漏れた。
会議はもう何度も重ねて来たが、やはりこの時間は気が抜けず、緊張してしまう。
終わった後、張り詰めていた糸が切れて、精神的な疲れが押し寄せる。
机に肘を突いて指を絡める。祈るように手に額を乗せていた。
問題が山積している。
生徒達を狙う者が後を絶たない。次から次へと、きりがない。
こんなにも、危険と隣り合わせな場所だったなんて。
まだ確定情報ではない。
だけど、もし真実だったのなら。
彼に何て言えば良い。
いつも楽しみにしているのに。
絵画の講義を勧めたのは、間違いだったということになる。
あの教授に不穏分子の可能性があり、
今、最も危機に晒されているのが、君の弟だなんて。
――お前さんも、とんだ<当たり年>に生徒代表になっちまったもんだな――
以前聞いた、警備責任者の言葉。
島に六年居る彼が、今年は『当たり』だと言っていた。
その意味を日々思い知らされる。
此処は、安全な避難所だと思っていた。
でもそれは、理事会や警備組織、そして生徒代表が積み上げてきた結果だった。
壁一面に飾られた肖像画を見上げる。歴代の生徒代表達。
テオもクラウスも、一年間この任務を務め上げた。
今度は自分が守らなくてはならない。
みんなを。君の弟を。
絡めていた指を解いても、視線が俯いてしまう。
頭の中でふわりと、優しい顔が思い浮かぶ。
自然と頭が上がる。
視界に入るのは、レトロクラシックな電話。
それが、この部屋にあるから。
重苦しい会議がある日も、此処に来れるのかもしれない。
就任直後、俺はこの電話があまり好きではなかった。
執務上の相手と話す為だけの電話だから。
クラシックなデザインにさえ少し苦手意識を感じていた。
だけど今では、この電話を眺めると勇気を貰える。
会議をしている時も、時々見てしまっている。
この電話は、君に繋がっている。
君の声ならいつでも思い返せる。
話が終わった後、何度も反芻してしまうから。
言葉のひとつひとつが綺麗で。
その声で聞くものは、全て、愛しい。
(声が、聞きたい)
俺の左手はクラシックな受話器に触れていた。
古風なダイヤル式。執務専用の電話。
本当はいけないことだと知りながら。
君に繋がる番号を回していく。たった11桁が、もどかしい。
学院を取り巻く現状は芳しいとは言えない。
最後まで生徒代表を務める自信も、本当はあまりない。
時々、重圧に押し潰されそうになって、一人で膝を抱えてしまう。
そうすることしかできなかった、今までは。
ダイヤルが最後の数字に辿り着く。
耳に受話器を当てる。今日は話せるだろうか。
呼び出し音に耳を澄ます。
一回、二回、三回、四回、五…
fin
聖アルフォンソ学院 生徒代表室。
壁に飾られたものを除けば、上品で風格のある部屋。
常に塵ひとつなく、美しい花も置かれている。
一人用の執務室にしては広過ぎるが、
ごく限られた人間が訪れたり、会議も行われる。
目立つインテリアは、来客用のソファとローテーブル。
しかし、それらが使われることは多くない。
「え? 俺は大丈夫です。それより、先程の件ですが…」
学院の理事会はこの島には存在しない。
各国に存在する資産家、権力者で構成される。
よって、理事会との会談は主にネットミーティングで行われる。
通信は強固なセキュリティによって保護され、
決して傍受されることのないよう最新の技術が施されている。
「甚大なご協力に感謝します。生徒を代表してお礼申し上げます」
理事会と接触できるのは選ばれた生徒のみ。
理事会からの指名制で、基本的に断ることはできない。
生徒代表。その席に座るのはたった一人。
優秀な生徒達の中から選ばれた、王の中の王。
PCに向かっているのは深紅の瞳。
今年度、王の任を背負っているのは、控えめで優しい生徒。
名をジョシュア・グラントという。
「ありがとうございます。はい。それでは失礼します」
丁寧に一礼して顔を上げると、PCのウインドウが消えていた。
ネットミーティングが終了した。今日は理事会との打ち合わせだった。
画面が消えると、思わず少し息が漏れた。
会議はもう何度も重ねて来たが、やはりこの時間は気が抜けず、緊張してしまう。
終わった後、張り詰めていた糸が切れて、精神的な疲れが押し寄せる。
机に肘を突いて指を絡める。祈るように手に額を乗せていた。
問題が山積している。
生徒達を狙う者が後を絶たない。次から次へと、きりがない。
こんなにも、危険と隣り合わせな場所だったなんて。
まだ確定情報ではない。
だけど、もし真実だったのなら。
彼に何て言えば良い。
いつも楽しみにしているのに。
絵画の講義を勧めたのは、間違いだったということになる。
あの教授に不穏分子の可能性があり、
今、最も危機に晒されているのが、君の弟だなんて。
――お前さんも、とんだ<当たり年>に生徒代表になっちまったもんだな――
以前聞いた、警備責任者の言葉。
島に六年居る彼が、今年は『当たり』だと言っていた。
その意味を日々思い知らされる。
此処は、安全な避難所だと思っていた。
でもそれは、理事会や警備組織、そして生徒代表が積み上げてきた結果だった。
壁一面に飾られた肖像画を見上げる。歴代の生徒代表達。
テオもクラウスも、一年間この任務を務め上げた。
今度は自分が守らなくてはならない。
みんなを。君の弟を。
絡めていた指を解いても、視線が俯いてしまう。
頭の中でふわりと、優しい顔が思い浮かぶ。
自然と頭が上がる。
視界に入るのは、レトロクラシックな電話。
それが、この部屋にあるから。
重苦しい会議がある日も、此処に来れるのかもしれない。
就任直後、俺はこの電話があまり好きではなかった。
執務上の相手と話す為だけの電話だから。
クラシックなデザインにさえ少し苦手意識を感じていた。
だけど今では、この電話を眺めると勇気を貰える。
会議をしている時も、時々見てしまっている。
この電話は、君に繋がっている。
君の声ならいつでも思い返せる。
話が終わった後、何度も反芻してしまうから。
言葉のひとつひとつが綺麗で。
その声で聞くものは、全て、愛しい。
(声が、聞きたい)
俺の左手はクラシックな受話器に触れていた。
古風なダイヤル式。執務専用の電話。
本当はいけないことだと知りながら。
君に繋がる番号を回していく。たった11桁が、もどかしい。
学院を取り巻く現状は芳しいとは言えない。
最後まで生徒代表を務める自信も、本当はあまりない。
時々、重圧に押し潰されそうになって、一人で膝を抱えてしまう。
そうすることしかできなかった、今までは。
ダイヤルが最後の数字に辿り着く。
耳に受話器を当てる。今日は話せるだろうか。
呼び出し音に耳を澄ます。
一回、二回、三回、四回、五…
fin
■アイヴィーシナリオBL
■背景:保健室
■人物:なし
【アイヴィー】
ソークちゃん? いっしょに生徒代表室行ーきーまーしょ?
って、あれ? 居ないや。もう行っちゃったのかな?
ジョシュアに会う前に、昨日のお礼したかったのに。
【ソクーロフ】
それは興味深い。どんなお礼をしてくれるというんだ?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(微笑)
【アイヴィー】
わっ! びっくりしたー。もー。オバケか、あんたは!
【ソクーロフ】
お礼は?
【アイヴィー】
…あ、ありがとうゴザイマシタ。昨日は俺んちまで送って頂いたようで。
【ソクーロフ】
お前、昨夜の記憶がないようだな?
【アイヴィー】
う、うん。俺、昨日なんかヘンなこと言ったりしてた?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(不敵な笑み)
【ソクーロフ】
フフッ、お前という奴は。
【アイヴィー】
なに笑ってんの…
【ソクーロフ】
さて。では生徒代表室に行くとしよう。
【アイヴィー】
ちょっと! やっぱ俺、ヘンなことしたのかよ? 教えろよ!
【ソクーロフ】
お前はしてないさ。
【アイヴィー】
あ、あのー。『お前は』っていうのが、ヤなかんじがするんですけれども…
【ソクーロフ】
おい、行くぞ。生徒代表が待っている。
【アイヴィー】
でた、絶対教えないパターンだよ、コレ。
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
どもー。タクシーのお兄さんでーす。
■背景:生徒代表室
■人物:ジョシュア(普通)
【ジョシュア】
アイヴィー、お待ちしていました。
あ、博士と一緒に来て下さったんですね。
お二人とも、今日はどうもありがとうございます。
【ソクーロフ】
こちらこそ、ありがとう、ジョシュア。
君からこのような申し出があるなんて、実に興味深いよ。
今日はティータイムという話だったね?
【ジョシュア】
はい。以前、アイヴィーがお好きだと話していたお菓子が見付かったんです。
【アイヴィー】
え? お菓子?
【ジョシュア】
はい。『海に落ちた羽』です。
■背景:淡い水色のババロアに、白い花(中央が黄色)が入っている
■人物:なし
【アイヴィー】
ああっ! これっ! うわ、懐かしー。これだよ、これ!
でも、なんで手に入ったんだ?
【ジョシュア】
花祭りの関係者の方とお話をした時に、聞いてみたんです。
何年か前の花祭りで、白い花を使ったケーキのようなものを見た人が居ます。
とても綺麗だったのですが、食べられないままお祭りが終わってしまい、
以来、見たことがないそうです。それについて何かご存知ではありませんか、って。
そうしたら、製作者を見つけて、生徒代表室に送って下さったんです。
【アイヴィー】
それはお前さんの人柄の賜物だなー。
お前さんみたいな男にそんな丁寧に聞かれたら、喜んで探すわな。
【ジョシュア】
そんな…皆さんが優しくして下さったおかげですよ。
【アイヴィー】
あ、ねえねえ。このお花はさ、食べられるわけ?
【ジョシュア】
はい。エディブルフラワーなので、野菜と同じように食べられるとお聞きしました。
これはプリムローズという春の花だそうですよ。
【アイヴィー】
へー。これ食べてみたかったんだー。すげーキレイだろ、これ?
そん時はさ、警備とかしてて食べられなかったし。サンキュ、ジョシュア!
【ジョシュア】
良かった。貴方に喜んで頂けて嬉しいです。では早速、頂きましょうか。
【アイヴィー】
うんうん。おれ、この花のとこがイイな。
【ジョシュア】
はい。どうぞ、アイヴィー。
【アイヴィー】
サンキュ。…あーむっ。お、これ、ウマイ!
【ソクーロフ】
おい。いい年をして口許を汚しながら食べるな。
【アイヴィー】
ゴ、ゴメンナサイ…
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
『海に落ちた羽』は、見た目の涼しさと同じように、
爽やかな甘さで、すっげ美味しかった。
プリムローズは意外とシャキシャキしてた。
お花を食べるなんて、不思議なかんじでした。
→
■人物:なし
【アイヴィー】
ソークちゃん? いっしょに生徒代表室行ーきーまーしょ?
って、あれ? 居ないや。もう行っちゃったのかな?
ジョシュアに会う前に、昨日のお礼したかったのに。
【ソクーロフ】
それは興味深い。どんなお礼をしてくれるというんだ?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(微笑)
【アイヴィー】
わっ! びっくりしたー。もー。オバケか、あんたは!
【ソクーロフ】
お礼は?
【アイヴィー】
…あ、ありがとうゴザイマシタ。昨日は俺んちまで送って頂いたようで。
【ソクーロフ】
お前、昨夜の記憶がないようだな?
【アイヴィー】
う、うん。俺、昨日なんかヘンなこと言ったりしてた?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(不敵な笑み)
【ソクーロフ】
フフッ、お前という奴は。
【アイヴィー】
なに笑ってんの…
【ソクーロフ】
さて。では生徒代表室に行くとしよう。
【アイヴィー】
ちょっと! やっぱ俺、ヘンなことしたのかよ? 教えろよ!
【ソクーロフ】
お前はしてないさ。
【アイヴィー】
あ、あのー。『お前は』っていうのが、ヤなかんじがするんですけれども…
【ソクーロフ】
おい、行くぞ。生徒代表が待っている。
【アイヴィー】
でた、絶対教えないパターンだよ、コレ。
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
どもー。タクシーのお兄さんでーす。
■背景:生徒代表室
■人物:ジョシュア(普通)
【ジョシュア】
アイヴィー、お待ちしていました。
あ、博士と一緒に来て下さったんですね。
お二人とも、今日はどうもありがとうございます。
【ソクーロフ】
こちらこそ、ありがとう、ジョシュア。
君からこのような申し出があるなんて、実に興味深いよ。
今日はティータイムという話だったね?
【ジョシュア】
はい。以前、アイヴィーがお好きだと話していたお菓子が見付かったんです。
【アイヴィー】
え? お菓子?
【ジョシュア】
はい。『海に落ちた羽』です。
■背景:淡い水色のババロアに、白い花(中央が黄色)が入っている
■人物:なし
【アイヴィー】
ああっ! これっ! うわ、懐かしー。これだよ、これ!
でも、なんで手に入ったんだ?
【ジョシュア】
花祭りの関係者の方とお話をした時に、聞いてみたんです。
何年か前の花祭りで、白い花を使ったケーキのようなものを見た人が居ます。
とても綺麗だったのですが、食べられないままお祭りが終わってしまい、
以来、見たことがないそうです。それについて何かご存知ではありませんか、って。
そうしたら、製作者を見つけて、生徒代表室に送って下さったんです。
【アイヴィー】
それはお前さんの人柄の賜物だなー。
お前さんみたいな男にそんな丁寧に聞かれたら、喜んで探すわな。
【ジョシュア】
そんな…皆さんが優しくして下さったおかげですよ。
【アイヴィー】
あ、ねえねえ。このお花はさ、食べられるわけ?
【ジョシュア】
はい。エディブルフラワーなので、野菜と同じように食べられるとお聞きしました。
これはプリムローズという春の花だそうですよ。
【アイヴィー】
へー。これ食べてみたかったんだー。すげーキレイだろ、これ?
そん時はさ、警備とかしてて食べられなかったし。サンキュ、ジョシュア!
【ジョシュア】
良かった。貴方に喜んで頂けて嬉しいです。では早速、頂きましょうか。
【アイヴィー】
うんうん。おれ、この花のとこがイイな。
【ジョシュア】
はい。どうぞ、アイヴィー。
【アイヴィー】
サンキュ。…あーむっ。お、これ、ウマイ!
【ソクーロフ】
おい。いい年をして口許を汚しながら食べるな。
【アイヴィー】
ゴ、ゴメンナサイ…
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
『海に落ちた羽』は、見た目の涼しさと同じように、
爽やかな甘さで、すっげ美味しかった。
プリムローズは意外とシャキシャキしてた。
お花を食べるなんて、不思議なかんじでした。
→
■アイヴィーシナリオBL
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
お邪魔しまーす。
■背景:生徒代表室
■人物:ジョシュア(普通)
【ジョシュア】
あっ、アイヴィー。来て下さってありがとうございます。
【アイヴィー】
こちらこそ。お招き頂きましてどーも。
【ジョシュア】
今、お茶をお淹れします。珈琲と紅茶、どちらが良いですか?
【アイヴィー】
お前さんが飲みたい方で良いよ。
■背景:生徒代表室
■人物:ジョシュア(微笑)
【ジョシュア】
…はい。では珈琲にしますね。
【アイヴィー】
うん。あ、でさ、今日は何か用意してくれてるみたいだけど、何なのかな?
【ジョシュア】
えっ? アイヴィー、解らなかったんですか?
【アイヴィー】
あー、うん。俺、好きなものっつっても色々あるし。
お前さんより年寄りだから記憶力なくなってるっていうか…ゴメン。
【ジョシュア】
あ、いいえ。メールに書かなくて、俺の方こそすみません。
俺が貴方の言葉を覚えていても、ご本人もそうとは限りませんよね。
この前、花祭りの打ち合わせをした時ですよ。
貴方からお好きだとお聞きした時は、
可愛らしいなって思って、俺は忘れられなかったんです。
■背景:生徒代表室
■人物:ソクーロフ(普通)とジョシュア(普通)
【ソクーロフ】
失礼するよ。おや、私が最後だったようだね。
【ジョシュア】
博士、おはようございます。
【ソクーロフ】
やあ、ジョシュア。私にも声を掛けてくれてありがとう。
【ジョシュア】
いいえ。
【アイヴィー】
おはよ、ソクーロフ。あの、昨日は…
【ソクーロフ】
その話は後にしろ。
【アイヴィー】
…ハイ。
【ソクーロフ】
それで、今日は会議ではなく、ティータイムという話だが?
何かご馳走でもしてくれるのかい?
【ジョシュア】
ええ。いつもお二人にはお世話になっているので、少しでもお礼になれば良いのですが。
あの、以前、アイヴィーがお好きだと話していたお菓子が見付かったんです。
【アイヴィー】
え? お菓子?
【ジョシュア】
はい。『海に落ちた羽』です。
■背景:淡い水色のババロアに、白い花(中央が黄色)が入っている
■人物:なし
【アイヴィー】
ああっ! これっ! うわ、懐かしー。これだよ、これ!
でも、なんで手に入ったんだ?
【ジョシュア】
花祭りの関係者の方とお話をした時に、聞いてみたんです。
何年か前の花祭りで、白い花を使ったケーキのようなものを見た人が居ます。
とても綺麗だったのですが、食べられないままお祭りが終わってしまい、
以来、見たことがないそうです。それについて何かご存知ではありませんか、って。
そうしたら、製作者を見つけて、生徒代表室に送って下さったんです。
【アイヴィー】
それはお前さんの人柄の賜物だなー。
お前さんみたいな男にそんな丁寧に聞かれたら、喜んで探すわな。
【ジョシュア】
そんな…皆さんが優しくして下さったおかげですよ。
【アイヴィー】
あ、ねえねえ。このお花はさ、食べられるわけ?
【ジョシュア】
はい。エディブルフラワーなので、野菜と同じように食べられるとお聞きしました。
これはプリムローズという春の花だそうですよ。
【アイヴィー】
へー。これ食べてみたかったんだー。すげーキレイだろ、これ?
そん時はさ、警備とかしてて食べられなかったし。サンキュ、ジョシュア!
【ジョシュア】
良かった。貴方に喜んで頂けて嬉しいです。では早速、頂きましょうか。
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
『海に落ちた羽』は、そんなに甘くなくて俺好みの味だった。
羽のように軽い口どけっていうのかもしれない。
だけど、名前のせいかな。ちょっと淋しいかんじがしたのは。
海に落ちた羽は、誰のものだったんだろう。
どうして海に落ちちゃったんだろう。
羽を失くしても、平気だったのかな?
■背景:生徒代表室
■人物:ソクーロフ(普通)とジョシュア(普通)
【アイヴィー】
じゃあ、ごちそうさん。お花のお菓子が食べられるなんてな。
わざわざ探してくれたことも嬉しかった。サンキュ。
【ジョシュア】
いえ。ではまた、今度は会議の時に。
【アイヴィー】
ああ。そういや、理事会からまたメール来てたな。読んだ?
【ジョシュア】
ええ。これから花祭りの時期だと言うのに警備の強化なんて残念です。
でも花祭りはみんなも楽しみにしている行事ですから、
何とか無事に行いたいと思っています。
【アイヴィー】
総帥がそう仰るんなら、裏方は喜んで大奔走しちゃうよ。な、ドクター?
【ソクーロフ】
我々は生徒代表の意志を貫く為にある。
全力で君をフォローするよ、ジョシュア。
【ジョシュア】
はい。お二人が支えて下さること、とても心強いです。
いつもありがとうございます。
【アイヴィー】
なんか、そんな改まって言われると照れちゃうな。そんじゃまた。
■背景:校舎、廊下
■人物:ソクーロフ(冷静)
【アイヴィー】
美味しかったね、お花のお菓子。
【ソクーロフ】
お前の好きそうな味だったからな。
【アイヴィー】
え? ソクちゃんのお口には合わなかった?
【ソクーロフ】
お前、今日は時間があるんだろう? 保健室に来て貰うぞ。
【アイヴィー】
はい、でた。華麗なる無視パターン。Sレベル30!
って、なんで保健室連れてくんだよ! 俺、どこもケガしてないっ!
【ソクーロフ】
昨日の話をしたいんだろう?
【アイヴィー】
あ…ハイ。
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(普通)
【ソクーロフ】
それで、お前は何を話したいんだ?
【アイヴィー】
あの、俺のこと、うちのベッドまで運んでくれたのソクちゃん?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(微笑)
【ソクーロフ】
聞かないと解らないのか?
【アイヴィー】
だ、だって、お酒のせいだもん。
【ソクーロフ】
お前、何処まで覚えているんだ?
【アイヴィー】
え? んと、俺がシチリアビール飲んでたとこまで。
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(不敵な笑み)
【ソクーロフ】
…ピッタリだな。
【アイヴィー】
あ、あれ? なんか、とっても、いやーな予感がしてきましたよ?
【ソクーロフ】
せっかく保健室まで来たんだ。カウンセリングをしてやろう。
【アイヴィー】
あー、いや…カウンセリングなんて必要ないよ、俺。別に心配してることもないし。
【ソクーロフ】
私がしてやろうと言っているのに?
【アイヴィー】
ちょ、ちょっと待てって、しなくていーから、あっ
■背景:保健室
■人物:ソクーロフに顎を掴まれているアイヴィー
【ソクーロフ】
ほう。私に口答えするのはこの口か?
【アイヴィー】
…や。ソクちゃ
【ジョシュア】
あの、博士、いらっしゃいますか?
【アイヴィー】
カミサマ!?
【ソクーロフ】
この世に神など居ない。生徒代表の声だ。
【ジョシュア】
博士?
【ソクーロフ】
入りたまえ。
■背景:保健室
■人物:ジョシュア(俯き)
【ジョシュア】
失礼します。すみません、先程お渡ししようと、
思っていたファイルがあって…
【ソクーロフ】
そうか。ありがとう。何の資料なのかな?
【ジョシュア】
以前、頼まれていた学院の歴史に関するものです。
【ソクーロフ】
ああ、頼んでいたね。助かるよ。どうもありがとう。
【ジョシュア】
いえ…では、俺はこれで失礼します。
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(冷静)
【ソクーロフ】
どうやら、今日は日が悪いらしい。
【アイヴィー】
は、はい?
【ソクーロフ】
カウンセリングは日を改めることにしよう。またな、アイヴィー。
【アイヴィー】
あ、うん。じゃ、また。あ、ソクちゃん!
今度はさ、中華料理食べに行こーね?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(微笑)
【ソクーロフ】
…ああ。そうだな。
→ジョシュアルートへ
■人物:なし
【アイヴィー】
お邪魔しまーす。
■背景:生徒代表室
■人物:ジョシュア(普通)
【ジョシュア】
あっ、アイヴィー。来て下さってありがとうございます。
【アイヴィー】
こちらこそ。お招き頂きましてどーも。
【ジョシュア】
今、お茶をお淹れします。珈琲と紅茶、どちらが良いですか?
【アイヴィー】
お前さんが飲みたい方で良いよ。
■背景:生徒代表室
■人物:ジョシュア(微笑)
【ジョシュア】
…はい。では珈琲にしますね。
【アイヴィー】
うん。あ、でさ、今日は何か用意してくれてるみたいだけど、何なのかな?
【ジョシュア】
えっ? アイヴィー、解らなかったんですか?
【アイヴィー】
あー、うん。俺、好きなものっつっても色々あるし。
お前さんより年寄りだから記憶力なくなってるっていうか…ゴメン。
【ジョシュア】
あ、いいえ。メールに書かなくて、俺の方こそすみません。
俺が貴方の言葉を覚えていても、ご本人もそうとは限りませんよね。
この前、花祭りの打ち合わせをした時ですよ。
貴方からお好きだとお聞きした時は、
可愛らしいなって思って、俺は忘れられなかったんです。
■背景:生徒代表室
■人物:ソクーロフ(普通)とジョシュア(普通)
【ソクーロフ】
失礼するよ。おや、私が最後だったようだね。
【ジョシュア】
博士、おはようございます。
【ソクーロフ】
やあ、ジョシュア。私にも声を掛けてくれてありがとう。
【ジョシュア】
いいえ。
【アイヴィー】
おはよ、ソクーロフ。あの、昨日は…
【ソクーロフ】
その話は後にしろ。
【アイヴィー】
…ハイ。
【ソクーロフ】
それで、今日は会議ではなく、ティータイムという話だが?
何かご馳走でもしてくれるのかい?
【ジョシュア】
ええ。いつもお二人にはお世話になっているので、少しでもお礼になれば良いのですが。
あの、以前、アイヴィーがお好きだと話していたお菓子が見付かったんです。
【アイヴィー】
え? お菓子?
【ジョシュア】
はい。『海に落ちた羽』です。
■背景:淡い水色のババロアに、白い花(中央が黄色)が入っている
■人物:なし
【アイヴィー】
ああっ! これっ! うわ、懐かしー。これだよ、これ!
でも、なんで手に入ったんだ?
【ジョシュア】
花祭りの関係者の方とお話をした時に、聞いてみたんです。
何年か前の花祭りで、白い花を使ったケーキのようなものを見た人が居ます。
とても綺麗だったのですが、食べられないままお祭りが終わってしまい、
以来、見たことがないそうです。それについて何かご存知ではありませんか、って。
そうしたら、製作者を見つけて、生徒代表室に送って下さったんです。
【アイヴィー】
それはお前さんの人柄の賜物だなー。
お前さんみたいな男にそんな丁寧に聞かれたら、喜んで探すわな。
【ジョシュア】
そんな…皆さんが優しくして下さったおかげですよ。
【アイヴィー】
あ、ねえねえ。このお花はさ、食べられるわけ?
【ジョシュア】
はい。エディブルフラワーなので、野菜と同じように食べられるとお聞きしました。
これはプリムローズという春の花だそうですよ。
【アイヴィー】
へー。これ食べてみたかったんだー。すげーキレイだろ、これ?
そん時はさ、警備とかしてて食べられなかったし。サンキュ、ジョシュア!
【ジョシュア】
良かった。貴方に喜んで頂けて嬉しいです。では早速、頂きましょうか。
■背景:生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
『海に落ちた羽』は、そんなに甘くなくて俺好みの味だった。
羽のように軽い口どけっていうのかもしれない。
だけど、名前のせいかな。ちょっと淋しいかんじがしたのは。
海に落ちた羽は、誰のものだったんだろう。
どうして海に落ちちゃったんだろう。
羽を失くしても、平気だったのかな?
■背景:生徒代表室
■人物:ソクーロフ(普通)とジョシュア(普通)
【アイヴィー】
じゃあ、ごちそうさん。お花のお菓子が食べられるなんてな。
わざわざ探してくれたことも嬉しかった。サンキュ。
【ジョシュア】
いえ。ではまた、今度は会議の時に。
【アイヴィー】
ああ。そういや、理事会からまたメール来てたな。読んだ?
【ジョシュア】
ええ。これから花祭りの時期だと言うのに警備の強化なんて残念です。
でも花祭りはみんなも楽しみにしている行事ですから、
何とか無事に行いたいと思っています。
【アイヴィー】
総帥がそう仰るんなら、裏方は喜んで大奔走しちゃうよ。な、ドクター?
【ソクーロフ】
我々は生徒代表の意志を貫く為にある。
全力で君をフォローするよ、ジョシュア。
【ジョシュア】
はい。お二人が支えて下さること、とても心強いです。
いつもありがとうございます。
【アイヴィー】
なんか、そんな改まって言われると照れちゃうな。そんじゃまた。
■背景:校舎、廊下
■人物:ソクーロフ(冷静)
【アイヴィー】
美味しかったね、お花のお菓子。
【ソクーロフ】
お前の好きそうな味だったからな。
【アイヴィー】
え? ソクちゃんのお口には合わなかった?
【ソクーロフ】
お前、今日は時間があるんだろう? 保健室に来て貰うぞ。
【アイヴィー】
はい、でた。華麗なる無視パターン。Sレベル30!
って、なんで保健室連れてくんだよ! 俺、どこもケガしてないっ!
【ソクーロフ】
昨日の話をしたいんだろう?
【アイヴィー】
あ…ハイ。
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(普通)
【ソクーロフ】
それで、お前は何を話したいんだ?
【アイヴィー】
あの、俺のこと、うちのベッドまで運んでくれたのソクちゃん?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(微笑)
【ソクーロフ】
聞かないと解らないのか?
【アイヴィー】
だ、だって、お酒のせいだもん。
【ソクーロフ】
お前、何処まで覚えているんだ?
【アイヴィー】
え? んと、俺がシチリアビール飲んでたとこまで。
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(不敵な笑み)
【ソクーロフ】
…ピッタリだな。
【アイヴィー】
あ、あれ? なんか、とっても、いやーな予感がしてきましたよ?
【ソクーロフ】
せっかく保健室まで来たんだ。カウンセリングをしてやろう。
【アイヴィー】
あー、いや…カウンセリングなんて必要ないよ、俺。別に心配してることもないし。
【ソクーロフ】
私がしてやろうと言っているのに?
【アイヴィー】
ちょ、ちょっと待てって、しなくていーから、あっ
■背景:保健室
■人物:ソクーロフに顎を掴まれているアイヴィー
【ソクーロフ】
ほう。私に口答えするのはこの口か?
【アイヴィー】
…や。ソクちゃ
【ジョシュア】
あの、博士、いらっしゃいますか?
【アイヴィー】
カミサマ!?
【ソクーロフ】
この世に神など居ない。生徒代表の声だ。
【ジョシュア】
博士?
【ソクーロフ】
入りたまえ。
■背景:保健室
■人物:ジョシュア(俯き)
【ジョシュア】
失礼します。すみません、先程お渡ししようと、
思っていたファイルがあって…
【ソクーロフ】
そうか。ありがとう。何の資料なのかな?
【ジョシュア】
以前、頼まれていた学院の歴史に関するものです。
【ソクーロフ】
ああ、頼んでいたね。助かるよ。どうもありがとう。
【ジョシュア】
いえ…では、俺はこれで失礼します。
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(冷静)
【ソクーロフ】
どうやら、今日は日が悪いらしい。
【アイヴィー】
は、はい?
【ソクーロフ】
カウンセリングは日を改めることにしよう。またな、アイヴィー。
【アイヴィー】
あ、うん。じゃ、また。あ、ソクちゃん!
今度はさ、中華料理食べに行こーね?
■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(微笑)
【ソクーロフ】
…ああ。そうだな。
→ジョシュアルートへ
■アイヴィーシナリオBL
■背景:デスクトップのMac
■人物:なし
【アイヴィー】
面白いメールは来てるかなー。あ、理事会からだ。
なによ、『警備強化』? またかよ。
『花祭りに乗じて、危険分子が島内に侵入する可能性あり』
そんなんばっかだな、今年は。他にはーっと。
お? ジョシュアから来てんじゃん。なになに?
――こんにちは、アイヴィー。
すみません、今日は執務の話ではないのですが。
お時間がある時に、生徒代表室にお越し頂けないでしょうか?
以前、貴方がお好きだと言っていたものが手に入ったんです。
たまには貴方と博士と三人で、ティータイムなんていかがでしょうか?
ジョシュア・グラント――
おお? どうした、ジョシュア。珍しいこと言ってくるなあ。
…てか、俺の好きなもの? なんか言ったっけ? うーん、好きなもの…ビール?
あ、いやいや、生徒代表室でそれはないか。ティータイムだって言ってるしな。
でも、ソクちゃんも来るのか。それは丁度良いな。これから行っちゃうか。
お。生徒代表室、オンラインじゃん。今、居るのか。んじゃ声掛けとこ。
俺、パジャマだけどバレない、よね? ポチっとな。
■背景:デスクトップのMac
■人物:PC画面の中にジョシュア
【ジョシュア】
アイヴィー? あっ、おはようございます。
【アイヴィー】
おはようさん。休日の朝からお仕事してんのか?
【ジョシュア】
あ、いえ。少し資料を見ていただけですから。
それに、俺が此処に居れば、貴方と繋がるかもしれないなと思って。
【アイヴィー】
えっ?
【ジョシュア】
本当に繋がったので驚きました。あ、メール、読んで頂けましたよね?
【アイヴィー】
ああ、そうそう。俺、これから行ってもイイ? 今日、お休みだからさ。
【ジョシュア】
お休みなのに良いんですか?
【アイヴィー】
イイのイイの。別にデートする相手も居ねえしさ。だから俺と遊んでやって?
【ジョシュア】
ありがとうございます。では直接、生徒代表室へどうぞ。俺、此処に居ますから。
ソクーロフ博士には、俺から連絡しておきますね。
先程、保健室に向かうところをお見掛けしましたから、お越し頂けると思いますし。
【アイヴィー】
マジかよ? 相変わらず朝強い人だなー。ったく、俺をへべれけにしといて、
自分はどれだけ夜遅くなってもピンピンしてんだもんなー。
二日酔いにならないクスリとか使ってんのか、あのお医者さんは。
【ジョシュア】
えっと…
【アイヴィー】
あー、いや。昨日の夜、一緒に飲みに行ったんだわ。
【ジョシュア】
そうですか。お二人は本当に仲が良いんですね。
【アイヴィー】
長年、同じ仕事してるだけさ。んじゃ、またあとでな。
【ジョシュア】
はい。お待ちしています。
■背景:デスクトップのMac
■人物:なし
【アイヴィー】
はー。どんだけ礼儀正しいんだ、今年の生徒代表は。
あははは系のテオと違い過ぎる。その前はやたら几帳面だし。
どいつもこいつも面白い奴ばっかだな、生徒代表は。
そだ。保健室にメールしとこっかな。なんか居るみたいだし。
――これから生徒代表室に行きまーす。
P.S.昨日は送ってくれたみたいでサンキュ――
はい、送信っと。よし。
んじゃー、ちゃっちゃと着替えてガッコに行きますかー。
→まっすぐ生徒代表室
→保健室に寄ってから生徒代表室
■人物:なし
【アイヴィー】
面白いメールは来てるかなー。あ、理事会からだ。
なによ、『警備強化』? またかよ。
『花祭りに乗じて、危険分子が島内に侵入する可能性あり』
そんなんばっかだな、今年は。他にはーっと。
お? ジョシュアから来てんじゃん。なになに?
――こんにちは、アイヴィー。
すみません、今日は執務の話ではないのですが。
お時間がある時に、生徒代表室にお越し頂けないでしょうか?
以前、貴方がお好きだと言っていたものが手に入ったんです。
たまには貴方と博士と三人で、ティータイムなんていかがでしょうか?
ジョシュア・グラント――
おお? どうした、ジョシュア。珍しいこと言ってくるなあ。
…てか、俺の好きなもの? なんか言ったっけ? うーん、好きなもの…ビール?
あ、いやいや、生徒代表室でそれはないか。ティータイムだって言ってるしな。
でも、ソクちゃんも来るのか。それは丁度良いな。これから行っちゃうか。
お。生徒代表室、オンラインじゃん。今、居るのか。んじゃ声掛けとこ。
俺、パジャマだけどバレない、よね? ポチっとな。
■背景:デスクトップのMac
■人物:PC画面の中にジョシュア
【ジョシュア】
アイヴィー? あっ、おはようございます。
【アイヴィー】
おはようさん。休日の朝からお仕事してんのか?
【ジョシュア】
あ、いえ。少し資料を見ていただけですから。
それに、俺が此処に居れば、貴方と繋がるかもしれないなと思って。
【アイヴィー】
えっ?
【ジョシュア】
本当に繋がったので驚きました。あ、メール、読んで頂けましたよね?
【アイヴィー】
ああ、そうそう。俺、これから行ってもイイ? 今日、お休みだからさ。
【ジョシュア】
お休みなのに良いんですか?
【アイヴィー】
イイのイイの。別にデートする相手も居ねえしさ。だから俺と遊んでやって?
【ジョシュア】
ありがとうございます。では直接、生徒代表室へどうぞ。俺、此処に居ますから。
ソクーロフ博士には、俺から連絡しておきますね。
先程、保健室に向かうところをお見掛けしましたから、お越し頂けると思いますし。
【アイヴィー】
マジかよ? 相変わらず朝強い人だなー。ったく、俺をへべれけにしといて、
自分はどれだけ夜遅くなってもピンピンしてんだもんなー。
二日酔いにならないクスリとか使ってんのか、あのお医者さんは。
【ジョシュア】
えっと…
【アイヴィー】
あー、いや。昨日の夜、一緒に飲みに行ったんだわ。
【ジョシュア】
そうですか。お二人は本当に仲が良いんですね。
【アイヴィー】
長年、同じ仕事してるだけさ。んじゃ、またあとでな。
【ジョシュア】
はい。お待ちしています。
■背景:デスクトップのMac
■人物:なし
【アイヴィー】
はー。どんだけ礼儀正しいんだ、今年の生徒代表は。
あははは系のテオと違い過ぎる。その前はやたら几帳面だし。
どいつもこいつも面白い奴ばっかだな、生徒代表は。
そだ。保健室にメールしとこっかな。なんか居るみたいだし。
――これから生徒代表室に行きまーす。
P.S.昨日は送ってくれたみたいでサンキュ――
はい、送信っと。よし。
んじゃー、ちゃっちゃと着替えてガッコに行きますかー。
→まっすぐ生徒代表室
→保健室に寄ってから生徒代表室
■アイヴィーシナリオBL
■背景:リビング
■人物:ユウタ、アルフレッド
【アイヴィー】
ユウタ、この島の生活には慣れたかい?
【ユウタ】
うん。大丈夫。最近は、絵画の特別授業が面白いんだ。
【アイヴィー】
絵画なんてやってんのか、ユウタは。カッコイイじゃん?
【ユウタ】
ジョシュアが勧めてくれたんです。ユウタはよく絵を見ているからって。
【アイヴィー】
ふうん。絵画の授業ってやっぱ絵を描いたりするわけ?
【ユウタ】
うん。俺の好きな絵を真似して描いてるんだ。
先生が、真似をして描くのも勉強になるからって。
優しいし、素敵な先生なんだ。
【アイヴィー】
そりゃ良かったな。
【ユウタ】
この学校来て良かった。寮のみんなもいい人だし。
【アルフレッド】
おっ、イイこと言うじゃん、ユウタ。
【ユウタ】
えへへ。でもさ、ほんと此処に来なかったら、
アルフレッド・ヴィスコンティにも会えなかったよね。
あの、アイヴィーさんは島に来てどのくらいなんですか?
【アイヴィー】
俺? もう、六年かな?
【ユウタ】
そうなんだ。良い島だよね、ここ。
【アイヴィー】
まーな。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(私服)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
そんなこんなで、俺の休日は、
マージナルプリンスどものおかげで、
あっという間に終わってしまいましたとさ。
→おさんぽ
■人物:ユウタ、アルフレッド
【アイヴィー】
ユウタ、この島の生活には慣れたかい?
【ユウタ】
うん。大丈夫。最近は、絵画の特別授業が面白いんだ。
【アイヴィー】
絵画なんてやってんのか、ユウタは。カッコイイじゃん?
【ユウタ】
ジョシュアが勧めてくれたんです。ユウタはよく絵を見ているからって。
【アイヴィー】
ふうん。絵画の授業ってやっぱ絵を描いたりするわけ?
【ユウタ】
うん。俺の好きな絵を真似して描いてるんだ。
先生が、真似をして描くのも勉強になるからって。
優しいし、素敵な先生なんだ。
【アイヴィー】
そりゃ良かったな。
【ユウタ】
この学校来て良かった。寮のみんなもいい人だし。
【アルフレッド】
おっ、イイこと言うじゃん、ユウタ。
【ユウタ】
えへへ。でもさ、ほんと此処に来なかったら、
アルフレッド・ヴィスコンティにも会えなかったよね。
あの、アイヴィーさんは島に来てどのくらいなんですか?
【アイヴィー】
俺? もう、六年かな?
【ユウタ】
そうなんだ。良い島だよね、ここ。
【アイヴィー】
まーな。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(私服)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
そんなこんなで、俺の休日は、
マージナルプリンスどものおかげで、
あっという間に終わってしまいましたとさ。
→おさんぽ
■アイヴィーシナリオBL
■背景:キッチン
■人物:ハルヤ
【アイヴィー】
そうだ、ハルヤ。これをぜひ使ってくれ。
俺が着せてやるからさ?
【ハルヤ】
え? ちょっと…
■背景:キッチン
■人物:ハルヤにエプロンを着せるアイヴィー
【アイヴィー】
はい、きゅきゅきゅのきゅ。
■背景:キッチン
■人物:ハルヤ(エプロン)
【ハルヤ】
…アイヴィーってさ、なんかエプロン着せたがるよね?
【アイヴィー】
そりゃあ、カワイイからな、エプロンハルヤは。
【ハルヤ】
からかわないでよ…もう、向こうで待ってて。
【アイヴィー】
はーい。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(エプロン)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
そんなこんなで、俺の休日は、
マージナルプリンスどものおかげで、
あっという間に終わってしまいましたとさ。
→おさんぽ
■人物:ハルヤ
【アイヴィー】
そうだ、ハルヤ。これをぜひ使ってくれ。
俺が着せてやるからさ?
【ハルヤ】
え? ちょっと…
■背景:キッチン
■人物:ハルヤにエプロンを着せるアイヴィー
【アイヴィー】
はい、きゅきゅきゅのきゅ。
■背景:キッチン
■人物:ハルヤ(エプロン)
【ハルヤ】
…アイヴィーってさ、なんかエプロン着せたがるよね?
【アイヴィー】
そりゃあ、カワイイからな、エプロンハルヤは。
【ハルヤ】
からかわないでよ…もう、向こうで待ってて。
【アイヴィー】
はーい。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(エプロン)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
そんなこんなで、俺の休日は、
マージナルプリンスどものおかげで、
あっという間に終わってしまいましたとさ。
→おさんぽ
■アイヴィーシナリオBL
■背景:リビング
■人物:アルフレッド、ユウタ
【アイヴィー】
そういや、アルフレッド、オファーの話、どーした?
【アルフレッド】
あー。あれか。断ったよ。
【ユウタ】
えっ? レッド、何かオファー来てたの?
【アルフレッド】
ああ。言ってなかったか?
またオヤジが「これは売れる映画だから出ろ」って言ってきたんだよ。
けど、聞いてみれば、共演者の中に嫌な女優とか居てさ。
【アイヴィー】
ちなみに、どんな作品だったんだ?
【アルフレッド】
カネばっか掛けたド派手なカーアクション。
【アイヴィー】
…へえ。
【アルフレッド】
もうドッカンドッカン爆破するんじゃねーの?
絵的に派手なだけの話さ。成功しねえんじゃねえかな、あの作品は。
【ユウタ】
ふーん。レッドがそういうんじゃ、しょうがないか。
【アルフレッド】
お前は映画出てる俺、見たかったのか?
【ユウタ】
うん。まあね。俺、アルフレッド・ヴィスコンティの大ファンだもん。
でも撮影に入っちゃうと、レッドとは会えなくなっちゃうから、
此処に居てくれる方が嬉しいかもっ。
【アルフレッド】
そーかよ。じゃあ、断ってセーカイだなっ。
【ユウタ】
うんっ。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(私服)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
ハルヤが作ってくれた雑炊はめちゃくちゃ美味かった。
だけど俺は、雑炊を食べながら、他のことを考えていた。
アルフレッドが出演を辞退した映画。
俺は別に、あいつがスクリーンに復帰することを急いているわけではない。
この島に居る間は、自由に過ごせば良い。此処は避難所なのだから。
アルフレッドがオファーを断るのは常だ。
だが、今回の作品に限ってはカーアクションだったから出演できなかったのかもしれない。
あいつは、無二の親友を交通事故で失っている。
→おさんぽ
■人物:アルフレッド、ユウタ
【アイヴィー】
そういや、アルフレッド、オファーの話、どーした?
【アルフレッド】
あー。あれか。断ったよ。
【ユウタ】
えっ? レッド、何かオファー来てたの?
【アルフレッド】
ああ。言ってなかったか?
またオヤジが「これは売れる映画だから出ろ」って言ってきたんだよ。
けど、聞いてみれば、共演者の中に嫌な女優とか居てさ。
【アイヴィー】
ちなみに、どんな作品だったんだ?
【アルフレッド】
カネばっか掛けたド派手なカーアクション。
【アイヴィー】
…へえ。
【アルフレッド】
もうドッカンドッカン爆破するんじゃねーの?
絵的に派手なだけの話さ。成功しねえんじゃねえかな、あの作品は。
【ユウタ】
ふーん。レッドがそういうんじゃ、しょうがないか。
【アルフレッド】
お前は映画出てる俺、見たかったのか?
【ユウタ】
うん。まあね。俺、アルフレッド・ヴィスコンティの大ファンだもん。
でも撮影に入っちゃうと、レッドとは会えなくなっちゃうから、
此処に居てくれる方が嬉しいかもっ。
【アルフレッド】
そーかよ。じゃあ、断ってセーカイだなっ。
【ユウタ】
うんっ。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(私服)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
ハルヤが作ってくれた雑炊はめちゃくちゃ美味かった。
だけど俺は、雑炊を食べながら、他のことを考えていた。
アルフレッドが出演を辞退した映画。
俺は別に、あいつがスクリーンに復帰することを急いているわけではない。
この島に居る間は、自由に過ごせば良い。此処は避難所なのだから。
アルフレッドがオファーを断るのは常だ。
だが、今回の作品に限ってはカーアクションだったから出演できなかったのかもしれない。
あいつは、無二の親友を交通事故で失っている。
→おさんぽ
■アイヴィーシナリオBL
■背景:リビング
■人物:シルヴァン、アルフレッド
【アイヴィー】
あ、シルヴァン、借りてたDVD返すわ。サンキュな。
【シルヴァン】
どういたしまして。いかがでしたか?
【アイヴィー】
んーまあまあ、かな。
【アルフレッド】
それ、何のDVD?
【シルヴァン】
僕イチオシのサムライムービーです。次、レッドも見ますか?
【アルフレッド】
見ねーよ。おい、アイヴィーもこいつに付き合うことねーじゃん。
【シルヴァン】
僕が押し付けたんじゃないですよ?
アイヴィーが一回見てみたい、って言ったんですから。
【アイヴィー】
お前さんがサムライサムライ煩いからな。そんな面白いのかと思ってさ。
【アルフレッド】
なんだよ、どいつもこいつもニッポン好きになりやがって。
【アイヴィー】
何拗ねてんだよ、アルフレッド。
【アルフレッド】
拗ねてなんかねーよ。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(私服)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
そんなこんなで、俺の休日は、
マージナルプリンスどものおかげで、
あっという間に終わってしまいましたとさ。
→おさんぽ
■人物:シルヴァン、アルフレッド
【アイヴィー】
あ、シルヴァン、借りてたDVD返すわ。サンキュな。
【シルヴァン】
どういたしまして。いかがでしたか?
【アイヴィー】
んーまあまあ、かな。
【アルフレッド】
それ、何のDVD?
【シルヴァン】
僕イチオシのサムライムービーです。次、レッドも見ますか?
【アルフレッド】
見ねーよ。おい、アイヴィーもこいつに付き合うことねーじゃん。
【シルヴァン】
僕が押し付けたんじゃないですよ?
アイヴィーが一回見てみたい、って言ったんですから。
【アイヴィー】
お前さんがサムライサムライ煩いからな。そんな面白いのかと思ってさ。
【アルフレッド】
なんだよ、どいつもこいつもニッポン好きになりやがって。
【アイヴィー】
何拗ねてんだよ、アルフレッド。
【アルフレッド】
拗ねてなんかねーよ。
■背景:リビング
■人物:ハルヤ(私服)
【ハルヤ】
お待たせ。雑炊できたよ。これはアイヴィーの。
こっちはみんなで食べて?
【ユウタ】
わあ、すごーい。
【アルフレッド】
おっ、うまそうじゃん!
【シルヴァン】
これがサムライの料理ですね!
【アイヴィー】
いやー、ヨメに欲しいな、ハルヤは。
【ハルヤ】
もう…アイヴィーの俺が食べちゃうよ?
【アイヴィー】
わー。俺が食べる!
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
そんなこんなで、俺の休日は、
マージナルプリンスどものおかげで、
あっという間に終わってしまいましたとさ。
→おさんぽ
■アイヴィーシナリオBL
■背景:キッチン
■人物:なし
【アイヴィー】
なんか食べれるもんあったかなあ?
こういう時、ハルヤが居ればなー。ピンクのフリフリエプロンで、
あったかいライスボールとか作って欲しいなー。
あ、そうだ。ハルヤの常備米、あるよな? これ少し貰っちゃおっと。
俺が作ってみっか。ライスの作り方は一応、前に聞いたし。
あんま覚えてないけど、なんとかなるだろ。
えっとー、コメを洗って、水も入れて、炊飯器に入れるんだったよな。
おー。覚えてるじゃん、俺。
で、水ってどのくらいよ? まあ、テキトーでいいか。
■背景:銀色の炊飯器。蓋が開いた状態
■人物:なし
【アイヴィー】
ハルヤに頼まれて、つい買っちゃったんだよなー。
メイド イン ジャパンだから高かったんだけど。
せっかくあるんだし、たまには俺も使ってやらないとな。
えーと。どのボタン押すんだったかな? ボタンが日本語だから読めねー。
んー。コレか? あ、なんかピッって言った。…正解か?
後は待てば良いんだよな。じゃあ、煙草吸ってよーっと。
■背景:リビング、窓側
■人物:なし
【アイヴィー】
あれ? ライスボールって中になんか入れるんだったよな?
入れるもんあったかな? ハルヤはデンジャラスなもん入れてたけど。
あー、ツナ缶があったな。ツナサンドの中身と同じでも良いのかな?
じゃあ、それでいこう。漁師の後悔 in ライスボール。
■背景:リビング
■人物:アルフレッド、シルヴァン、ハルヤ、ユウタ
【アルフレッド】
グッモーニン! 休みだっていうから遊びにきてやったぜ!
【アイヴィー】
休日にどやどや来てくれてどーも。
【ユウタ】
こんにちは、アイヴィーさん。迷惑、じゃないですか?
なんか、みんはヘーキヘーキって言ってたんだけど。
【アイヴィー】
お。新しいマジプリも一緒に来たのか。
まあ、こいつらがアポなしで来るのはいつものことだからな。
【シルヴァン】
おや、アイヴィー。起き抜けってかんじですね?
髪、まだ梳かしてないでしょう?
僕達、髪が長いんですから、大事にしないと。
僕がブラッシングしてあげましょうか?
【アイヴィー】
バーカ。そーゆーのは二人っきりの時にしろよ。
【シルヴァン】
はーい♪ 解りましたっ、では後日ゆっくりしてあげますね?
【アイヴィー】
…って、ユウタ、真に受けるな。今のはジョークなの、ジョーク。
【ユウタ】
え? なんだ、そうだったんですか。俺、ビックリしちゃった。
【ハルヤ】
あれ? この匂い…アイヴィー、もしかして、ご飯炊いてない?
【アイヴィー】
ああ。お前のコメ、ちょっと貰ったぜ?
朝メシに、ライスボール食べたいなと思ってさ。
【ハルヤ】
ほんと? じゃあ、俺も食べたいな。
【アルフレッド】
ハルヤは、出掛けに思いっきり朝メシ食ってきただろ?
【ハルヤ】
平気だよ。アイヴィーのご飯は別腹だから。
【アルフレッド】
…お前の胃、ぜってえ、穴空いてる。
【ハルヤ】
あ、炊飯器、呼んでるよ。見に行こ?
■背景:銀色の炊飯器。蓋が開いた状態
■人物:なし
【アルフレッド】
おい。ライスってこんなドロドロだったっか?
【アイヴィー】
えっ? なんだこりゃあ。
【ハルヤ】
ちょっと水が多かったのかな?
あ、アイヴィー。一応聞きたいんだけど、どのボタン押したの?
【アイヴィー】
え? これ。
【ハルヤ】
あ、やっぱり。それは『保温』。こっちが『炊飯』っていうボタンなんだ。
【アイヴィー】
まじすか…ったく、慣れないことはするもんじゃねえな。
こんなんじゃ、ライスボールにならねえし。
【ハルヤ】
そうだね、おにぎりにはできないけど、雑炊なら大丈夫だよ。
【アイヴィー】
ゾウスイ?
■背景:キッチン
■人物:シルヴァン、ハルヤ
【ハルヤ】
うん。ごはんの入ったスープってかんじかな。
それで良ければ、俺、作ろっか? アイヴィー、ご飯まだなんだよね?
【シルヴァン】
ご飯のスープ、ですか? ハルヤハルヤ、それはオカユとは違うものなんですか?
【ハルヤ】
雑炊は、もうちょっとおかず入ってるんだよ。卵とかね。
【シルヴァン】
おや? カタジケナイという料理に似てますね。
【ハルヤ】
え? それは料理の名前じゃないよ? ありがとうって言う意味なんだけど。
【シルヴァン】
そうなんですか!? 僕、あのスープみたいなのがカタジケナイだと思ってました。
だって、悪人退治をしたサムライへ、せめてものお礼にって、
お綺麗な町娘さんが作ってくれるあれでしょう?
【ハルヤ】
あー、シルヴァンはそういうのを見たんだね。
【アルフレッド】
はいはい。サムライの話はもういいからさ、
アイヴィーにその、ゾウなんとかを作ってやったらどうなんだよ?
【ハルヤ】
そだね。じゃ、アイヴィー、ちょっとキッチン借りても良いかな?
あと、食材もちょっと貰いたいな。
【アイヴィー】
おう。任せるぜ。んじゃ、俺達はイイコで待ってるとするか。
→あ、シルヴァン、借りてたDVD返すわ。サンキュな。
→そういや、アルフレッド、オファーの話、どーした?
→そうだ、ハルヤ。これをぜひ使ってくれ。
→ユウタ、この島の生活には慣れたかい?
■人物:なし
【アイヴィー】
なんか食べれるもんあったかなあ?
こういう時、ハルヤが居ればなー。ピンクのフリフリエプロンで、
あったかいライスボールとか作って欲しいなー。
あ、そうだ。ハルヤの常備米、あるよな? これ少し貰っちゃおっと。
俺が作ってみっか。ライスの作り方は一応、前に聞いたし。
あんま覚えてないけど、なんとかなるだろ。
えっとー、コメを洗って、水も入れて、炊飯器に入れるんだったよな。
おー。覚えてるじゃん、俺。
で、水ってどのくらいよ? まあ、テキトーでいいか。
■背景:銀色の炊飯器。蓋が開いた状態
■人物:なし
【アイヴィー】
ハルヤに頼まれて、つい買っちゃったんだよなー。
メイド イン ジャパンだから高かったんだけど。
せっかくあるんだし、たまには俺も使ってやらないとな。
えーと。どのボタン押すんだったかな? ボタンが日本語だから読めねー。
んー。コレか? あ、なんかピッって言った。…正解か?
後は待てば良いんだよな。じゃあ、煙草吸ってよーっと。
■背景:リビング、窓側
■人物:なし
【アイヴィー】
あれ? ライスボールって中になんか入れるんだったよな?
入れるもんあったかな? ハルヤはデンジャラスなもん入れてたけど。
あー、ツナ缶があったな。ツナサンドの中身と同じでも良いのかな?
じゃあ、それでいこう。漁師の後悔 in ライスボール。
■背景:リビング
■人物:アルフレッド、シルヴァン、ハルヤ、ユウタ
【アルフレッド】
グッモーニン! 休みだっていうから遊びにきてやったぜ!
【アイヴィー】
休日にどやどや来てくれてどーも。
【ユウタ】
こんにちは、アイヴィーさん。迷惑、じゃないですか?
なんか、みんはヘーキヘーキって言ってたんだけど。
【アイヴィー】
お。新しいマジプリも一緒に来たのか。
まあ、こいつらがアポなしで来るのはいつものことだからな。
【シルヴァン】
おや、アイヴィー。起き抜けってかんじですね?
髪、まだ梳かしてないでしょう?
僕達、髪が長いんですから、大事にしないと。
僕がブラッシングしてあげましょうか?
【アイヴィー】
バーカ。そーゆーのは二人っきりの時にしろよ。
【シルヴァン】
はーい♪ 解りましたっ、では後日ゆっくりしてあげますね?
【アイヴィー】
…って、ユウタ、真に受けるな。今のはジョークなの、ジョーク。
【ユウタ】
え? なんだ、そうだったんですか。俺、ビックリしちゃった。
【ハルヤ】
あれ? この匂い…アイヴィー、もしかして、ご飯炊いてない?
【アイヴィー】
ああ。お前のコメ、ちょっと貰ったぜ?
朝メシに、ライスボール食べたいなと思ってさ。
【ハルヤ】
ほんと? じゃあ、俺も食べたいな。
【アルフレッド】
ハルヤは、出掛けに思いっきり朝メシ食ってきただろ?
【ハルヤ】
平気だよ。アイヴィーのご飯は別腹だから。
【アルフレッド】
…お前の胃、ぜってえ、穴空いてる。
【ハルヤ】
あ、炊飯器、呼んでるよ。見に行こ?
■背景:銀色の炊飯器。蓋が開いた状態
■人物:なし
【アルフレッド】
おい。ライスってこんなドロドロだったっか?
【アイヴィー】
えっ? なんだこりゃあ。
【ハルヤ】
ちょっと水が多かったのかな?
あ、アイヴィー。一応聞きたいんだけど、どのボタン押したの?
【アイヴィー】
え? これ。
【ハルヤ】
あ、やっぱり。それは『保温』。こっちが『炊飯』っていうボタンなんだ。
【アイヴィー】
まじすか…ったく、慣れないことはするもんじゃねえな。
こんなんじゃ、ライスボールにならねえし。
【ハルヤ】
そうだね、おにぎりにはできないけど、雑炊なら大丈夫だよ。
【アイヴィー】
ゾウスイ?
■背景:キッチン
■人物:シルヴァン、ハルヤ
【ハルヤ】
うん。ごはんの入ったスープってかんじかな。
それで良ければ、俺、作ろっか? アイヴィー、ご飯まだなんだよね?
【シルヴァン】
ご飯のスープ、ですか? ハルヤハルヤ、それはオカユとは違うものなんですか?
【ハルヤ】
雑炊は、もうちょっとおかず入ってるんだよ。卵とかね。
【シルヴァン】
おや? カタジケナイという料理に似てますね。
【ハルヤ】
え? それは料理の名前じゃないよ? ありがとうって言う意味なんだけど。
【シルヴァン】
そうなんですか!? 僕、あのスープみたいなのがカタジケナイだと思ってました。
だって、悪人退治をしたサムライへ、せめてものお礼にって、
お綺麗な町娘さんが作ってくれるあれでしょう?
【ハルヤ】
あー、シルヴァンはそういうのを見たんだね。
【アルフレッド】
はいはい。サムライの話はもういいからさ、
アイヴィーにその、ゾウなんとかを作ってやったらどうなんだよ?
【ハルヤ】
そだね。じゃ、アイヴィー、ちょっとキッチン借りても良いかな?
あと、食材もちょっと貰いたいな。
【アイヴィー】
おう。任せるぜ。んじゃ、俺達はイイコで待ってるとするか。
→あ、シルヴァン、借りてたDVD返すわ。サンキュな。
→そういや、アルフレッド、オファーの話、どーした?
→そうだ、ハルヤ。これをぜひ使ってくれ。
→ユウタ、この島の生活には慣れたかい?
■アイヴィーシナリオBL
■アイヴィーシナリオBL
■背景:街のオープンカフェ
■人物:オーギュスト(微笑)とアンリ(怒り)
【アイヴィー】
そんな怒んなよ、キレーな顔が勿体無いぜ?
■背景:街のオープンカフェ
■人物:アンリ(不満)
【アンリ】
早く、何処かに行ってくれないかな?
【アイヴィー】
怒った顔もキレーだな、マージナルプリンセス?
【アンリ】
僕、人を顔で判断する人って嫌いなんだ。
【アイヴィー】
へえ? そいつは良い心掛けだな。でも、覚えとけよ、アンリ?
綺麗とか可愛いって言うのは、相手のこと好きだから言うもんだろ?
【アンリ】
そんな人、僕の周りには居ないの。
僕のこと、天使だとか言う人に限って、心の中では僕を侮辱してるんだ。
【アイヴィー】
昔の話だろ、それ?
■背景:街のオープンカフェ
■人物:アンリの頭に手を置くアイヴィー
【アイヴィー】
お前さんの先生や俺は違うぜ? ねっ、センセ?
■背景:街のオープンカフェ
■人物:オーギュスト(微笑)とアンリ(戸惑い)
【オーギュスト】
アイヴィーの言う通りだよ?
それこそ、君の入学時から教えてきたつもりだったんだがね。
例えアンリが全く別の顔だったとしても、私達の意見は変わらない。
君は、可愛いよ、アンリ。
【アンリ】
……。
【アイヴィー】
んじゃセンセ、あとヨロシク。
【オーギュスト】
うん。ありがとう、アイヴィー。
【アイヴィー】
またな、可愛いマージナルプリンス。
→アンリルートへ
■人物:オーギュスト(微笑)とアンリ(怒り)
【アイヴィー】
そんな怒んなよ、キレーな顔が勿体無いぜ?
■背景:街のオープンカフェ
■人物:アンリ(不満)
【アンリ】
早く、何処かに行ってくれないかな?
【アイヴィー】
怒った顔もキレーだな、マージナルプリンセス?
【アンリ】
僕、人を顔で判断する人って嫌いなんだ。
【アイヴィー】
へえ? そいつは良い心掛けだな。でも、覚えとけよ、アンリ?
綺麗とか可愛いって言うのは、相手のこと好きだから言うもんだろ?
【アンリ】
そんな人、僕の周りには居ないの。
僕のこと、天使だとか言う人に限って、心の中では僕を侮辱してるんだ。
【アイヴィー】
昔の話だろ、それ?
■背景:街のオープンカフェ
■人物:アンリの頭に手を置くアイヴィー
【アイヴィー】
お前さんの先生や俺は違うぜ? ねっ、センセ?
■背景:街のオープンカフェ
■人物:オーギュスト(微笑)とアンリ(戸惑い)
【オーギュスト】
アイヴィーの言う通りだよ?
それこそ、君の入学時から教えてきたつもりだったんだがね。
例えアンリが全く別の顔だったとしても、私達の意見は変わらない。
君は、可愛いよ、アンリ。
【アンリ】
……。
【アイヴィー】
んじゃセンセ、あとヨロシク。
【オーギュスト】
うん。ありがとう、アイヴィー。
【アイヴィー】
またな、可愛いマージナルプリンス。
→アンリルートへ
■アイヴィーシナリオBL
■背景:街のオープンカフェ
■人物:なし
【アイヴィー】
今日もイイ天気だねー。何食べよっかなー。
うーん。サンドイッチ系の気分だな、今日は。
■背景:街のオープンカフェ
■人物:オーギュスト(微笑)とアンリ(怒り)
【オーギュスト】
おや。アイヴィー。おはよう。君も休日のブランチに来たのかね?
【アイヴィー】
あ、センセ。うん。そーなんだ。エッグサンドかBLTで迷ってたトコ。
あれ、今日は教え子と一緒? よ、マージナルプリンス。
センセと仲良しさんなんだな?
【アンリ】
……。
【オーギュスト】
アンリ、朝、人に会ったら「おはよう」だろう?
中等部の時に、私は講義で教えなかったかな?
【アンリ】
教わってない。
【アイヴィー】
はは。センセとの朝ごはんをジャマして悪かったな。
俺は向こうの席に行くからさ?
→そんな怒んなよ、キレーな顔が勿体無いぜ?
→じゃね、センセ。また今度、ごはん食べ行こ?
■人物:なし
【アイヴィー】
今日もイイ天気だねー。何食べよっかなー。
うーん。サンドイッチ系の気分だな、今日は。
■背景:街のオープンカフェ
■人物:オーギュスト(微笑)とアンリ(怒り)
【オーギュスト】
おや。アイヴィー。おはよう。君も休日のブランチに来たのかね?
【アイヴィー】
あ、センセ。うん。そーなんだ。エッグサンドかBLTで迷ってたトコ。
あれ、今日は教え子と一緒? よ、マージナルプリンス。
センセと仲良しさんなんだな?
【アンリ】
……。
【オーギュスト】
アンリ、朝、人に会ったら「おはよう」だろう?
中等部の時に、私は講義で教えなかったかな?
【アンリ】
教わってない。
【アイヴィー】
はは。センセとの朝ごはんをジャマして悪かったな。
俺は向こうの席に行くからさ?
→そんな怒んなよ、キレーな顔が勿体無いぜ?
→じゃね、センセ。また今度、ごはん食べ行こ?
■アイヴィーシナリオBL
■背景:自宅の天井
■人物:なし
【アイヴィー】
目が覚めたら俺んちの天井が見えた。なんか、朝っぽい。
あれ? 俺はいつ帰って来たんだろ? 昨日、何してた?
えと。ああ、夜、旧市街で飲んでたんだ、保健室のセンセと。
でも家まで来た記憶がない。全然ない。お医者さんが此処まで送ってくれたのかな。
そんなことしてくれる人だったか? あ、頭いて。
てゆうか、なんか具合が悪い。あー。飲まされ過ぎたー。
とりあえず、水を飲もう、水を。
■背景:冷蔵庫の傍、キッチンにメモが置いてある
■人物:なし
【アイヴィー】
冷蔵庫のミネラルウォーターを取りに行くと、キッチンに一枚の紙。
なんか書いてある。あれ、この嫌味なほど綺麗な筆記体は。
しかもボールペンだよ。間違いない。変態さんの文字だ。
――言っておくが、昨夜、私が止めるのも聞かず、飲んだのはお前だぞ?――
今更だけど、読まれてる…
ほんと敵に回せないぜ、あの鬼畜カウンセラーさんは。
あっ、もしかして、家に居たりしないよなっ?
■背景:キッチン
■人物:なし
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
居ないみたいだ、な…じゃあ、ちゃんと、おうち帰ったんだな。
■背景:冷蔵庫の傍、キッチンにメモが置いてある
■人物:なし
【アイヴィー】
やっぱ、ソクちゃんが、うちまで送ってくれたのかな。
なんだよ…イジワルばっかするくせに、たまに優しいことしやがって…
こういう時は後がコワイんだよな。
でも今度会ったらお礼言っとこ。なんか言われそうだけど。
■背景:リビング、ソファに座った目線で
■人物:なし
【アイヴィー】
水を飲むと、少し落ち着いた。
でも、あのカウンセラーさんは、俺が先ず水を飲むことまで解ってたのかな?
この水…大丈夫かな? もう飲んじゃったけど。
まあ、いいや。今日は久し振りのお休みだし。何しよっかな?
→ま、とりあえずメールチェックでもしとくか
→カフェ行ってなんか食べさせて貰うか
→ちょっと張り切って朝メシでも作っちゃおうかな
■人物:なし
【アイヴィー】
目が覚めたら俺んちの天井が見えた。なんか、朝っぽい。
あれ? 俺はいつ帰って来たんだろ? 昨日、何してた?
えと。ああ、夜、旧市街で飲んでたんだ、保健室のセンセと。
でも家まで来た記憶がない。全然ない。お医者さんが此処まで送ってくれたのかな。
そんなことしてくれる人だったか? あ、頭いて。
てゆうか、なんか具合が悪い。あー。飲まされ過ぎたー。
とりあえず、水を飲もう、水を。
■背景:冷蔵庫の傍、キッチンにメモが置いてある
■人物:なし
【アイヴィー】
冷蔵庫のミネラルウォーターを取りに行くと、キッチンに一枚の紙。
なんか書いてある。あれ、この嫌味なほど綺麗な筆記体は。
しかもボールペンだよ。間違いない。変態さんの文字だ。
――言っておくが、昨夜、私が止めるのも聞かず、飲んだのはお前だぞ?――
今更だけど、読まれてる…
ほんと敵に回せないぜ、あの鬼畜カウンセラーさんは。
あっ、もしかして、家に居たりしないよなっ?
■背景:キッチン
■人物:なし
■背景:リビング
■人物:なし
【アイヴィー】
居ないみたいだ、な…じゃあ、ちゃんと、おうち帰ったんだな。
■背景:冷蔵庫の傍、キッチンにメモが置いてある
■人物:なし
【アイヴィー】
やっぱ、ソクちゃんが、うちまで送ってくれたのかな。
なんだよ…イジワルばっかするくせに、たまに優しいことしやがって…
こういう時は後がコワイんだよな。
でも今度会ったらお礼言っとこ。なんか言われそうだけど。
■背景:リビング、ソファに座った目線で
■人物:なし
【アイヴィー】
水を飲むと、少し落ち着いた。
でも、あのカウンセラーさんは、俺が先ず水を飲むことまで解ってたのかな?
この水…大丈夫かな? もう飲んじゃったけど。
まあ、いいや。今日は久し振りのお休みだし。何しよっかな?
→ま、とりあえずメールチェックでもしとくか
→カフェ行ってなんか食べさせて貰うか
→ちょっと張り切って朝メシでも作っちゃおうかな
■シルヴァン×アイヴィー
聖アルフォンソ島 ダンスホール。
ダンスミュージックが流れ、今まさに踊り狂ってる最中。
キラキラと回るライトが眩しい。
此処は比較的、年齢層の高い場所だった。
しかし、この空間では夜になると、皆、若返るようで、年も忘れて楽しくやっていた。
アイヴィーは彼等の中には入らず、隅っこの席に居た。
小さな丸テーブルには、熱々のグリルソーセージ。
フォークで突き刺し、粒マスタードをたっぷり付けて咥える。
隣の席に連れの姿はない。連れと言っても、年下のオトコ。
そいつは今、ホールの中央で踊っている。
他のオンナの手を取って。
その数時間前。
アイヴィーは自宅でブランチを作っていた。
この島では『漁師の後悔』と呼ばれるツナサンド。
普段はツナ缶とマヨネーズをぐしゃぐしゃしたものをパンに挟むだけなのだが、
今日は天気が良かったせいか、変に機嫌が良くて、
フランスパンを一度オーブントースターに入れてみようという気になった。
よくカフェで見る、コンガリきつね色のツナサンドをイメージしていた。
だが、何分くらいでその美味しそうな色になるのか解らなかった。
テキトーに五分にセットしてみる。
煙草でも吸って待とうかと思い、火を付ける。
浮かぶ白煙。愛用の香りが心地好い。
FMラジオはリスナーからのリクエストを募集している。
今日のテーマは「花」らしい。島の花祭りが近いせいだろう。
やたらイイ声のDJは続けて、今夜のライブスケジュールを伝えていた。
ふと目に入った窓の外。淡いマリンブルー。海もなんとなく春色に見えた。
DJは今日の一曲目を紹介している。
これも花の歌。DJイチオシの曲らしい。
――花が咲いても、君には会えない――
――花が散っても、君には会えない――
思いのほか、最初から切ない選曲だ。
すると、うちの電話が鳴った。
口から指に煙草を預ける。もう片方の手で受話器を手に取る。
春だろうが冬だろうが、大体ハイテンションな声が耳に飛び込んで来た。
「シルヴァンですー。ご機嫌いかがですか?」
『デッドプリンス』なんて、可笑しなバンド名ながら、島じゃちょっとした人気もん。
高等部の、もう最高学年になっちまった19歳だ。
アイヴィーは自然と軽口を叩く。
「はいはい。お前さんの声が聞けてご機嫌麗しいぜ、マイハニー?」
そう言ってやると、受話器の向こうは嬉しそうに返してきた。
「キャッ! ダーリンったら僕のこと大好きなんだからっ」
アイヴィーは声に出さずに笑って、受話器を肩に挟む。
空いた手で灰皿を引き寄せ、煙草を置いた。
「で、今日はどうした?」
「今夜一緒にダンスホールへ行きませんか? マルタのスペシャルフラワーライブがあるんです!」
「ああ、そういや、さっきラジオでそんなこと言ってたな」
「それですそれです。ね、行きましょう?」
「あいよ。ハニーに誘われちゃ断れないからな」
「ありがとうございます。じゃ、18時にいつものところでお待ちしていますね、マイダーリン」
灰皿からゆるりと舞う煙。
誘われるように、受話器を置いて煙草を手にする。
明るい色の海を見ながら、つまらない独り言を口にする。
「はー。今日もモテるなー、オレ」
さっき、DJは『島一番の歌姫、選りすぐり』と声を張り上げていた。
今日は花に纏わる様々な楽曲を歌うらしい。
確かにちょっと聞いてみたいかんじはしていた。
チン、とオーブントースターに呼ばれた。パンが焼けたようだ。
蓋を開けると、黒い匂いがした。
イメージしていた綺麗な焦げ色ではない。
ガリガリと黒焦げを剥がす音がキッチンに響いた。
fin
ダンスミュージックが流れ、今まさに踊り狂ってる最中。
キラキラと回るライトが眩しい。
此処は比較的、年齢層の高い場所だった。
しかし、この空間では夜になると、皆、若返るようで、年も忘れて楽しくやっていた。
アイヴィーは彼等の中には入らず、隅っこの席に居た。
小さな丸テーブルには、熱々のグリルソーセージ。
フォークで突き刺し、粒マスタードをたっぷり付けて咥える。
隣の席に連れの姿はない。連れと言っても、年下のオトコ。
そいつは今、ホールの中央で踊っている。
他のオンナの手を取って。
その数時間前。
アイヴィーは自宅でブランチを作っていた。
この島では『漁師の後悔』と呼ばれるツナサンド。
普段はツナ缶とマヨネーズをぐしゃぐしゃしたものをパンに挟むだけなのだが、
今日は天気が良かったせいか、変に機嫌が良くて、
フランスパンを一度オーブントースターに入れてみようという気になった。
よくカフェで見る、コンガリきつね色のツナサンドをイメージしていた。
だが、何分くらいでその美味しそうな色になるのか解らなかった。
テキトーに五分にセットしてみる。
煙草でも吸って待とうかと思い、火を付ける。
浮かぶ白煙。愛用の香りが心地好い。
FMラジオはリスナーからのリクエストを募集している。
今日のテーマは「花」らしい。島の花祭りが近いせいだろう。
やたらイイ声のDJは続けて、今夜のライブスケジュールを伝えていた。
ふと目に入った窓の外。淡いマリンブルー。海もなんとなく春色に見えた。
DJは今日の一曲目を紹介している。
これも花の歌。DJイチオシの曲らしい。
――花が咲いても、君には会えない――
――花が散っても、君には会えない――
思いのほか、最初から切ない選曲だ。
すると、うちの電話が鳴った。
口から指に煙草を預ける。もう片方の手で受話器を手に取る。
春だろうが冬だろうが、大体ハイテンションな声が耳に飛び込んで来た。
「シルヴァンですー。ご機嫌いかがですか?」
『デッドプリンス』なんて、可笑しなバンド名ながら、島じゃちょっとした人気もん。
高等部の、もう最高学年になっちまった19歳だ。
アイヴィーは自然と軽口を叩く。
「はいはい。お前さんの声が聞けてご機嫌麗しいぜ、マイハニー?」
そう言ってやると、受話器の向こうは嬉しそうに返してきた。
「キャッ! ダーリンったら僕のこと大好きなんだからっ」
アイヴィーは声に出さずに笑って、受話器を肩に挟む。
空いた手で灰皿を引き寄せ、煙草を置いた。
「で、今日はどうした?」
「今夜一緒にダンスホールへ行きませんか? マルタのスペシャルフラワーライブがあるんです!」
「ああ、そういや、さっきラジオでそんなこと言ってたな」
「それですそれです。ね、行きましょう?」
「あいよ。ハニーに誘われちゃ断れないからな」
「ありがとうございます。じゃ、18時にいつものところでお待ちしていますね、マイダーリン」
灰皿からゆるりと舞う煙。
誘われるように、受話器を置いて煙草を手にする。
明るい色の海を見ながら、つまらない独り言を口にする。
「はー。今日もモテるなー、オレ」
さっき、DJは『島一番の歌姫、選りすぐり』と声を張り上げていた。
今日は花に纏わる様々な楽曲を歌うらしい。
確かにちょっと聞いてみたいかんじはしていた。
チン、とオーブントースターに呼ばれた。パンが焼けたようだ。
蓋を開けると、黒い匂いがした。
イメージしていた綺麗な焦げ色ではない。
ガリガリと黒焦げを剥がす音がキッチンに響いた。
fin
☆ホワイトデーアンケートにご投票頂いた王子達から愛しい姉貴へ☆
■ジョシュアのホワイトデーコール■
やあ。ジョシュアだよ。今、話しても良いかな?
今日はね、バレンタインのお返しがしたくて電話したんだ。
ハッピーホワイトデー。
愛してる。愛しているよ。
君のことを考えると、いつも幸せな気持ちになれるんだ。
これからもずっと、大好きだよ。
…ありがとう。あ、そうだ。あのね? カーディスから招待状が来たんだよ。
来月なんだけど、ロレートで花祭りがあるんだって。
一年の中でも一番、綺麗なお祭りだそうだよ。
時間があれば遊びに来い、って言ってくれてるんだ。
それでね、「花祭りがより華やかになるように、美しい花にもご出席願いたい」って。
滞在中の部屋は用意するから二、三日泊まっていい、って話で…
…あの、どうかな? 俺と一緒に出席してくれる?
■アンリのホワイトデーコール■
僕は借りを作るのが好きじゃないの。
だから、今日は電話したんだ。
ユウタが「日本にはホワイトデーがある」って煩いし。
ハッピー、ホワイトデー。
…ねえ。どうして笑うの? …え? 嬉しいから?
君の言ってること、時々よく解らない。
用件はそれだけ。もう電話切るから。
…お礼に、お礼なんか言わないで。
■シルヴァンのホワイトデーコール■
コンバンハッ! 貴女のシルヴァンです!
あの、今日は貴女に愛をお伝えに来ましたっ!
え? もちろん、バレンタインのお返しですよ♪
愛してます、貴女だけを。僕は貴女をずっと愛しています。
学院を卒業したら、すぐに迎えに行きますからね、マイハニー♪
僕、ココを出ちゃうと、他に行く所もないですし、
早速、貴女とひとつ屋根の下で、一緒に住めたらイイなーなんて。
結構本気で思ってるんですけど…あの、ダメ、ですか?
あ、さすがに話が急過ぎました? すみません、スミマセン。
でも、僕は本当にそう思っていますから。
近い将来、大好きな貴女と大好きなニッポンで暮らすんですー♪
キョウトはどうですか、キョウト! フゼイが堪らないですよね!
歴史の都ですからねー。あーでも、ナラも捨てがたいなー。
あ、ハコダテも良いですよね! 新撰組もカッコイイですし!
うーん。迷っちゃいますよねー。まあ、ゆっくり考えておいて下さい。
僕、貴女の好きなところならドコでも良いですから♪
ではまた電話しますねー! おやすみなさーい! チュッ!
■ハルヤのホワイトデーコール■
あ、もしもし? うん、春也。こんばんは。
あの、ちょっと、話したいことがあってさ、良いかな?
えっ、梅? あ、ああ、うん。ごめん、去年は電話したよね、梅のことで。
今年もさ、本当は君に電話したかったんだけど、
なんか俺、ホームシックみたいで変かなとか思ってさ。
どうしようって迷ってる間に、梅の時期、終わっちゃってて…ごめんね。
でも、嬉しいな。梅を見て、俺のこと、思い出してくれたんだ。
電話すれば良かったな。
あ、忘れるとこだった。
あのね。今日、電話したのは、ホ、ホワイトデーだからなんだ。
今日は、ちゃんと言わなくちゃ、と思って。
俺も、俺も、君のこと大好きだよ。
こんなに誰かを好きになるなんて思わなかった。
ああ、やっぱり照れるな、こういうの。
しゃきっとしてなくてごめん。
だけど俺、君のこと、ほんと、好きだから。
■ソクーロフ博士のホワイトデーコール■
久し振りだね。その後、具合はどうかな?
この前、体調を崩したと言っていただろう?
覚えているよ。当たり前じゃないか。君の身体のことだからね。
それで大丈夫かい? …うん…うん。そうか。
どうやら、かなり長引いたようだね。全く、もどかしいよ。
医師だというのに、愛する人の身体ひとつ治せないなんて。
私が傍に居れば、君をそんなに苦しめなくて済むものを。
これから体調が悪い時には、私にも連絡をくれないだろうか?
携帯電話を通しても、私にできる限りの診察をするよ。身体と心のね。
ああ、すまない。つい身体の話ばかりしてしまったね。
ともかく治ったようで安心したよ。君の元気な顔が見れて、良かった。
今日、私が電話したのは、もうひとつ用事があるんだ。
ユウタから聞いたよ。日本ではホワイトデーというものがあるそうだね?
ロシアにはない習慣なんだ。日本の人は、全く面白いことを考えてくれるよ。
おかげで私も、こうして、君にきちんと伝えることができる。
愛しているよ。誰よりも、君のことを。
一生、君の身体と心を診たいと思っている。私の全てで君を守るよ。
■エンジュのホワイトデーコール■
二月の話だが、俺にチョコレートをくれただろう?
俺は、バレンタインというものをよく知らなくてな。
その時、ちゃんと聞けなかったんだが。
お前に聞きたいことがある。今、聞いても良いか?
その、あのチョコレートのことなのだが。
あれは、何と言うチョコレートなんだ?
お前がくれたチョコレート、とても口に合った。
ハーシーズより美味しいのは初めてだった。また食べたい。
あれから、この島のチョコレートを色々食べてみたのだが、
どれもお前のとは違った。…何? お前が作ったものなのか?
そうか。それでは見付からないわけだな。
だが、ではもうあのチョコレートは食べられないな。残念だ。
…え? また、作ってくれるのか? それは、嬉しい。
できれば、たくさん欲しい。
お前のチョコレートなら毎日食べられる。
本当だぞ? 俺は日々、チョコレートはたくさん食べているからな。
ああ。では待っている。お前のチョコレートを。
いや、待て。今のは誤解を招く言い方だった。言い直す。
お前のチョコレートは二番目だ。一番目に好きなものじゃない。
言わせるな。一番目は、お前に決まっている。
お前が居なければ、お前のチョコレートは生まれないだろう。
ではな。もう切るぞ。ああ、またな。
おやすみ。愛している、チョコレートよりも。
■オーギュスト×アンリ
■先生なんか大キライ 続編
■先生なんか大キライ 続編
「これまで学んできたように、錬金術師は万物に共通物質が存在すると考えていた」
金曜日の聖アルフォンソ学院。
第二化学室に夕暮れの光が差し込んでいる。
静かな教室に講師の声が響いている。後方からだ。
「全てのものは第一質料と四大元素の組み合わせによって成り立っている。
さらに、それらは第五元素によって結びついている、とね」
講師の話が講義内容から大分反れている。
今日の授業は、天使を崇拝する宗教について、だった筈だ。
受講生のアンリは、またかと思う。
彼の話がいつのまにか横道に入るのは、よくあることだ。
そういう時は大抵、彼は窓の向こうを見ている。今のように。
講義が終わるまで後数分。今日はこのまま終わってしまうだろう。
アンリも夕焼けを眺めながら、一応は講師の戯言を聞いてあげていた。
「古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、この四元素説の継承者だった。
万物が第一質料と四大元素が元になっている。
ならば、第一質料と四大元素の調合で万物が創出できる。
黄金も、不老不死の霊薬も、そして人体さえ、創造は不可能ではない。
錬金術師達は、真剣にそう信じ、日夜、研究を重ねていた」
この講師は教室の中を歩き回る習性がある。
今はテキストも持たずに、教室の左端に佇んでいる。
彼は教科書に頼らず説明できる。授業開始時、「今日は何ページのところだね」と言う時に、
ちらとページ数を見るくらいで、講義をしている時は殆ど見ない。
教科書を片手に乗せている時も手持ち無沙汰でなんとなく持っている、といったかんじだ。
練れた声はゆっくりと窓際から教壇に向かう。
「これは、人が神になる為の術だと言える。だから、決して公にはできない。
わざと不可解な書物を残し、それに値する者のみが受け継ぐよう隠された。
『錬金術は、堕天使から人間に授けられた秘術』という言い伝えがあるのも無理はないね」
教室の中央、教壇に帰って来れないままだった。
鐘の音は淡々と講義終了を告げた。
彼は、おや、と顔を天井に向ける。
少し早歩きで教壇に向かう。
「すまない。雑談をしていたら終わってしまったね。では続きはまた今度。
そう言えば、シュヌーシアではまた風邪が流行りだしたらしいね。
季節の変わり目だから諸君も気を付けて。では、ごきげんよう」
「オーギュ。僕と賭けをして」
他の生徒が居なくなった時。アンリは講師にそう持ち掛けた。
黒板を消し終わった講師が、こちらを向く。
「面白そうだね。何を賭けるのかな?」
「僕が勝ったら、君の隠れ家に案内して」
「おや。それは負けられないね。では私が勝ったら?」
「好きにすれば」
「では今度の休日、つまり明日のことだが、私と仲良くランデブーして貰おうかな?」
講師はわざわざフランス語を用いた。英語ではそれをデートと言う。
「君が勝ったらね」
「自信がありそうだね? 何で勝負するんだい?」
悔しいけれど、言葉、知識では彼に敵わない。
体力も彼の方が勝っているので不可能。
ならば、僕のフィールドで戦うしかない。
卑怯でも何でも、僕が負けないことが最優先。
彼と勝負して勝てそうなものは、これしかなかった。
「チェス」
「アンリの得意分野じゃないのかい?」
「やるの、やらないの?」
「アンリからのお誘いを、私が断ると思うかね?」
「言っておくけれど、手加減したら、もう部屋には来させないから」
「解ったよ。では互いにフェアプレイで楽しいゲームにしようね?」
差し出された右手。握手を求めているようだ。
僕が何をしても、何を言っても、彼はいつも余裕で。
彼と話していると、いちいち子ども扱いされているようで腹が立つ。
「僕は、絶対に負けないから」
パンと軽く叩いてやった。
翌日。
宵闇の下、講師と生徒は、島の旧市街を歩いていた。
講師は明るい灰色のスーツ。生徒は紺系の私服。
生徒の機嫌は滅法悪い。講師は楽しそうに微笑する。
「アンリ、私は『仲良くランデブー』と言った筈だけど? 手も繋いでくれないのかい?」
「絶対イヤ。『手を繋いでランデブー』とは言ってなかったでしょ」
「そうか。では最初に言っておけば良かったね」
講師と生徒の賭けチェスは、講師の圧勝だった。
ゲーム開始から三分ほどでアンリは難色を示した。
シュヌーシア寮のミハイルともゲームしたことがあるが、
あの時よりも早く負けを感じたかもしれない。
どうしてこの小さな島に、チェスの天才が揃っているのだろう。
講師のライトグレイのスーツは、暗い街中ではシルバーに見えた。
生徒はネイビーのジャケットを羽織っている。
中は淡いブルーのドレスシャツ。ストライプ柄のカジュアルなものだ。
黒いパンツのポケットに両手を入れ、講師の後方を歩いている。
「で、僕を何処へ連れて行くつもり?」
「私の隠れ家に」
「えっ?」
生徒は立ち止まる。講師が振り向く。
「アンリがあんまり一生懸命だからね。でも、隠れ家のうちのひとつだけ、だよ?」
人差し指を立て、穏やかな笑顔を見せる。
プライドの高い生徒は呻くように言った。
「僕が負けたのに…ルール違反だ」
「そうかい? では今の話はなかったことにしようかな」
歩き出した背中。思わずライトグレーの裾を掴む。
講師の足が止まる。生徒はパッと手を離す。
右下を向きながら呟いた。
「…行かないとは、言ってない」
旧市街の複雑な細道を何度も曲がった。
街の奥まで来たようで、アンリが初めて見る景色が続いた。
歩き慣れている足取りに付いて行く。
「此処だよ」
辿り着いたのは、丸いランプが灯る一角。
地下への階段を降りて、講師が古びた扉を押す。
カランと錆付いたベルの音がして、ドアが開いた。
木のブラウンで統一された、薄暗い空間。
ジャズが流れる落ち着いた場所だった。他に客は居ない。
生徒は入り口で立ち尽くしている。
「此処が、君の隠れ家?」
「そう、大人の遊技場だ」
講師は慣れた様子で中に入っていく。
「アンリ、プレイしたことは?」
「ないよ、ビリヤードなんて」
其処には長方形のテーブルが六つ並んでいた。
テーブルの端には穴が空いている。テレビなどでは見たことがあるビリヤード台だった。
「では丁度良かったね。この先、君のビジネスパートナーに誘われることもあるだろうし」
「それは、そうかもしれないけれど」
講師は、店の主人らしい老人と少し言葉を交わし、細長い棒を二本貰う。
老人は店の奥へと姿を消した。講師は部屋の隅へ向かう。
「さあ、おいで、アンリ。早速、今宵の授業を始めよう。
今日はビリヤードの神秘について勉強するよ。教科書では第九章だったかな?」
「出鱈目なこと言わないで。第九章は数秘術でしょう?」
講師はボールのセッティングをしながら、黒板の前に居る時と同じように話し始めた。
「ビリヤードの起源は、紀元前400年頃という説がある。
中世ヨーロッパでも大いに流行した貴族のスポーツなんだよ」
講師は生徒に細長い棒を一本持たせる。
「これがキュー。こちらのブロックはチョーク。ショットミスを防ぐ為に付ける物だよ」
彼も一本持ち、もう片方の手に緑のサイコロのような物を持った。
棒の先端にそれをこすり付けている。
彼の動作は流れるようで、かなり手馴れているのだと知れた。
テーブルから白いボールを手にする。
「ビリヤードはキューでボールを突いて、このポケットと呼ばれる穴に落とす遊びだ。
とてもシンプルで、かつ、何処までも技術を高めることができる。例えば、こんなふうにね」
テーブルの上にはカラフルなボール。八つの玉がダイヤ型に並んでいる。
彼はその前に白いボールを置く。
テーブルの正面に立つと、すっと身を屈め、キューを突いた。
飛び出した白いボールがカラフルなボールを次々に弾く。
ボールが転がる音を聞きながら、講師はテーブルに軽く凭れる。
いつものように穏やかな顔で、生徒に微笑みかける。
「今日は、一からゆっくり教えるよ。手取り足取り、ね?」
生徒は自分の目を疑う。
まるで吸い込まれるように、全てのボールがポケットに入った。
fin
金曜日の聖アルフォンソ学院。
第二化学室に夕暮れの光が差し込んでいる。
静かな教室に講師の声が響いている。後方からだ。
「全てのものは第一質料と四大元素の組み合わせによって成り立っている。
さらに、それらは第五元素によって結びついている、とね」
講師の話が講義内容から大分反れている。
今日の授業は、天使を崇拝する宗教について、だった筈だ。
受講生のアンリは、またかと思う。
彼の話がいつのまにか横道に入るのは、よくあることだ。
そういう時は大抵、彼は窓の向こうを見ている。今のように。
講義が終わるまで後数分。今日はこのまま終わってしまうだろう。
アンリも夕焼けを眺めながら、一応は講師の戯言を聞いてあげていた。
「古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、この四元素説の継承者だった。
万物が第一質料と四大元素が元になっている。
ならば、第一質料と四大元素の調合で万物が創出できる。
黄金も、不老不死の霊薬も、そして人体さえ、創造は不可能ではない。
錬金術師達は、真剣にそう信じ、日夜、研究を重ねていた」
この講師は教室の中を歩き回る習性がある。
今はテキストも持たずに、教室の左端に佇んでいる。
彼は教科書に頼らず説明できる。授業開始時、「今日は何ページのところだね」と言う時に、
ちらとページ数を見るくらいで、講義をしている時は殆ど見ない。
教科書を片手に乗せている時も手持ち無沙汰でなんとなく持っている、といったかんじだ。
練れた声はゆっくりと窓際から教壇に向かう。
「これは、人が神になる為の術だと言える。だから、決して公にはできない。
わざと不可解な書物を残し、それに値する者のみが受け継ぐよう隠された。
『錬金術は、堕天使から人間に授けられた秘術』という言い伝えがあるのも無理はないね」
教室の中央、教壇に帰って来れないままだった。
鐘の音は淡々と講義終了を告げた。
彼は、おや、と顔を天井に向ける。
少し早歩きで教壇に向かう。
「すまない。雑談をしていたら終わってしまったね。では続きはまた今度。
そう言えば、シュヌーシアではまた風邪が流行りだしたらしいね。
季節の変わり目だから諸君も気を付けて。では、ごきげんよう」
「オーギュ。僕と賭けをして」
他の生徒が居なくなった時。アンリは講師にそう持ち掛けた。
黒板を消し終わった講師が、こちらを向く。
「面白そうだね。何を賭けるのかな?」
「僕が勝ったら、君の隠れ家に案内して」
「おや。それは負けられないね。では私が勝ったら?」
「好きにすれば」
「では今度の休日、つまり明日のことだが、私と仲良くランデブーして貰おうかな?」
講師はわざわざフランス語を用いた。英語ではそれをデートと言う。
「君が勝ったらね」
「自信がありそうだね? 何で勝負するんだい?」
悔しいけれど、言葉、知識では彼に敵わない。
体力も彼の方が勝っているので不可能。
ならば、僕のフィールドで戦うしかない。
卑怯でも何でも、僕が負けないことが最優先。
彼と勝負して勝てそうなものは、これしかなかった。
「チェス」
「アンリの得意分野じゃないのかい?」
「やるの、やらないの?」
「アンリからのお誘いを、私が断ると思うかね?」
「言っておくけれど、手加減したら、もう部屋には来させないから」
「解ったよ。では互いにフェアプレイで楽しいゲームにしようね?」
差し出された右手。握手を求めているようだ。
僕が何をしても、何を言っても、彼はいつも余裕で。
彼と話していると、いちいち子ども扱いされているようで腹が立つ。
「僕は、絶対に負けないから」
パンと軽く叩いてやった。
翌日。
宵闇の下、講師と生徒は、島の旧市街を歩いていた。
講師は明るい灰色のスーツ。生徒は紺系の私服。
生徒の機嫌は滅法悪い。講師は楽しそうに微笑する。
「アンリ、私は『仲良くランデブー』と言った筈だけど? 手も繋いでくれないのかい?」
「絶対イヤ。『手を繋いでランデブー』とは言ってなかったでしょ」
「そうか。では最初に言っておけば良かったね」
講師と生徒の賭けチェスは、講師の圧勝だった。
ゲーム開始から三分ほどでアンリは難色を示した。
シュヌーシア寮のミハイルともゲームしたことがあるが、
あの時よりも早く負けを感じたかもしれない。
どうしてこの小さな島に、チェスの天才が揃っているのだろう。
講師のライトグレイのスーツは、暗い街中ではシルバーに見えた。
生徒はネイビーのジャケットを羽織っている。
中は淡いブルーのドレスシャツ。ストライプ柄のカジュアルなものだ。
黒いパンツのポケットに両手を入れ、講師の後方を歩いている。
「で、僕を何処へ連れて行くつもり?」
「私の隠れ家に」
「えっ?」
生徒は立ち止まる。講師が振り向く。
「アンリがあんまり一生懸命だからね。でも、隠れ家のうちのひとつだけ、だよ?」
人差し指を立て、穏やかな笑顔を見せる。
プライドの高い生徒は呻くように言った。
「僕が負けたのに…ルール違反だ」
「そうかい? では今の話はなかったことにしようかな」
歩き出した背中。思わずライトグレーの裾を掴む。
講師の足が止まる。生徒はパッと手を離す。
右下を向きながら呟いた。
「…行かないとは、言ってない」
旧市街の複雑な細道を何度も曲がった。
街の奥まで来たようで、アンリが初めて見る景色が続いた。
歩き慣れている足取りに付いて行く。
「此処だよ」
辿り着いたのは、丸いランプが灯る一角。
地下への階段を降りて、講師が古びた扉を押す。
カランと錆付いたベルの音がして、ドアが開いた。
木のブラウンで統一された、薄暗い空間。
ジャズが流れる落ち着いた場所だった。他に客は居ない。
生徒は入り口で立ち尽くしている。
「此処が、君の隠れ家?」
「そう、大人の遊技場だ」
講師は慣れた様子で中に入っていく。
「アンリ、プレイしたことは?」
「ないよ、ビリヤードなんて」
其処には長方形のテーブルが六つ並んでいた。
テーブルの端には穴が空いている。テレビなどでは見たことがあるビリヤード台だった。
「では丁度良かったね。この先、君のビジネスパートナーに誘われることもあるだろうし」
「それは、そうかもしれないけれど」
講師は、店の主人らしい老人と少し言葉を交わし、細長い棒を二本貰う。
老人は店の奥へと姿を消した。講師は部屋の隅へ向かう。
「さあ、おいで、アンリ。早速、今宵の授業を始めよう。
今日はビリヤードの神秘について勉強するよ。教科書では第九章だったかな?」
「出鱈目なこと言わないで。第九章は数秘術でしょう?」
講師はボールのセッティングをしながら、黒板の前に居る時と同じように話し始めた。
「ビリヤードの起源は、紀元前400年頃という説がある。
中世ヨーロッパでも大いに流行した貴族のスポーツなんだよ」
講師は生徒に細長い棒を一本持たせる。
「これがキュー。こちらのブロックはチョーク。ショットミスを防ぐ為に付ける物だよ」
彼も一本持ち、もう片方の手に緑のサイコロのような物を持った。
棒の先端にそれをこすり付けている。
彼の動作は流れるようで、かなり手馴れているのだと知れた。
テーブルから白いボールを手にする。
「ビリヤードはキューでボールを突いて、このポケットと呼ばれる穴に落とす遊びだ。
とてもシンプルで、かつ、何処までも技術を高めることができる。例えば、こんなふうにね」
テーブルの上にはカラフルなボール。八つの玉がダイヤ型に並んでいる。
彼はその前に白いボールを置く。
テーブルの正面に立つと、すっと身を屈め、キューを突いた。
飛び出した白いボールがカラフルなボールを次々に弾く。
ボールが転がる音を聞きながら、講師はテーブルに軽く凭れる。
いつものように穏やかな顔で、生徒に微笑みかける。
「今日は、一からゆっくり教えるよ。手取り足取り、ね?」
生徒は自分の目を疑う。
まるで吸い込まれるように、全てのボールがポケットに入った。
fin
■ハルヤ×ドニ
■ハルヤの食いしん坊万歳より
■ハルヤの食いしん坊万歳より
聖アルフォンソ学院は昼休みの時間だった。
太陽は高く、空は青い。
一年を通して温暖なこの島は常春。
他国に比べ、大きな気温変化はないが、
やはり季節感というものはある。
春に入り、色とりどりの花が咲き始めていた。
シュヌーシア寮キッチンでは、昼食の皿洗い中。
此処のシェフ、ドニ・ドームは春の陽気に誘われて、
鼻歌交じりにシャボンを眺めていた。
スポンジと皿が擦れ、キュッキュッと軽やかな音がする。
皿洗いが終わったら今日は植物園にお散歩に行こうかな、
アランさんも誘ってみようかな、などとご機嫌だった。
ドニのシェフスタイルはまるでカフェのボーイのようだ。
半袖の白いコックシャツにジーンズ。その上には黒の短い腰巻エプロン。
首許にはコックチーフ、頭にはスカーフを三角巾にして巻いている。
今日は春色の気分だったので、どちらも淡いピンク色だ。
背は中等部の生徒よりも少し高いくらい。
コロコロと小さくて丸い童顔。これでも二十代後半。
私服でいると生徒に間違われる小さなコックさんだ。
流し台では清潔なシャボンの香り。
奥の調理場からは今日の夕食の匂い。
弱火でコトコト煮込んでいるクリームシチューだ。
「ああ、いい匂い。シュヌーシアは今夜、シチューなんだ?」
ひょこっとキッチンに生徒が顔を出す。シュヌーシアの生徒ではない。
「ハ、ハルヤ様!?」
「こんちは、ドニ」
シェフは慌てて皿洗いを中断する。
腰巻きエプロンで慌しく手を拭きながら、生徒の傍に駆け寄った。
「ダ、ダメじゃないですか! ボクのトコ来ちゃ」
眼鏡の生徒はそんな挙動不審なシェフをきょとんとした様子で見ていた。
「だって、美味しそうな匂いするし」
「もう…と、とにかく、こちらへ」
誰かに見付かってはいけないので、とりあえず生徒を中へ入れる。
辺りに人の影がないことを確認してからドアを閉め、ちょっとほっとする。
「ドニ、今、皿洗い中だったんだね。なんだったら、俺、手伝おっか?」
「そそそ、そんな! 生徒さんに皿洗いなんてさせられませんよ!」
「そう? 俺、別に皿割らないよ? 家では毎日してたから」
聞いた話によると、この生徒は父親は健在だが母一人、子一人で育ったらしい。
東洋の出身のせいか、何処か神秘的で、はんなりとした雰囲気を持つ。
シェフと親しくして下さった去年の生徒代表は、
彼のことを『東洋の黒い真珠』と呼んでいた。
その名付けは大袈裟ながらも、的は決して外していない。
シェフにもそう呼びたい気持ちはなんとなく解るものだった。
シェフ達の間で、この生徒は実はとても有名だ。
この綺麗な細身で異常と言っても良いくらいの大食漢。
更には、あの頑固なカミーユさんにも言うことを聞かせてしまう人。
故郷でよく召し上がっていたという、好物のアボカドマグロ丼を再現する為に、
あの高級主義のカミーユさんの意見をことごとく却下し、素朴な味を追求した。
普段は大人しいハルヤ様は、食べ物のことになると、強引な一面があるらしい。
最近、この不思議な生徒が此処に訪れるようになった。
本来であれば、生徒は寮のシェフの料理しか食べられない。
他の寮のシェフと言葉を交わすこともないのが普通。
ましてや、キッチンにまで訪れるなんて、殆どないことだろう。
第一、この生徒はウーティス寮のカミーユ・ルブランシェフが、
目に入れても痛くないと思っている大切な生徒だ。
黒い瞳は、奥の鍋が気になるのか、ちらちら見ている。
「あ、あの、ハルヤ様? 今日はどうなさったんですか?」
「うん。ドニにね、お願いがあって…でも、その前にシチューの味見したいな」
「え…ハルヤ様、お昼は召し上がらなかったんですか?」
「ん? 食べたよ? でも、いい匂いしてるから、おなか空いてきちゃった」
無邪気な微笑みを向けられる。少し照れたような柔らかい笑顔だ。
「ねえ、ドニ。ダメ、かな?」
ちょっと首を傾げたポーズ。こ、断れない。
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけですよ?」
「うん」
シェフが鍋の前に立って、蓋を開ける。ふわと香る、シチューの匂い。
まだ完成形ではないが、匂いは美味しそうだ。
シェフより背の高い生徒が背後から覗いている。
シェフはシチューを小皿に少し取る。
それを渡そうとして、あっと気付く。
「すみません。今、スプーンをお持ちします」
「あ、良いよ。このままで」
シェフの手から奪って、口許に運ぶ。
小皿を傾けて啜っている。こくりと動く喉を見つめてしまった。
上を向いていたお顔が正面に戻る。
唇に付いたシチューを舌でぺろと舐め取る。
「美味しいね。ドニの料理って、ほんと美味しいよ」
「あ、ありがとうございます…」
生徒は名残惜しそうに小皿を見る。皿に少し付いているシチュー。
すると、小指を出して、シチューを拭った。
細い指にとろりとした白。まだ煮込みが足りないので水分が多い。
下に垂れて来る液体を、指ごと口に入れた。
舐め終わると、ハルヤ様は銜えていた指を離す。
小皿をシェフに差し出し、笑顔を見せる。
「ドニ、おかわり」
「も、もうダメですっ。シュヌーシアの晩ご飯がなくなっちゃいますよ」
おかわりは冗談だったようでハルヤ様は楽しそうに笑った。
「ありがと、ドニ。美味しかったよ」
シェフは受け取った小皿の中をつい見てしまう。
指の跡が僅かに残っている。視線を逸らし、流しに小皿を置いた。
「えっと、それで、ハルヤ様、ボクにお願いというのは?」
「ああ、そうそう。あのね、今、テスト期間でしょ?」
「え、ええ」
「それで、ドニに今日の夜食を頼みたいんだ。夜中、勉強しながら食べたくって」
「そういうことでしたら、ハルヤ様はカミーユさんにお願いして頂かないと。
ハルヤ様のお願いなら、喜んで何でも作って下さいますよ?」
「それは、解ってるけど…俺…」
眼鏡の生徒は俯く。
「じゃあ、カミーユさんに」
「あのさ。クリスマスパーティの時、各寮のシェフがディナーを作ってくれたでしょ?」
「は、はい」
普段は自分が住む寮のシェフの味しか味わえないが、
そのパーティの時は特別に、三人のシェフの料理が並べられた。
生徒達には違う寮の味が楽しめるまたとない機会。
この企画は大変に好評で、またやって欲しいというリクエストが多かった。
ハルヤは、ぼそぼそと呟く。
「あの時ね、俺、ドニのが一番好きだった」
シェフの頬がポッと染まる。
「そ、そんな…」
「ほんとだよ? 俺の舌がカミーユに慣らされてるからっていうより、
なんていうのかな、懐かしいかんじなんだ、ドニのって。初めてじゃないみたい。
ドニの味は、ずっと前から知っていたような気がするんだ」
シュヌーシアのシェフは世界の家庭料理を得意分野とする。
この島に来た皆さんは、ご家族の住む土地から遠く離れて暮らしている。
そんな生徒さん達にとって、自分の料理がせめてもの支えになれば。
そう思いながら、日々のメニューを考えてきた。
懐かしいかんじがする、というハルヤ様の言葉。
ドニは感動すら覚えていた。
「あ、ありがとうございます、ハルヤ様…嬉しいです、あの、ほんとに」
「じゃあ、今夜、お願いして良いかな?」
「は、はい…あ、じゃなくて、ダメです! ハルヤ様にはカミーユさんという素晴らしい方が」
「ドニ」
生徒は思わずシェフの腕を掴む。
「カミーユなんて、関係ないよ。俺はドニに」
「でも…こんなこと、もし、カミーユさんに知られたらっ」
「ドニじゃなきゃダメなんだ。『二番目に安いスープ』は」
聖アルフォンソ島ではそう呼ばれているが、
これはチキンヌードルだ。命名理由はシェフにも解らない。
自分が島に来た時には既にこの名前だった。
夜食には最適のメニューと言えるだろう。
シェフの頭の中ではレシピのおさらいと、
材料があるかのチェックが勝手に始まっている。
二番目に安いスープは、細かく刻んだ葱をたくさん入れると、
美味しいし、風邪の予防にもなる。確か葱はある。
食料庫には麺もあるし、どうやら作れそうだ。
そう言えば今日は卵もある。卵とじにしようかな。
そこまで考えて、ああ、いけないいけない、と思う。
シェフは腰巻エプロンの端っこを握っていた。
「あの、ハルヤ様…ボクなんかより、
カミーユさんの方が美味しく作って下さると思いますよ?」
生徒は苦笑しつつ、事情を説明した。
「あー、実はさ、前はカミーユに頼んだことあるんだよ。
でも、カミーユが作ると『二番目に安い』どころか、
『一番目に高いスープ』になっちゃうんだよね。
超高級地鶏で鶏ガラスープ作るところから始めちゃっててさ。
なんか、名前の雰囲気ゼロなんだよね」
「ああ…成程です」
「だからね、ドニに作って欲しいんだ。二番目に安いスープ。
きっとドニなら、俺が好きな味に作ってくれるから」
あたたかい笑顔。
そんなに信用して頂けるなんて、シェフとしては光栄なことだ。
自分には勿体無い。本当ならば、これはカミーユさんが見るべきものだ。
「ハルヤ様…でもボク…」
「もしかして、材料ないの? 今日は作れない?」
不安そうにシェフを見つめる。
そんな顔を向けられて嘘が吐ける筈もなく。
「あ、いえ…材料なら、あります…」
「じゃ、作れる、よね?」
「はい…」
「ありがと。楽しみだよ、ドニの二番目に安いスープ」
すっかり笑顔になって、戸口に向かう。
ドアを閉める前に、もう一度振り向いた。
「じゃ、今夜、待ってるから」
眼鏡の生徒がウーティス寮へ帰っていく。
一人になったシュヌーシアのキッチン。
シェフは生徒に掴まれた場所に触れてみる。
ハルヤ様が言って下さったことは、とても嬉しい。
こんなに自分の料理を求められる日が来るなんて。
だけど、カミーユさんのことを考えると心苦しい。
カミーユさんにはいつもお世話になってるし、尊敬する先輩だ。
でも、ハルヤ様はカミーユさんよりボクの方が好きだと言ってくれた。
シェフの胸は早鐘のようにドキドキと鳴り響く。
「どうしよう、ボク…作って良いのかな、二番目に安いスープ」
fin
太陽は高く、空は青い。
一年を通して温暖なこの島は常春。
他国に比べ、大きな気温変化はないが、
やはり季節感というものはある。
春に入り、色とりどりの花が咲き始めていた。
シュヌーシア寮キッチンでは、昼食の皿洗い中。
此処のシェフ、ドニ・ドームは春の陽気に誘われて、
鼻歌交じりにシャボンを眺めていた。
スポンジと皿が擦れ、キュッキュッと軽やかな音がする。
皿洗いが終わったら今日は植物園にお散歩に行こうかな、
アランさんも誘ってみようかな、などとご機嫌だった。
ドニのシェフスタイルはまるでカフェのボーイのようだ。
半袖の白いコックシャツにジーンズ。その上には黒の短い腰巻エプロン。
首許にはコックチーフ、頭にはスカーフを三角巾にして巻いている。
今日は春色の気分だったので、どちらも淡いピンク色だ。
背は中等部の生徒よりも少し高いくらい。
コロコロと小さくて丸い童顔。これでも二十代後半。
私服でいると生徒に間違われる小さなコックさんだ。
流し台では清潔なシャボンの香り。
奥の調理場からは今日の夕食の匂い。
弱火でコトコト煮込んでいるクリームシチューだ。
「ああ、いい匂い。シュヌーシアは今夜、シチューなんだ?」
ひょこっとキッチンに生徒が顔を出す。シュヌーシアの生徒ではない。
「ハ、ハルヤ様!?」
「こんちは、ドニ」
シェフは慌てて皿洗いを中断する。
腰巻きエプロンで慌しく手を拭きながら、生徒の傍に駆け寄った。
「ダ、ダメじゃないですか! ボクのトコ来ちゃ」
眼鏡の生徒はそんな挙動不審なシェフをきょとんとした様子で見ていた。
「だって、美味しそうな匂いするし」
「もう…と、とにかく、こちらへ」
誰かに見付かってはいけないので、とりあえず生徒を中へ入れる。
辺りに人の影がないことを確認してからドアを閉め、ちょっとほっとする。
「ドニ、今、皿洗い中だったんだね。なんだったら、俺、手伝おっか?」
「そそそ、そんな! 生徒さんに皿洗いなんてさせられませんよ!」
「そう? 俺、別に皿割らないよ? 家では毎日してたから」
聞いた話によると、この生徒は父親は健在だが母一人、子一人で育ったらしい。
東洋の出身のせいか、何処か神秘的で、はんなりとした雰囲気を持つ。
シェフと親しくして下さった去年の生徒代表は、
彼のことを『東洋の黒い真珠』と呼んでいた。
その名付けは大袈裟ながらも、的は決して外していない。
シェフにもそう呼びたい気持ちはなんとなく解るものだった。
シェフ達の間で、この生徒は実はとても有名だ。
この綺麗な細身で異常と言っても良いくらいの大食漢。
更には、あの頑固なカミーユさんにも言うことを聞かせてしまう人。
故郷でよく召し上がっていたという、好物のアボカドマグロ丼を再現する為に、
あの高級主義のカミーユさんの意見をことごとく却下し、素朴な味を追求した。
普段は大人しいハルヤ様は、食べ物のことになると、強引な一面があるらしい。
最近、この不思議な生徒が此処に訪れるようになった。
本来であれば、生徒は寮のシェフの料理しか食べられない。
他の寮のシェフと言葉を交わすこともないのが普通。
ましてや、キッチンにまで訪れるなんて、殆どないことだろう。
第一、この生徒はウーティス寮のカミーユ・ルブランシェフが、
目に入れても痛くないと思っている大切な生徒だ。
黒い瞳は、奥の鍋が気になるのか、ちらちら見ている。
「あ、あの、ハルヤ様? 今日はどうなさったんですか?」
「うん。ドニにね、お願いがあって…でも、その前にシチューの味見したいな」
「え…ハルヤ様、お昼は召し上がらなかったんですか?」
「ん? 食べたよ? でも、いい匂いしてるから、おなか空いてきちゃった」
無邪気な微笑みを向けられる。少し照れたような柔らかい笑顔だ。
「ねえ、ドニ。ダメ、かな?」
ちょっと首を傾げたポーズ。こ、断れない。
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけですよ?」
「うん」
シェフが鍋の前に立って、蓋を開ける。ふわと香る、シチューの匂い。
まだ完成形ではないが、匂いは美味しそうだ。
シェフより背の高い生徒が背後から覗いている。
シェフはシチューを小皿に少し取る。
それを渡そうとして、あっと気付く。
「すみません。今、スプーンをお持ちします」
「あ、良いよ。このままで」
シェフの手から奪って、口許に運ぶ。
小皿を傾けて啜っている。こくりと動く喉を見つめてしまった。
上を向いていたお顔が正面に戻る。
唇に付いたシチューを舌でぺろと舐め取る。
「美味しいね。ドニの料理って、ほんと美味しいよ」
「あ、ありがとうございます…」
生徒は名残惜しそうに小皿を見る。皿に少し付いているシチュー。
すると、小指を出して、シチューを拭った。
細い指にとろりとした白。まだ煮込みが足りないので水分が多い。
下に垂れて来る液体を、指ごと口に入れた。
舐め終わると、ハルヤ様は銜えていた指を離す。
小皿をシェフに差し出し、笑顔を見せる。
「ドニ、おかわり」
「も、もうダメですっ。シュヌーシアの晩ご飯がなくなっちゃいますよ」
おかわりは冗談だったようでハルヤ様は楽しそうに笑った。
「ありがと、ドニ。美味しかったよ」
シェフは受け取った小皿の中をつい見てしまう。
指の跡が僅かに残っている。視線を逸らし、流しに小皿を置いた。
「えっと、それで、ハルヤ様、ボクにお願いというのは?」
「ああ、そうそう。あのね、今、テスト期間でしょ?」
「え、ええ」
「それで、ドニに今日の夜食を頼みたいんだ。夜中、勉強しながら食べたくって」
「そういうことでしたら、ハルヤ様はカミーユさんにお願いして頂かないと。
ハルヤ様のお願いなら、喜んで何でも作って下さいますよ?」
「それは、解ってるけど…俺…」
眼鏡の生徒は俯く。
「じゃあ、カミーユさんに」
「あのさ。クリスマスパーティの時、各寮のシェフがディナーを作ってくれたでしょ?」
「は、はい」
普段は自分が住む寮のシェフの味しか味わえないが、
そのパーティの時は特別に、三人のシェフの料理が並べられた。
生徒達には違う寮の味が楽しめるまたとない機会。
この企画は大変に好評で、またやって欲しいというリクエストが多かった。
ハルヤは、ぼそぼそと呟く。
「あの時ね、俺、ドニのが一番好きだった」
シェフの頬がポッと染まる。
「そ、そんな…」
「ほんとだよ? 俺の舌がカミーユに慣らされてるからっていうより、
なんていうのかな、懐かしいかんじなんだ、ドニのって。初めてじゃないみたい。
ドニの味は、ずっと前から知っていたような気がするんだ」
シュヌーシアのシェフは世界の家庭料理を得意分野とする。
この島に来た皆さんは、ご家族の住む土地から遠く離れて暮らしている。
そんな生徒さん達にとって、自分の料理がせめてもの支えになれば。
そう思いながら、日々のメニューを考えてきた。
懐かしいかんじがする、というハルヤ様の言葉。
ドニは感動すら覚えていた。
「あ、ありがとうございます、ハルヤ様…嬉しいです、あの、ほんとに」
「じゃあ、今夜、お願いして良いかな?」
「は、はい…あ、じゃなくて、ダメです! ハルヤ様にはカミーユさんという素晴らしい方が」
「ドニ」
生徒は思わずシェフの腕を掴む。
「カミーユなんて、関係ないよ。俺はドニに」
「でも…こんなこと、もし、カミーユさんに知られたらっ」
「ドニじゃなきゃダメなんだ。『二番目に安いスープ』は」
聖アルフォンソ島ではそう呼ばれているが、
これはチキンヌードルだ。命名理由はシェフにも解らない。
自分が島に来た時には既にこの名前だった。
夜食には最適のメニューと言えるだろう。
シェフの頭の中ではレシピのおさらいと、
材料があるかのチェックが勝手に始まっている。
二番目に安いスープは、細かく刻んだ葱をたくさん入れると、
美味しいし、風邪の予防にもなる。確か葱はある。
食料庫には麺もあるし、どうやら作れそうだ。
そう言えば今日は卵もある。卵とじにしようかな。
そこまで考えて、ああ、いけないいけない、と思う。
シェフは腰巻エプロンの端っこを握っていた。
「あの、ハルヤ様…ボクなんかより、
カミーユさんの方が美味しく作って下さると思いますよ?」
生徒は苦笑しつつ、事情を説明した。
「あー、実はさ、前はカミーユに頼んだことあるんだよ。
でも、カミーユが作ると『二番目に安い』どころか、
『一番目に高いスープ』になっちゃうんだよね。
超高級地鶏で鶏ガラスープ作るところから始めちゃっててさ。
なんか、名前の雰囲気ゼロなんだよね」
「ああ…成程です」
「だからね、ドニに作って欲しいんだ。二番目に安いスープ。
きっとドニなら、俺が好きな味に作ってくれるから」
あたたかい笑顔。
そんなに信用して頂けるなんて、シェフとしては光栄なことだ。
自分には勿体無い。本当ならば、これはカミーユさんが見るべきものだ。
「ハルヤ様…でもボク…」
「もしかして、材料ないの? 今日は作れない?」
不安そうにシェフを見つめる。
そんな顔を向けられて嘘が吐ける筈もなく。
「あ、いえ…材料なら、あります…」
「じゃ、作れる、よね?」
「はい…」
「ありがと。楽しみだよ、ドニの二番目に安いスープ」
すっかり笑顔になって、戸口に向かう。
ドアを閉める前に、もう一度振り向いた。
「じゃ、今夜、待ってるから」
眼鏡の生徒がウーティス寮へ帰っていく。
一人になったシュヌーシアのキッチン。
シェフは生徒に掴まれた場所に触れてみる。
ハルヤ様が言って下さったことは、とても嬉しい。
こんなに自分の料理を求められる日が来るなんて。
だけど、カミーユさんのことを考えると心苦しい。
カミーユさんにはいつもお世話になってるし、尊敬する先輩だ。
でも、ハルヤ様はカミーユさんよりボクの方が好きだと言ってくれた。
シェフの胸は早鐘のようにドキドキと鳴り響く。
「どうしよう、ボク…作って良いのかな、二番目に安いスープ」
fin
■オーギュスト×アンリ
■僕の隠れ家 続編
■僕の隠れ家 続編
時刻は夜が良い。
カーテンは開けておく。月の光が部屋に入るように。
今宵はふっくらとした半月。満月に近い柔らかな白い光だ。
なんとなく、月光を浴びた方が、力が高まるような気がするから。
僕の直感力も、タロットが持つ力も。
僕の机には22枚のタロットカード。
自分では解決できないことがあった時。
これから何かありそうな時。
行き先に迷って、道標が欲しい時。
つまり、大体は、嫌な気分の時。
僕は、タロットの前に座って、触れてみる。
このタロットを見付けたのは家の物置小屋。
埃を被った小さな木箱に入っていた。
サン・ジェルマン伯爵家に代々伝わる物。
父と祖父はこれを使わなかったけれど。
正式な占い方は知らない。
サン・ジェルマン伯爵家にもタロットの本はあったし、
学院の図書館にもある。此処はその類の文献も豊富だから。
タロットカードは錬金術とも関わりがあるため、
神秘学の棚にもタロットの本がある。
手に取って読んだことはない。知りたくないから。
これは正式な占いではない、
と自分に言い訳ができるように、なのかもしれない。
占いの前は、目を閉じて気を静める。
気分が落ち着いてから、ちょっとした儀式をする。
一枚のカードに、これから占う事を伝えるのだ。
手にするカードは決まっている。
カード番号は1番。タロットはこのカードから始まる。
『魔術師』のカードだ。
寓意絵には聖衣を纏う男性。彼が魔術師。
または奇術師、手品師、そして、ペテン師という説もある。
頭上には無限大を示す記号が浮かぶ。
腰に巻いている紐帯はウロボロスを表すとされる。
彼の前にはテーブルがあり、四つのアイテムが置かれている。
杖(ワンド)、杯(カップ)、剣(ソード)、金貨(ペンタクル)。
これは錬金術の四大元素、火、水、気、土を意味すると言われる。
だから、『彼は錬金術師なのかもしれないね』と、
何処かの憎らしい講師が言っていた。
余計なことを思い出した。
せっかく落ち着いていた気が波立つ。
深呼吸をして、もう一度気持ちを静める。
1番のカードに、占いたいことを伝える。
「伯爵」
錬金術師、ペテン師、と呼ばれる謎の貴族。
サン・ジェルマンの始祖。僕の遠い父。
僕を血縁者だと認めてくれる大人。
僕に流れる血に語り掛ける。
「あの講師の隠れ家を、僕に教えて」
唇でカードに軽く触れる。
これは伯爵へ敬愛の口付け。毎回することではない。
僕がここまでするのは珍しいことだ。
オーギュストの隠れ家探し。
何故、こんなに執着しているのか、自分でもよく解らない。
だけど、とても大事なことのような気がするのだ。
僕の中で相反する想いが揺れている。
知りたいけれど、知ってはいけないような。
ただそんな予感がするだけで、理由などは見当も付かない。
ともかく、これで儀式は終了。
人差し指と中指に挟んだカードを机に戻す。
僕の占い方は到ってシンプル。
カードをシャッフルして一枚引く。それだけだ。
混ぜる手、混ぜ方は、その時の気分で決める。
机に無造作に広げたカード。この時、カードは全て裏模様。
黒と白のタロット縞。細く、長い無限の蛇が描かれている。
カードの上に手を置く。ひやりと冷たくて気持ち良い。
今日は左手、左回りに手が動いたのでそれに従う。
このシャッフルでカードの正位置、逆位置が決まる。
占いの結果を左右する重要な作業だ。
こうしてカードに触れている僅かな時間。
自分の意識が不思議なほど集中しているのが解る。
この身体に、高貴な伯爵の血が流れていると感じる。
シャッフルしている間は、何も考えていないのだ。
未来も現在も、過去も、忘れられる。
あらゆる雑音が聞こえなくなる。
夜、一人の部屋。
僕のタロットが擦れ合う音だけ。
ふっと現実に返ってきた時、自然に手が止まる。
何回カードを混ぜたのかは解らない。
シャッフルが終わったカードを一つの束に重ねていく。
大アルカナ22枚の塔。その頂上のカードを引く。
カード番号17。湖に佇む女性。手には二つの壺。
天空には大きな星。その周囲では七つの小さな星が輝いている。
12星座では水瓶座を表すカード。
正位置だったら『願いが叶う』という意味があるのに。
「どうして…」
手の中にあるカードは、天地が引っ繰り返っている。
壺は逆さま。水は零れ落ち、洪水を引き起こす。
もちろん、正位置の意味も逆になる。
『取引の失敗』だとか『意思が弱い』など不の意味しか持たない。
「僕の、高望みだと言うの?」
右手で持ったカードを額に当てた。
目を閉じて、意識を集中させる。
悪いカードが出た時、言葉や絵が思い浮かぶ時がある。
それが、解決策や回避策になる場合が多い。
暫く黙って、何かが降りてくるのを待つ。
見えるのは、真っ暗な黒と、ぼんやりとした光だけ。
駄目だ。集中力が分散する。何も感じない。
何故だか解らないけれど。
オーギュに関わることを占うと、何も見えないことが多い。
途端にこのカードは、僕に何も教えてくれなくなる。
手札を机に戻す。自分が引いたカードが恨めしい。
空から降る水、地に落ちた星。
絵柄は綺麗なのだけど。
「おや。『星』の逆位置かね? 残念だったね、アンリ」
突然、練れた大人の声。
声には出なかったが、とても驚いた。
左の肩越しに、カードを覗き込む講師。
今、占っていた人物だ。
僕は当然の苦情を申し立てる。
「…オーギュスト。驚かせないで。一体いつ入って来たの?」
講師は屈めていた上体を起こす。
「少し前だよ。アンリが占い中だったから、終わるまで待っていたんだ」
僕は座ったまま、左側を見上げる。
「僕は君に用事はないから、さっさと帰って」
「ご機嫌斜めだね。一体何を占っていたんだい?」
講師は『星』のカードを手に取る。表や裏にして、カードを眺める。
「君なんかには教えない。それは僕のタロットだ。返して」
「はいはい。ごめんね」
僕は取られたカードに右手を伸ばす。
彼の方を見上げると、すぐ近くに紳士の微笑があった。
「君のご機嫌を損ねたお詫びをするよ」
『星』が僕の横を通り過ぎた。
大人の長い指が、僕の髪の間に滑り込む。
しまった、と思った時にはもう重なっていた。
君はいつも優しい優しいキスから始める。
薄い唇。これは器用過ぎて嫌だ。
君が優しいのは、最初だけだもの。
息が続かなくなるまで、深く口付けて。
不自然なタイミングで中断される。
愉悦の余韻と酸素が足りなくて、僕は短い呼吸を繰り返していた。
君が僕の左手を柔らかく握る。
それは彼の唇に運ばれた。
僕の人差し指に軽くキスを落として、君は確かにこう言った。
「尾を咥える蛇、だね」
それは錬金術の象徴。無限、永劫回帰を表す記号。
我がサン・ジェルマン家の紋章。
どうしてそれを、君が今、口にしたの?
「…オーギュ…何が、ウロボロスなの?」
君は儚く微笑んだ。
視線を足許に落して呟いた。
「ん? 君のタロットだよ」
僕が教えて欲しいことは、答えてくれないのに。
君は余計な事ばかり教えてくる。
僕が聞いてないこと。
僕は望んでない。
僕に何を隠してるの、オーギュ。
甘い舌。
どんなお菓子より。
どんなクリームより。
柔らかくて、甘くて。
泣きたくなる。
嫌だ。
僕が僕でなくなってしまう。
君の右手が、僕の胸元に伸びる。
肌が熱くなる。
下半身が締め付けられる。
こんな声は僕じゃない。
こんな息遣いは。
どうして。
君は。
どうして。
君なんか。
「んっ…ぁ…」
遠くなる理性。
視界の隅に一枚のカードが映る。
彼の足許。
『星』が地に堕ちていた。
fin
カーテンは開けておく。月の光が部屋に入るように。
今宵はふっくらとした半月。満月に近い柔らかな白い光だ。
なんとなく、月光を浴びた方が、力が高まるような気がするから。
僕の直感力も、タロットが持つ力も。
僕の机には22枚のタロットカード。
自分では解決できないことがあった時。
これから何かありそうな時。
行き先に迷って、道標が欲しい時。
つまり、大体は、嫌な気分の時。
僕は、タロットの前に座って、触れてみる。
このタロットを見付けたのは家の物置小屋。
埃を被った小さな木箱に入っていた。
サン・ジェルマン伯爵家に代々伝わる物。
父と祖父はこれを使わなかったけれど。
正式な占い方は知らない。
サン・ジェルマン伯爵家にもタロットの本はあったし、
学院の図書館にもある。此処はその類の文献も豊富だから。
タロットカードは錬金術とも関わりがあるため、
神秘学の棚にもタロットの本がある。
手に取って読んだことはない。知りたくないから。
これは正式な占いではない、
と自分に言い訳ができるように、なのかもしれない。
占いの前は、目を閉じて気を静める。
気分が落ち着いてから、ちょっとした儀式をする。
一枚のカードに、これから占う事を伝えるのだ。
手にするカードは決まっている。
カード番号は1番。タロットはこのカードから始まる。
『魔術師』のカードだ。
寓意絵には聖衣を纏う男性。彼が魔術師。
または奇術師、手品師、そして、ペテン師という説もある。
頭上には無限大を示す記号が浮かぶ。
腰に巻いている紐帯はウロボロスを表すとされる。
彼の前にはテーブルがあり、四つのアイテムが置かれている。
杖(ワンド)、杯(カップ)、剣(ソード)、金貨(ペンタクル)。
これは錬金術の四大元素、火、水、気、土を意味すると言われる。
だから、『彼は錬金術師なのかもしれないね』と、
何処かの憎らしい講師が言っていた。
余計なことを思い出した。
せっかく落ち着いていた気が波立つ。
深呼吸をして、もう一度気持ちを静める。
1番のカードに、占いたいことを伝える。
「伯爵」
錬金術師、ペテン師、と呼ばれる謎の貴族。
サン・ジェルマンの始祖。僕の遠い父。
僕を血縁者だと認めてくれる大人。
僕に流れる血に語り掛ける。
「あの講師の隠れ家を、僕に教えて」
唇でカードに軽く触れる。
これは伯爵へ敬愛の口付け。毎回することではない。
僕がここまでするのは珍しいことだ。
オーギュストの隠れ家探し。
何故、こんなに執着しているのか、自分でもよく解らない。
だけど、とても大事なことのような気がするのだ。
僕の中で相反する想いが揺れている。
知りたいけれど、知ってはいけないような。
ただそんな予感がするだけで、理由などは見当も付かない。
ともかく、これで儀式は終了。
人差し指と中指に挟んだカードを机に戻す。
僕の占い方は到ってシンプル。
カードをシャッフルして一枚引く。それだけだ。
混ぜる手、混ぜ方は、その時の気分で決める。
机に無造作に広げたカード。この時、カードは全て裏模様。
黒と白のタロット縞。細く、長い無限の蛇が描かれている。
カードの上に手を置く。ひやりと冷たくて気持ち良い。
今日は左手、左回りに手が動いたのでそれに従う。
このシャッフルでカードの正位置、逆位置が決まる。
占いの結果を左右する重要な作業だ。
こうしてカードに触れている僅かな時間。
自分の意識が不思議なほど集中しているのが解る。
この身体に、高貴な伯爵の血が流れていると感じる。
シャッフルしている間は、何も考えていないのだ。
未来も現在も、過去も、忘れられる。
あらゆる雑音が聞こえなくなる。
夜、一人の部屋。
僕のタロットが擦れ合う音だけ。
ふっと現実に返ってきた時、自然に手が止まる。
何回カードを混ぜたのかは解らない。
シャッフルが終わったカードを一つの束に重ねていく。
大アルカナ22枚の塔。その頂上のカードを引く。
カード番号17。湖に佇む女性。手には二つの壺。
天空には大きな星。その周囲では七つの小さな星が輝いている。
12星座では水瓶座を表すカード。
正位置だったら『願いが叶う』という意味があるのに。
「どうして…」
手の中にあるカードは、天地が引っ繰り返っている。
壺は逆さま。水は零れ落ち、洪水を引き起こす。
もちろん、正位置の意味も逆になる。
『取引の失敗』だとか『意思が弱い』など不の意味しか持たない。
「僕の、高望みだと言うの?」
右手で持ったカードを額に当てた。
目を閉じて、意識を集中させる。
悪いカードが出た時、言葉や絵が思い浮かぶ時がある。
それが、解決策や回避策になる場合が多い。
暫く黙って、何かが降りてくるのを待つ。
見えるのは、真っ暗な黒と、ぼんやりとした光だけ。
駄目だ。集中力が分散する。何も感じない。
何故だか解らないけれど。
オーギュに関わることを占うと、何も見えないことが多い。
途端にこのカードは、僕に何も教えてくれなくなる。
手札を机に戻す。自分が引いたカードが恨めしい。
空から降る水、地に落ちた星。
絵柄は綺麗なのだけど。
「おや。『星』の逆位置かね? 残念だったね、アンリ」
突然、練れた大人の声。
声には出なかったが、とても驚いた。
左の肩越しに、カードを覗き込む講師。
今、占っていた人物だ。
僕は当然の苦情を申し立てる。
「…オーギュスト。驚かせないで。一体いつ入って来たの?」
講師は屈めていた上体を起こす。
「少し前だよ。アンリが占い中だったから、終わるまで待っていたんだ」
僕は座ったまま、左側を見上げる。
「僕は君に用事はないから、さっさと帰って」
「ご機嫌斜めだね。一体何を占っていたんだい?」
講師は『星』のカードを手に取る。表や裏にして、カードを眺める。
「君なんかには教えない。それは僕のタロットだ。返して」
「はいはい。ごめんね」
僕は取られたカードに右手を伸ばす。
彼の方を見上げると、すぐ近くに紳士の微笑があった。
「君のご機嫌を損ねたお詫びをするよ」
『星』が僕の横を通り過ぎた。
大人の長い指が、僕の髪の間に滑り込む。
しまった、と思った時にはもう重なっていた。
君はいつも優しい優しいキスから始める。
薄い唇。これは器用過ぎて嫌だ。
君が優しいのは、最初だけだもの。
息が続かなくなるまで、深く口付けて。
不自然なタイミングで中断される。
愉悦の余韻と酸素が足りなくて、僕は短い呼吸を繰り返していた。
君が僕の左手を柔らかく握る。
それは彼の唇に運ばれた。
僕の人差し指に軽くキスを落として、君は確かにこう言った。
「尾を咥える蛇、だね」
それは錬金術の象徴。無限、永劫回帰を表す記号。
我がサン・ジェルマン家の紋章。
どうしてそれを、君が今、口にしたの?
「…オーギュ…何が、ウロボロスなの?」
君は儚く微笑んだ。
視線を足許に落して呟いた。
「ん? 君のタロットだよ」
僕が教えて欲しいことは、答えてくれないのに。
君は余計な事ばかり教えてくる。
僕が聞いてないこと。
僕は望んでない。
僕に何を隠してるの、オーギュ。
甘い舌。
どんなお菓子より。
どんなクリームより。
柔らかくて、甘くて。
泣きたくなる。
嫌だ。
僕が僕でなくなってしまう。
君の右手が、僕の胸元に伸びる。
肌が熱くなる。
下半身が締め付けられる。
こんな声は僕じゃない。
こんな息遣いは。
どうして。
君は。
どうして。
君なんか。
「んっ…ぁ…」
遠くなる理性。
視界の隅に一枚のカードが映る。
彼の足許。
『星』が地に堕ちていた。
fin
■テオ×クラウス
「行こうよ、レオン」
「行―かーなーいっ!」
「ダメだったら」
「もし注射されたらどーすんだよ!」
「しないかもしんないじゃん。先生、優しいから大丈夫だよ」
「俺はあの先生がコワイんだよ!」
放課後のシュヌーシア寮。
レオンの部屋から言い争う声が漏れている。
普段は仲良しの中等部一年生コンビが何か揉めているようだ。
部屋の前を通り掛かった、高等部二年の足が止まる。
廊下まではっきり届いている方の声がレオン。少し高い方の声がラビット。
同じ寮で高等部二年のテオは、この小さなコンビが大好きだった。
彼等が仔犬のようにじゃれあう様子を見ているだけで、
胸があたたかくなり、愛おしくて堪らなかった。
テオは、そそそとドアに近付き、聞き耳を立てる。ラビが珍しく強引だ。
「レオンってば! ねえ、行こっ」
「ヤダっつんてんだろ、しつこいぞ、ラビ!」
「んもう…レオンのばかっ!」
「っだとー! ラビのばかばかばかっ!」
テオはコンコンとドアをノックした。
「レオン、ラビ。どうしたの?」
「あっ、テオだ!」と声が聞こえ、ばたばたと足音がやってくる。
勢い良くドアが開く。二人がテオの腕を一本ずつ取った。
「聞いてくれよー、テオー! ラビがしつこいんだ!」
「違うよ! レオンがやだやだって言うんでしょ!」
テオは可笑しそうに笑った。
笑われるとは思わなかった二人は顔を見合わせる。
「ああ、すまない。頬を膨らましている君達が余りに可愛らしいものだから」
テオの笑顔を見て、興奮気味だった二人の勢いが少し静まる。
それぞれが掴んでいたテオの腕を離す。
「それで二人は何の話をしていたの?」
「レオンがね、カゼ引いたみたいなの。
だから、保健室にお薬貰いに行こうって言ってるんだけど」
「おや。大丈夫かい? レオン」
テオは身を屈めて、レオンの額と自分の額を合わせてみる。
ぴたっと合わさった肌。自分の温度とそれほど差はないようだ。額を離す。
「ごめん、私では解らないな。心配だから、一応、ソクーロフ博士に診て頂いたら?」
「ヤだよ。オレ、別にどこも悪くないんだけど」
「だって、ほら、声、ヘンだもん。カゼの引き始めなんだよ、レオン」
「そーかあ?」
確かに、今日のレオンの声は、少し低めのようにも聞こえる。
テオは、うーん、と考えてみた後、あっ、と言った。
「ではもしかしたら、カゼではないのかもしれないね。
レオンは声変わりが始まったのではないかな?」
「声変わり?」
「うん。中等部の頃に皆が経験することだよ。大人になるのだよ、声もね」
「声、変わるの? え、じゃあ、テオも?」
「うん。私も終わっているよ。君達ぐらいの時はもっと高い声だったから」
「そうなんだ…声って変わるんだ…あれ。僕は? 僕はまだなの?」
「人によっていつ始まるのかが違うんだ。ここ数年のうちには来るよ」
「ふーん。じゃあ、オレ、ラビより早く大人になるってことだな!」
ラビは頬を膨らます。すかさずレオンが「えいっ」と指で突いていた。
「ね。可愛いだろう? ああ、愛しい子達だねえ。食べてしまいたいと思ったよ、私は」
シュヌーシア寮サロン。テオは、生徒代表室から帰って来たクラウスに、
つい先程の出来事を『今日の楽しかったこと第一位』として発表していた。
「愛しいとか、食べたいとか…表現が大袈裟なんだよ、お前は」
「だって、私達の子供達がすくすくと成長していく様子は愛おしいものだろう?」
「…色々間違ってるぞ、表現が」
シュヌーシア寮のお父さんとお母さん、と誰もが認める二人なのだが、
ただ一人、クラウスだけがそのポジションを認めたがらない。
「クラウス、コーヒーのおかわりは? それとも私にする?」
「コー、ヒー、を、頼む」
「照れ屋さんだねえ、クラウスは。まあ、そんなところも愛しいのだけれど」
席を立って、クラウスのデミタスカップを持つ。
最近お気に入りのエスプレッソマシンの準備をする。
このコーヒーは、二十秒で抽出するため、イタリア語の『急行』の名が付いた。
どちらかと言うとせっかちなクラウスにはピッタリだ。
また、エスプレッソには『あなたのために』という意味もあるらしい。
サロンにコーヒー豆の良い香りが流れた。
翌日、シュヌーシア寮食堂。
朝食の準備中、パジャマ姿の寮生が集まり出した頃。
「レオン、やっぱり風邪だったみたい」
ラビに手を引かれて、レオンが保健室から戻って来た。
「これ、お薬貰ってきた。朝ごはんの後に飲みなさいって」
クラウスは苦い顔をしたまま黙る。テオは席を立ってレオンの前に行く。
「ごめんね、レオン。昨日のうちに保健室に連れて行った方が良かったね」
レオンが口を開く。何か言おうとしているが、掠れて声にならなかった。
ラビがレオンと目を合わせて、「僕が言ってあげる」と笑顔になる。
テオに向き直って、自慢げに言った。
「今日ね、レオン、声が出ないの。だからね、今日は僕が、
レオンの声になることにしたんだ。『テオのせいじゃないよ』で良い?」
うんうん、とレオンが頷く。ラビは笑顔でテオを見上げる。
「良いって!」
ラビはレオンを席に座らせると、「あ、そうだ」と言った。
「ドニに言って、なんかレオン用のごはん作って貰わなきゃ」
ちょっと待っててね、と言い残し、たたたとキッチンへ走って行った。
テオは甲斐甲斐しい背中を見送って微笑んだが、クラウスは首を傾げていた。
「なんだ、あいつ。なんか、普段より生き生きしてないか?」
「レオンのお世話ができることが嬉しいのだよ。愛されているね、レオン?」
喋れないレオンはテーブルに両腕を置き、顎を乗せる。
口は恥ずかしそうに、ちょっと尖っていた。
クラウスはレオンを一瞥して、他の寮生達に言った。
「他に具合が悪い奴は居ないか? 居るならすぐに保健室に行けよ。無理はするな」
だいじょーぶー、という声や頷きが返ってくる中、
自己主張の強い手が一本だけ元気良く上がった。クラウスは苦い顔になる。
「その手はなんだ、テオ」
「私、今朝から喉が痛むんだ」
「仮病なら受け付けないぞ」
「おや。本当だよ? それから、この中で一番の体調不良は貴方ではないかな?」
「俺だと? 俺は別に」
テオは席を立って、クラウスの前まで行く。
昨日と同じようにぺたと額を合わせた。クラウスが驚いて仰け反る。
「お前、何をいきなり」
「貴方も微熱があるんじゃないかな? それにね、ココ」
クラウスの首許を指差す。
リボンタイはまだ付けていないが、既に制服のワイシャツ姿だ。
「ボタンを掛け違えるなんて、貴方らしくないもの」
「え?」
クラウスは首許を見る。上から二番目の穴に、一番目のボタンが嵌っている。
少し耳を赤くして、ボタンを留め直す。
「ね? クラウスも私と一緒に保健室に行こう?」
「お前だけで行って来い」
「おやおや。無理はするなと言ったのは貴方だよ、クラウス」
朝食後、テオに引き摺られる形でクラウスも嫌々保健室に訪れた。
診察を終えた医師は二人の前で結果を告げた。
首許には聴診器を掛けている。
「風邪だね。どうやら、君達もレオンと同じ症状のようだ」
二人の患者は全く別のリアクションを取った。
テオは両手をパンと合わせて、隣に笑顔を振りまく。
「聞いたかい、クラウス! 私達、お揃いだって!」
クラウスは鈍く痛むこめかみを押さえる。実は朝起きたから頭が重かった。
「喜ぶところじゃないだろう。お前、頭は痛くないのか?」
「少しね。でも良いよ、クラウスと同じなら」
博士は咳払いする。
「薬を処方しよう。今日は講義を休んだ方が良いだろう」
無遅刻無欠席の記録を伸ばしているクラウスはショックを受けた。
「講義を休む? どうしてもですか、博士」
「君達に無理はさせたくないからね。特にクラウス。君には休養を勧めるよ」
「俺ですか?」
「君はこのところ、生徒代表室に詰め過ぎに見える。
過労で抵抗力が落ちていた為に、いち早く感染したのではないかな?
友人から見てどうだい? テオ」
「博士の仰る通りです! ほら、クラウス、君は疲れているのだよ。
私と一緒にゆっくり静養しよう?」
「そうしたまえ。それに他の生徒にも感染する恐れがあるからね。
ドクターストップというところだな」
クラウスは肩を落とし、渋々「解りました」と言った。
医師は首に掛けていた聴診器を机に置く。
「しかし、既にシュヌーシア寮にはウイルスが蔓延していそうだな。
シュヌーシアの生徒達は風邪を引く時も仲が良いからね。
とりあえず、君達は保健室に隔離させて貰うよ。
その薬を飲んだら二階のベッドルームへ案内しよう」
「ソクーロフ博士、レオンは隔離しないんですか?」
クラウスが尋ねると、医師は眼鏡を押し上げた。
左手に覆われた口元が微笑んでいるのがちらりと見えた。
「彼は保健室がどうしても嫌らしいので、自室療養にしたよ。
それにラビットも傍で看病したい様子だったからね」
二階 ベッドルーム。
テオは隣のベッドを見つめていた。
クラウスの枕元には、部屋から持って来た教科書が積まれている。
先程から黙々と読んでいるのだ。
彼が言うには、講義を欠席しているのだから、
自分で今日の授業分を勉強しなくてはいけない、らしい。
こんなに傍に居るのに、全く構って貰えない。
テオは最初こそ残念に思ったが、放って置かれる状況に慣れてくると、
こうしてただ彼を愛でるだけ、というのも快いものに感じられてくる。
良く効くと評判の博士の薬は、明日には私達の熱を下げてくれるらしい。
それが少し残念にさえ思えた。
目の前には、病人であるにも関わらず、義務感に駆られ勉強している横顔。
薬が効いてきたせいか、文字を追うのも眠たげな瞼。
時折、漏れ聞こえる辛そうな吐息は、何とも艶めかしくて。
普段の凛々しい彼も良いけれど、体調不良の彼もまた美しい。
クラウスには、保健室まで来て勉強するよりは、何も考えず休養して欲しい。
けれど、無理をしている姿がまた愛しくて、いつまでも眺めていたくなる。
今日だけ展示されている芸術作品を眺めているような気分だった。
身体は熱くて苦しいが、風邪というのも偶には良いものだ。
テオは、今日は今日で楽しい時間を過ごせていることに満足していた。
頭は熱で、ぼうっとしつつ、高揚していた。
うっとりとクラウスを見つめたまま囁く。
「ねえ、クラウス」
呼ばれて、帝王学の教科書から少し顔を出す。
「テオ。まだ起きていたのか。お前は早く寝ろと」
「愛しいよ…今日のクラウス、とても愛しい…」
熱で潤んだ瞳。クラウスは本に視線を戻す。
「…寝てろ」
fin
「行―かーなーいっ!」
「ダメだったら」
「もし注射されたらどーすんだよ!」
「しないかもしんないじゃん。先生、優しいから大丈夫だよ」
「俺はあの先生がコワイんだよ!」
放課後のシュヌーシア寮。
レオンの部屋から言い争う声が漏れている。
普段は仲良しの中等部一年生コンビが何か揉めているようだ。
部屋の前を通り掛かった、高等部二年の足が止まる。
廊下まではっきり届いている方の声がレオン。少し高い方の声がラビット。
同じ寮で高等部二年のテオは、この小さなコンビが大好きだった。
彼等が仔犬のようにじゃれあう様子を見ているだけで、
胸があたたかくなり、愛おしくて堪らなかった。
テオは、そそそとドアに近付き、聞き耳を立てる。ラビが珍しく強引だ。
「レオンってば! ねえ、行こっ」
「ヤダっつんてんだろ、しつこいぞ、ラビ!」
「んもう…レオンのばかっ!」
「っだとー! ラビのばかばかばかっ!」
テオはコンコンとドアをノックした。
「レオン、ラビ。どうしたの?」
「あっ、テオだ!」と声が聞こえ、ばたばたと足音がやってくる。
勢い良くドアが開く。二人がテオの腕を一本ずつ取った。
「聞いてくれよー、テオー! ラビがしつこいんだ!」
「違うよ! レオンがやだやだって言うんでしょ!」
テオは可笑しそうに笑った。
笑われるとは思わなかった二人は顔を見合わせる。
「ああ、すまない。頬を膨らましている君達が余りに可愛らしいものだから」
テオの笑顔を見て、興奮気味だった二人の勢いが少し静まる。
それぞれが掴んでいたテオの腕を離す。
「それで二人は何の話をしていたの?」
「レオンがね、カゼ引いたみたいなの。
だから、保健室にお薬貰いに行こうって言ってるんだけど」
「おや。大丈夫かい? レオン」
テオは身を屈めて、レオンの額と自分の額を合わせてみる。
ぴたっと合わさった肌。自分の温度とそれほど差はないようだ。額を離す。
「ごめん、私では解らないな。心配だから、一応、ソクーロフ博士に診て頂いたら?」
「ヤだよ。オレ、別にどこも悪くないんだけど」
「だって、ほら、声、ヘンだもん。カゼの引き始めなんだよ、レオン」
「そーかあ?」
確かに、今日のレオンの声は、少し低めのようにも聞こえる。
テオは、うーん、と考えてみた後、あっ、と言った。
「ではもしかしたら、カゼではないのかもしれないね。
レオンは声変わりが始まったのではないかな?」
「声変わり?」
「うん。中等部の頃に皆が経験することだよ。大人になるのだよ、声もね」
「声、変わるの? え、じゃあ、テオも?」
「うん。私も終わっているよ。君達ぐらいの時はもっと高い声だったから」
「そうなんだ…声って変わるんだ…あれ。僕は? 僕はまだなの?」
「人によっていつ始まるのかが違うんだ。ここ数年のうちには来るよ」
「ふーん。じゃあ、オレ、ラビより早く大人になるってことだな!」
ラビは頬を膨らます。すかさずレオンが「えいっ」と指で突いていた。
「ね。可愛いだろう? ああ、愛しい子達だねえ。食べてしまいたいと思ったよ、私は」
シュヌーシア寮サロン。テオは、生徒代表室から帰って来たクラウスに、
つい先程の出来事を『今日の楽しかったこと第一位』として発表していた。
「愛しいとか、食べたいとか…表現が大袈裟なんだよ、お前は」
「だって、私達の子供達がすくすくと成長していく様子は愛おしいものだろう?」
「…色々間違ってるぞ、表現が」
シュヌーシア寮のお父さんとお母さん、と誰もが認める二人なのだが、
ただ一人、クラウスだけがそのポジションを認めたがらない。
「クラウス、コーヒーのおかわりは? それとも私にする?」
「コー、ヒー、を、頼む」
「照れ屋さんだねえ、クラウスは。まあ、そんなところも愛しいのだけれど」
席を立って、クラウスのデミタスカップを持つ。
最近お気に入りのエスプレッソマシンの準備をする。
このコーヒーは、二十秒で抽出するため、イタリア語の『急行』の名が付いた。
どちらかと言うとせっかちなクラウスにはピッタリだ。
また、エスプレッソには『あなたのために』という意味もあるらしい。
サロンにコーヒー豆の良い香りが流れた。
翌日、シュヌーシア寮食堂。
朝食の準備中、パジャマ姿の寮生が集まり出した頃。
「レオン、やっぱり風邪だったみたい」
ラビに手を引かれて、レオンが保健室から戻って来た。
「これ、お薬貰ってきた。朝ごはんの後に飲みなさいって」
クラウスは苦い顔をしたまま黙る。テオは席を立ってレオンの前に行く。
「ごめんね、レオン。昨日のうちに保健室に連れて行った方が良かったね」
レオンが口を開く。何か言おうとしているが、掠れて声にならなかった。
ラビがレオンと目を合わせて、「僕が言ってあげる」と笑顔になる。
テオに向き直って、自慢げに言った。
「今日ね、レオン、声が出ないの。だからね、今日は僕が、
レオンの声になることにしたんだ。『テオのせいじゃないよ』で良い?」
うんうん、とレオンが頷く。ラビは笑顔でテオを見上げる。
「良いって!」
ラビはレオンを席に座らせると、「あ、そうだ」と言った。
「ドニに言って、なんかレオン用のごはん作って貰わなきゃ」
ちょっと待っててね、と言い残し、たたたとキッチンへ走って行った。
テオは甲斐甲斐しい背中を見送って微笑んだが、クラウスは首を傾げていた。
「なんだ、あいつ。なんか、普段より生き生きしてないか?」
「レオンのお世話ができることが嬉しいのだよ。愛されているね、レオン?」
喋れないレオンはテーブルに両腕を置き、顎を乗せる。
口は恥ずかしそうに、ちょっと尖っていた。
クラウスはレオンを一瞥して、他の寮生達に言った。
「他に具合が悪い奴は居ないか? 居るならすぐに保健室に行けよ。無理はするな」
だいじょーぶー、という声や頷きが返ってくる中、
自己主張の強い手が一本だけ元気良く上がった。クラウスは苦い顔になる。
「その手はなんだ、テオ」
「私、今朝から喉が痛むんだ」
「仮病なら受け付けないぞ」
「おや。本当だよ? それから、この中で一番の体調不良は貴方ではないかな?」
「俺だと? 俺は別に」
テオは席を立って、クラウスの前まで行く。
昨日と同じようにぺたと額を合わせた。クラウスが驚いて仰け反る。
「お前、何をいきなり」
「貴方も微熱があるんじゃないかな? それにね、ココ」
クラウスの首許を指差す。
リボンタイはまだ付けていないが、既に制服のワイシャツ姿だ。
「ボタンを掛け違えるなんて、貴方らしくないもの」
「え?」
クラウスは首許を見る。上から二番目の穴に、一番目のボタンが嵌っている。
少し耳を赤くして、ボタンを留め直す。
「ね? クラウスも私と一緒に保健室に行こう?」
「お前だけで行って来い」
「おやおや。無理はするなと言ったのは貴方だよ、クラウス」
朝食後、テオに引き摺られる形でクラウスも嫌々保健室に訪れた。
診察を終えた医師は二人の前で結果を告げた。
首許には聴診器を掛けている。
「風邪だね。どうやら、君達もレオンと同じ症状のようだ」
二人の患者は全く別のリアクションを取った。
テオは両手をパンと合わせて、隣に笑顔を振りまく。
「聞いたかい、クラウス! 私達、お揃いだって!」
クラウスは鈍く痛むこめかみを押さえる。実は朝起きたから頭が重かった。
「喜ぶところじゃないだろう。お前、頭は痛くないのか?」
「少しね。でも良いよ、クラウスと同じなら」
博士は咳払いする。
「薬を処方しよう。今日は講義を休んだ方が良いだろう」
無遅刻無欠席の記録を伸ばしているクラウスはショックを受けた。
「講義を休む? どうしてもですか、博士」
「君達に無理はさせたくないからね。特にクラウス。君には休養を勧めるよ」
「俺ですか?」
「君はこのところ、生徒代表室に詰め過ぎに見える。
過労で抵抗力が落ちていた為に、いち早く感染したのではないかな?
友人から見てどうだい? テオ」
「博士の仰る通りです! ほら、クラウス、君は疲れているのだよ。
私と一緒にゆっくり静養しよう?」
「そうしたまえ。それに他の生徒にも感染する恐れがあるからね。
ドクターストップというところだな」
クラウスは肩を落とし、渋々「解りました」と言った。
医師は首に掛けていた聴診器を机に置く。
「しかし、既にシュヌーシア寮にはウイルスが蔓延していそうだな。
シュヌーシアの生徒達は風邪を引く時も仲が良いからね。
とりあえず、君達は保健室に隔離させて貰うよ。
その薬を飲んだら二階のベッドルームへ案内しよう」
「ソクーロフ博士、レオンは隔離しないんですか?」
クラウスが尋ねると、医師は眼鏡を押し上げた。
左手に覆われた口元が微笑んでいるのがちらりと見えた。
「彼は保健室がどうしても嫌らしいので、自室療養にしたよ。
それにラビットも傍で看病したい様子だったからね」
二階 ベッドルーム。
テオは隣のベッドを見つめていた。
クラウスの枕元には、部屋から持って来た教科書が積まれている。
先程から黙々と読んでいるのだ。
彼が言うには、講義を欠席しているのだから、
自分で今日の授業分を勉強しなくてはいけない、らしい。
こんなに傍に居るのに、全く構って貰えない。
テオは最初こそ残念に思ったが、放って置かれる状況に慣れてくると、
こうしてただ彼を愛でるだけ、というのも快いものに感じられてくる。
良く効くと評判の博士の薬は、明日には私達の熱を下げてくれるらしい。
それが少し残念にさえ思えた。
目の前には、病人であるにも関わらず、義務感に駆られ勉強している横顔。
薬が効いてきたせいか、文字を追うのも眠たげな瞼。
時折、漏れ聞こえる辛そうな吐息は、何とも艶めかしくて。
普段の凛々しい彼も良いけれど、体調不良の彼もまた美しい。
クラウスには、保健室まで来て勉強するよりは、何も考えず休養して欲しい。
けれど、無理をしている姿がまた愛しくて、いつまでも眺めていたくなる。
今日だけ展示されている芸術作品を眺めているような気分だった。
身体は熱くて苦しいが、風邪というのも偶には良いものだ。
テオは、今日は今日で楽しい時間を過ごせていることに満足していた。
頭は熱で、ぼうっとしつつ、高揚していた。
うっとりとクラウスを見つめたまま囁く。
「ねえ、クラウス」
呼ばれて、帝王学の教科書から少し顔を出す。
「テオ。まだ起きていたのか。お前は早く寝ろと」
「愛しいよ…今日のクラウス、とても愛しい…」
熱で潤んだ瞳。クラウスは本に視線を戻す。
「…寝てろ」
fin
■オーギュスト×アンリ ユウタ ジョシュア
「ヘブライ語では『胎児』。呪術的な儀式を経て、土や粘土で作られた人形だね」
金曜日の第二化学室。
今日の神秘学では錬金術と縁が深いカバラ教について学んでいた。
講師は黒板に『ゴーレム』と綴る。
英語とヘブライ語で書いてくれたようだが、後者は丸っぽい記号にしか見えない。
生徒達の中では、おそらく誰も読めていない。あの特別講師はあらゆる言語に秀でている。
受講生の一人であるアンリは、敢えて読めない方をノートにメモした。
「人形にお札を貼ると動き出し、主人に忠誠を尽くすと言われている。そしてこれが」
講師は屈んで、教壇の下から土色の人形を取り出した。両手でそっと教壇に乗せる。
「見本があった方が良いかと思ってね。昨日、私が作ったものだよ。
自分では、なかなか可愛くできたと思うのだがね。どうかな?」
見た目は古墳から発掘される土偶のようだが、細かな彫刻などはない。
ごくシンプルな、手抜きの土偶だ。それを可愛いなどと思っているのは彼だけだろう。
「ゴーレムの形は特に決まりはないんだけれど、このようなイメージが一般的だと思うよ。
そして、ゴーレムに命を与える護符はこれだ」
一枚の白い長方形。手の平よりやや小さいくらいの大きさ。
何か文字が書いてあるようだが、小さくて読めない。札を土人形の足許に置く。
講師はチョークを持って、黒板に大きめにそのスペルを書く。
「emeth(エメト)と綴って、ゴーレムの額や胸に貼るんだ。
この単語は『真理』や『神』という意味がある」
チョークを指に挟めたまま黒板消しを持つ。
「ゴーレムを止めたい時は、頭文字のeを消す」
eの上に置いた黒板消しが下ろされる。
「これで、meth(メト)。『死』になる、というわけだ」
もう何も持っていない手で、コンコンと黒板を軽くノックした。
黒板に背を向けて、やや俯きがちに話を続ける。
「成程、意味的には覚えやすいかもしれない。だが、かつての術者の中には、
ゴーレムが暴走した為に、eを消すのに一苦労した者もいるけれどね」
そこで顔を上げ、札を手に取る。
「では試しに、この子にお札を貼ってみようか?」
しん、となった教室。元々、静かな教室ではあるが、物音ひとつしなくなった。
教壇の上にある土人形へ注目が集まる。冷静と好奇の入り混じった視線。
黄土色の額にお札が貼られる。生徒達が見守る中、土人形はぴくりとも動かない。
講師は黒板側からゴーレムを覗き込む。
「おや? みんなの前で緊張しているのかい? 少しで良いから歩いて見せてくれないかな?」
すると、ガタッと土人形が揺れた。カタカタと10センチほど前に進んだ。
教室に悲鳴こそ上がらないが、生徒達は多少なりとも驚かされた。
琥珀の視線が元凶を捉える。講師の片手が、ジャケットのポケットに入っている。
「ボージェ教授。その手に持っている物は?」
講師は軽く笑って答えた。
「気が付くのが早いね、アンリ」
あっさりと手を出す。握られていたのは小さな機械。
「これはゴーレムをラジオコントロールできるスイッチだよ」
髪の長い生徒が頬杖を突いた。他の生徒達も声には出さないものの、やや不満げだ。
「動いた方が面白いかと思って、ゴーレムのラジコンを作ってみたんだ。驚かせてすまなかったね」
機械のボタンを押すと、先程と同じカタカタという音がしてゴーレムが前進する。
ボタンを離すと、教壇から落ちる手前で停止した。
「こういうペテンを用いて、錬金術師だと偽った者も昔は多かったんだ。
トリックで黄金変成に見せ掛ける。ちょっとした知識とちょっとした遊び心があればできてしまうからね。
例えば、見物者には、これから銅を黄金に変える、と説明し、
本物の黄金に銅を塗りつけたものを、湯に入れてかき回す。
それを湯から取り出せば銅が落ちて黄金が現れる。ごく初歩的な手品だね。
けれど、そんな手品を用いた彼等を頭ごなしに批難することもできないんだ。
錬金術の実験には、莫大な時間と費用が必要だ。王や貴族など資産家の支援が欠かせない。
だから、見込みがある奴だと思わせる為に、ペテンの錬金術を用いた。
強力なパトロンを得て、今度は本当に、黄金変成を成功させる為に」
鐘の音が講義終了を告げた。
「では今日は此処までにしよう」
静かながらも、教室の緊張が解ける。
「ああ。アンリ、ちょっと残ってくれるかな?」
呼ばれた生徒が視線で問う。講師は微笑むだけだった。
「ごきげんよう、諸君。楽しい週末を」
他の生徒達が退室する。
残された生徒は、黒板を消す背中に問い掛けた。
「僕に何の用?」
黒板掃除を続けながら、講師は答える。
「アンリに楽しい週末のご提案だよ」
「…なに」
黒板に残っていた最後のthが消える。黒板消しを置く。
手に突いた粉を軽く払ってから、講師は振り向いた。
「アンリにね、化学準備室の大掃除を手伝って欲しいんだ」
生徒は握った手を耳の下に置く。教壇を見上げる瞳は冷たい。
琥珀の氷を見つめながら、講師は微笑んだ。
「遊園地や映画館を期待したのだったら謝るよ?」
「期待してない」
「準備室の備品が増えてきたので、そろそろ整理整頓が必要なんだ。
アンリのお友達を連れてきても良いよ? もちろん、私と二人きりでも良いけれどね?」
「僕にメリットのないことは、したくないな」
「欲しい備品があれば持っていって構わないよ。劇薬を除いてね。
それから、掃除の後に美味しいティータイムくらいなら用意できるかな」
「あまり魅力が感じられないね」
「どちらにしても、私は午後には準備室に居るから。気が向いたら来てくれると助かるよ」
土曜日の午後。
講師は準備室で片付けを始めていた。
ドアが開く。受講生と、その後ろに二人。
「おや。アンリ、お友達を連れてきてくれたんだね?」
「サロンで暇そうにしてたのをね」
デッドプリンスの三人は、ライブの秘密特訓だとかで街に出てしまっていた。
その為、寮に残っていた二人が自動的に対象となった。
化学室に一人で行ったら、何か言われそうだったからだ。
礼儀正しい二人が講師に挨拶する。
「こんにちは、ボージェ教授」
「お手伝いに来ましたー」
「こんにちは。生徒代表君とユウタが来てくれれば早く終わりそうだね。
手伝いに来てくれてありがとう」
「いえ。俺でお役に立てれば」
化学準備室の片付けが始まった。部屋は埃っぽかった。
閉め切っていた窓を開けると、新鮮な空気が流れ込んできた。
舞い上がった埃に日光が反射して、キラキラと光っていた。
働き者の生徒代表と新入生は「これはどこへ持って行きましょうか?」と進んで参加していた。
生徒の中で唯一の受講生は、講師に言われてやっと動く程度の働きだった。
「アンリ、哲学者の卵を第二化学室へ運んでくれるかい?」
「重い」
文句を言われた講師は微笑む。
「じゃ、そちらの試験管で良いよ」
面倒臭いな、というオーラを出しながらアンリが試験管が入ったケースを運んでいく。
ユウタとジョシュアは不思議そうに友達の背中を見送る。
その視線は講師に戻る。ユウタが質問した。
「あ、あの。ボージェ先生」
「なんだね?」
「哲学者の卵って? 何かの卵のことですか?」
「ああ。錬金術ではフラスコのことをそう呼ぶんだ」
「え、フラスコ? でも、どうして、卵って言うんですか?」
「錬金術師は卵というものに憧れていたからだよ。
丸い物体から、全く形の違うヒヨコが生まれてくる。
それが錬金術師には不思議でならなかったんだ」
平たい木の箱にフラスコが並んでいる。縦が3、横が4の計12個。
講師はその中からひとつ手に取った。
透明なガラス容器が午後の光に当たる。ユウタは眩しくて目を瞑った。
「卵とヒヨコのように、ある物から全く別の物を作り出すことが錬金術師の夢だった。
彼等は、このフラスコという卵から、あらゆるものを創出しようとしたんだよ」
講師は球形の容器を箱に戻す。コトリと木の板の音がした。
ユウタは困った笑顔を浮かべながら、頬を掻く。
「ええっと、じゃあ、これはどこに持って行きましょうか?」
「そうだね。とりあえずテーブルに置いてきてくれるかね。
後でまとめて片付けるから。あ、重いから気を付けて」
「分かりました」
フラスコの箱はかなり重たかった。ユウタは思わず日本語で「よいしょ」と言う。
「俺が持とうか?」とジョシュアに言われて「だいじょぶ」と答えた。
化学準備室と第二化学室は一枚のドアで繋がっている。
ジョシュアが開けてくれたドアを通って、隣の教室へ運ぶ。
そこで木の椅子に座っていた生徒を発見した。
「あ、先生! アンリがサボってます!」
その声を聞いて、講師と生徒代表もやってきた。
三人に見つめられた生徒は足を組んだまま言った。
「疲れたから、休憩しているだけでしょ」
今日この生徒は不貞腐れているように見えた。講師が声を掛ける。
「アンリ、何か面白くないことでもあったのかね?」
教え子は返事をしない。講師は肩を竦める。
「私達も少し休もうか。ユウタ、生徒代表君もおいで。お茶でも淹れるよ。
ああ、せっかく化学室に居るのだから、ビーカーで紅茶を飲んでみるかね?」
「ええっ?」とユウタ。
「大丈夫。綺麗に洗うから薬品が残っていたりはしないよ」
生徒達の前にビーカーが三つ置かれた。湯気と紅茶の香りが立ち昇る。
ユウタはおそるおそる口付けていた。
「どうかな、ユウタ。ビーカーで飲む紅茶は?」
「えっ、えっと、なんか変なかんじです。紅茶じゃないみたい」
「実に素直だね、ユウタは」
受講生の頬が少し膨れる。
「では普通のカップに入れたものも飲んでみようか」
「あるのなら、最初からそちらにしてくれないかな、ボージェ教授」
「教授に噛み付くなよ、アンリ」
今度はごく普通の白いカップに紅茶が注がれた。
生徒達の表情は先とは違い、安堵感がある。
「さて。では、ユウタ。カップに入れた紅茶は、どうかな?」
「こっちの方が良いです、やっぱり」
「生徒代表君とアンリも同じ意見かな?」
「ええ」
「当たり前でしょ」
「不思議だと思わないかね? 同じリーフで入れた紅茶なのに。
今回はビーカーという極端な例だったけれど。入れ物やラベルは、本質さえ左右する。
陶器のカップか、紙コップか、という違いでも価値判断は変わってくる。
銅も黄金で覆ってしまえば黄金に見えるし、黄金も銅で覆ってしまえば銅に見えてしまう」
昨日の神秘学で聞いた言葉。受講生が呟く。
「ペテンの錬金術?」
講師が頷く。
「そう言えるね」
神秘学を受けていないユウタは首を捻って、ジョシュアと顔を見合わせていた。
受講生はビーカーに入った紅色の液体を見つめている。
味は彼が言うように『黄金』に相当する。これは春摘みの一級品だ。
ビーカーの上を持って揺らす。綺麗な黄金色。ダージリンがふわりと香る。
「ペテンは、いつか剥がれると思うけれど?」
「そう。剥がれるまではペテンではない、ということだ」
アンリはクスリと笑う。
「詐欺師の常套句みたいだね」
返事がない。講師はビーカーの紅茶を眺めていた。少し遅れて微笑む。
「本当だね」
ゆっくりと席を立つ。三人の生徒が講師を見上げる。
「すまない。話が長くなってしまったね。大掃除を再開しようか」
はい、という返事が二つ聞こえた。
fin
金曜日の第二化学室。
今日の神秘学では錬金術と縁が深いカバラ教について学んでいた。
講師は黒板に『ゴーレム』と綴る。
英語とヘブライ語で書いてくれたようだが、後者は丸っぽい記号にしか見えない。
生徒達の中では、おそらく誰も読めていない。あの特別講師はあらゆる言語に秀でている。
受講生の一人であるアンリは、敢えて読めない方をノートにメモした。
「人形にお札を貼ると動き出し、主人に忠誠を尽くすと言われている。そしてこれが」
講師は屈んで、教壇の下から土色の人形を取り出した。両手でそっと教壇に乗せる。
「見本があった方が良いかと思ってね。昨日、私が作ったものだよ。
自分では、なかなか可愛くできたと思うのだがね。どうかな?」
見た目は古墳から発掘される土偶のようだが、細かな彫刻などはない。
ごくシンプルな、手抜きの土偶だ。それを可愛いなどと思っているのは彼だけだろう。
「ゴーレムの形は特に決まりはないんだけれど、このようなイメージが一般的だと思うよ。
そして、ゴーレムに命を与える護符はこれだ」
一枚の白い長方形。手の平よりやや小さいくらいの大きさ。
何か文字が書いてあるようだが、小さくて読めない。札を土人形の足許に置く。
講師はチョークを持って、黒板に大きめにそのスペルを書く。
「emeth(エメト)と綴って、ゴーレムの額や胸に貼るんだ。
この単語は『真理』や『神』という意味がある」
チョークを指に挟めたまま黒板消しを持つ。
「ゴーレムを止めたい時は、頭文字のeを消す」
eの上に置いた黒板消しが下ろされる。
「これで、meth(メト)。『死』になる、というわけだ」
もう何も持っていない手で、コンコンと黒板を軽くノックした。
黒板に背を向けて、やや俯きがちに話を続ける。
「成程、意味的には覚えやすいかもしれない。だが、かつての術者の中には、
ゴーレムが暴走した為に、eを消すのに一苦労した者もいるけれどね」
そこで顔を上げ、札を手に取る。
「では試しに、この子にお札を貼ってみようか?」
しん、となった教室。元々、静かな教室ではあるが、物音ひとつしなくなった。
教壇の上にある土人形へ注目が集まる。冷静と好奇の入り混じった視線。
黄土色の額にお札が貼られる。生徒達が見守る中、土人形はぴくりとも動かない。
講師は黒板側からゴーレムを覗き込む。
「おや? みんなの前で緊張しているのかい? 少しで良いから歩いて見せてくれないかな?」
すると、ガタッと土人形が揺れた。カタカタと10センチほど前に進んだ。
教室に悲鳴こそ上がらないが、生徒達は多少なりとも驚かされた。
琥珀の視線が元凶を捉える。講師の片手が、ジャケットのポケットに入っている。
「ボージェ教授。その手に持っている物は?」
講師は軽く笑って答えた。
「気が付くのが早いね、アンリ」
あっさりと手を出す。握られていたのは小さな機械。
「これはゴーレムをラジオコントロールできるスイッチだよ」
髪の長い生徒が頬杖を突いた。他の生徒達も声には出さないものの、やや不満げだ。
「動いた方が面白いかと思って、ゴーレムのラジコンを作ってみたんだ。驚かせてすまなかったね」
機械のボタンを押すと、先程と同じカタカタという音がしてゴーレムが前進する。
ボタンを離すと、教壇から落ちる手前で停止した。
「こういうペテンを用いて、錬金術師だと偽った者も昔は多かったんだ。
トリックで黄金変成に見せ掛ける。ちょっとした知識とちょっとした遊び心があればできてしまうからね。
例えば、見物者には、これから銅を黄金に変える、と説明し、
本物の黄金に銅を塗りつけたものを、湯に入れてかき回す。
それを湯から取り出せば銅が落ちて黄金が現れる。ごく初歩的な手品だね。
けれど、そんな手品を用いた彼等を頭ごなしに批難することもできないんだ。
錬金術の実験には、莫大な時間と費用が必要だ。王や貴族など資産家の支援が欠かせない。
だから、見込みがある奴だと思わせる為に、ペテンの錬金術を用いた。
強力なパトロンを得て、今度は本当に、黄金変成を成功させる為に」
鐘の音が講義終了を告げた。
「では今日は此処までにしよう」
静かながらも、教室の緊張が解ける。
「ああ。アンリ、ちょっと残ってくれるかな?」
呼ばれた生徒が視線で問う。講師は微笑むだけだった。
「ごきげんよう、諸君。楽しい週末を」
他の生徒達が退室する。
残された生徒は、黒板を消す背中に問い掛けた。
「僕に何の用?」
黒板掃除を続けながら、講師は答える。
「アンリに楽しい週末のご提案だよ」
「…なに」
黒板に残っていた最後のthが消える。黒板消しを置く。
手に突いた粉を軽く払ってから、講師は振り向いた。
「アンリにね、化学準備室の大掃除を手伝って欲しいんだ」
生徒は握った手を耳の下に置く。教壇を見上げる瞳は冷たい。
琥珀の氷を見つめながら、講師は微笑んだ。
「遊園地や映画館を期待したのだったら謝るよ?」
「期待してない」
「準備室の備品が増えてきたので、そろそろ整理整頓が必要なんだ。
アンリのお友達を連れてきても良いよ? もちろん、私と二人きりでも良いけれどね?」
「僕にメリットのないことは、したくないな」
「欲しい備品があれば持っていって構わないよ。劇薬を除いてね。
それから、掃除の後に美味しいティータイムくらいなら用意できるかな」
「あまり魅力が感じられないね」
「どちらにしても、私は午後には準備室に居るから。気が向いたら来てくれると助かるよ」
土曜日の午後。
講師は準備室で片付けを始めていた。
ドアが開く。受講生と、その後ろに二人。
「おや。アンリ、お友達を連れてきてくれたんだね?」
「サロンで暇そうにしてたのをね」
デッドプリンスの三人は、ライブの秘密特訓だとかで街に出てしまっていた。
その為、寮に残っていた二人が自動的に対象となった。
化学室に一人で行ったら、何か言われそうだったからだ。
礼儀正しい二人が講師に挨拶する。
「こんにちは、ボージェ教授」
「お手伝いに来ましたー」
「こんにちは。生徒代表君とユウタが来てくれれば早く終わりそうだね。
手伝いに来てくれてありがとう」
「いえ。俺でお役に立てれば」
化学準備室の片付けが始まった。部屋は埃っぽかった。
閉め切っていた窓を開けると、新鮮な空気が流れ込んできた。
舞い上がった埃に日光が反射して、キラキラと光っていた。
働き者の生徒代表と新入生は「これはどこへ持って行きましょうか?」と進んで参加していた。
生徒の中で唯一の受講生は、講師に言われてやっと動く程度の働きだった。
「アンリ、哲学者の卵を第二化学室へ運んでくれるかい?」
「重い」
文句を言われた講師は微笑む。
「じゃ、そちらの試験管で良いよ」
面倒臭いな、というオーラを出しながらアンリが試験管が入ったケースを運んでいく。
ユウタとジョシュアは不思議そうに友達の背中を見送る。
その視線は講師に戻る。ユウタが質問した。
「あ、あの。ボージェ先生」
「なんだね?」
「哲学者の卵って? 何かの卵のことですか?」
「ああ。錬金術ではフラスコのことをそう呼ぶんだ」
「え、フラスコ? でも、どうして、卵って言うんですか?」
「錬金術師は卵というものに憧れていたからだよ。
丸い物体から、全く形の違うヒヨコが生まれてくる。
それが錬金術師には不思議でならなかったんだ」
平たい木の箱にフラスコが並んでいる。縦が3、横が4の計12個。
講師はその中からひとつ手に取った。
透明なガラス容器が午後の光に当たる。ユウタは眩しくて目を瞑った。
「卵とヒヨコのように、ある物から全く別の物を作り出すことが錬金術師の夢だった。
彼等は、このフラスコという卵から、あらゆるものを創出しようとしたんだよ」
講師は球形の容器を箱に戻す。コトリと木の板の音がした。
ユウタは困った笑顔を浮かべながら、頬を掻く。
「ええっと、じゃあ、これはどこに持って行きましょうか?」
「そうだね。とりあえずテーブルに置いてきてくれるかね。
後でまとめて片付けるから。あ、重いから気を付けて」
「分かりました」
フラスコの箱はかなり重たかった。ユウタは思わず日本語で「よいしょ」と言う。
「俺が持とうか?」とジョシュアに言われて「だいじょぶ」と答えた。
化学準備室と第二化学室は一枚のドアで繋がっている。
ジョシュアが開けてくれたドアを通って、隣の教室へ運ぶ。
そこで木の椅子に座っていた生徒を発見した。
「あ、先生! アンリがサボってます!」
その声を聞いて、講師と生徒代表もやってきた。
三人に見つめられた生徒は足を組んだまま言った。
「疲れたから、休憩しているだけでしょ」
今日この生徒は不貞腐れているように見えた。講師が声を掛ける。
「アンリ、何か面白くないことでもあったのかね?」
教え子は返事をしない。講師は肩を竦める。
「私達も少し休もうか。ユウタ、生徒代表君もおいで。お茶でも淹れるよ。
ああ、せっかく化学室に居るのだから、ビーカーで紅茶を飲んでみるかね?」
「ええっ?」とユウタ。
「大丈夫。綺麗に洗うから薬品が残っていたりはしないよ」
生徒達の前にビーカーが三つ置かれた。湯気と紅茶の香りが立ち昇る。
ユウタはおそるおそる口付けていた。
「どうかな、ユウタ。ビーカーで飲む紅茶は?」
「えっ、えっと、なんか変なかんじです。紅茶じゃないみたい」
「実に素直だね、ユウタは」
受講生の頬が少し膨れる。
「では普通のカップに入れたものも飲んでみようか」
「あるのなら、最初からそちらにしてくれないかな、ボージェ教授」
「教授に噛み付くなよ、アンリ」
今度はごく普通の白いカップに紅茶が注がれた。
生徒達の表情は先とは違い、安堵感がある。
「さて。では、ユウタ。カップに入れた紅茶は、どうかな?」
「こっちの方が良いです、やっぱり」
「生徒代表君とアンリも同じ意見かな?」
「ええ」
「当たり前でしょ」
「不思議だと思わないかね? 同じリーフで入れた紅茶なのに。
今回はビーカーという極端な例だったけれど。入れ物やラベルは、本質さえ左右する。
陶器のカップか、紙コップか、という違いでも価値判断は変わってくる。
銅も黄金で覆ってしまえば黄金に見えるし、黄金も銅で覆ってしまえば銅に見えてしまう」
昨日の神秘学で聞いた言葉。受講生が呟く。
「ペテンの錬金術?」
講師が頷く。
「そう言えるね」
神秘学を受けていないユウタは首を捻って、ジョシュアと顔を見合わせていた。
受講生はビーカーに入った紅色の液体を見つめている。
味は彼が言うように『黄金』に相当する。これは春摘みの一級品だ。
ビーカーの上を持って揺らす。綺麗な黄金色。ダージリンがふわりと香る。
「ペテンは、いつか剥がれると思うけれど?」
「そう。剥がれるまではペテンではない、ということだ」
アンリはクスリと笑う。
「詐欺師の常套句みたいだね」
返事がない。講師はビーカーの紅茶を眺めていた。少し遅れて微笑む。
「本当だね」
ゆっくりと席を立つ。三人の生徒が講師を見上げる。
「すまない。話が長くなってしまったね。大掃除を再開しようか」
はい、という返事が二つ聞こえた。
fin
■オーギュスト×アイヴィー
「あれ。なんかイイ匂いがするんですけど?」
深夜に近い帰宅。
独り暮らしの筈なのに、夕食ができてるかんじの匂いがする。
キッチンを覗いてみる。誰か居た。
フォーマルなウイングカラーシャツは、ちょっと腕まくり。
ダークブラウンのベスト。ジャケットは着てない。
クロスタイは、まだ付けてた。
聖アルフォンソ学院 神秘学 特別講師。オーギュスト・ボージェ先生。
お住まいは教職員の宿舎メルキュール館であって、海辺のコテージではない。
先生は、なんかフツーにお料理中で味見とかしてた。
「まーた勝手に入っちゃって。何してんのさ、センセ」
「ああ、おかえり。アイヴィー。遅かったね、お疲れ様」
「あ、ただいまあ…って、不法侵入で捕まえちゃうよ?
忘れてるのかもしんないけど、俺、警備の責任者なんですけど?」
「私を捕まえたいのなら君の好きにしてくれて構わないよ。
けれど、無駄ではないかな? 君は既に私の心を拘束済みだ」
「…拘束なんてしてないよ。むしろ放し飼いっていうか」
「それに今日は、栄養が偏っている君の為に、何か美味しいものをと思ってね。
ビーフシチューとサラダを作って待っていたんだよ?
あ、後は赤ワインがあるよ。料理に少し使ったから」
とろりとしたビーフシチューを少し掬って小皿に乗せる。
「アイヴィー、少し、味を見てくれるかい? 君好みの味になっているかな?」
受け取ってみる。小皿の中は艶々と光っている。
濃厚な香り。それだけでおなかが鳴りそうだ。
ずず、と吸う。あたたかい料理が空っぽの胃に沁み込む。
フッと笑われた音がした。
「口許を汚して…可愛いね。私に拭って欲しいのかな?」
「えっ? いいよ、自分でっ…」
そっと肩に手を置かれて、もう目の前にセンセの顔があって。
深夜のキッチンで、息遣いが漏れる。
ビーフシチューの香りも感じなくなるほど、あんたの舌を感じていた。
身体の力が抜けてしまいそうで、ウイングカラーシャツの肩を掴む。
それを察したように、センセの手は俺の腰を支えた。
このままベッドに連れて行かれるのかと思った。
が、とてもキリの悪いところで唇は離された。
「…ちょ、センセ」
「さて。味見はこのくらいにして、ディナーにしよう」
先生が何事もなかったかのように料理を運び始める。
俺は傍にあった冷蔵庫に背を預けた。
息を整えながら、先生の背中を見つめる。
濡れた唇を手の甲で拭いながら、聞こえないように呟いた。
「…味見のレベルじゃねえっつの」
最初の頃は、顔だけ知ってる先生だった。こんな胡散臭い人に興味なんてなかった。
たまに俺のタクシーに乗った時に少し話すぐらいで、他の先生達との差はなかったのに。
いつからか、学院の特別講師とタクシードライバーは妙なカンケイになっていた。
それからというもの、この家にふらりと現れては、
家主に美味しいディナーとブランチを作って去っていく可笑しな先生だ。
初めてちゃんと話したかな、っていうのは、外で先生を見かけた時。
夜の旧市街を先生が一人で歩いてて。俺はそこらで晩ご飯にするところだった。
学校の先生がこんなとこで何してんのかなーと思って、ちょっと声を掛けてみた。
「セーンセ、こんばんは」
「ああ、こんばんは」
「どうしたの、こんな時間に?」
「偶には外で食事をと思ったのだけれど、店をよく知らなくてね」
じゃあ、って俺は思ったわけだ。
「俺が美味しいとこ連れてってあげよっか? でもセンセのお口に合うか保証できないからね?」
「おや。案内してくれるのかね?」
「俺、タクシードライバーだから。迷子は放っておけないよ」
「迷子…成程ね」
それで、初めて一緒にご飯食べたんだと思う。
今にして思えば、ちょっと可笑しい。
夕食を食べに来たのに行く宛てが全くないなんて、すっとぼけた返事だ。
本当なのか、何か隠して嘘を吐いたのか、よく解らない。
最初からミステリアスな雰囲気のある人だった。
神秘学なんて、オカルトの先生だからかもしれないけど。
物の考え方とか、目の付け所とか、人とちょっと違う。
ラザニアの話からいつのまにか錬金術入門講座とかになってたりする。
そういう時は背後に黒板が見えそうなくらい、先生の喋り方をしてて眠たくなる。
この人、頭大丈夫なのかなと普通に思う時もある。
先生の話を聞いていると時々、自分が生徒だった頃に戻ったような気分になる。
先生が教えてくれたこと、日常生活の中で思い出してる時がある。
俺の考えてることは、よく当てられてしまうのに。
俺は先生のことをよく知らない。
先生は自分の話をしない。学院に来る前、何処で何をしてたのかとか。
過去の話題になると、知らない間にゴーレムの作り方とか教えてくれてたりする。
動く土人形とかには興味ないんだけど。
「アイヴィー、さあ、座って?」
先生がリビングで待ってる。
テーブルにディナーの準備ができていた。
俺は冷蔵庫からゆっくりと背を起こす。
金髪の後ろで手を組んでリビングに向かう。
「はーい」
俺ん家でビーフシチュー。
テーブルで湯気を見たのは久し振りかもしれない。
キッチンに直行したから気が付かなかったが、
部屋がなんとなく綺麗になっている気がする。
そう言えば、今朝キッチンに放っておいた食器類がさっきはなかった。
全ての犯人は、俺の向かいで上品にディナーを食べている。
「これ、カミーユのよりウマイんですけど」
「ルブラン・シェフかい? それは恐縮だね」
ぽつぽつ話しながら食事が進んでいった。
俺が食べ終わってスプーンを置くと、先生は赤ワインを持ってきてくれた。
「ちなみに。ビーフシチューは少し多めに作っておいたから、明日以降もよかったらどうぞ?」
「そりゃご丁寧にどーも」
手土産のボトルはいつも高そうで美味しい。
俺が買うような安いワインとは、やっぱり違う。
食後のワインを飲みながら、俺はこの変わった人を眺めていた。
このセンセは話題が豊富だ。
学院の生徒の話から、専攻分野の他も色んなことをいっぱい知っている。
俺より5歳は上だと思うけど、この人はとても大人で、5年以上の差を感じる。
手先は器用で料理もやたら上手い。ワインを飲み干してテーブルに置く。
何も言わずに、俺のグラスを取って注いでくれる。
「センセってさ」
「ん?」
先生は、とくとくと流れるワインを見ながらと相槌を打った。
俺は頭が少し重くなってきて、両手で頬杖を付く。
「チョークよりフライパン持ってた方が良いんじゃないの?
なんか、こじんまりとしたレストランのシェフとか似合いそうだよ? 『隠れた名店』みたいなさ?」
先生は紳士的な微笑を見せてグラスを差し出す。
「喜ぶべきか、悲しむべきか。それが問題だね。私は先生には向いていないのかな」
「いや、すごい先生っぽいトコもある」
俺は受けったワインに口付ける。
「例えば、なんだろう?」
「話が長いトコとか、突然、ナントカ術の話したりとか、
都合の悪い話になると難しいこと言って、はぐらかしたりとか」
「それは申し訳ないね」
顎から片手を外して、先生を指差す。
「口ばっかで反省してないトコも」
「意地悪だね、アイヴィーは」
「センセに言われたらオシマイだよ」
ポケットに手を入れて、煙草を出した。
先生は吸わない人なので、ワインを手酌していた。
昔は吸っていた時期もあったのだがね、そう言っていたことがあったけど、
俺が聞けたのはそこまでだ。あんたは過去を話さない。
だけど、なんとなく。
何か大きな罪を犯した人なんだろうと感じていた。
俺も、そうだから。
ワイングラスに口付けている先生と目が合った。
「アイヴィー? 君はいつまで煙草と口付けを交わすつもりなのかな?」
その低い声だけで、俺の身体はビクと疼く。
さっきの『味見』を思い出してしまう。ふうと白い煙を吹かす。
「俺が煙草にフられるまで」
「成程。ではそれまで待つとしよう。
傷心はゆっくり慰めてあげるから、安心しなさい?」
明日も美味しい朝ごはんを食べることになりそうだ。
fin
深夜に近い帰宅。
独り暮らしの筈なのに、夕食ができてるかんじの匂いがする。
キッチンを覗いてみる。誰か居た。
フォーマルなウイングカラーシャツは、ちょっと腕まくり。
ダークブラウンのベスト。ジャケットは着てない。
クロスタイは、まだ付けてた。
聖アルフォンソ学院 神秘学 特別講師。オーギュスト・ボージェ先生。
お住まいは教職員の宿舎メルキュール館であって、海辺のコテージではない。
先生は、なんかフツーにお料理中で味見とかしてた。
「まーた勝手に入っちゃって。何してんのさ、センセ」
「ああ、おかえり。アイヴィー。遅かったね、お疲れ様」
「あ、ただいまあ…って、不法侵入で捕まえちゃうよ?
忘れてるのかもしんないけど、俺、警備の責任者なんですけど?」
「私を捕まえたいのなら君の好きにしてくれて構わないよ。
けれど、無駄ではないかな? 君は既に私の心を拘束済みだ」
「…拘束なんてしてないよ。むしろ放し飼いっていうか」
「それに今日は、栄養が偏っている君の為に、何か美味しいものをと思ってね。
ビーフシチューとサラダを作って待っていたんだよ?
あ、後は赤ワインがあるよ。料理に少し使ったから」
とろりとしたビーフシチューを少し掬って小皿に乗せる。
「アイヴィー、少し、味を見てくれるかい? 君好みの味になっているかな?」
受け取ってみる。小皿の中は艶々と光っている。
濃厚な香り。それだけでおなかが鳴りそうだ。
ずず、と吸う。あたたかい料理が空っぽの胃に沁み込む。
フッと笑われた音がした。
「口許を汚して…可愛いね。私に拭って欲しいのかな?」
「えっ? いいよ、自分でっ…」
そっと肩に手を置かれて、もう目の前にセンセの顔があって。
深夜のキッチンで、息遣いが漏れる。
ビーフシチューの香りも感じなくなるほど、あんたの舌を感じていた。
身体の力が抜けてしまいそうで、ウイングカラーシャツの肩を掴む。
それを察したように、センセの手は俺の腰を支えた。
このままベッドに連れて行かれるのかと思った。
が、とてもキリの悪いところで唇は離された。
「…ちょ、センセ」
「さて。味見はこのくらいにして、ディナーにしよう」
先生が何事もなかったかのように料理を運び始める。
俺は傍にあった冷蔵庫に背を預けた。
息を整えながら、先生の背中を見つめる。
濡れた唇を手の甲で拭いながら、聞こえないように呟いた。
「…味見のレベルじゃねえっつの」
最初の頃は、顔だけ知ってる先生だった。こんな胡散臭い人に興味なんてなかった。
たまに俺のタクシーに乗った時に少し話すぐらいで、他の先生達との差はなかったのに。
いつからか、学院の特別講師とタクシードライバーは妙なカンケイになっていた。
それからというもの、この家にふらりと現れては、
家主に美味しいディナーとブランチを作って去っていく可笑しな先生だ。
初めてちゃんと話したかな、っていうのは、外で先生を見かけた時。
夜の旧市街を先生が一人で歩いてて。俺はそこらで晩ご飯にするところだった。
学校の先生がこんなとこで何してんのかなーと思って、ちょっと声を掛けてみた。
「セーンセ、こんばんは」
「ああ、こんばんは」
「どうしたの、こんな時間に?」
「偶には外で食事をと思ったのだけれど、店をよく知らなくてね」
じゃあ、って俺は思ったわけだ。
「俺が美味しいとこ連れてってあげよっか? でもセンセのお口に合うか保証できないからね?」
「おや。案内してくれるのかね?」
「俺、タクシードライバーだから。迷子は放っておけないよ」
「迷子…成程ね」
それで、初めて一緒にご飯食べたんだと思う。
今にして思えば、ちょっと可笑しい。
夕食を食べに来たのに行く宛てが全くないなんて、すっとぼけた返事だ。
本当なのか、何か隠して嘘を吐いたのか、よく解らない。
最初からミステリアスな雰囲気のある人だった。
神秘学なんて、オカルトの先生だからかもしれないけど。
物の考え方とか、目の付け所とか、人とちょっと違う。
ラザニアの話からいつのまにか錬金術入門講座とかになってたりする。
そういう時は背後に黒板が見えそうなくらい、先生の喋り方をしてて眠たくなる。
この人、頭大丈夫なのかなと普通に思う時もある。
先生の話を聞いていると時々、自分が生徒だった頃に戻ったような気分になる。
先生が教えてくれたこと、日常生活の中で思い出してる時がある。
俺の考えてることは、よく当てられてしまうのに。
俺は先生のことをよく知らない。
先生は自分の話をしない。学院に来る前、何処で何をしてたのかとか。
過去の話題になると、知らない間にゴーレムの作り方とか教えてくれてたりする。
動く土人形とかには興味ないんだけど。
「アイヴィー、さあ、座って?」
先生がリビングで待ってる。
テーブルにディナーの準備ができていた。
俺は冷蔵庫からゆっくりと背を起こす。
金髪の後ろで手を組んでリビングに向かう。
「はーい」
俺ん家でビーフシチュー。
テーブルで湯気を見たのは久し振りかもしれない。
キッチンに直行したから気が付かなかったが、
部屋がなんとなく綺麗になっている気がする。
そう言えば、今朝キッチンに放っておいた食器類がさっきはなかった。
全ての犯人は、俺の向かいで上品にディナーを食べている。
「これ、カミーユのよりウマイんですけど」
「ルブラン・シェフかい? それは恐縮だね」
ぽつぽつ話しながら食事が進んでいった。
俺が食べ終わってスプーンを置くと、先生は赤ワインを持ってきてくれた。
「ちなみに。ビーフシチューは少し多めに作っておいたから、明日以降もよかったらどうぞ?」
「そりゃご丁寧にどーも」
手土産のボトルはいつも高そうで美味しい。
俺が買うような安いワインとは、やっぱり違う。
食後のワインを飲みながら、俺はこの変わった人を眺めていた。
このセンセは話題が豊富だ。
学院の生徒の話から、専攻分野の他も色んなことをいっぱい知っている。
俺より5歳は上だと思うけど、この人はとても大人で、5年以上の差を感じる。
手先は器用で料理もやたら上手い。ワインを飲み干してテーブルに置く。
何も言わずに、俺のグラスを取って注いでくれる。
「センセってさ」
「ん?」
先生は、とくとくと流れるワインを見ながらと相槌を打った。
俺は頭が少し重くなってきて、両手で頬杖を付く。
「チョークよりフライパン持ってた方が良いんじゃないの?
なんか、こじんまりとしたレストランのシェフとか似合いそうだよ? 『隠れた名店』みたいなさ?」
先生は紳士的な微笑を見せてグラスを差し出す。
「喜ぶべきか、悲しむべきか。それが問題だね。私は先生には向いていないのかな」
「いや、すごい先生っぽいトコもある」
俺は受けったワインに口付ける。
「例えば、なんだろう?」
「話が長いトコとか、突然、ナントカ術の話したりとか、
都合の悪い話になると難しいこと言って、はぐらかしたりとか」
「それは申し訳ないね」
顎から片手を外して、先生を指差す。
「口ばっかで反省してないトコも」
「意地悪だね、アイヴィーは」
「センセに言われたらオシマイだよ」
ポケットに手を入れて、煙草を出した。
先生は吸わない人なので、ワインを手酌していた。
昔は吸っていた時期もあったのだがね、そう言っていたことがあったけど、
俺が聞けたのはそこまでだ。あんたは過去を話さない。
だけど、なんとなく。
何か大きな罪を犯した人なんだろうと感じていた。
俺も、そうだから。
ワイングラスに口付けている先生と目が合った。
「アイヴィー? 君はいつまで煙草と口付けを交わすつもりなのかな?」
その低い声だけで、俺の身体はビクと疼く。
さっきの『味見』を思い出してしまう。ふうと白い煙を吹かす。
「俺が煙草にフられるまで」
「成程。ではそれまで待つとしよう。
傷心はゆっくり慰めてあげるから、安心しなさい?」
明日も美味しい朝ごはんを食べることになりそうだ。
fin
■ギャグ
■アンリの猫化話
■アンリの猫化話
休日。アンリは図書館で神秘学の本を読んでいただけだった。
勉強熱心だと褒められるならまだしも、悪いことなど何もしていない。
古びたページが読み難くて、指で辿っていた。
可笑しな文字列が綴られていたから、思わず読み上げていた。
それがいけないこととは思えない。
声の大きさは、他の誰にも聞こえない程度だった。
『世の中には科学で説明できないことがあるんだよ』
何処かの講師が言っていたことが脳裏に甦る。
それは解ってる。もう四年も学んできたことだもの。
けれど、どうして。
本を読んでいただけで、僕が気を失わなくてはならないの?
目が覚めたら、布の中に埋もれていた。
頭が重たいので手で引っ張って布の外へ出た。
目に入ったのは天井。
その色艶は見慣れたものに違いないけれど、位置が高過ぎる。
自分の正面には、本棚の最下部。
本のタイトルに見覚えがあった。一番下にあるので取り難いと思った本だ。
下を見ると、ブルーの布。これは僕の私服だ。
今日は休みだから、と寮で着たワイシャツだ。
布に伸ばした手は真っ白だった。肌の色ではなく、毛の色が白だった。
手を引っ繰り返してみる。
ねえ。何故、僕に肉球があるの。
これはネコ目(もく)の動物にしかないのに。
ネコ?
鏡を見なくては。僕は図書館から出た。
鏡を見るより先に、自分の姿が解った。
図書館の司書に姿を見られ「なんで猫が?」と言われた。
「なんで」はこちらの台詞だ。
外に出ると水溜りがあって、今の自分の姿を確認した。
瞳の色だけは変わっていないようだけど、
これは白猫だ。
果てしなく遠い道のりを越え、寮に辿り着く。
サロンには誰も居なかった。今日は休日なので仕方ない。
廊下に出ると、遠くの方から地震が近付いてきた。
「あれ?」
耳に馴染んだ声が遙か上から聞こえる。
巨人のように見えるが、これは長い付き合いの生徒代表殿だ。
僕の傍に来ると膝を付いた。ふんわりとした微笑。
「迷子かい、仔猫ちゃん?」
最初に彼に会えたことは幸運かもしれない。
彼は動物行動学の特別講義を取っているし、動物愛護者だ。
学院で一番の動物好き、とは言えないが(おそらくオウム使いのマハラジャが一番)
この寮の中では間違いなく、最も動物に慣れている。
猫になった僕を悪いようにはしないだろう。
「綺麗な白い毛だね。少し触っても良いかな?」
大きな手が、そっと頭に置かれる。
ゆっくりと頭を撫でられて、思わず目を閉じてしまう。
猫の身体にとって、彼の手付きは心地好いらしい。
それに彼の声。人間の時には感じ得ない安堵に包まれる。
彼になら飼われても良いと、猫の本能が感じている。
猫は穏やかな声が好みなのだろうか。動物好きが嬉しそうに笑う。
「可愛いな」
彼が動物にだけ見せる笑顔だ。アルセイデスに接する時もそうだが、
彼は動物を前にすると、普段以上に優しくて甘い声になる。
「気持ち良いかい? じゃあ、次はノドを」
そこを触られたら本当に彼の猫になってしまう気がした。
急いで彼の手から離れた。彼はきょとんとしている。
「あ。もしかして、おなかが空いているのかな?」
彼がキッチンに向かおうとしている。
置いていかれるわけにも行かないので彼の後に続いた。
付いてきた僕を見て、「やっぱりおなかが空いているんだね」と彼は笑った。
違うと言ってやりたかった。
彼は愛馬と意思疎通ができると豪語しているが、
やはり、それは彼の思い込みなのではないか。
人間に戻ったらそう指摘してやりたい。戻れたらの話だが。
彼はシェフに頼んでミルクを貰う。グラスではなく皿に入れていた。
自分の部屋に僕を連れて行く。僕の前にミルクの皿を置いた。
「はい、どうぞ」
皿を見下ろす。白い水面が美味しそうに見える。
図書館から寮まで来るのに大分走ったから喉は渇いている。
でも、皿からミルクを飲むなんて僕のプライドが許さない。
彼を見上げると、彼はまた優しく微笑んだ。
「これは君のだから、遠慮しなくて良いんだよ?」
どうして皿のミルクがこんなに美味しそうに見えるの。
抗えない本能に負けて、ぺろりと舐めてみる。
ミルクってこんなに美味しい飲み物だったの。
「美味しいかい? 全部あげるから、慌てなくて良いよ」
彼は猫がミルクを飲んでいる様子を愛おしげに見守っていた。
「可愛いな。アンリに見せてあげたら、喜ぶだろうな」
猫が顔を上げる。
「アンリは俺の友人だよ? 彼も動物が大好きなんだ。
もうすぐ図書館から帰ってくる頃だと思うし、
アンリが戻るまで、俺と一緒に遊んでいようか」
ジョシュアは猫の為におもちゃを作った。
作ったと言っても、ハンカチを巻いて棒状にしただけだ。
それを猫に見せて左右に振る。なんなの、その子供騙し、と猫は思った。
しかし、猫の手は勝手に動く物を捕まえようとする。
目は動くハンカチを追ってしまうし、捕まえたいという衝動が抑えられない。
ジョシュアがハンカチを右に動かせば、猫もその後を追って手を付く。
猫に捕まる前にジョシュアは左に動かし、猫も左に手を付く。その繰り返し。
それだけのことなのに、腕は『狩り遊び』に夢中だ。
猫は狩生活の動物だから身体が反応する理屈は解る。だけど、どうして。
どうして、こんなに面白いの。
かなり遊んだ後、ジョシュアは、はい、とハンカチを差し出した。
「遊んでくれてありがとう。これは君にあげるね」
すると、猫は不満げに、みゃあう、と鳴いた。ジョシュアは笑った。
「ごめん。もっと遊びたかったんだ?」
優しく抱き上げる。自分の膝の上に僕を寝かせる。
優しい笑顔に見つめられる。
「可愛いね、仔猫ちゃん」
「ジョシュア! 大変! 大変だよ!!」
ドアが開く。ユウタとハルヤが居た。
「どうしたんだい、ユウタ。そんなに慌てて」
「ねえ、ジョシュア。アンリ、知らない?」
「アンリ? さっき、図書館に行くのを見たけど」
「これ、図書館で落ちてたんだ、神秘学の棚の前に」
ハルヤが腕に抱えていた袋を見せる。
中にはブルーのワイシャツと黒のスラックス、など。ジョシュアは愕然と呟く。
「これ、さっき、アンリが着ていた…」
「やっぱり…なんか見たことある服だと思ったんだ」
ユウタがジョシュアの腕を掴む。
「アンリ、寮にも図書館にも居ないんだ。もしかして、悪い人に攫われて…」
「攫われてるだけなら、まだ良いんだけどね」
「どういうことだい、ハルヤ?」
「えっと、その、アンリ、今、何も着てないってことでしょ?」
「えっ…どどど、どうしよう、ジョシュア!」
「落ち着いて、ユウタ。このこと、レッドとシルヴァンには知らせたのかい?」
「ううん、ままま、まだ」
「じゃあ、二人にも知らせて学内を探してくれるように言ってくれるかな?
レッドにはスタジオから放送で呼びかけて貰おう。
俺は生徒代表室に行って、学外を探して貰えるように頼んでみるよ」
「う、うん。解った。ハルヤも手伝ってくれる?」
「うん。じゃあ、ユウタはレッドが行きそうな場所を探して。俺、シルヴァンを探してみるよ」
猫が鳴く。ジョシュアは腰を落として、猫を撫でる。
「ごめんね。俺の友人が行方不明になってしまったんだ。
俺、探しに行かなくちゃ。君は俺の部屋に居ても良いから」
猫は鳴き止まない。ジョシュアは猫のノドを撫でる。
猫の身体に信じられないほどの快感が走る。
頭からしっぽまで一気に力が抜けた。
気持ち良くて、ゴロゴロとノドが鳴ってしまう。彼の手が離れていく。
「アンリが見付かったらまた続きをするよ。良い子で待っていて、ね?」
三人は行ってしまった。開いたままのドア。
猫はジョシュアの部屋を出ることにした。
外を歩いていると、前方を何かが跳ねた。
カマキリだ。
目が合う。両の鎌を上げて強気に威嚇している。向こうは戦闘体勢だ。
虫を見て食欲を感じた自分にがっかりした。
無視を決め込んで横切る。カマキリは拍子抜けしたように鎌を下ろした。
暫く歩いていくと遠くに大人の人影が見えた。神秘学の講師。オーギュストだ。
猫は教授の元に駆け寄る。彼はカフェで紅茶を片手に本を読んでいた。
足許に座って鳴いてみる。こちらを向いた。
オーギュ、と呼んでいるつもりだが、
実際に発せられる声は、みゃあ、になってしまう。
猫を一目見て、教授は言った。
「アンリ?」
猫は驚き過ぎて、鳴くこともできなかった。
「おや? アンリではなかったかな?」
みゃあと返事する。彼はいつもと変わらない穏やかな笑顔を見せる。
「一体いつから猫に変身できるようになったんだい、アンリ?」
生徒の緊急事態に、神秘学の教授は慌てる素振りを全く見せない。
みゃあみゃあと鳴く。
「もしかして、あの本を読んでしまったのかな?
それなら人間の身体に戻してあげないとね」
猫は鳴き止む。
「とりあえず、私の部屋に行こうか?」
猫を持ち上げて腕に抱える。
小さな身体は、教授の腕の中にすっぽり収まってしまう。
「そうだ。アンリが猫で居るうちに猫の生態を勉強しようか?
身を持って勉強ができる、またとない機会だ。
例えば、猫は何処を撫でられると気持ちが良いのか、とか、ね?」
猫は爪を出す。教授はクスクスと笑った。
「冗談だよ。猫になっても気は短いんだね。とにかく私の部屋へ行こう?」
猫は爪を出したまま、彼の腕に突き刺す手前で彼を見上げる。
教授は余裕のある微笑を浮かべ、小首を傾げた。
「此処で、人間の身体に戻っても良いのかね?」
猫は人間を睨み付けながら、爪をしまう。
「お利口な猫だね」
自室へと歩いていくと、左腕に猫パンチが飛んでくる。
本気の反抗ではないが言葉にならない不満をぶつけているようだ。
ゆっくりとしたペースで、とん、とん、と殴られる。
「アンリ、残念だけどあまり痛くないよ。くすぐったいから止めてくれないかな?
それに暴れると落ちてしまうから、ちゃんと私の腕に捕まっていなさい?」
猫はパンチを止めない。
教授は猫の頭を押さえるように撫でた。優しい声で言う。
「突然、猫になってしまって不安だったのかね? もう大丈夫だから」
また、とん、とん、と小さな手がぶつかってきた。
講師は自室に戻るとドアに鍵を掛け、猫をベッドに置いた。
猫は講師を見上げている。しっぽが左右に動く。
ぱた、ぱたと不機嫌に揺れていた。
「アンリは猫になっても可愛いね」
ベッドに腰を下ろした講師は猫の頭を撫でる。
頭から頬へと手が下りてくる。
その小指を猫が、かぷっと銜えた。歯は立てていない。
「怒っているのかい? ごめんごめん」
猫が指を離す。講師は人差し指でノドをなぞった。
今までに感じたことのない快感。
猫の意思とは裏腹に、身体は悦楽に支配されていく。
安心感を覚えたしっぽが、徐々に真っ直ぐに立ち上がる。
ねだるように勝手にゴロゴロと鳴いてしまう。
「もっと、して欲しいんだね? 良いよ」
講師は微笑んで、猫の小さな唇に口付けた。
猫が草臥れた頃。やっとオーギュストは猫の耳許で呪文を唱える。
ぽむっ、と音がして一瞬のうちに人間の姿に変わった。
講師は、その白い肩に毛布を掛けた。
生まれたままの姿だった。アンリは両足を曲げて座り、毛布で身体を覆う。
「今更恥ずかしがらなくても良いじゃないか、アンリ?」
「…どうして僕がこんなめに遭わなくてはならないの」
「図書館で古い本を読んでいたんじゃないかね?」
「それが何だと言うの」
「どんな本を読んでいたんだね?」
「…呪術の」
「では呪文も唱えてしまった?」
「呪文? あ、そう言えば、可笑しな言葉が…」
「サン・ジェルマンの血は常人と少し違うからね。
特にアンリは伯爵の血を濃く受け継いでいるだろう?
伯爵もそうだったけれど、月の満ち欠けによっては力が弱くなる。
古い呪文を唱えると、身体が反応してしまうことがあるんだ、ごく稀にね」
「そんなこと、伯爵の日記には書いてなかった」
「恥ずかしくて書けなかったんだよ。きっと。
日記と言えども、日々の全てを書くわけじゃないだろう?」
「ちょっと待って。君、その話、何処で知ったの?」
「え? あ、さあ。何か古い文献だったと思うけれど。忘れてしまったな」
不満を残したまま、毛布をきゅっと握り直す。
オーギュストの毛布。彼の匂いがする。
「ねえ」
「ん?」
「どうして、猫だったのに僕だと解ったの?」
「愛の為せる業かな」
「僕は真面目に聞いているの」
講師は肩を竦める。
「声が聞こえた気がしてね、オーギュ、って」
「声?」
「私のことをオーギュと呼んでくれるのは君だけだ。
アンリかなと思って振り向いたら、可愛い猫が居て、他には誰も居なかった。
だから、私を呼んだのは、この子かなと思ったんだよ」
「猫になっているなんて…普通、思わないでしょう」
「そうだね、普通は。私は昔からよく変わっていると言われるから」
校内放送のチャイムが鳴った。声の主はハリウッド仕込みの発声量で叫ぶ。
「おい、アンリ! 何処行った!? 居るならすぐ出て来い!
居なくても寮に戻って来い! 見掛けた奴は教えてくれ! 行方不明なんだ!」
アンリは耳鳴りと頭痛がした。
「余計なことを…」
「お友達が探しているようだね?
アンリ、私の服を貸すから、それを着て寮まで戻ると良いよ」
「君の服なんか、サイズが合わない」
「そうだね。まるで私の部屋からの朝帰りだと言わんばかりだし」
「オーギュスト」
「私は構わないけれど」
「君、此処に居られなくなるよ?」
「それは、アンリが困るね」
「困るのは君でしょ? あっ。ハルヤが服を持っている。
彼が僕の服を図書館で見付けたんだ。彼から服を返して貰って来て」
「成程。『素肌のアンリを預かっているからその服を私に』と言って?」
憎らしい微笑を睨む。
「言葉を選んで」
「まあ、信じて貰えるかどうかは解らないけれど、
君が猫になってしまったと正直に伝えることが最良だと思うよ?
そうでなければ図書館に君の服が落ちていたことの説明が付かない。
さあ、証明問題だよ、アンリ。自分が猫だったこと、証明できるかな?」
「ハルヤ君、だね?」
「え? あ、神秘学の…」
キャンパス内を捜索中、ハルヤは珍しい人に声を掛けられた。
顔は知っているが、名前が出てこない。講師は優しく微笑む。
「こんにちは。オーギュスト・ボージェだよ」
「ど、どうも。あの、俺に何か?」
「うん。ちょっとアンリにおつかいを頼まれてね」
今、探している人の名前を出されて、ハルヤは驚いた。
「アンリ? アンリが何処に居るか知ってるんですか?」
「私の部屋に居るよ」
「えっ、な…」
絶句しつつ、頬が桃色に染まっていく。
「それで、アンリに聞いたのだけど、君がアンリの服を持っている?」
「あ、はい、持ってますけど…どうしてアンリが知ってるんですか?」
講師は教え子の回答を提示する。
「今日、君は可愛い白猫を見なかったかい?」
アンリの服は無事にハルヤからボージェ教授に渡った。
その服を着たアンリが寮に戻って来た為、アンリ行方不明事件は一件落着となった。
しかし、そのまま納得できるわけもなく、
さっきまで猫だった人は、サロンで囲まれていた。
ユウタは不思議そうにアンリの全身を眺める。
「じゃあさー、ホントに、あの白い猫がアンリだったってこと?」
「そうだ、って何回言わせれば気が済むの」
「だって信じられないじゃん」
「僕の方が信じられないよ、全く」
長い付き合いのジョシュアは可笑しそうに笑っていた。
「でも、可愛い猫だったよ、アンリ。また猫になった時は一緒に遊ぼうね?」
「二度と御免だミャ」
アンリは口を押さえる。寮生達は揃って叫んだ。
fin
勉強熱心だと褒められるならまだしも、悪いことなど何もしていない。
古びたページが読み難くて、指で辿っていた。
可笑しな文字列が綴られていたから、思わず読み上げていた。
それがいけないこととは思えない。
声の大きさは、他の誰にも聞こえない程度だった。
『世の中には科学で説明できないことがあるんだよ』
何処かの講師が言っていたことが脳裏に甦る。
それは解ってる。もう四年も学んできたことだもの。
けれど、どうして。
本を読んでいただけで、僕が気を失わなくてはならないの?
目が覚めたら、布の中に埋もれていた。
頭が重たいので手で引っ張って布の外へ出た。
目に入ったのは天井。
その色艶は見慣れたものに違いないけれど、位置が高過ぎる。
自分の正面には、本棚の最下部。
本のタイトルに見覚えがあった。一番下にあるので取り難いと思った本だ。
下を見ると、ブルーの布。これは僕の私服だ。
今日は休みだから、と寮で着たワイシャツだ。
布に伸ばした手は真っ白だった。肌の色ではなく、毛の色が白だった。
手を引っ繰り返してみる。
ねえ。何故、僕に肉球があるの。
これはネコ目(もく)の動物にしかないのに。
ネコ?
鏡を見なくては。僕は図書館から出た。
鏡を見るより先に、自分の姿が解った。
図書館の司書に姿を見られ「なんで猫が?」と言われた。
「なんで」はこちらの台詞だ。
外に出ると水溜りがあって、今の自分の姿を確認した。
瞳の色だけは変わっていないようだけど、
これは白猫だ。
果てしなく遠い道のりを越え、寮に辿り着く。
サロンには誰も居なかった。今日は休日なので仕方ない。
廊下に出ると、遠くの方から地震が近付いてきた。
「あれ?」
耳に馴染んだ声が遙か上から聞こえる。
巨人のように見えるが、これは長い付き合いの生徒代表殿だ。
僕の傍に来ると膝を付いた。ふんわりとした微笑。
「迷子かい、仔猫ちゃん?」
最初に彼に会えたことは幸運かもしれない。
彼は動物行動学の特別講義を取っているし、動物愛護者だ。
学院で一番の動物好き、とは言えないが(おそらくオウム使いのマハラジャが一番)
この寮の中では間違いなく、最も動物に慣れている。
猫になった僕を悪いようにはしないだろう。
「綺麗な白い毛だね。少し触っても良いかな?」
大きな手が、そっと頭に置かれる。
ゆっくりと頭を撫でられて、思わず目を閉じてしまう。
猫の身体にとって、彼の手付きは心地好いらしい。
それに彼の声。人間の時には感じ得ない安堵に包まれる。
彼になら飼われても良いと、猫の本能が感じている。
猫は穏やかな声が好みなのだろうか。動物好きが嬉しそうに笑う。
「可愛いな」
彼が動物にだけ見せる笑顔だ。アルセイデスに接する時もそうだが、
彼は動物を前にすると、普段以上に優しくて甘い声になる。
「気持ち良いかい? じゃあ、次はノドを」
そこを触られたら本当に彼の猫になってしまう気がした。
急いで彼の手から離れた。彼はきょとんとしている。
「あ。もしかして、おなかが空いているのかな?」
彼がキッチンに向かおうとしている。
置いていかれるわけにも行かないので彼の後に続いた。
付いてきた僕を見て、「やっぱりおなかが空いているんだね」と彼は笑った。
違うと言ってやりたかった。
彼は愛馬と意思疎通ができると豪語しているが、
やはり、それは彼の思い込みなのではないか。
人間に戻ったらそう指摘してやりたい。戻れたらの話だが。
彼はシェフに頼んでミルクを貰う。グラスではなく皿に入れていた。
自分の部屋に僕を連れて行く。僕の前にミルクの皿を置いた。
「はい、どうぞ」
皿を見下ろす。白い水面が美味しそうに見える。
図書館から寮まで来るのに大分走ったから喉は渇いている。
でも、皿からミルクを飲むなんて僕のプライドが許さない。
彼を見上げると、彼はまた優しく微笑んだ。
「これは君のだから、遠慮しなくて良いんだよ?」
どうして皿のミルクがこんなに美味しそうに見えるの。
抗えない本能に負けて、ぺろりと舐めてみる。
ミルクってこんなに美味しい飲み物だったの。
「美味しいかい? 全部あげるから、慌てなくて良いよ」
彼は猫がミルクを飲んでいる様子を愛おしげに見守っていた。
「可愛いな。アンリに見せてあげたら、喜ぶだろうな」
猫が顔を上げる。
「アンリは俺の友人だよ? 彼も動物が大好きなんだ。
もうすぐ図書館から帰ってくる頃だと思うし、
アンリが戻るまで、俺と一緒に遊んでいようか」
ジョシュアは猫の為におもちゃを作った。
作ったと言っても、ハンカチを巻いて棒状にしただけだ。
それを猫に見せて左右に振る。なんなの、その子供騙し、と猫は思った。
しかし、猫の手は勝手に動く物を捕まえようとする。
目は動くハンカチを追ってしまうし、捕まえたいという衝動が抑えられない。
ジョシュアがハンカチを右に動かせば、猫もその後を追って手を付く。
猫に捕まる前にジョシュアは左に動かし、猫も左に手を付く。その繰り返し。
それだけのことなのに、腕は『狩り遊び』に夢中だ。
猫は狩生活の動物だから身体が反応する理屈は解る。だけど、どうして。
どうして、こんなに面白いの。
かなり遊んだ後、ジョシュアは、はい、とハンカチを差し出した。
「遊んでくれてありがとう。これは君にあげるね」
すると、猫は不満げに、みゃあう、と鳴いた。ジョシュアは笑った。
「ごめん。もっと遊びたかったんだ?」
優しく抱き上げる。自分の膝の上に僕を寝かせる。
優しい笑顔に見つめられる。
「可愛いね、仔猫ちゃん」
「ジョシュア! 大変! 大変だよ!!」
ドアが開く。ユウタとハルヤが居た。
「どうしたんだい、ユウタ。そんなに慌てて」
「ねえ、ジョシュア。アンリ、知らない?」
「アンリ? さっき、図書館に行くのを見たけど」
「これ、図書館で落ちてたんだ、神秘学の棚の前に」
ハルヤが腕に抱えていた袋を見せる。
中にはブルーのワイシャツと黒のスラックス、など。ジョシュアは愕然と呟く。
「これ、さっき、アンリが着ていた…」
「やっぱり…なんか見たことある服だと思ったんだ」
ユウタがジョシュアの腕を掴む。
「アンリ、寮にも図書館にも居ないんだ。もしかして、悪い人に攫われて…」
「攫われてるだけなら、まだ良いんだけどね」
「どういうことだい、ハルヤ?」
「えっと、その、アンリ、今、何も着てないってことでしょ?」
「えっ…どどど、どうしよう、ジョシュア!」
「落ち着いて、ユウタ。このこと、レッドとシルヴァンには知らせたのかい?」
「ううん、ままま、まだ」
「じゃあ、二人にも知らせて学内を探してくれるように言ってくれるかな?
レッドにはスタジオから放送で呼びかけて貰おう。
俺は生徒代表室に行って、学外を探して貰えるように頼んでみるよ」
「う、うん。解った。ハルヤも手伝ってくれる?」
「うん。じゃあ、ユウタはレッドが行きそうな場所を探して。俺、シルヴァンを探してみるよ」
猫が鳴く。ジョシュアは腰を落として、猫を撫でる。
「ごめんね。俺の友人が行方不明になってしまったんだ。
俺、探しに行かなくちゃ。君は俺の部屋に居ても良いから」
猫は鳴き止まない。ジョシュアは猫のノドを撫でる。
猫の身体に信じられないほどの快感が走る。
頭からしっぽまで一気に力が抜けた。
気持ち良くて、ゴロゴロとノドが鳴ってしまう。彼の手が離れていく。
「アンリが見付かったらまた続きをするよ。良い子で待っていて、ね?」
三人は行ってしまった。開いたままのドア。
猫はジョシュアの部屋を出ることにした。
外を歩いていると、前方を何かが跳ねた。
カマキリだ。
目が合う。両の鎌を上げて強気に威嚇している。向こうは戦闘体勢だ。
虫を見て食欲を感じた自分にがっかりした。
無視を決め込んで横切る。カマキリは拍子抜けしたように鎌を下ろした。
暫く歩いていくと遠くに大人の人影が見えた。神秘学の講師。オーギュストだ。
猫は教授の元に駆け寄る。彼はカフェで紅茶を片手に本を読んでいた。
足許に座って鳴いてみる。こちらを向いた。
オーギュ、と呼んでいるつもりだが、
実際に発せられる声は、みゃあ、になってしまう。
猫を一目見て、教授は言った。
「アンリ?」
猫は驚き過ぎて、鳴くこともできなかった。
「おや? アンリではなかったかな?」
みゃあと返事する。彼はいつもと変わらない穏やかな笑顔を見せる。
「一体いつから猫に変身できるようになったんだい、アンリ?」
生徒の緊急事態に、神秘学の教授は慌てる素振りを全く見せない。
みゃあみゃあと鳴く。
「もしかして、あの本を読んでしまったのかな?
それなら人間の身体に戻してあげないとね」
猫は鳴き止む。
「とりあえず、私の部屋に行こうか?」
猫を持ち上げて腕に抱える。
小さな身体は、教授の腕の中にすっぽり収まってしまう。
「そうだ。アンリが猫で居るうちに猫の生態を勉強しようか?
身を持って勉強ができる、またとない機会だ。
例えば、猫は何処を撫でられると気持ちが良いのか、とか、ね?」
猫は爪を出す。教授はクスクスと笑った。
「冗談だよ。猫になっても気は短いんだね。とにかく私の部屋へ行こう?」
猫は爪を出したまま、彼の腕に突き刺す手前で彼を見上げる。
教授は余裕のある微笑を浮かべ、小首を傾げた。
「此処で、人間の身体に戻っても良いのかね?」
猫は人間を睨み付けながら、爪をしまう。
「お利口な猫だね」
自室へと歩いていくと、左腕に猫パンチが飛んでくる。
本気の反抗ではないが言葉にならない不満をぶつけているようだ。
ゆっくりとしたペースで、とん、とん、と殴られる。
「アンリ、残念だけどあまり痛くないよ。くすぐったいから止めてくれないかな?
それに暴れると落ちてしまうから、ちゃんと私の腕に捕まっていなさい?」
猫はパンチを止めない。
教授は猫の頭を押さえるように撫でた。優しい声で言う。
「突然、猫になってしまって不安だったのかね? もう大丈夫だから」
また、とん、とん、と小さな手がぶつかってきた。
講師は自室に戻るとドアに鍵を掛け、猫をベッドに置いた。
猫は講師を見上げている。しっぽが左右に動く。
ぱた、ぱたと不機嫌に揺れていた。
「アンリは猫になっても可愛いね」
ベッドに腰を下ろした講師は猫の頭を撫でる。
頭から頬へと手が下りてくる。
その小指を猫が、かぷっと銜えた。歯は立てていない。
「怒っているのかい? ごめんごめん」
猫が指を離す。講師は人差し指でノドをなぞった。
今までに感じたことのない快感。
猫の意思とは裏腹に、身体は悦楽に支配されていく。
安心感を覚えたしっぽが、徐々に真っ直ぐに立ち上がる。
ねだるように勝手にゴロゴロと鳴いてしまう。
「もっと、して欲しいんだね? 良いよ」
講師は微笑んで、猫の小さな唇に口付けた。
猫が草臥れた頃。やっとオーギュストは猫の耳許で呪文を唱える。
ぽむっ、と音がして一瞬のうちに人間の姿に変わった。
講師は、その白い肩に毛布を掛けた。
生まれたままの姿だった。アンリは両足を曲げて座り、毛布で身体を覆う。
「今更恥ずかしがらなくても良いじゃないか、アンリ?」
「…どうして僕がこんなめに遭わなくてはならないの」
「図書館で古い本を読んでいたんじゃないかね?」
「それが何だと言うの」
「どんな本を読んでいたんだね?」
「…呪術の」
「では呪文も唱えてしまった?」
「呪文? あ、そう言えば、可笑しな言葉が…」
「サン・ジェルマンの血は常人と少し違うからね。
特にアンリは伯爵の血を濃く受け継いでいるだろう?
伯爵もそうだったけれど、月の満ち欠けによっては力が弱くなる。
古い呪文を唱えると、身体が反応してしまうことがあるんだ、ごく稀にね」
「そんなこと、伯爵の日記には書いてなかった」
「恥ずかしくて書けなかったんだよ。きっと。
日記と言えども、日々の全てを書くわけじゃないだろう?」
「ちょっと待って。君、その話、何処で知ったの?」
「え? あ、さあ。何か古い文献だったと思うけれど。忘れてしまったな」
不満を残したまま、毛布をきゅっと握り直す。
オーギュストの毛布。彼の匂いがする。
「ねえ」
「ん?」
「どうして、猫だったのに僕だと解ったの?」
「愛の為せる業かな」
「僕は真面目に聞いているの」
講師は肩を竦める。
「声が聞こえた気がしてね、オーギュ、って」
「声?」
「私のことをオーギュと呼んでくれるのは君だけだ。
アンリかなと思って振り向いたら、可愛い猫が居て、他には誰も居なかった。
だから、私を呼んだのは、この子かなと思ったんだよ」
「猫になっているなんて…普通、思わないでしょう」
「そうだね、普通は。私は昔からよく変わっていると言われるから」
校内放送のチャイムが鳴った。声の主はハリウッド仕込みの発声量で叫ぶ。
「おい、アンリ! 何処行った!? 居るならすぐ出て来い!
居なくても寮に戻って来い! 見掛けた奴は教えてくれ! 行方不明なんだ!」
アンリは耳鳴りと頭痛がした。
「余計なことを…」
「お友達が探しているようだね?
アンリ、私の服を貸すから、それを着て寮まで戻ると良いよ」
「君の服なんか、サイズが合わない」
「そうだね。まるで私の部屋からの朝帰りだと言わんばかりだし」
「オーギュスト」
「私は構わないけれど」
「君、此処に居られなくなるよ?」
「それは、アンリが困るね」
「困るのは君でしょ? あっ。ハルヤが服を持っている。
彼が僕の服を図書館で見付けたんだ。彼から服を返して貰って来て」
「成程。『素肌のアンリを預かっているからその服を私に』と言って?」
憎らしい微笑を睨む。
「言葉を選んで」
「まあ、信じて貰えるかどうかは解らないけれど、
君が猫になってしまったと正直に伝えることが最良だと思うよ?
そうでなければ図書館に君の服が落ちていたことの説明が付かない。
さあ、証明問題だよ、アンリ。自分が猫だったこと、証明できるかな?」
「ハルヤ君、だね?」
「え? あ、神秘学の…」
キャンパス内を捜索中、ハルヤは珍しい人に声を掛けられた。
顔は知っているが、名前が出てこない。講師は優しく微笑む。
「こんにちは。オーギュスト・ボージェだよ」
「ど、どうも。あの、俺に何か?」
「うん。ちょっとアンリにおつかいを頼まれてね」
今、探している人の名前を出されて、ハルヤは驚いた。
「アンリ? アンリが何処に居るか知ってるんですか?」
「私の部屋に居るよ」
「えっ、な…」
絶句しつつ、頬が桃色に染まっていく。
「それで、アンリに聞いたのだけど、君がアンリの服を持っている?」
「あ、はい、持ってますけど…どうしてアンリが知ってるんですか?」
講師は教え子の回答を提示する。
「今日、君は可愛い白猫を見なかったかい?」
アンリの服は無事にハルヤからボージェ教授に渡った。
その服を着たアンリが寮に戻って来た為、アンリ行方不明事件は一件落着となった。
しかし、そのまま納得できるわけもなく、
さっきまで猫だった人は、サロンで囲まれていた。
ユウタは不思議そうにアンリの全身を眺める。
「じゃあさー、ホントに、あの白い猫がアンリだったってこと?」
「そうだ、って何回言わせれば気が済むの」
「だって信じられないじゃん」
「僕の方が信じられないよ、全く」
長い付き合いのジョシュアは可笑しそうに笑っていた。
「でも、可愛い猫だったよ、アンリ。また猫になった時は一緒に遊ぼうね?」
「二度と御免だミャ」
アンリは口を押さえる。寮生達は揃って叫んだ。
fin
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